アルカイダなの?
アルカイダの関連グループのメンバーとされるリオネル・デュモンがドイツで逮捕されたせいで日本で接触のあった外国人が逮捕されましたね。しかし、こういう公安事件というのは訴追の手順がとてもひどいことが多くて、わたしも実は若いころ警視庁の公安担当記者を2年ほどやっていたんですが、普通は逮捕しないよなあということを、公安警察だと逮捕できちゃうんです。というか逮捕しちゃうんだな。そうして未決勾留をぼんぼんつけて、裁判なんか関係なしにずっと拘束しておく。アメリカのグアンタナモみたいな、あるいはイラクのアルグレイブみたいなことをやってるわけです。考えたら怖いよな、これは。
今回も逮捕された人たちを見ると、バングラデシュ国籍の中古車販売会社の社長さんとか、ほとんど逮捕容疑はいちゃもんですね。まあ、不法入国した人もいるけど、こういうのはみんないわゆる「別件逮捕」。新聞ももう別件逮捕に異議を挟まなくなってしまいました。そういうもんだって、玄人になっちゃって、疑念を持たなくなっちゃってるんですね。困ったことです。
取材したわけじゃないから本当にこの逮捕の五人がアルカイダとつながっていないのかどうかわかりませんが、なんだか単にデュモンのネットワークの解明だけのために逮捕された感もしないではありません。中古車とか売りさばいて金を稼いでいた。それをアルカイダの資金に流した。でも、これって、それ自体は犯罪じゃないでしょう。アルカイダの資金に流したというところが外為法かなんかに引っかかる可能性はあるかもしれませんが、それにしても逮捕容疑にはなくて、新聞は“玄人”っぽく見出しで先読みをしてみせるが、ほんとうはそれはジャーナリズムじゃないし、ひょっとしたら嫌疑不十分でまさに微罪での略式起訴、釈放、罰金、国外追放で終わりかもしれません。で、アルカイダ? という「誤報」の汚名は晴らされることなく、日本人の記憶にシミとして残るのです。
なんかそこまで見えると、ネットで逮捕の模様の映像を見ていてこの五人、かわいそうな気がします。とくに、フジTVのニュースって、どうしてあんなにナレーションがおどろおどろしいんだろう。声優なんか雇っちゃダメだよねえ、ニュースに。本当にアルカイダとつながっているならば、それが立証され判明した時点で調査報道すればよいのです。おどろおどろしくする必要はまったくない。
そうそう、それと蓮池さん、地村さんの帰国家族の報道も、フジテレビだけじゃないかもしれないけど、スーパーで何を買っただのこれと同じものだの、と、すごい踏み込むのね。踏み込むって、どこに踏み込むのかっていうと、彼らの生活にです。彼らの家にずかずかと入り込んでいくのと同じなのです。こういうの、やめることはできないのかしら。
これって何かというと、身内志向なんだなあって思います。みんな身内になりたがっているような、だからずかずか入り込んでもだいじょうぶなんだっていう、でも、それは奢りです。
プライバシーとかいう横文字の問題ではなくて、東アジア型の社会ってこういう「身内かよそ者か」という二つしかないのかもなあ。アルカイダつながりのあの五人はもちろん「よそ者」。だから何を書いてもいいんだ。
あとじつはもう一つあって、それは「お客さま」という領域ね。他人にはこの「よそ者かお客さまか」しかない。そしてこの二つはなんの根拠もなくとつぜん入れ替わったりするから気が抜けない。
ところで拉致被害者家族会に、小泉首相を「あなたにはプライドがあるのか」って詰問したことなどに関して批判が殺到しているそうな。例のイラクの拉致人質事件と似た「バッシング」のメールや電話ですね。わたしも蓮池さんのお兄ちゃんには「この人、だれ?」って思うことはあるけど、それにしても批判の優先順位としてははるかに低い。ましてやあの「プライド」発言なんかは、逆にああ言わざるを得ない残された家族会の精一杯の、弱者としての意思が込められていて、そういうもんだろうなあとしか思えませんでした。
にもかかわらずすぐこうして、たとえ弱い者でも「分を越えた物言いは許さない」といったいじめに流れる世論がある。もうひとつ、これは身内から身内への叱責の仕方にも似ているなあとも気づきました。一個の別人格としての他人への批判というより、そういう人格を無視しての身内的な頭ごなしの一喝という感じがします。なんだか、ひどくさもしくあさましく、卑しくつまらない人びとがたくさんいるのか、と。
この、バッシングの欲望というか、ネガティブな悪意というか、そういうのが日本社会に渦巻いているのでしょうか。もしそうだとすると、それはそのままでよいのでしょうか。decent, decentって書き連ねる大江健三郎がここ最近、なんだかずっと厭われているようなのもこの社会だからなのかもね。
ついでに言ってしまえば、あの雅子さんの人格否定発言をした皇太子に関しても、なんか、まあタブーですから表面には出ていないでしょうが、そういうふうにバッシングしたい向きがたくさん潜んでいるような気がします。
これ、いつか吹き出すんじゃないでしょうか。
皇室って、ヒロヒト亡き後、じつはいまの保守反動右翼勢力にとっては、目の上のたんこぶみたいな存在になっているんですよ。じつに逆説的に、いまの皇室ほど平和憲法を体現して平和志向である存在はないんですもの。しかも雅子さんの「基本的人権」だ。