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November 17, 2006

この文章への不快感

連鎖すら生んでいるかのような少年少女のいじめ自殺に、「文部科学大臣からのお願い」なる文章が発表されたという。

(クリックすれば大きくなります)

これはだれが書いたのだろう。役人か、それとも大臣そのひとか。
なんだか、空虚な、文字の無駄遣いのような文章だ。いや、それ以上に、ここに書いてあるような安っぽいことは、きっと数多の教室で家庭で、ろくでもない教師たちだって親たちだってだれだってすぐ言えるような常套句だ。そうしてそれでもいじめは解決されていないのだとすれば、一国の大臣が、この程度の言葉を発表してはダメなのである。曲がりなりにも大臣なのだ。総理大臣が北朝鮮に行くときは外交上の“最終兵器”として出向くのである。文部大臣が言葉を発するときは、それ以上の言葉はもうないのである。

なのに文部科学を司る“最終兵器”が同じことを言っていると知って、いじめられる側もいじめる側も、しょせんオトナのいうことなんてそんな程度だと思ってしまうことが私はいちばんいやだ。いや、そんな権威を信じているわけではない。子供に、世界の果てがそんな目に見えるほどのところにあると思わせることの罪を言っているのである。

このひとは何を言っているのか。
こんなブルシットをしたためるヒマがあるなら、いじめをやっている連中に、オトナの怒りを見せてやることこそが必要なのだ。
なのに、このひとは「怒る」代わりに「脅し」ているのである。おそらく「脅し」とも気づかないまま。
「君たちもいじめられるたちばになることもあるんだよ」とは何事だろう。

いじめを許さない、たとえいじめている側に向けてだって、いじめることを許してはいけない。なのに、「いじめられるよ、だからいじめるな」では、矛盾するだろう。この論理のネヅミ講の最後には、必ずいじめるやつの存在が残るのだ。そりゃそうかもしれない。しかしここはそんな存在をすらも許さないという態度を見せつけてやらなくてはならないのに。

だって、子供たちは、いつか自分も「いじめられるたちばになる」かもしれないことを恐れていじめつづけているのである。いじめる側に固執しているのである。「君たちもいじめられるたちばになることもあるんだよ」とはまさに、だからそうならないようにいじめつづけていよう、という呼びかけになってしまうのだ。なんと姑息な。

すでにメディアでも取材され報道されているそんな簡単な構造を、どうしてここで見逃しているのか。それは知的怠慢以外の何ものでもない。

冒頭の、疑似美辞的双子構造の二文、「いじめるのは、はずかしいこと」「ひきょうなこと」──これはおそらくあの「国家の品格」の藤原正彦の空疎な受け売りだ。
そうして子供たちは、それがどうしてはずかしいことなのか、ひきょうなことなのか、わからないままだからいじめを続けるのである。

いじめるのは、はずかしいことなんかじゃない。いじめるのは、「恥」そのものなのだ。それは世間様に対して「はずかしい」のではない。自分にとっての「恥」なのである。

「恥を知れ」と一喝してやれよ。
一国の文部大臣が、「いじめる側のままのきみをわたしはぜったいに赦さない」というほどに怒っているところを見せてやれよ。

「後になって」「ばかだったなあと思うより」というような簡単な反省ではないはずだ。
ひとが死ぬのである。それは「バカだったなあ」と思うどころの話ではないだろう。それは犯罪なのだ。「殺人なのだ」となぜ明確に指弾してやらないのだ。子供たちに「殺人者」という言葉を与えよ。それは罪を知らしめることなのだ。

この「お願い」は、いじめる子供たちにバカにされるだけで絶対に彼らの心に届かないだろう。

続いて後段である。
今度はいじめられる側への「お願い」だ。
これも、こんな言葉は聞き飽きている情けないほどに貧しいテキストだ。しかも、いじめる側への「お願い」と同じ紙に印刷するなよ。1つの檻の中に入れられた肉食獣と草食獣の姿を連想してしまう。礼儀にももとる。併記の扱いを受ける、傷ついている子供たちを可哀想だとは思わないのか。無神経だなあ。これこそ、「恥ずかしいこと」なのである。気づけよ、そのくらい。

そうしてその無神経さは全文を貫いてもいるのだ。
「話せば楽になるからね」という安請け合い。
それは「死ねば楽になるからね」というテキストとどれほどに説得の質の違いを持っているのか。

「きっとみんなが助けてくれる」
助けてなんかくれねえよ。バカ言っちゃいけない。おい、大臣、だれが助けてくれるんだい?
「きっと」ってなんだ? 命はそんな「きっと」に賭けてもよいものなのか?

いじめられている子が、どうしてそれを親にもいえないのか。それは、それこそ「はずかしい」からである。自分がいじめられるような、そんな情けない子供であるということを、親に知られることすらもが恥ずかしいのだ。なぜなら、親にまでそう知られたら、自分がほんとうにそんな情けないやつであるように自分でも思えてしまうのがいやだからである。そして親にまで恥ずかしい思いをさせてはいけないと思うからなのである。助けを請うのは情けないやつだからだ、と自分でも思えてしまっているのだ。

恥ずかしいことかもしれないけれど、「恥」ではない、と教えてやれよ。「恥」がどちらに属する言葉なのか、知らしめてやれよ。それがオトナの務めだろう。

ほんとうにいじめられている子たちに届くメッセージを発表したいなら、予算を割いて谷川俊太郎ら世の詩人たちに詩を書いてもらえばよいのである。そうしてそれを文科省の采配で学校の授業で緊急に取り上げさせればよいのである。詩人たちは社会の財産なのだ。有効利用すればよいのだ。役人の作文など、恥じ入ってしまえ。

こんな駄文で本気で何かが変わると思っているのなら、それこそ笑止。
教育基本法の改正どころの話ではなく、日本の危機そのものの露見。

第二の、以下の、親や先生らへの「お願い」文に至っては、アリバイ作り以外の何ものでもない。「……したいものです」という語尾一つとっても、なんなの、この他人事っぽい物言いは。
この内閣の目指す「美しい国」というのは、かくもかように情けない国なのである。ってか、ほんと、情けない政治家しか目立たん国だわなあ。
腹立ってきた。


November 14, 2006

おお、南アフリカよ〜&その他の短信

14日、南アフリカの国会(下院)が、なんと230対41という圧倒的多数で、同性婚を容認しました。
くーっ、やってくれますね。「結婚を男女に限定するのは憲法に保障する平等権に違反する」っていう違憲判決が最高裁で出たんだけど、それに基づいて議会で審議していた。

