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October 24, 2005

取材源の秘匿

 NYタイムズなどによるCIA工作員漏洩事件が大きな政治問題になってきました。ともするとチェイニー副大統領の辞任にも結びつきそうな雰囲気です(希望的観測)。しかしこれは最初からおかしな事件でした。

 発端は一昨年夏、アフリカ・ガボンの米国大使の妻がCIAのスパイだと報じられたことです。最初からおかしかったというのは、CIAのスパイであるという事実を報道することに何の意味もニュース価値もないからでした。いったいそんなニュースが誰の得になるのか、何のためになるのか、まったく意味をなさなかったからです。

 そこでわかってきたのは、この奥さんの夫である米国ガボン大使ジョセフ・ウィルソン氏が、ブッシュ政権がイラク開戦の理由だった大量破壊兵器疑惑を「脅威を誇張して事実をねつ造した」と批判していたという背景でした。ここで初めて利害関係が見えてきたのです。ウィルソン氏の奥さんがスパイだと露呈すれば著しい生命の危険にさらされる。つまり、政権批判への報復のために、肉体的・心理的嫌がらせをねらってホワイトハウスが意図的かつ巧みにそのスパイの人定情報をリークしたのではないか、というものでした。

 思えば、タイムズ記者のジュディス・ミラーが情報源の秘匿を盾に証言拒否で収監されたときも、米メディアはなにかが歯に挟まっているようなかばい方をしていました。なぜならこの場合、情報源を隠すことで守られていたのはブッシュ政権そのものの方だったわけですから。もともとの記事だって、前述したようにニュース価値のないものだったのですから。ふつうはそういう情報を握ってもまともな記者なら書きはしません。脅迫事件に加担するようなもんですもの。

 手元に文藝春秋の9月号があるのですが(芥川賞の発表があったのでそっちが目的で買ったのです)、ぐうぜん面白いものを見つけました。いつもはメディア批判で筆鋒鋭い「新聞エンマ帖」の欄が「取材源の秘匿が揺らいでいる」と題してとんでもない勘違い原稿をさらしているんですね。

 「ジャーナリストならば、情報提供者の秘密を守るため、その名前を明かしてはならないことは誰でも知っている」として、これを「最も重要な職業論理」と書いているのはいいのですが、ミラー記者の収監に関して日本の新聞はみな「対岸の火事的な報道に終止した」として「悪しき日本の新聞の習性を見る思いがした」と筆を滑らせるのです。

 エンマ帖氏は「仮に権力によって取材源の秘匿が否定され、ジャーナリストがそれを守らなくなれば、人々のジャーナリズムへの信頼は地に堕ちる」と説き、「日本のジャーナリスト」は「だが、いざという時、果たしてニューヨークタイムズの記者のように行動できるのか」と心配してくださっている。

 しかし事の顛末は逆でした。タイムズのミラー記者のように行動してしまえば、権力こそが取材源の秘匿によって守られ批判に頬かむりしていられるのです。ミラー記者ほか一連の漏洩情報の報道者たちはいずれも大量破壊兵器疑惑にも簡単に乗って検証もなく記事を大量生産し米国民の開戦意識をあおった、ブッシュ政権のいわゆる“御用記者”だったのです。

 これは情報漏洩事件ではなく、政権中枢である大統領補佐官カール・ローブや副大統領補佐官ルイス・リビーをリーク源とする、人命をも顧みない冷酷な情報操作と報復の事件でした。権力者の思い上がりも甚だしい、じつに恐ろしい話です。

さてブッシュ政権がどう後始末をつけるか。
チェイニーは辞めるのか。
政権末期のレイムダック化が進むのか。
これからいろいろと展開があるでしょう。

October 21, 2005

土の中の子供

創設70周年記念という芥川賞受賞作、中村くんというめんこい顔した男の子が書いた短編なんだけど、先日、読み終えて「????」。は? なんじゃらほい?

わからないというのではなくて、わかった上で、どうしてこれが受賞するのかがわからんのだ。子供の作文だぜ。何なんでしょう? みんな、孫引きの貰い受けの焼き直しの、つたなくおさないテキストだ。ぜ〜んぶ、どっかで聞いたようなことばかりの羅列なの。わかりましぇん。んで、選評読んでも選考委員は黒井千次しかまともには褒めてない。黒井千次だぜ、おいおい、内向の世代かよ! そういや連中の書いてたのもこんな類いのもんだったっけなあ。

こういうのはさ、習作としては自室にこもる学生時代に書きためるべき,自分を鍛えるために問いかける種類のテクストの1つかもしれんが、ひとさまに見せるべき商品じゃあねえわな。なんだっちゅーんでしょ。でも、なんで黒井しか褒めてないのが受賞するんだろう。あ、そうそう、石原都知事もなんか、買ってるような筆致。やっぱバカだ、あの政治家。

