もうひとつの耐震偽装事件
東京新聞社会面サイトに次のような記事が出ていました。
興味深い、というか、なんだかとても大変なことが書かれてるんですよ、これが。
まずはお読みください。
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『アパ3物件も偽装』
藤田元社長暴露
判決後、会見で別の耐震偽装疑惑を述べる藤田被告=18日午前、東京・霞が関の司法記者クラブで
「国がどうやって真実をねじ曲げてしまうか、みんな知らない」。耐震強度偽装事件の“登場人物”の一人とされ、東京地裁で十八日、有罪判決を受けた民間確認検査機関「イーホームズ」(廃業)元社長藤田東吾被告(45)が判決後、記者会見で「爆弾告発」をした。「アパグループの物件でも偽装が行われた」。藤田被告は激高した口調で、国や捜査当局を「耐震偽装を隠ぺいするために私を逮捕した」と批判、マスコミに真実を追及するよう訴えた。
■首都圏マンションなど
藤田被告は判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見し、「イーホームズが確認検査をしたホテル・マンション大手『アパ』グループの三つの物件でも耐震強度の偽装があった」と述べた。
アパは今年六月、「イーホームズより構造計算書に一部不整合があるとの報告を受け、検証中」と明らかにしていた。
藤田被告によると、イーホームズが偽装を確認したのは(1)埼玉県鶴ケ島市のマンション「アップルガーデン若葉駅前」(2)千葉県成田市のマンション「アパガーデンパレス成田」(3)川崎市内の物件−の三物件。偽装に気付いたのは今年二月。アパグループの物件の構造設計を請け負っている富山市内の設計事務所の代表がイーホームズに来社し、藤田被告に打ち明けたという。
この後、アパの役員らがイーホームズを訪れ、計画の変更を要請。「アップルガーデン」と「ガーデンパレス」は「計画変更も再計算も適切ではない」と判断し、工事は現在中断しているという。
藤田被告は「国に通報して、アパの物件を調査するように要請したのに、担当者は『関知しない』と取り合わず、アパは工事を止めなかった」と述べた。
その上で「本質は確認検査ではなく、偽装が可能なレベルの構造計算プログラムの問題だ」と主張。「その責任は、プログラムの運用プロセスを認定した国土交通省と同省の天下り団体である『日本建築センター』にある」と訴えた。
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この原稿、他社は書いていない。
東京新聞の司法記者だけが書いたんですね。
朝刊回しなのかもしれないが、司法記者クラブでの判決後会見なのだから「特ダネ」というものではない。みんなそこにいて告発内容を記した紙切れももらってるんでしょうし。
ただし、特ダネには結びつきそうなことは書いてるんですよ。だいたい藤田社長の逮捕・起訴が偽装事件とはまったく関係のないものだとこの日の東京地裁判決で認められているのだから、この藤田社長の告発の奥に何かがあるだろうことは想像に難くないでしょう。ですから、ふつうはどう転んでもいいように、これは本来なら司法記者が書いておくべき原稿ですね。書き方はいろいろあります。が、とにかくアリバイとしてでもいいから載せておく、そういう判断をするのが普通です。
でね、司法記者クラブというのはけっこうベテラン記者たちがそろっていて、いつも余裕で記者同士が麻雀をしているようなクラブなんですよ。各社のブースの他にソファのある居間みたいなスペースがあってね、そこで卓を囲んでるわけ、いつも。そんでまあ、お上の動きがないと、というか、検察、裁判所、といった「お上」の動き(のみ)をウォッチしていればデスクに叱られない記者クラブ、だと記者たち自身も思っているところがあるんですな。
特オチ(特ダネを自分だけが書かない失敗)というのは基本的にこのお上関連の特ダネを落とすことをいいます。イーホームズの藤田社長の告発など、いわば民間の、なんの権威もない、裏も取れてない(つまりは自分で裏を取らねばならないような面倒くさい)、「街ダネ」に過ぎない、ということで、怠けていられるのでしょう。
でもそれでいいのかねえ。この「『アパ』グループの三つの物件でも耐震強度の偽装」ってのは、まえまえからいわれている「耐震偽装はこれだけじゃない」ってやつの具体例だろう。じつにヤバい話ではないのか。
なのに、「耐震偽装報道は、もーいっか。飽きたよ」という雰囲気が、新聞メディアにあるのだとしたら、こりゃ、たまったもんじゃない。こういうときですよ、いつもはメタクソにいわれる週刊誌が頑張るのは。東京新聞もぜひ特報部で追跡報道してほしいもんです。がんばってください。