オランダ、ベルギー、スペイン、カナダに次ぐ、国家としては5番目の同性婚容認国です。

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南アフリカって、ネルソン・マンデラが大統領になったときに「いかなる差別も許さない」という、アパルトヘイトの反省を込めた厳しい憲法(1994)を作ったのですね。で、そこには世界で初めて性的指向による差別も禁止するという文言が明確に規定されていた。ですから時間の問題ではあったんだが、国論はやはり、この議会の票決のようには圧倒的ではなく、なかなかきわどい二分状態だったようですよ。

同性愛はアフリカのほとんどの国で刑法犯罪で、なかには強姦や殺人と同じ量刑であるという状態の中、南アにはゲイの人権団体「OUT」ってのがあります。そこのプログラムマネジャーってからうーん、行動計画部長? ま、そんな役職のメラニー・ジャッジさん、さっそく速報しているNYタイムズにこんなコメントをしてます。

「この問題は私たちの憲法がどのような価値を持っているかのリトマス試験紙でした。平等って本当にどういう意味なのか? それはどんな姿をしているのか? 平等というのはスライド制の中には存在しません」

いいこと言うねえ。

これは今後、今月中にも全州評議会(上院)で承認されたあと、大統領の署名で法律になります。発効はまだ先でしょうけど。
ただ、批判票をかわそうと、役場の窓口係員が宗教上の理由などで(良心・宗教・信念の自由ってやつね)個人として同性婚申請者を拒否することもできるようになってるのですわ。こりゃまずいってんで、これに関してはまたまた法廷闘争の動きもあるかもしれません。こんなことしてたら黒人と白人の結婚も個人の思想上宗教上の信念によって拒否していいってことになりますものね。

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パリで先週の木曜日に(ギネスの日だっけ?)「同じ場所で最も多くのひとがキスをする世界記録」ってやつがやられたんだけど、あつまったのは1188人でみごと失敗に終わりました。世界記録は昨年ブダペストで集まった総計11570人の同時キスなんだってさ。

でもでも、はい、あなたは何人、この写真の中で同性同士でのキスを見つけられますか?

いい写真だなあ。

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残念なニュース。
モントリオールで今夏開かれたアウトゲームズ、大赤字。
モントリオール市に350万ドル(カナダドルだから3億円くらいかな)の借金ですって。
シカゴのゲイゲームズも赤字だったので、やっぱり、2つの分裂は財政的には痛かったんだろうなあ。なんでも派手だったし。さて次回はどうなるのでしょう?

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デザイナーのトム・フォード、エステローダーの重役とのミーティングで、彼の新作香水「ブラック・オーキッド(黒蘭)」の香りを、「男性の股間の匂いにしたい」って、あんた……。
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Gays.comのドメインネームが50万ドルで売れたそうです。6000万円。
そんなに価値があるんですね。
久しぶりのドメイン売買ニュース。
ちなみに「Gay.com」は有名サイトで、こっちは既存、健在です。

November 10, 2006

エルサレムで何が起きているか?〜その他ハガード続報

イスラエルの首都であり、古代からユダヤ教徒・キリスト教徒・イスラム教徒の巡礼の中心地であるエルサレムで、数週間前から、きょう11月10日に開催されるゲイプライド「ワールドプライド」のパレードに反対する超保守派(ウルトラオーソドックス)のユダヤ教徒たちの暴動が起きています。パレード開催予定のハレディ地区では夜ごとに車がひっくり返されたり火をつけられたりと、なんともこの宗教的憎悪の激しさは神をも畏れぬ蛮挙です。もっとも彼らはそれが神の意思だと思っているのだからたちが悪い。去年も参加者が刺されるという襲撃事件が起きました。本来はことし8月10日に行われたワールドプライドですが、メインイヴェントだったパレードはレバノン・ヒズボラへの攻撃や度重なる妨害で2度にわたって延期され、規模の縮小も余儀なくされてきました。8月には「ソドムとゴモラの住人たち(同性愛者たち)を殺した者には賞金20000NIS(50万円)を与える」というお触れまで出たんですよ。

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イスラエルでは同性愛は違法ではありません。たしか2年前には史上初のゲイの国会議員も誕生している。商業都市であるテルアビブではもう何年も前から大規模にゲイプライドマーチが敢行されています。しかし聖地イスラエルは別なのでしょう。「去年の刃傷沙汰はことし起こることに比べたら子供だましだったとわかるだろう。これは聖戦の布告なのだ」とラジオ番組で宣言する右派指導者まで現れる始末です。

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米ボストングローブ紙には、わざわざブルックリン(ニューヨークのこの地区にはオーソドックスジュー=正統派ユダヤ教徒=の一大コミュニティがあります)から出向いている反ゲイ活動家のラビ、イェフダ・ラヴィンが「この共通の憎悪の強大さは、ユダヤ人とムスリムの共闘を生むほどだ」とコメントしていました。じじつ、世界三大宗教の代表者たちがそろって聖地でのゲイプライドの開催を禁止するよう政府に要求してもいます。パレスチナを巡って戦争までしているユダヤ人とアラブのイスラム教徒が、ホモセクシュアルを駆逐しようというその猛攻においてのみ結託できるというこの愚かさを、私たちはそれこそナチスのユダヤ人虐殺やキリスト教による十字軍の傲慢に喩えることができるのですが。

じつは今日11月10日は「クリスタルナハト=クリスタル(割れたガラス)の夜」の記念日なんですね。クリスタルの夜とは、ナチがユダヤ人の商店・住宅・教会堂を破壊し大虐殺を行った1938年11月9日から10日にかけての夜のことです。それもユダヤ教原理主義者たちの不興を買ったのでしょうが。

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そういうわけで、このパレードの開催に向けてまたもや警察が妥協策を提示して、これには8日のガザへのイスラエルの誤爆で市民が19人も死んで、パレスチナ側がその報復テロを予告しているのでその警備をしなくてはならないということが背景なんですがね、まさに前門の虎、後門の狼状態。場所をヘブライ大学構内のスタジアムに限定する野外集会ということになったようですが、それでパレードの代わりと言えるんだろうかという疑問も残ります。でもとにかくそれがあと数時間で始まります。警官隊は3000人体制で警備すると言っているのですが、さて週末にかけて予想されるこのエルサレムの混乱は日本では報道されるでしょうか。

しかしそれにしても、こんなにまで妨害されても暴力をふるわれても、どうしてゲイたちはパレードを行おうとするのでしょうね。
それがわからないひとには、たしかにこれはなんの意味も持たないニュースではあります。

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全米福音派協会代表で自ら率いるニューライフ教会の司祭テッド・ハガードをアウトしたマイク・ジョーンズが、アウティングの行為によって福音派の連中から感謝されているというエピソードを紹介している。
コロラドスプリングスでホテルにチェックインした際、ニューライフ教会の信者という受付の男性が手を差し伸べてきて、「ありがとう。あなたのおかげで教会もテッドも救われた。テッドはこれで彼の必要とする助けを受けることができる」。
サイテー。
悔い改めよ、さらば救われん、ってことに収斂してしまっているようだ。