だれか、読んだっすか?
わたしはもうこの時代を読めなくなっているのでしょうか?
というか、これがいまの商品なんだかもなあ。

芥川賞って、「蛇にピアス」のときに、おれの高校時代からの友人の、かつて文学少女だったやつが言ったことを思い出してしまうんだわ。

「ねえ、太宰が獲れなかった賞よ。こういうので獲らしてもいいわけ?」

October 18, 2005

小泉靖国参拝NYタイムズ社説

NYタイムズの本日の社説でした。
かなり厳しい論調ですな。ま、リベラルですから、タイムズは。

それにしても、「右翼国粋主義者が自民党のかなりの部分を構成している」とか、「靖国は神社とその博物館で戦争犯罪を謝罪していない」というのは、なかなか正確で明確な意見です。

靖国が戦争を謝罪していないのは、死んだらみんな神様だからってわけでしょうかね。あそこの従業員たちはけっこう過激です。国家護持を狙っているくらいですからね。ものすごい政治力ですもの。

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October 18, 2005
Editorial 社説
Pointless Provocation in Tokyo
東京での意味をなさない挑発行為

Fresh from an election that showcased him as a modernizing reformer, Prime Minister Junichiro Koizumi of Japan has now made a point of publicly embracing the worst traditions of Japanese militarism.

近代的改革者としての姿勢を見せつけた選挙から間もないというのに、首相小泉純一郎が今度は日本の軍国主義の最悪の伝統の公的な保持者であることを明らかにした。

Yesterday he made a nationally televised visit to a memorial in central Tokyo called the Yasukuni Shrine. But Yasukuni is not merely a memorial to Japan's 2.5 million war dead.

彼は昨日、全国放送される中、東京中心部にある靖国神社という追悼施設に訪問した。もっとも、靖国は日本の戦争犠牲者250万人を祀っているだけの施設ではない。

The shrine and its accompanying museum promote an unapologetic view of Japan's atrocity-scarred rampages through Korea, much of China and Southeast Asia during the first few decades of the 20th century.

同神社とその付属博物館は、20世紀初頭の数十年間、韓国朝鮮全土と中国・東南アジアの多くで極悪非道と恐れられた日本の残虐行為に関して悪びれることのない史観を標榜しているのである。

Among those memorialized and worshiped as deities in an annual festival beginning this week are 14 Class A war criminals who were tried, convicted and executed.

今週始まる例大祭で神として祝われ崇められる中には、裁判にかけられ有罪になり処刑された14人のA級戦犯も含まれている。

The shrine visit is a calculated affront to the descendants of those victimized by Japanese war crimes, as the leaders of China, Taiwan, South Korea and Singapore quickly made clear.

この神社参拝は、中国、台湾、韓国、シンガポールの首脳たちがすぐさま明確に指摘したとおり、日本の戦争犯罪によって犠牲になった人々の子孫への、計算ずくの侮辱である。

Mr. Koizumi clearly knew what he was doing. He has now visited the shrine in each of the last four years, brushing aside repeated protests by Asian diplomats and, this time, an adverse judgment from a Japanese court.

Mr.小泉は自分が行ったことを明確に認識している。彼はこの4年間、繰り返されるアジアの外交官たちの抗議を軽くいなし、さらに今回は日本の司法の違憲判決をも無視して、毎年この神社に参拝してきたのだから。

No one realistically worries about today's Japan re-embarking on the road of imperial conquest.

現実問題として、だれも日本が再び帝国主義的覇権の道を進むだろうなどとは心配していない。

But Japan, Asia's richest, most economically powerful and technologically advanced nation, is shedding some of the military and foreign policy restraints it has observed for the past 60 years.

しかしこの、アジアで最も裕福な、最も経済力を持ち技術的にも進んだ国家である日本は、過去60年間遵守してきた軍事的・外交的歯止めのなにがしかを切り捨てようとしているのである。

This is exactly the wrong time to be stirring up nightmare memories among the neighbors. Such provocations seem particularly gratuitous in an era that has seen an economically booming China become Japan's most critical economic partner and its biggest geopolitical challenge.

近隣諸国にあの悪夢の記憶を掻き回すのに、いまはまことにふさわしくない時期だ。このような挑発は、とくに経済的に急発展中の中国が日本の最も重大な経済的パートナーかつ最大の地政学的難題になりつつある時期にあって、まったく根拠のないものと思われる。

Mr. Koizumi's shrine visits draw praise from the right-wing nationalists who form a significant component of his Liberal Democratic Party.

Mr.小泉の同神社参拝は、彼の自民党の中でかなりの部分を構成する右翼国家主義者たちの賞賛を引き出した。

Instead of appeasing this group, Mr. Koizumi needs to face them down, just as he successfully faced down the party reactionaries who opposed his postal privatization plan.

このグループの要求を受け入れるのではなく、Mr.小泉は彼らを屈服させるべきなのである。ちょうど彼の郵政民営化案に反対した自民党反動派の連中を成功裡に屈服させたように。

It is time for Japan to face up to its history in the 20th century so that it can move honorably into the 21st.

名誉とともに21世紀に進んで行くために、日本はいまこそ20世紀の歴史を直視すべきなのである。