« なんだか嫌な空気への反応 | Main | エイズと言葉と制度の課題 »

締めくくらねば

<人権救済>バングラ国籍男性が日弁連に申し立て

 不法就労などの捜査で国際テロ組織・アルカイダとの関係を疑われ、被害を受けたとして、バングラデシュ国籍の携帯電話販売会社「リョウインターナショナル」社長、イスラム・モハメッド・ヒム氏(33)が27日、日本弁護士会連合会に人権救済を申し立てた。

 ヒム社長は今年5月〜6月、不法滞在の弟らを会社で働かせたなどとして、入管法違反(不法就労助長)などで神奈川県警と警視庁に逮捕され、罰金30万円の略式命令を受けた。

 計43日間拘置された捜査では、国内に一時潜伏していたアルカイダ中堅幹部とされるリオネル・デュモン容疑者(昨年12月、ドイツで逮捕)と数回通話したことがあり、関係を追及されたうえ、関係があるかのように報道された。しかし、デュモン容疑者がアルカイダ中堅幹部とされることを知らずに商取引の話をしただけと判明した。

 会見したヒム社長は「全世界にウソが流された結果、仕事を打ち切られ、銀行送金もできない。破壊された生活を回復させてほしい」と訴えた。弁護人は「当局は、不当な情報を報道機関にリークした」と批判した。【坂本高志】(毎日新聞)[7月27日21時7分更新]

******

ここで5月26日付、6月18日付けで触れたので、締めくくりを書かねばなりません。例の「別件逮捕」と「おどろおどろ報道」は上記の結果になりました。「嫌疑不十分でまさに微罪での略式起訴、釈放、罰金、国外追放で終わりかもしれません。で、アルカイダ? という「誤報」の汚名は晴らされることなく、日本人の記憶にシミとして残るのです。」と書きましたが、まさに略式起訴、罰金30万円。国外退去処分はないようですが、日本での仕事が立ち行かなくなれば、結果的に日本を去るしかない。同じことです。かわいそうに。

逮捕したのは警視庁公安部外事三課です。外国のスパイ事件を担当するところ。

公安記者というのは自分ではほとんど情報を取れない。スパイとか過激派が相手なもんで、捜査対象だって新聞記者に与える情報はどこまで恣意的か知れたもんじゃないですからね。で勢い、警察情報に頼るしかなくなる。その警察も公安という特殊な組織で、こりゃもう超法規的な活動をするわけです。人権とか関係ないから法律が通じないの。だって、「公共の安全=公安」というのは、国民全体の安全を図るために個々人の自由は一定程度規制してよい、あるいは規制せざるを得ない、というコンセプトの下で成り立っているわけですからね。

でも、そこで問題なのはやはり報道する側ですよ。

このヒムさんの記事が上がってきたときに、ちゃんとしたデスクならぜったい「おい、この話、スジはいいのか?」って執筆記者に聞いてるはずです。その一方で「アルカイダ」という“旬”なキーワードが入っている原稿だ、どうにかでかく派手にやって世論を喚起しようとかあるいは見栄えのよい紙面に使用とかいう欲も働いている。どうせ立件がつぶれても、警察情報ですから裁判になっても「報道すべき真実と信じるに足る根拠があった」ということで言い逃れできる、とも思うでしょう。

でもね、公安情報というのは「報道すべき真実と信じるに足る根拠」がないことは、歴代の公安記者の経験から明らかなわけで、だからこそプロのジャーナリスト、あるいは報道者としての判断が必要なわけです。

しかも、警察というのは自分が行った捜査を上層部に評価してもらうには、新聞記事しかないわけ。つまり、いかに新聞で大きく取り上げられたか、その大きく取り上げた事犯をやったのだ、ということを報告するために、事件摘発後にはせっせせっせと自分のやった事件の新聞記事を切り抜きしてぜんぶそろえてレイアウトよく紙に糊で貼って、そんで上司に報告して褒賞の対象にする、ということをやってるわけ。だもの、記者へのリークだって大言壮語になってしまうのは当然でしょう。おまけに裏の取れない公安情報だったらなおさらのこと、新聞記事を手玉に取ることなど簡単です。

で、結果として公安記事というのは、ほとんどが竜頭蛇尾、大山鳴動ネズミ一匹。あとにはなにも悪いことをしていないのに傷つき疲れた個人が残される、というわけです。

ヒムさんのケースは、それこそ絵に描いたような典型的なものです。
前にも書いたが、フジテレビのニュースはほんとうにひどい。安藤さんも木村さんも、よく続けているなあと思いますね。まあ、ものすごい金をもらっているフリーランスのアンカーパースンとしては、その仕事を手放せば次の仕事が確保されていない限り路頭に迷うわけだから、というか、あの人たちは引く手数多で迷うことはないだろうけど、局の方針を変えるのに貢献するほどまでには金も権限ももらっていないということなんでしょうね。

TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://www.kitamaruyuji.com/mt/mt-tb.cgi/88

Post a comment

(If you haven't left a comment here before, you may need to be approved by the site owner before your comment will appear. Until then, it won't appear on the entry. Thanks for waiting.)