MS続報、っていうか……
こないだのNYタイムズの報道の続きです。
まずは訳しましょうか。
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Microsoft C.E.O. Explains Reversal on Gay Rights Bill
マイクロソフトのCEO、ゲイ人権法案への支持撤回を説明
By SARAH KERSHAW (記者署名サラ・カーショー)
Published: April 24, 2005
SEATTLE, April 23 - The chief executive of Microsoft, Steven A. Ballmer, sent what company officials described as an unusual e-mail message on Friday evening to roughly 35,000 employees in the United States, defending Microsoft's widely criticized decision not to support an antidiscrimination bill for gay people in Washington State this year.
シアトル23日─マイクロソフトのCEOスティーヴンAボルマーが金曜夜、アメリカ国内の約35000人の社員に、同社側言うところの"異例の"eメールを送信した。そのメールの中で彼は、広く批判されているマイクロソフトの決定、つまりワシントン州のゲイに対する反差別法案への今年の支持撤回決定を擁護してるってわけさ。
The e-mail message came as company officials, inundated by internal messages from angry employees, withering attacks on the Web and biting criticism from gay rights groups, sought to quell rancor following the disclosure this week that the company, which had supported the bill in past years, did not do so this year. Critics argue that the decision resulted from pressure from a prominent local evangelical Christian church.
このeメール・メッセージが送られてきたのは、同社側が、怒り心頭の社員からの社内メッセージやウェッブ上でのびびっちゃうような攻撃、ゲイ人権グループからの噛み付かれちゃいそうな批判なんかに圧倒されちゃって、どうにかしてこの、去年まではこの法案を支持してきたのに今年はそうじゃなくしたって今週明らかになったあとで起こってきた敵意みたいな感情を鎮めたいなあと思ってのことなんだわ。
In his message, posted on several Web logs on Saturday and confirmed by company officials, Mr. Ballmer wrote that he had done "a lot of soul searching over the past 24 hours." He said that he and Bill Gates, the founder of Microsoft, both personally supported the bill but that the company had decided not to take an official stance on the legislation this year. He said they were pondering the role major corporations should play in larger social debates.
メッセージってのはこの土曜日にいくつかのウェッブログでポストされてて、そんでもって同社側も確認した本物なんだけど、そのメッセージの中でミスタ・ボルマーは「この24時間にわたって魂の追求みたいな厳しい思索」を行ったと書いている。彼が言うのは、彼もビル・ゲイツも、マイクロソフトの創設者ね、ともに個人的にはこの法案を支持している、でも会社としては今年はこの法案に対して公的な立場を取らないことに決めたんだっていうわけ。ふたりはね、大きな企業というのが大きな社会的議論になっているようなことでどのような役割を演じるべきかについて熟考してたんだってさ。
"We are thinking hard about what is the right balance to strike - when should a public company take a position on a broader social issue, and when should it not?" he wrote. "What message does the company taking a position send to its employees who have strongly held beliefs on the opposite side of the issue?"
「なになにが正しいバランスの取り方なのか、私たちは懸命に考えている─公的な企業がある広範な社会問題に対して一つの立場を取るべきなのはいかなる時なのか、あるいはいかなる時には取るべきではないのか?」って書いてるのね。「ある立場を取っている会社が、その問題に対して反対の信念を強く持っているような従業員たちに対してはどのようなメッセージを送るのか?」って。
The bill, which has been debated in the Legislature for years and would have extended protections against discrimination in employment, housing and other areas to gay men and lesbians, failed by one vote on Thursday.
問題の法案はワシントン州議会で何年も議論されていたもので、雇用や住宅やその他の分野でのゲイ男性とレズビアンたちへの差別に反対して、法的保護を広げるはずのものだった。
Critics, including some Microsoft employees and a state legislator, who said they had conversations with company officials about their decision, said a high-level Microsoft executive had indicated that the company withdrew its support because of pressure from a local minister, Ken Hutcherson. Dr. Hutcherson opposed the bill and said he had threatened a national boycott of Microsoft.
