ホリエモン・ザ・トリックスター
今年最初の書き込みですね。年末年始は日本でした。帰米は23日。まだ昼夜逆転状態です。さて、自宅に帰ってウェブサイトをチェックしてホリエモンが逮捕されたことを知りました。任意の1日目の事情聴取から即逮捕とは、特捜部も珍しいことをやります。株式市場の思惑による混乱を避けるためにも先手を打つ必要があったのでしょう。同時に、容疑がことのほか固いのだとも思います。だがそれだけなのでしょうか。
昨年2月のニッポン放送株取得騒ぎのとき以来、ホリエモンはこの時代の日本のトリックスターなのだと言ってきました。トリックスターとは英語で詐欺師のことですが、そうではなく文化人類学的な「いたずら好きの秩序破壊者」という意味においての願いを込めて。
世界中の数多くの神話に見られるトリックスターたちはときどき人間社会にふらりと訪れては道化と茶目っ気でもって既成の権威をからかい、硬直した文化や規律を掻き乱して去って行きます。彼の残した破壊のあとには新たな秩序がまた産まれる、そんな契機をもたらす存在として。
ただしトリックスター自身が新たな秩序になることはありません。彼はあくまでも触媒、反テーゼであってメインストリームには参画しない。そういう文脈で考えると彼の語録はいちいち説得力を持って既成概念に迫ってきます。
いわく「われわれは新聞やテレビってものをこれから殺していくわけです」「人の心はお金で買えるんです」「僕は老人になるつもりはない」。こうしたセリフに読売のナベツネ御大やらフジの日枝会長やらが苦虫噛み潰した顔をしてマジに切れているのを目にできたのは、本筋からは離れていたもののなんだかとても興味深いものがありました。その上で、煮詰まっている感のある日本社会に結果として新しい風穴が生まれればよいとも真に願ったのです。
しかし一方で私の周囲の若者たちからはライブドア本体のその企業姿勢に関する不満も聞こえてきていました。買収したブログサイトのアフターケアをまったくしないだとかろくなソフトを開発していないだとか、看板のはずのITは実体が薄く、ほとんどM&Aのための法人であるということは彼らには端からわかってもいたのです。
思えばその夢が「時価総額世界一の企業」。なるほどITなんぞではすでに勝ち組は上につかえていて儲けは限られる。高級寿司店の「時価」ほど恐ろしいものはありませんが、ならば味とか腕前とか売上とか収益とかの実体ではなく、ゲームでどうとでも上下しそうな株価の「時価」を相手にすればよい。それが彼の関心でした。つまり、神話的トリックスターとしての派手派手しさを利用しながら、彼は現実社会の本流に入り込もうとしたのです。
それは不可能なことです。なぜなら現実社会のトリックスターは「詐欺師」に成り下がり、そんなトリック使いは殺されてしまうからです。
「ホリエモン・ザ・トリックスター」の物語はいま最低のシナリオを迎えています。
読売のナベツネさんとつながりのある平松庚三氏がライブドアの新社長となり、フジの日枝さんはライブドアの株を勝手に手放すことができるようになって見るからに嬉々としている。株の持ち合い契約の条件に堀江氏が社長でいることという条項を紛れ込ませていたというのですから、この逮捕劇は和解時にはすでに織り込み済みだったのでしょう。巨大な政治問題であるはずの耐震偽装マンション事件だって肝心の国会喚問の詳細報道がガサ入れで吹っ飛び、既成の権力たちはまさにそろって「破壊」を免れているのです。沖縄で見つかった元幹部の“自殺体”の不可解さも合わせて(首に刺し傷とか、自殺なのに非常ベルを鳴らしたとか、報道の混乱の真相はいったい何なのでしょうか)、これはとんでもなく恐ろしい話です。
既成の秩序の破壊もできず、ただの出過ぎた杭として、後生に見せしめの効能しか残せずに埋没させられようとしているホリエモンが、もっと確信犯的に神話的トリックスターであってくれていたらと、なんとも残念でなりません。