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July 29, 2004

エイズと言葉と制度の課題

 日本のHIV(エイズウイルス)感染者数が最近3カ月で199人とまたまた過去最高だったというニュースが報じられました。日本というのは先進国の中でゆいいつ感染者が増加している国です。「日本だけ」とはいったいどういうことなのでしょう。日本に、なにか根本的な欠陥があるのでしょうか。

 じつは,HIVは言葉のないところで広がる病原体なのです。言葉のないセックス、相手とコミュニケートしない性交渉で広がるのです。言葉を復活させることがHIV感染予防の第一歩になります。

 で、エイズに関すして言葉を復活させるというのはどういうことか。

 一般的な啓蒙活動とか広報活動とかは、これはもう、日本みたいな情報がどんどん消費させられてしまう高度情報社会ではもう無効なんだと思います。ではどうするか。

 残っているのは、教育現場です。教育現場というのは、ゆいいつ言葉を四六時中活用している現場です。そこでエイズ・HIVに関する情報を敷衍させる。これってでも情報が疲弊することがない。なぜって、毎年毎年、新しい人たちがそれを聞くわけですから。問題は、話す方、つまり教育者たちが一緒なので、話す方が疲弊したり飽きたりすることがあるということですね。でも、それは教科書と同じで、毎年同じ教科書を使っててもそれをやらなくちゃいけないわけですから。これを教育現場で本気で取り組まねばならない。それは君が代日の丸の話なんかよりむしろずっと強制力を持たせるべき事柄です。なのに、どうも倒錯していますよね。

 もう1つの現場は、職場なんです。最近、アメリカのCDCも職場のエイズという数百ページのマニュアルをまとめました。これはいま私が翻訳していますが、職場を同じく教育現場にしようというものです。従業員教育の一環として、社員の家族も含めたセミナーを開催したり、パンフレットを配布したりしています。

 米国ではHIVに現在、100万人近くが感染していると推定されています。50人以上の従業員のいる米国の会社では6社に1社が、また50人未満の小規模な会社では16社に1社が1人の患者・感染者を雇い入れています。悲惨な病気はどんなものでもそうですが、HIV/エイズもいろいろな意味で雇用者にとって他人事では済まされません。

 そういうふうに、エイズはすでに「制度」として取り組まなければならないんです。標語とか、キャンペーンとか、そういう問題ではすでにない。もちろん、そういうことも必要ですけど、すでに標語とかで届く一般人の努力の範囲を超えているわけで、政府に、そういう気構えがあるのか。それをこそ問うべきです。

 ニューヨークで93年から活動している日本語によるエイズ情報提供ボランティア組織「JAWS」のサイトがやっとスタートしました。いままで忙しくて着手できなかったんですが、順次、コンテンツを増やしていきます。

 エイズ問題の参考にして下さい。

http://www.jawsonline.org/Japanese/index.htm

July 28, 2004

締めくくらねば

<人権救済>バングラ国籍男性が日弁連に申し立て

 不法就労などの捜査で国際テロ組織・アルカイダとの関係を疑われ、被害を受けたとして、バングラデシュ国籍の携帯電話販売会社「リョウインターナショナル」社長、イスラム・モハメッド・ヒム氏(33)が27日、日本弁護士会連合会に人権救済を申し立てた。

 ヒム社長は今年5月〜6月、不法滞在の弟らを会社で働かせたなどとして、入管法違反(不法就労助長)などで神奈川県警と警視庁に逮捕され、罰金30万円の略式命令を受けた。

 計43日間拘置された捜査では、国内に一時潜伏していたアルカイダ中堅幹部とされるリオネル・デュモン容疑者(昨年12月、ドイツで逮捕)と数回通話したことがあり、関係を追及されたうえ、関係があるかのように報道された。しかし、デュモン容疑者がアルカイダ中堅幹部とされることを知らずに商取引の話をしただけと判明した。

 会見したヒム社長は「全世界にウソが流された結果、仕事を打ち切られ、銀行送金もできない。破壊された生活を回復させてほしい」と訴えた。弁護人は「当局は、不当な情報を報道機関にリークした」と批判した。【坂本高志】(毎日新聞)[7月27日21時7分更新]

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ここで5月26日付、6月18日付けで触れたので、締めくくりを書かねばなりません。例の「別件逮捕」と「おどろおどろ報道」は上記の結果になりました。「嫌疑不十分でまさに微罪での略式起訴、釈放、罰金、国外追放で終わりかもしれません。で、アルカイダ? という「誤報」の汚名は晴らされることなく、日本人の記憶にシミとして残るのです。」と書きましたが、まさに略式起訴、罰金30万円。国外退去処分はないようですが、日本での仕事が立ち行かなくなれば、結果的に日本を去るしかない。同じことです。かわいそうに。