マイクロソフトの従業員や州議会議員も含む複数の批判者は、今回のこの決定について会社側と話をして、会社が支持を引っ込めたのは地域の牧師のケン・ハッチャーソンの圧力によるものだとマイクロソフトの上の方のエラいさんが言っていたよって話している。ハッチャーソン博士(神学者なんだろうね;訳注)はこの法案に反対していてマイクロソフトに全米で不買運動をするぞと脅していたわけだしさ。
Company officials have denied any connection between the threatened boycott and their decision not to support the bill.
会社側は今回のこの法案不支持の決定とボイコットの脅しとは無関係だと否定してるけどね。
Microsoft, which is based in Redmond, Wash., east of Seattle, has long been known for being at corporate America's forefront on gay rights, extending employee benefits to same-sex couples. In his e-mail message, Mr. Ballmer said, "As long as I am C.E.O., Microsoft is going to be a company that is hard-core about diversity, a company that is absolutely rigorous about having a nondiscriminatory environment, and a company that treats every employee fairly."
マイクロソフトはワシントン州レッドモンド、シアトルの東ね、そこに本社を置いてるんだけど、長いこと“アメリカ株式会社”のゲイ人権に関する最先端を行っていたことで知られてたわけさ。従業員の福利厚生を同性カップルにも拡大したりしてさ。eメールのメッセージの中でミスタ・ボルマーは「私がCEOでいるかぎり、マイクロソフトは多様性に関して筋金入りの中心的存在になるし、差別のない環境を作ることに絶対的に厳格に取り組む会社になるし、そしてすべての従業員を公正に扱う会社になる」と言ってる。
Mr. Ballmer described the antidiscrimination measure as posing a "very difficult issue for many people, with strong emotions on all sides." He wrote, "both Bill and I actually both personally support this legislation," adding, "but that is my personal view, and I also know that many employees and shareholders would not agree with me."
ミスタ・ボルマーはこの反差別法案のことを「多くの人たちにとって、どんな立場であっても強い感情を伴うとても難しい問題」を投げかけるもの、としている。彼は「ビルも私も実際、個人的にはともにこの法案を支持する」と書き、続けて「しかしそれは私の個人的な意見であり、その私に賛成しない多くの従業員や株主がいることも知っている」と言うのね。
Blogs and chat rooms on the Web were filled Saturday with lively debate about Microsoft's actions, including postings from people who said they would now buy products from other software companies and encourage others to do the same.
ブログやウェブのチャットサイトは土曜日、マイクロソフトのこの動きに関して活発な議論で埋まった。そん中には、もうこれからは他のソフトウェア会社の製品を買うからみんなもそうしようと呼びかける人からの書き込みもあった。
One posting Friday on a Web log run by "Microsophist," who promises "an unfiltered and unfettered view of Microsoft from the inside," said of Mr. Ballmer's memo: "When I read the mail, I felt some relief (the situation wasn't as bad as I'd first thought) followed by disappointment as he's basically saying he doesn't want to do anything that might cross the religious right."
マイクロソフトに関する検閲も足かせもない内部からの見方を約束するという「マイクロソフィスト(マイクロソフトのソフィスト、つまりマイクロソフト学者ってなシャレかね;訳注)」という人の運営するあるブログの金曜の書き込みは、ミスタ・ボルマーのメモに関して「メールを呼んだとき、なにか安心した(最初に思ったほど事態は悪いわけじゃなかった)けど、その後でがっかりした。だって彼、基本的には、宗教的な権利とぶつかるかもしれないようなことはぜんぶ避けて通りたいって言ってるわけだからさ」
A gay Microsoft employee who read the e-mail message from Mr. Ballmer on Saturday and spoke on the condition of anonymity out of fear of retribution said: "Overall it's a good thing that Steve is reaffirming the company's commitment to it's internal anti-discrimination policies. But I'm disappointed that he would give equal weight to the views of employees or shareholders who would condone discrimination as to those who would be the subject of discrimination."