そのマイク・ジョーンズがもう1人をアウティング。

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ハガードの親友で全世界6000局で毎日放送されているラジオ番組「Focus on the Family」と、同名の非営利団体を持つ福音派クリスチャンの反ゲイ超保守派指導者、ジェイムズ・ドブソン=写真上=もゲイだ、と。

そのドブソン、ハガードのリハビリチームから「この重大な責任を負う仕事に対応できる時間がない」と辞去。神の助けを親友に与える時間のない宗教者とはいったい何ぞや。

そのハガードも登場した映画「ジーザス・キャンプ」(少年少女へのキリスト教洗脳サマーキャンプ)を率いるペンタコスタ派の司祭ベッキー・フィッシャー、「いまは危険な時期」ということでこのサマーキャンプを当面の間(数年間)中止すると発表。
おまえら、ずっと危険だったろ。

で、ハガードのリハビリとは、キリスト教系ニュースサイト「ChristianToday,com」によれば、

http://www.christiantoday.co.jp/news.htm?id=654&code=dom

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ハガード元米福音同盟代表、長期リハビリに参加へ
2006年11月10日 14時06分
 男性との「性的不品行」の疑惑を受けて米国福音同盟(NAE)代表を辞任したテッド・ハガード氏が、同性愛者向けの長期リハビリを始めることが10日、米国メディアの報道でわかった。

 メディアによると、リハビリはキリスト教理念に基づいて行われる。集団および個人カウンセリングと祈りで構成され、3−5年を要する。回復には個人差があり、個々の必要に応じてプログラムを組み立てる。

 祈りやカウンセリングでは、キリスト教徒として高い水準の聖潔を維持している人々と長期間交流をしながら、患者が自分自身の罪、不道徳さ、課題に正面から取り組む。

 コロラド州コロラド・スプリングスに拠点を置く福音主義キリスト教団体、フォーカス・オン・ファミリーのロンドン副代表はリハビリについて、「成功率は50パーセント。失敗して途中で逃げてしまった患者は正気を失って持ち物を売り払い、人々を避けながら寂しく余生を送るケースがほとんどだ」とプログラムの過酷さを明かした。リハビリの成果は患者の強い精神力と、支援側の正しい判断力にかかっているという。

 同団体創設者、ジェームズ・ドブソン師は当初ハガード氏の治療に参加する予定だったが、日程が合わず辞退が決まった。これまでにジャック・ヘイフォード牧師(チャーチ・オン・ザ・ウェイ主任、カリフォルニア州)とトミー・バーネット牧師(フェニックス・ファースト・アッセンブリー・オブ・ゴッド主任、テキサス州)らメガチャーチ(1万人を超す大規模な教会)の代表らがカウンセラーとして名乗りを上げている。

リハビリを経たハガード氏が宣教復帰するかは不明。同氏の弁護士で親友でもあるレオナルド・チェスラー氏は「彼(ハガード氏)は人生を神にささげて献身的に行き、今後も神の導きに自身を委ねたいと願っている」と話した。

***
これって、いわゆる「エックス・ゲイ(元ゲイ)」運動の“リハビリ”でしょう? 「ゲイを治す」というやつ。ああ、神さま。やっぱりけっきょくこいつら、なにもわかってないようです。なんたることか。


(冒頭のニュースの続報アップデートです)
イェルサレムのゲイプライド「ワールドプライド」、無事開催。

とはいえ、当初予定のパレードではなくヘブライ大学スタジアムを利用した青空集会(ラリー)に縮小(ってのは冒頭のブログのとおり)。反ゲイのユダヤ教、キリスト教、イスラム教の暴動や襲撃事件だけでなく、8日にガザ地区にイスラエル軍が誤爆して子ども7人を含む19人の一般パレスチナ市民が死亡するという事件があったため、パレスチナによる報復テロを恐れてイスラエルはそれでなくとも厳戒態勢。金属探知機などを使った3000人の警官の物々しい警備の中、取材者発表で1万人、警察発表で2000人、ってことはつまり、だいたい4000人が集まったってことでしょうね。
ほんと、イェルサレムは快晴のようでした。

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ところで、やっぱりラリーに妥協じゃなくちゃんとパレードをというLGBTの流れも止められず、ガン・アハアモン公園という別の場所から(大学との位置関係わかりません。すんません)「自然発生的な」パレードを計画していたグループもあった。で、こっちはパレードを始めようとしてあっという間に警官隊ともみ合いになって、30人の逮捕者を出したもよう。

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プライド反対の宗教学生のグループ250人がプライド集会後にデモを行ったらしいが、目立った衝突はなかった。

この問題に関する英語を話すイスラエル人及び他国人の意見はイスラエルの新聞ハーレッツ(って読むのかしら?)のサイトで読めます。なかなか興味深いです。

http://www.haaretz.com/hasen/pages/ArticleNews.jhtml?itemNo=784991&contrassID=13&subContrassID=1&sbSubContrassID=0

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もう1人のアウティングされそうな隠れゲイ、共和党全米委員会(NRC)議長のケン・マールマン=写真上。先日のCNN「ラリー・キング・ライブ」でのビル・マーによる名指しが聞いたわけでもないんだろうが、どうも1月に議長職から退く予定らしいとのニュースが。まあ、選挙大敗の責任を取って、ということだろうが、“ゲイ疑惑”が弾けるまえに、ということなんでもあるんだろう。
しかしねえ……。
(さらに続報=マールマン、新年度はNRC議長職から退くことを発表しました。尻に火がついたんでね)

November 09, 2006

アメリカは変わるか〜中間選挙終わる

昨日からずっと中間選挙の結果を追って原稿を書いていました。やっと一息ついたのでブログにはLGBT関連のまとめを書き留めておこうと思います。とはいえ、まだ頭の中でまとめてるだけなので、書きながら、ということですか。

民主党の地滑り的勝利と言っていい下院での大量当選と、上院もまあヴァージニアのジェイムズ・ウェブの当選が確実になりましたので、あとはその票差が1%以内ということで負けた共和党の大物議員のジョージ・アレンが再カウントを要請するかどうかにかかっています。再カウントしてまた負けたらこいつは潔くないということでアレンは次の選挙にも目がなくなる。さあ、今か次か、どちらに賭けるか。