逮捕したのは警視庁公安部外事三課です。外国のスパイ事件を担当するところ。

公安記者というのは自分ではほとんど情報を取れない。スパイとか過激派が相手なもんで、捜査対象だって新聞記者に与える情報はどこまで恣意的か知れたもんじゃないですからね。で勢い、警察情報に頼るしかなくなる。その警察も公安という特殊な組織で、こりゃもう超法規的な活動をするわけです。人権とか関係ないから法律が通じないの。だって、「公共の安全=公安」というのは、国民全体の安全を図るために個々人の自由は一定程度規制してよい、あるいは規制せざるを得ない、というコンセプトの下で成り立っているわけですからね。

でも、そこで問題なのはやはり報道する側ですよ。

このヒムさんの記事が上がってきたときに、ちゃんとしたデスクならぜったい「おい、この話、スジはいいのか?」って執筆記者に聞いてるはずです。その一方で「アルカイダ」という“旬”なキーワードが入っている原稿だ、どうにかでかく派手にやって世論を喚起しようとかあるいは見栄えのよい紙面に使用とかいう欲も働いている。どうせ立件がつぶれても、警察情報ですから裁判になっても「報道すべき真実と信じるに足る根拠があった」ということで言い逃れできる、とも思うでしょう。

でもね、公安情報というのは「報道すべき真実と信じるに足る根拠」がないことは、歴代の公安記者の経験から明らかなわけで、だからこそプロのジャーナリスト、あるいは報道者としての判断が必要なわけです。

しかも、警察というのは自分が行った捜査を上層部に評価してもらうには、新聞記事しかないわけ。つまり、いかに新聞で大きく取り上げられたか、その大きく取り上げた事犯をやったのだ、ということを報告するために、事件摘発後にはせっせせっせと自分のやった事件の新聞記事を切り抜きしてぜんぶそろえてレイアウトよく紙に糊で貼って、そんで上司に報告して褒賞の対象にする、ということをやってるわけ。だもの、記者へのリークだって大言壮語になってしまうのは当然でしょう。おまけに裏の取れない公安情報だったらなおさらのこと、新聞記事を手玉に取ることなど簡単です。

で、結果として公安記事というのは、ほとんどが竜頭蛇尾、大山鳴動ネズミ一匹。あとにはなにも悪いことをしていないのに傷つき疲れた個人が残される、というわけです。

ヒムさんのケースは、それこそ絵に描いたような典型的なものです。
前にも書いたが、フジテレビのニュースはほんとうにひどい。安藤さんも木村さんも、よく続けているなあと思いますね。まあ、ものすごい金をもらっているフリーランスのアンカーパースンとしては、その仕事を手放せば次の仕事が確保されていない限り路頭に迷うわけだから、というか、あの人たちは引く手数多で迷うことはないだろうけど、局の方針を変えるのに貢献するほどまでには金も権限ももらっていないということなんでしょうね。

July 13, 2004

なんだか嫌な空気への反応

 「小泉自民党敗北」の参院選を前に、東京新聞が「ニッポンの空気」(www.tokyo-np.co.jp/kuuki)という連載を行っていました。北朝鮮の拉致被害者家族の会やイラクの人質事件などに関連して、政府や権威への批判を許さぬ最近のニッポンの息苦しさを描いた好企画でした。

 その中で今年2月、「愛国心」を盛り込もうという教育基本法「改正促進委員会」の設立総会で、民主党衆院議員の西村真悟が「お国のために命を投げ出しても構わない日本人を生み出す」と演説したことが紹介されていました。
 西村ってのは民社党から新進党を経て民主党に入った人。民主党もこういう寄せ集め集団ですからそういうなんだかわからん発言が出てきても不思議ではないのですが、政治家に教育とか倫理とかを語らせるとロクなことにならねえなと思うのは私だけでしょうかね。

 いま上映中の『華氏911』にも同じようなことが描かれています。連合軍の死者が1千人を越えたイラク戦争(イラク人の死者数はその10倍以上です)で、自分の子息を軍に徴兵登録している連邦議員は1人しかいない。そこでムーア監督は例によって首都ワシントンに繰り出し、往来の議員たちに向けて徴兵登録への記入を勧めるわけです。ところが予想どおり、それに応じる議員は1人もいない。
 翻って西村議員。彼にもお子さんが3人いらっしゃる。彼はそのお子たちには率先して「お国のために命を投げ出」させるのかしら。