土曜日にミスタ・ボルマーからのメッセージを読んだゲイのマイクロソフト従業員は仕打ちが怖いという理由で匿名で話してくれた、「全体的に見て、スティーヴが会社の社内的な反差別方針への取り組みを再確認しているということはいいことだ。でも、これって差別を黙認するような社員や株主の意見は、差別の対象になるような人々の意見と同じだけ等しく重要だという判断なわけで、それは失望だよ」
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あらら、思いのほか時間がかかってしまいました。長いしね。
記事の書き方ってもんがありますが、もとよりそれは公平なんてことはあり得なくて、どうしたって書き手の立場が反映してしまいます。この記事もそうで、まず、報道として取り上げるということ事態が一つの意思表明なわけですよね。そういうことも含めてフーコーは書くこと自体が権力になると言っていました。それはたしかにそうで、では、じゃあ、権力に汚されていないニュートラルな状態は何なのか、そのへんが読解のカギになるのです。
このボルマーさん、それはきっと難しい決断だったのだと思いますよ。で、これこそが「正しいバランス」の取り方だ、と思った。ほんとかなあ。
だってさ、「支持を取りやめる」という行為は「中立に戻る」というニュートラルな行為ではないのですもの。それは「在るもの」を「無くする」という積極的なマイナスの行為なのです。それはメッセージなのです。宣言です。どうしたってそうなってしまう。つまり、マイクロソフトはこうすることで結果的に、「積極的に差別を肯定する」のと実質的に同じメッセージを送ってしまったことになるのです。
「いやいや、そんなことは言っていない」とボルマーさんは言うでしょうけれど、問題は、言っている中味ではない。支持を取りやめると「言う」行為のことです。「支持を取りやめる」というアクションのメッセージ性のことなのです。(ほんとうは支持取りやめを発表しないでそっと黙っていたかったのかもしれないけれど、そんなこと、不可能ですものね。おまけにそれが公表されてしまってからもこのメールメッセージです。2回も「言」っちゃっている)。
ビル・ゲイツだってボルマーだって、(いくら理系だからといって)こうしたことに気づいていないわけはない。すっごく頭はいいはずですもんね。にもかかわらずそういうアクションを取った。これも「一つの立場」なわけで、「ニュートラルな立場」なんてあり得ないのです。ニュートラルなら、「立場」すらないんですよ。ふわふわ漂って、その「広範な社会問題」自体にコミットなんかしないで、どこにいるのかわからない、人々に意識すらさせない、これを社会問題におけるニュートラルなあり方というのです。中立なんてないのです。あるのは「支持」か「不支持」か、「考えてない」かです。あるいはもうちょっと踏み込んで「そんなのくだらん」と問題そのものを否定する立場。
たとえばナチスです。ナチスに対するニュートラルな立場、というのは何を意味しているのでしょうか。ふわふわ漂って、コミットしないで、なんにも考えていない、というならわかります。それはただのバカです。しょうがない。そうじゃないなら、ナチスに対する支持か不支持しかあり得ない。困っちゃって黙って隠れているというのはあります。あとは「どうせ他人事」というのもあるでしょう。でも、「私はナチスに対して中立でいたい。なぜなら、その支持者も不支持者も大いに感情的になってしまって、賛否両論、大きく分かれているからだ」というのは、つまりナチスを黙認してる、ってことと実質的に同じになってしまうでしょう。第二次大戦中のローマ法王がそうだった。そんでもって、けっきょく法王庁は戦後何十年もたってから謝罪することになるのです。ザマァミロ、と思った人は少なくなかったはずです。
でもって、ボルマーさん、社内的には同性カップルにも平等な環境を与えると言っている。なんじゃらほい? そういうのに反対の株主や従業員だっているでしょうに、それは問題ではないのかしら。これは偽善とか詭弁とかっていうもんじゃないかしらん?
NYタイムズのこのサラさんは、この原稿の終わりに「これって差別を黙認するような社員や株主の意見は、差別の対象になるような人々の意見と同じだけ等しく重要だという判断なわけ」ってことだよね、というコメントを持ってきています。これがこの記事の結論でもあります。この皮肉と逆説と反語とがすべてを語っているのだと思います。
しかし、ほんとにボルマーとゲイツ、頭いいんだろうか……。