ということで民主党が議会を握るのは間違いありません。それでは同性婚などのLGBT関連の法案が通るようになるか。これにはまだ判断を示せません。プライオリティはまずはイラクなのです。さらに、ここで急進的に走ると次の08年の大統領選挙での反動が怖い。LGBT関連の事項に限らず、ここはまさに戦略的に事を進めるべきなのだと民主党側は思っていると思います。なぜなら、正念場はどうしたって2年後の大統領選挙なのですから。そのためには、次の2年間で議会では大統領を牽制しながら共和党からは妥協を引き出しながら建設的な施策を具現させることです。そうして国民の信頼を堅固にしてから大統領選挙に臨む。それしかありません。

ただ、布石というか伏線は張れました。まずはヒラリーがNY州の上院選で67%もの圧倒的な得票率で勝ったということです。同時に知事も同性婚賛成を公言している前州検察長官のスピッツァーが、その後任の検察長官にはリベラルで知られるマリオ・クオモ元州知事の息子であるアンドリュー・クオモが、そうして州会計監査官にも民主党のハヴェシ(彼はいろいろ私的流用などのスキャンダルがあったのに謝罪して当選)がそろって当選し、民主党の牙城である(あったはずの)ニューヨークの面目躍如といったところです(市長と知事が共和党だったのを、少なくとも知事だけは奪還したということで)。

このため、私としてはNY州が、同性婚に関する次の主戦場になるものだと思っています。

ところが、それもヒラリーが大統領になってからかもしれません。ヒラリー・ロダム・クリントンには昔からあまりに急進的だという批判がついて回っています。人気も高いが、毛嫌いする勢力も多い。しかも当選すればなにせ史上初の女性大統領ですからね、その抵抗勢力は筆舌に尽くし難いものになるに違いない。そこでより穏健なバラク・オバマの出馬が取りざたされてもいるわけです。もっとも、彼としても史上初のアフリカ系(父はケニア出身のイスラム教徒、毋はカンザス出身の白人、本人はプロテスタント)の大統領となるわけですが。

さてその同性婚問題は、今回の中間選挙で8州で「結婚は男女間に限る」という州憲法の新規定(修正)を作ろうとした住民投票が行われ、7州(アイダホ、サウスカロライナ、テネシー、ヴァージニア、ウィスコンシン、コロラド、サウスダコタ)で賛成多数だったものの、この種の住民投票としては初めて、アリゾナ州でこの提案が否決されたのです。

これは画期的なことです。なにしろ前回04年の選挙の時の住民投票では11戦11敗。しかも、そんな差別的な憲法修正に対する反対票が40%に届いたのがわずか2州だったのに、今回の7州のうちでこの提案の反対者が40%を超えたのは5州もあった。これは、確実に同性婚への理解がじわじわと広がっていることを指し示す証左でしょう。ニュースの見出としては「今回も7州で同性婚禁止の憲法修正案に賛成票」となるんでしょうがね、ほんとうは「アリゾナ州で同性婚禁止提案に史上初のノー」ってことのほうがニュースとしての読みは面白いでしょう。

ハガードのときも書きましたが、これってやはり同性婚は「どうでもよい問題」「そんなに目くじらを立てなくてもいいんじゃないの、ってな問題」に徐々になってきたことなのではないかと思うのです。わたしは、それは健全な推移だと思います。「同性婚は認めなくちゃ」という力の入った訴えの時期から、大衆レヴェルでは「まあ、そういう感じかな」というふうに変わってゆく。そうして、そういうふうにしてしか歴史ってのは変わらないんじゃないかと思うのですね。

また、Gay & Lesbian Victory Fund という、選挙に際してLGBTコミュニティとしてオープンリーゲイの候補への推薦を行う団体があるのですが、今回はそこが推薦した候補の67人もが当選したようです(中間選挙より前に行われた一部の選挙も含む)。ほとんどが州議会議員や市、郡レヴェルでの当選ですが、88人の立候補のうち67人が当選、しかもその37人が新人議員でした。州議会に初めてLGBT議員が登場したのがアラバマ州、アーカンソー州、オクラホマ州の3州で、公選のどのレヴェルでも歴史上、州内にオープンリーLGTBの公僕が誕生したことがないのはこれでアラスカなどの7州に減りました。さらに州議会議員でオープンリーLGBTがいたためしのない州もフロリダやハワイ、ペンシルバニアなど13州になりました。まあ、つまり計20州ではだれもオープンに選挙で公職に就いたことがないんですね。たしかトランスジェンダーの議員というのも、米国選挙史上では1人もまだ存在しません。イタリアのルクスリアさんや日本の上川さん、それにドイツのどこかではたしか首長さんがいましたよね、そういう意味では画期的なんです。

ただ、アメリカってのはいったん姿を現すと速い。トランスジェンダーの問題はいまから10年前まではゲイコミュニティの中でも議論にすらなっていなかったんですよ。ほんと、この7、8年なんです。それがいまや、そうそう、昨日のニュースでしたが、ニューヨーク市はいまトランスジェンダーの人たちの性別表記を早急に変えられるように法整備を進めているというのです。これまでは性別適合手術をしていないとジェンダー表記を変えられなかったのですが、これからはいわゆる性同一性障害という治療の過程にあれば、例えばホルモン治療を行っているとか心理療法に通っているとか、そういう医者の証明があれば、公文書でも性別を自分の心理上のジェンダーに合わせて変えてよいことになる。(続報=これ、市議会で否決されました。残念。時期尚早ということ。しかし推進派はこれからも強力にアクションを起こしてゆくとのことです)

これは9/11後のセキュリティチェックの厳格化で、そうしたトランスジェンダーの人たちがIDを見せる際にとても大変な目に遭っていることをどうにかしなければ、という動きなのですね。従来あった就職の際の履歴書の記載とかも重要ですが、とにかくいまはニューヨーク市内でちょっとしたオフィスビルに入るのにもIDを見せてチェックを受ける。空港でも史跡でも公的な施設はみんなそう。近くのデリでビールを買うときにだって21歳以上である証明としてIDの提示を求められるんだけど、その都度、トランスジェンダーの人たちはひどく嫌な思いをするわけですよ。それはちょっと想像力を働かせればすぐにわかることだ。

いまのニューヨークでは1971年から施行の法律で性別適合(性転換)手術を受けたひとにだけ出生証明の性別欄の書き換えが認められているんですが、テネシー、オハイオ、アイダホ州では書き換えは一切不可なんです。でも、こうしたこともかくじつに変わっていく方向にあるのです。アメリカって、そういうのがほんと目に見えるんです。これは住んでいてストレスのたまらないところですね。他にはたくさんストレスがあるようですが。

