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ニューヨークに暮らすということ

堀川哲さんという方の書いた『ニューヨークで暮らすということ』(PHP新書)という本があるんですがね、ウェッブ上の書評などを読むと「さすがに現地にいた人でないとわからない情報が色々書かれてあって実に興味深い」なんて書いてあるんですよ。でも私の感想はまったく違いました。「ああ、こういう人は、実際に『ニューヨークで暮ら』してみても、結局はなにもわかろうとしなかったのだなあ」というもの。
 6月はゲイ(同性愛者)のプライド月間ですね。ニューヨークに暮らしていても、日本人のコミュニティーで生活していると「ゲイのこと」というのがどうもわからないのが実情です。事実、6月がゲイの人たちのプライド月間だということも、なぜ「プライド(誇り)」なのかも、さらには6月の最終日曜日にどうして毎年百万人近い人たちが繰り出してパレードをするのかの意味も知らない人がほとんどでしょう。
 冒頭の堀川さんは札幌大学の先生だそうですが、この先生もご多分に漏れず「ゲイのこと」についてとんでもない記述をしていらっしゃる。まず、「ホモ」という、英語をきちんと話される方なら誰でも知っているはずの侮蔑語を臆面もなくお使いになる。ビレッジのシェリダン・スクエアにあるジョージ・シーガルの石膏像をこれまた「ホモの像」とお呼びになる。あれは「ゲイ・リベレイション(同性愛者解放)」という立派なタイトルが付いているんですが、「ホモの像」ではその歴史的、政治的かつ人道的意味合いを不可視にしてしまうどころか、まったく正反対のメッセージまで発信してしまいます。さらにあ然とさせることに、その近くにある「GAY STREET」を「ゲイ・ストリートというものまである」と揶揄するのか何なのか、よくわからないまま書き捨てていらっしゃるのです。あれは米国の奴隷制廃止論者シドニー・ハワード・ゲイの名前にちなんで付けられた通りなんですよ、センセエ。同性愛の「ゲイ」とはまったく関係ない。これじゃまるで、欧米人にはよくある「ゲイ」という名前の同級生をからかう小学生のいじめっこのレベルじゃないですか。
 こんなにお間違えになって、いったい他の部分はどうなんだろうと、私はとてもじゃないがこの本を基になにかを書くのも話すのもやめようと思いました(というか、これだけはしっかり書いてるんですけど)。ま、当てにならない。信用できない。こういう本を出したPHPの編集者の責任もあるでしょうが、あるいはここは「ホモ」の部分だから適当なことを書いてもよいだろうと思われたのか。
 ならばなおさら、この堀川先生は「ニューヨークで暮らすということ」の意味をな〜んにもわかっていらっしゃらなかったのだなあとの思いを強くするのです。まったく、どーしたもんでしょねえ。
 しかし、とにかく先生のご本は昨年のベストセラーだそうです。そんなにたくさん売れたってことは多くの日本人にまたまた誤った「ホモの像」をまき散らしちまったってことです。まったくね、そういうものの尻ぬぐいをしなくちゃならない私みたいな者の身にもなってほしいですわな。
 こんな例、ごまんとあるわけで、そんなことばっかりここに書きつづっていってもしょうがないんだけど、まあ、そういうことにもきちっと落とし前を付けていくのは大切なんだろうなあとも思うわけで、はい。
 ではまた。

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