チキンホーク
選挙が近づくと投票権のない私のところにまで投票を促す電話やEメールが届きます。ときには面白いジョークや興味深い資料が届いたりもします。
ジョークと言えばコメディ番組「サタデーナイトライブ」で副大統領候補のエドワーズが登場し、TV討論会のときのブッシュ大統領の背中の四角い盛り上がりを「あれはブッシュの電池さ」と言ったのには笑いました。もちろん番組の台本作家が考えたんでしょうけれどね。
メールにあるリンクをクリックするとコンピュータ投票もどきのウェッブサイトが現れて、ブッシュとケリーのクリックボタンが並んでいるのもありました。それでケリーのボタンを押そうとするとそれがどんどんカーソルから逃げ回ってぜんぜん押せない。で、結局はブッシュのボタンをクリックするハメになる、というものです。前回のフロリダの混乱の、新たな陰謀を連想させる仕組みで、これは同種のものがいくつかあります。だいたい、民主党支持者の有権者登録がごっそりと捨てられていたなんていうニュースがあるくらいですから、本当に国際的な選挙監視団が必要なほどの険悪な陰謀が仕組まれているのかもしれませんな。
イリノイ州上院議員のハワード・キャロルさん(民主党)から、というメールも回送されてきました。これは民主、共和両党に関係する大物政治家や論客たちがどれほど従軍経験があるかを列記したものでしてね、なかなか面白い。
それを見るとケリー、エドワード・ケネディら、共和党から「超リベラル」と“非難”されている人たちはけっこう従軍しているのですが、共和党の右派といわれる人たちはあまり軍隊経験がないんですね。ブッシュのインチキ疑惑は周知のところですけど、チェイニー副大統領や、例の「四角い盛り上がり」でブッシュに“話す内容を無線で教えていた”との噂が出ていたカール・ローブ大統領顧問の二人はなんとベトナム徴兵を忌避しているし、タカ派のアシュクロフト司法長官もまるで軍隊経験なし。ネオコンの黒幕ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官もない。さすがにラムズフェルド国防長官は海軍で飛行指導教官を3年やっているんですが、かつて1996年の共和党副大統領候補だったジャック・ケンプは、むかし膝が悪いと言って軍隊には行かなかったのにNFLで8年も活躍していたという“強者”っす。
面白いのはパット・ブキャナン、ビル・オライリー、マイケル・サベージ、ラッシュ・リンボーといった威勢の良い右派のトーク番組ホストや論客に軍隊経験がないことですね。
従軍したこともないのにやたら戦争を煽るタカ派の連中を俗語で「チキンホーク(chickenhawks)」といいます。もともとはベトナム戦争時代に、反共を標榜しながら徴兵を忌避した人たち(チェイニーやローブ?)のことを指した言葉です。チキンは映画「理由なき反抗」でも出てきましたが「臆病者、小心者」という意味。アメリカのマッチョ文化では男に対する最大の侮辱語です。一方、ホークは「タカ」ですね。だから合わせると、「自分は肝っ玉が小さいくせにやたら若者を戦争に送れと吠えているタカ派人間」ってことですわ。
今回の選挙では徴兵制復活への疑心暗鬼も話題です。かつてない数の若者たちが続々と有権者登録をしているのはそんな背景もあるようです。
コメディアンのビル・マーがまた面白いことを言っていました。「9・11を境に世界は変わってしまったと言う人がいるが、そんなことはない。世界は変わってなんかいない。アメリカが初めて世界に加わっただけだ」。
なるほどね。さてその世界に、次の4年、アメリカはどう向き合うつもりなのでしょう。私の予想では、若者たちが投票すればケリーは勝ちます。登録だけで思ったほど投票に行かなければブッシュの勝ちですね。
次の大統領が重要なのは、じつは「大統領職」だけに限ったことではなく、アメリカの連邦最高裁の判事がみんな高齢化していて、数人、変わるということが大きいのです。そのときに、新しい判事を大統領が指名するわけですよ。ここでリベラルな判事になるか、ネオコン判事になるか、これで世界史はかなり変わっちゃうのです。もちろん例の同性婚のはなしも次の4年で最高裁の出番になるかもしれない。
あと8日です。