そうそう、もう1つ。
共和党上院のNO.3だったペンシルバニア選出のリック・サントラム=写真下=、このブルシット(http://www.bureau415.com/kitamaru/archives/000010.html)でもあの最高裁が同性間性行為の違法性(ソドミー法)を覆した際に「合意があれば家庭内でどんな性行為も許されると最高裁が認めたら、重婚や一夫多妻や近親相姦や不倫の権利も認めることになりなにをしてもよいことになってしまう」ってなブルシットを吐いたおバカなキリスト教原理主義(カトリックのオプス・デイ=ダ・ヴィンチ・コードにも出てきたセクトですわ)のホモフォビック議員ですが、落ちました。はは。

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ところで今日のラリー・キング・ライヴに、わたしがいつも注目しているコメディアンのビル・マーが出ていて今回の民主党の大勝利について(っていうか共和党の凋落について)話してたんですが、その中で彼、共和党全国委員会(RNC)の議長であるケン・マールマン=写真下=がゲイであるとアウティングしていました。かねてから噂のある人物だったんですが。

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しっかし、どうしてこうも保守派層や宗教人や共和党のエラいやつらがそろって隠れゲイで、しかもそろってアンチゲイな、というよりももっと明確にゲイバッシングな言動を繰り返すのでしょう。

それに関してはまた日をあらためてじっくり考察したいと思います。

November 08, 2006

神戸新聞のこの連載はすごい!

最近、日本の新聞づいておりますが、今日のはたまたま、ホントにたまたま仕事途中の逃避行動でネットサーフィンしていて見つけたもの。

神戸新聞のこの夏の連載記事です。
こんな良い企画ものが載ったことをいままで知りませんでした。

例の、神戸で“見つかった”性同一性障害の7歳の男の子(心は女の子)の調査報道です。
タイトルは「ほんとうのじぶん —性同一性障害の子どもたち」
筆者は「霍見真一郎」記者。
筆致はあくまで真摯。余計な飾りのない、素晴らしい原稿です。

地方新聞にこうした良質な記事を書ける記者がいる。うれしいなあ。しかも男の人ですよ! こういう原稿、男イズムにかまけている男性記者たちにはなかなか書けない。いつもLGBT関係は女性記者の独壇場なのです。彼女たちはセクシズムに侵されてない、というより侵されてそれを弾こうと意識的なのだから。

時間があるときに読んでみてください。
最初のページはここです。
http://www.kobe-np.co.jp/rensai/200607gid/01.htm

私は読んでいて、不覚にも3度ほど涙が出ました。
一部、以下に抜粋。

**
 母は信じられず、日を置いて、幾度か同じ問いを投げかけ、そのたびに泣かれた。
 あるときは、「いつから女の子になりたいと思っていたの」と聞いた。春樹の答えはこうだった。
 「なりたいんじゃなくて、(生まれたときから)女の子なの」

**

くーっ。この春樹ちゃん、いろんな意味で、なかなかすごいんだ。
ちょっと遅きに失したけどおもわず賞賛のメールを送ろうとしたら、神戸新聞のサイト、読者からのフィードバックを受け付ける窓口がどこにあるのかわかりません。
webmasterにメールすればいいのかしら?
ぜひ、この霍見真一郎記者に謝意を伝えたいものです。
在り難いとは、まさにこのように、存在が稀であることへの謂いなのです。

November 07, 2006

企業の社会責任

マンハッタンのデパートのショーウィンドーでは数千万円もかけるホリデーシーズンの飾り付けが始まりましたよ。ハロウィンが終わるとあとは一気に感謝祭からクリスマス、そんでもってニューイヤーへ、とせわしない感じがするのはこちらでも同じですね。

さて、生き馬の目を抜くような厳しい商戦が展開するアメリカなんですが、一方で今年は「コーズ・リレーテッド・マーケティング(CRM)」という商法が注目されました。企業が社会貢献をうたってそれを販売促進につなげるというもので、この手法でのマーケティングが今年は昨年より20%以上増えて13億4千万ドル(1600億円)規模にもなるというのです。

「コーズ(cause)」というのは、社会の共通目標・大義といった意味です。日本語になりにくいし学校じゃあまり教わりませんが、けっこう使う英単語です。CRMには売上の一部を非営利団体の活動などに寄付したり、ボランティア活動などを奨励・後援したりする活動も含まれます。そうした大義に則って社会的問題を解決する姿勢を取ることで企業のブランド力が高まり、同時にその「コーズ」に共感するような社会意識の高い消費者を開拓することもできる。単なる寄付活動とも違って、問題解決を目指す公益セクターともマーケットを通じてつながることができる利点もあるようです。つまり、単なる慈善事業というのではなくて、その“善行”を販売戦略とうまく絡ませる手法、というわけですな。

そういえば先月は「乳がん啓発月間(breast cancer awareness month)」でした。タイムズスクエアのビルボードでもシンボルカラーのピンク色の啓発広告が目立ちました。キャンベルスープの赤い缶詰がピンク色になったり、ハードロックカフェがピンク色のピンを配ったりポラロイドがピンクのカメラを出したり、ほら、ぜんぶ自分のところの商品と関係づけたり販促とつなげたりしてるでしょ。昨年のハリケーン・カトリーナ災害ではFedexやMTVなどの企業が共同でキャンペーンを張ってボランティアを募り、休み期間の大学生らを大量にニューオリンズなどに送り込んだなんてこともありました(でもFedexって同性パートナーになんの保障もしてないわりとアンチゲイな企業です)。アップルがiPodの赤を発売してその売上の10ドル分をエイズ基金に寄付するという手法なんかはまんまズッポリとこれにあたりますよね。これは大人気で新たに8GB版も出したというニュースがまだ新しい。じつはこれ、「(PRODUCT)RED」というキャンペーンにアップルがのっかったもので、他にもアメックスの赤いカードとか、モトローラの赤い携帯とか、コンヴァースのシューズとかエンポリオ・アルマーニの赤い時計とかもあるんですわ。企業が乗り出すとほんとに社会の注目度が上がるし、それに顧客も応えるという双方向のコミュニケイティヴな関係がだんだん出来上がりつつある、という感じでしょうか。

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「13億ドル」というのは昔からあるスポーツ大会などのイベントスポンサー・マーケティング(冠大会とかです)の1割ほどの規模しかないのですが、こちらのスポンサー費の伸びがこのところ減少に転じているので、いずれCRMは企業からの強いメッセージ性を武器に遜色ないほどに重要な位置を占めてくると思います。イベントの冠って、あまりメッセージないですものね。

で、それを裏打ちするようにアメリカの次代を担う若年層が、けっこうこのCRMに反応しているって調査が今月になって出たんですね。

ボストンのリサーチ会社Cone & AMP Insightsってところから出されたアンケート結果なんですが、調べでは若年層の90%近くまでが社会問題の解決に積極的な企業ブランドの商品を購入したいとこたえてるんですって。