 映画を見ながら、私は4年前からのことを思い出していました。そうだ、そうだったよなあ、という感じです。あの大統領選挙で国民の半分は怒り狂いました。ブッシュの支持率は9・11の前は40%代でした。それがあっという間に「戦争人気」です。映画は、その辺をうまくおさらいしてくれます。ジャーナリストとしてずっとウォッチしてきた者にはそう新しい話はないのですが、ただしまとめて提示されるとさすがにそこに強い意味が出てきます。ムーア監督の編集構成はなかなかのものです。ブッシュのアホさ加減と、しかし厳粛な戦争の映像とが、映画に緩急を付けます。そうしてしだいに、ブッシュに対するそもそものあの怒りがよみがえってくるといった仕掛けです。

 そうやって思い返すと、9・11の後でアメリカ中に星条旗があふれたのは仕方ないと思います。しかし、批判が許されない状況はどうみても異常でした。異常だと口にすること自体も認められないような雰囲気。映画の中でブリトニー・スピアーズがガムをクチャクチャやりながら「ブッシュ大統領を支持するわ」と言っていましたが、それを見ながら私は逆に、ディキシーチックスというカントリーシンガー3人娘が同じテキサス出身のブッシュを「恥だと思う」と発言してものすごいバッシングが起きたことを思い出していました。
 そのバッシングを容認するばかりか寄ってたかって後押しするようなあのときの“空気”は、なんだか嫌ないまの「ニッポンの空気」にも通底していました。年金も多国籍軍も批判なしで通そうというその小泉自民党の「嫌な感じ」に、そして参院選の日本の有権者は拒絶反応を示した。ケリー・エドワーズ組への支持率上昇を通して現れている反ブッシュの気運も、そんななんだか嫌な感じを拒絶したいアメリカの平衡感覚の現れなのかもしれません。

 『華氏911』はすでに千数百万人が見ています。大統領選の投票率は50%ほど。5千万票代での競り合いです。ですから観客動員2千万人にはなるだろうとされるこの映画の影響はかなり大きいはずです。今はそれに期待しましょうか。とはいえ、ブッシュ政権はテロを理由にした大統領選挙の延期ということも検討しているのだとか。ふ〜む、こいつぁ厄介だわなあ。

July 01, 2004

青少年健全育成

東京で、エッチな本の包装陳列が始まったそうですね。東京都の青少年健全育成条例の新規定らしいですが、ああいうのって、隠されるからよけいに劣情を刺激するのです。劣情というのは、呼んで字のごとし、劣していると思うから密やかで暗いところを好むわけで、その密やかさと暗さを助長したら、もっと劣情しちゃうんじゃないか。そういうことを(というかそういうことだけは)、あの太陽の季節おやじはわかってるはずじゃなかったのでしょうか。

立ち読みできたらもっと刺激する、という説もありますが、そうでしょうか。
立ち読みで興奮しちゃうような輩は、封印されてた方がもっと興奮するんじゃないでしょうか。いや、もっと妄想を膨らませる。立ち読みして、なんだこんなもんかね、と思ってそれでおしまいだった連中も、こんどは隠されているから「こなくそ」とばかりにもっとむらむらしちゃうんじゃないかしらん。

これって、クローゼットのメカニズムと同じなのです。

どうすりゃいいか?
エロいものにフタ、でだめなことは一応、万人の共通認識でしょう。
臭いものは元から絶たなきゃだめ、式で行くと、エロイもの自体を追放駆逐することが物事の根本解決にはなりますが、しかし、エロイものと臭いものとを、ミソも糞も一緒に同様に「いけないもの」とする短絡がここにはあります。

エロイもの、あったっていいじゃない。
要は、それでも一応社会通念に照らしてあんまり変なことしないだけの自分のコントロールをできるかってことです。
エロイものはある。あってもかまわない。そんで、そのつぎにどう対応するか、ということを、もし、子供に教えたけりゃ教える。それしかないでしょう。

かつて寺山修司は、「知るのに早すぎるということはない」といいました。
どんなものでも「知るのに早すぎるということはない」。
なぜなら、それはそこに存在するからです。
次は、知ってもだいじょうぶなように早く大人になる、ということしかないのです。
もちろん、知ってもそれを遊べるような子供である、ということも含めて。

政治に、こういう青少年教育とか健全とか倫理とかやらせると、ろくなもんじゃないという好例がここにあります。次の国会ででてくる教育基本法の改正にしても、自民党や公明党なんかに教育なんか語ってほしくないなあという気がします。