全米の13歳から25歳までの1800人に調査した結果で、この世代は2000年に成人(米国では21歳)となった1979年生まれから2001年に生まれた子までを含め、新世紀を表す「ミレニアルズ millenials」または「ジェネレーションY(Gen Y=Y世代)」とも呼ばれます。この世代とコーズ・リレーテッド・マーケティング(CRM)の関係を探ったわけですわ。

その結果、61%の回答者が自分は世界をよい方向に変革するのに責任があると考えており(すごい!)、同時に78%までが企業もその努力に加わるべきだと信じていると。また、ある企業がそうした社会の共通問題の解決や正義(コーズ)の実現に深く関わっているとわかった場合、75%の回答者がその企業の広告に注目するとし、90%までが、そうではない企業からコーズに関与している企業ブランドへの乗り換えを行う、と答えてるんです。

ほかにも、商品を買うときに69%がその会社の社会問題と環境問題への取り組みを考慮すると答え、66%が友人にもそういう企業のものを買おうよと勧めてるんだっていいます。

若者らしい(?)正義感に燃えた回答ですね。ってことはこれから年を取って次第にスレちゃって、そんなこと関係なくて安いもんがいいって思うようになるかもしれないってことだけど、ま、ここではね、こういう調査が出てこういう結果がアナウンスされて、それで企業がそういう方向にまたややプッシュされるということが面白いのであって。

先ほど触れた(PRODUCT)REDもそうですが、北米と英国に600店舗以上を持つ「アルドー」っていう靴屋さんチェーンがあって、そこでは昨年度から長期にわたって「エイズと戦うアルドー」キャンペーンを展開してます。若者に訴求するためにオスカー俳優のシャーリーズ・セロンやエイドリアン・ブローディ、人気シンガーのジョン・メイヤーやルダクリスらを起用してエイズの現実を直視する「聞く、見る、話す」っていうキャンペーンをやっているんですが、これがやはり成功しているらしい。

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企業が社会公共活動にまで目配せをするというのは確かに余裕のあるアメリカ資本主義ならではの話です。日本ではまだまだというか、そもそも社会事象にあまりに関心がない、あるいは、そういう“政治的”なことには商売はあまり首を突っ込まないという通念のせいかもしれませんね。CRMという新しいトレンドは、そういう“因習”とは逆のところ、つまり減点を気にする消極的なマーケティングではなく、得点主義の積極的なマーケティングにあるわけですから。

これはじつはLGBTマーケットに向けたアメリカの先進企業の取り組みとも共通するんですよ。LGBTコミュニティを顧客としてしっかりと認識するということは、マイノリティの人権擁護という、それこそ社会的なコーズなのですから。ね? こうして、ウォールストリートの金融界もいま劇的に変わってきている、というリポートを、今月20日発売のバディに書いています。

さわりは次のようなもんです。

「毎年LGBTを取り巻く企業環境の優劣ランキングを調査しているゲイ人権組織ヒューマンライツキャンペーン(HRC)によると、今年9月の調査では19もの企業が100点満点を取った。4年前はJPモルガンただ1社だったのに。市場価値で上位5社に入る米国の証券会社で満点を取らなかったのはこの調査に参加しなかったベア・スターンズ社だけだ。」

面白そうでしょ? お読みくださいな

November 04, 2006

どっちを見てもホモだらけ?

アメリカでまたまたとんでもないスキャンダルが発覚しました。

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テッド・ハガード(50)=写真上=という、全米3000万人もの信者を有する「福音派(Evangelical=エヴァンゲリオンの語源ですね)」のトップが、まあ、キリスト教保守派の総本山とも言うべき「全米福音教会協会(the National Association of Evangelicals=NAE)」の会長さんなんですけど、日本でいえば創価学会の池田大作みたいなひとですかね、このひとが、なんと3年間にわたって男性エスコート(プロの男娼です)と性的関係を続けていたってことを、このエスコートがばらしちゃったのです。うわっ、なに、それ? です。それだけでなくて、このハガードが覚せい剤(メタアンフェタミン)などの麻薬を使ってることも、「私のファンタジーは18歳から22歳くらいの大学生の男の子たち6人といっしょにセックスすることだ」なんて話してたこともばらしちゃった。おまけに「アート」と名乗ってこのエスコートに残していた伝言メッセージ(ボイスメール)も公開されました。麻薬を100ドルとか200ドル分、いますぐ手配できないかって言う話です。

この「福音派」、前の日記にも書いた例の「静かな広がり」の「ヘルハウス」のおっちゃん、なんとかロバーツ牧師ってのも所属している右翼バリバリの会派です。もちろん「ホモは地獄に堕ちろ!」派の中心組織。で、ハガードさん、本日の朝のニュースショーでニコニコしながら「私はゲイの関係など持ったこともない」「妻に忠実な夫だ」とかって余裕(のカラ元気?)でいってたけど(子供も5人!います)、NAEの協会長を辞任、自ら率いる「ニューライフ教会」(信者14000人、本部・コロラドスプリングス)の代表も降りると発表しました。このひと、「タイム」誌で「最も影響力のある福音派宗教人25人」に選ばれたようなやつで、「福音派教会の政治的方向性を支配するのに彼より強大な人物はいない」ってひとなのです。毎週月曜にはブッシュに週の初めのありがたい聖書のお話をしてるっていうし、電話すれば24時間以内に必ず大統領から返事が来るって豪語もしてる。

で、ご多分に漏れず、信者を前にしてはアンチ・ホモセクシュアルの説教をバシバシ。同性婚などもってのほかで大反対っていう急先鋒。いまアメリカで話題のドキュメンタリー映画「ジーザス・キャンプ」(少年少女たちを大量に動員してサマーキャンプをやるように福音派の教義を教え込むキャンプ。洗脳キャンプですね)にも噛み付いてる。彼自身が映ってますからね。

(ふうむ、私らもあんたが昨晩、何してたか知ったってわけよん)

いやいや、マーク・フォーリーといい、いったいこの保守派連中のホモセックス行為はいったい何なんでしょう。今回これをばらしたメイル・エスコートはマイク・ジョーンズさん(49)=写真下=ってひとなんだけど、つい最近、この3年間毎月決まって自分の体を買っていたこの相手がハガードだって気づいて、しかも同性婚やホモセクシュアルへの攻撃的なスピーチの内容を聞いて、このアウティングを決意したんだそうな。「みんな私を見て(メイル・エスコートなんて)反道徳的な人間だと言うかもしれないが、心では道徳的なことをしなければと思ってきた。言ってることとやってることのまったく違う偽善的な人間を公にすることが、わたしにとっての道徳的な行為だった」と話してます。で、ハガードとは完全に肉体関係だけで、「情緒的な関係emotional relationshipはまったくない」と。「心は孤独なクローゼット」ってなら同情の余地があるかもしれないが(そんなことねえか)、単純に肉体的快楽を追い求めてのゲイセックス狂いだってなら、あちゃちゃ、イタいですな、こりゃ。

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一方のハガードは「麻薬は買ったが興味があっただけで使ってはいない」と言い訳。マイク・ジョーンズをホテルに呼んでいた一件についても「マッサージをしてもらっただけでセックスはしていない」と言い張っております。なるほどね。

まあ、来週火曜日の中間選挙に向けて、ということもあるでしょうが、出てくるは出てくるは。

敬虔なキリスト教信者は、おそらくかわいそうなくらい混乱してるでしょうね。いったい、何がなんだかわからなくなってるんじゃないでしょうか。いやそれとも、こんなのはやはり神の与えた試煉だと考えているのかも。あるいはデマだ、信じない、とか。

わたしだってこうも続くといったい何だかわかりません。

こうしたスキャンダルはさて、選挙にどう影響してくるのでしょうか。

今回の選挙と前回の2004年選挙との大きな違いは、同性婚や人工中絶などのモラル・イッシュー(道徳問題)はひとびとの関心から離れてきているということです。CNNの調査では、同性婚が一番の争点と言うひとは1%にしかならない。これは日本のマスメディアでも「イラク戦争の泥沼化のことが大きすぎてそちらに目が回らない」というような言い方がなされているのですが、私にはどうももっと積極的に(あるいは消極的に?)、同性婚のことなどどうでもよくなってきたんじゃないかと思われるのです。どうでもよくなってきた、というのはもちろん、そんなに目くじらを立てるほどのことではないんじゃないか、認めてもいいんじゃないの、というような感じが、大勢を占めてきたんじゃないか、という意味です。

その証拠に、やはりCNNの最新の調査では、同性婚を認めるべきというひとは28%。ドメスティックパートナーなどのシヴィルユニオンの形を認めるべき、というひとは29%で、この2つを会わせると57%と、大きく過半数なのです。どちらも認めるべきではない、というひとは39%にとどまって、これは2年前とは大きな違いです。

そうしてこうした一連のスキャンダルで最も影響を受けると思われるのは、共和党、というかブッシュの支持母体であった草の根保守主義のキリスト者たちが、呆れて今回は投票にいかなくなる、ということなのではないかと思うのですね。つまり、2年前には同性婚支持派の拡大に危機感を持っていて投票に出かけた層が、今回はなんだかわからなくなって投票に出かけるだけの動機付けにも迷ってしまう、ということなんじゃないか。

だって、ホモセクシュアルはダメと言っていたひとがホモセックスを楽しんでいたとなると、これはそのひとが投票しようと訴えていた共和党も、ほんとに投票していいのかどうかわらなくなる。だって共和党にはマーク・フォーリーみたいなやつもいたということが明らかになったばかりですし。で、共和党も民主党もとにかくホモばっかりだ。もう政治はダメだ。投票にも行きたくない、という具合になるのではないか。

これが今回の共和党の不振の下支えになっているのではないかと思うのです。もちろん上の揺れを支えているのはイラクですけどね。

November 03, 2006

すっかりクレーマー〜朝日記事、続報

どんな組織でも、組織というのはすぐれた部分もあるし劣った部分もあります。ですから、例えば「朝日新聞をどう思いますか」と訊かれても「読売はどうですか」と言われても、応えはだいたい同じです。「すごい記者もいればひどい記者もいる。素晴らしいデスクもいればとんでもないデスクもいる。その比率はどの社もだいたい同じ」。

ですんで、新聞を読むときはいずれも記事を個別に判断しなければなりません。そうして同じ内容の、同じ題材を扱った他社の記事と比較してみれば、どの記事に何が足りないのか、何が余計なのか、何が舌足らずなのかがわかってきます。

先日の、朝日のイタリアの「ゲイの議員」の一件は、朝日新聞広報部から正式に「議員自身がゲイだと公表しているから」そう記したのだという回答をもらいました。しかし、実際は違うようです。善意に解釈して、ゲイとトランスジェンダーの違いがまだ行き渡っていない社会なので、朝日の筆者(ロイター電の訳者ですが)もそのイタリアでの言いに引っかかったのではないか、とも斟酌しましたが。

くだんのルクスリア議員は、自分では「ゲイ」と言っていないのです。

イタリアでゲイを公表している議員はGianpaolo Silvestriといい、ルクスリア議員と同じ選挙で初当選した、上院初のオープンリーゲイ議員です。一方、ルクスリア議員はイタリアではゲイの団体からも「Vladimir Luxuria, 1° deputata transgender d'Europa 」というふうに紹介されている。(参考=http://www.arcigay.it/show.php?1865)

英語版のウィキペディアでも以下の通りです。
「Luxuria identifies using the English word "transgender" and prefers feminine pronouns, titles, and adjectives.」
(http://en.wikipedia.org/wiki/Vladimir_Luxuria)
「英語でのトランスジェンダーという言葉を使って自分をアイデンティファイしている」、つまり、自分はトランスジェンダーだと言っているわけです。

したがって「本人がゲイであると公表しているため」という朝日広報部の回答は、裏が取れない。確認できない。 適当にごまかせると思って嘘をついたとは思いたくはありませんが、回答は結果としてはまぎれもなく嘘です。まあここでも斟酌すれば、ゲイライツを標榜とか、イタリアでゲイプライドを始めたとか、そういう記述に引っ張られたのかもしれませんけれど。

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それで終わればよかったのですが、翌々日にふたたびおかしな外信記事が朝日に載りました。以下のようなものです。

「お化け屋敷」で神の教え 若者呼ぼうと米で広がり

2006年11月01日03時13分
 ハロウィーンの“本場”の米国で、この時期、民間のお化け屋敷の形を借りてキリスト教の教えに基づく世界観を広めようとする「ヘルハウス」(地獄の家)が静かな広がりをみせている。若者を教会に引きつけようと、31日のハロウィーン本番にかけて、各地で人工妊娠中絶や同性愛の人たちが地獄に落ちる筋書きの「宗教お化け屋敷」が設営されている。

 ヘルハウスは、教会に通ったことのない10〜20代を主な対象にしている。七つの部屋を通り、最後は地獄と天国を体験する仕組み。同性愛、人工妊娠中絶、自殺、飲酒運転、オカルトなどにかかわった人たちが苦しむ様子が描かれる。

 ヘルハウスは30年以上前からあったが、95年に福音主義のニュー・デスティニー・クリスチャン・センターのキーナン・ロバーツ牧師が筋書きと設営の仕方をセットにして売り出して広まった。ハロウィーンを前に各地に設けられるお化け屋敷を利用した形だ。同牧師は「教会ドラマ」と呼ぶ。

 同牧師によると、800以上の教会が購入、米国の全州と南米を中心に20カ国に広がっている。米南部と西部が中心だが、ニューヨークでは今年、これを利用した舞台版のお化け屋敷も登場、連日大入りの人気だった。

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この最後の部分、「ニューヨークでは今年、これを利用した舞台版のお化け屋敷も登場、連日大入りの人気だった。」というのが引っかかりました。こんな宗教右翼のプロパガンダがニューヨークで流行るはずがないのです。流行ったらそれこそ大ニュースで、だとしたら私の日々のニュースチェックに引っかかってこないはずがない。ってか、だいたい、こんな宗教右派の折伏劇を取り上げてなんの批判も反対も紹介しないで「静かな広がりをみせている」だなんて、おまえはキリスト教原理主義宣伝新聞か、ってツッコミを入れたくなっても当然でしょう。

で、NYタイムズなどのアーカイヴを調べました。そうしたら案の定、話はまったく違ったのです。

このニューヨーク版はブルックリン・DUMBO地区の小劇場で10月29日まで2週間ほど行われていたものですが、これには今年初めのロサンゼルスでの「ハリウッド・ヘルハウス」というパロディ版が伏線にあります。キーナン・ロバーツ牧師の売っている筋書きと設定をハリウッドのプロダクションが買って脚本を作り、面白おかしいパロディにして上演した。地獄を案内する狂言回しの「悪魔」役はいまコメディアンとしてHBOで人気トークショー番組(毎回、政界や芸能界やメディアなど各界の左右の論客を3人呼んでそのときの政治問題を侃々諤々と議論する1時間番組)ホストを務めるビル・マー。これだけでもこの劇を「嗤いもの」にしようとしている意図がわかろうというものです。

で、そのヒットにかこつけて今度はNY版が出来上がった。しかしこちらはそう明確なお嗤いにはしなかった。「悪魔」役こそ誇張されて変だけれど、展開する寸劇はより生々しくシリアスにおどろおどろしく、制作陣の意図はむしろこうしたキリスト教原理主義の教条をナマのままに差し出したほうが観客の自ずからの批判を期待できるのではないか、ということだったようです。ってか、ここに来るような観客はみんな地獄に堕ちろと言われんばかりのニューヨーカーなんですから。

NYタイムズの劇評(10/14付け)は「Obviously, “Hell House” is a bring-your-own-irony sort of affair.(言うまでもなく、「ヘルハウス」は自らこの劇の皮肉を気づくためのもの)」と結んでいます。まあふつうそうでしょう。これで信仰に帰依しちゃうようなナイーヴなひとはとてもニューヨークでは生きていけないもの。ちなみにこの劇団、例のトム・クルーズの没頭する変形キリスト教集団「サイエントロジー」をおちょくった「A Very Merry Unauthorized Children’s Scientology Pageant」なんて劇をやってたりするようなところですし。

つまり、言うまでもなく、朝日のこの記事の結語はまったくの誤解を与える誤訳なのです(じつはこれはそもそも、APの英文記事の翻訳原稿でしかありません)。文脈としてはまったく逆であって、全米の教会ではまともに布教活動の一環として素人演劇で行われているが、NYでの連日の大入りの背景は逆に、そんなキリスト教原理主義のばかばかしさを笑う、あるいは呆れる、あるいはそのばかばかしさに喫驚するための、エンターテインメントなのです。ね、ぜんぜん意味が違ってくるでしょう?

「同性愛や人工妊娠中絶の人たちが地獄に堕ちる」というような、とてもセンシティヴな話題を取り上げるとき、まずこれをどういった姿勢で書くのか、どういった背景があるのか(ことしの米国は中間選挙で、モラル論争をふたたび梃子にしようとする右派の動きとこの「ヘルハウス」は無縁ではありません)、さらに、書くことで傷つくひとはいないのか、ということをまずは考えなくてはいけません。それだけではない。新聞社にはデスクという職責があって、記者がそういうものを書いてもデスクで塞き止めるというフェイル・セーフ機構があるはずなのです。朝日のこの記事、および例のトランスジェンダー議員の記事、立て続けに出ただけに、おいおい、だいじょうぶかいな、という心配と腹立たしさが募りました。こういうことを書くことで「だからマスコミは」「だから新聞記者は」「だからジャーナリズムは」という安直な批判言説を生み出してしまうとしたら、その失うものは筆者やデスクやその新聞社の名前だけにとどまるものではないのです。

朝日は10月半ばにLGBT関係で大阪の記者がレインボーパレードを取り上げたり、同性愛者の「結婚」も市長が祝福という記事を書いたり、「ダブルに男性同士」宿泊拒否ダメ 大阪市、ホテル指導、と教えてくれたり、ヒットを連発してくれてとてもありがたい限りだったのですが。

ね、ですから、「朝日新聞をどう思いますか」と訊かれても、それは全体としては応えられないわけで、これはよかったけれど、あれはひどかった、としか言えないのです。

November 02, 2006

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ

一部スポーツ紙などですでに紹介記事が載りました=写真=が、NY発のグラムロック・ミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」が来年2月15日から新宿歌舞伎町のライヴハウスFACE、および大阪、名古屋、仙台、福岡で再々上演されることになりました。

その公式サイトが昨日、オープンしました。
http://www.hedwig.jp/

わたしが原作の台本を歌詞まで含めてすべて忠実に、なおかつ発語してもリズムが乱れないよう語呂よく翻訳しました。ってか、舞台セリフなんでかなり難しいんで、日本語の脚本は演出家の鈴木勝秀さんに改竄自由に任せています。

昨年まで三上博史でパルコ劇場で2年続きで公演が行われていますが、今回はより若い、原作に近いヘドウィグをねらってるそうです。で、そのヘドウィグは山本耕史が半裸になってやるの。そのジェンダー混乱のパートナー、イツァークを中村中ちゃんが演じます。

まあ、原作は90年代初めのジェンダーベンディングの傑作。あの当時の時代性、政治性もおおいに感じる。東西分裂と男女分裂とその和解と融合と。つまりはすごく深読み(もちろんクイアリードですがね)もできる物語です。ミュージカルというより、ロックのライブコンサートに近い舞台構成ですんで、タテノリ好きのひともどーぞ。

チケットは今月18日から電子チケットぴあとかローソンとかで発売になるそうです。

ロッキーホラーショーじゃないけど、ヘドウィグ・フリークという大ファン層が日本にもすでに存在してるそうなんで、会場はきっと若い女の子が圧倒的でしょうけど、冬の寒いさなか、熱い狂乱のステージの炎をあなたの心に点してください。