アメリカは変わるか〜中間選挙終わる
昨日からずっと中間選挙の結果を追って原稿を書いていました。やっと一息ついたのでブログにはLGBT関連のまとめを書き留めておこうと思います。とはいえ、まだ頭の中でまとめてるだけなので、書きながら、ということですか。
民主党の地滑り的勝利と言っていい下院での大量当選と、上院もまあヴァージニアのジェイムズ・ウェブの当選が確実になりましたので、あとはその票差が1%以内ということで負けた共和党の大物議員のジョージ・アレンが再カウントを要請するかどうかにかかっています。再カウントしてまた負けたらこいつは潔くないということでアレンは次の選挙にも目がなくなる。さあ、今か次か、どちらに賭けるか。
ということで民主党が議会を握るのは間違いありません。それでは同性婚などのLGBT関連の法案が通るようになるか。これにはまだ判断を示せません。プライオリティはまずはイラクなのです。さらに、ここで急進的に走ると次の08年の大統領選挙での反動が怖い。LGBT関連の事項に限らず、ここはまさに戦略的に事を進めるべきなのだと民主党側は思っていると思います。なぜなら、正念場はどうしたって2年後の大統領選挙なのですから。そのためには、次の2年間で議会では大統領を牽制しながら共和党からは妥協を引き出しながら建設的な施策を具現させることです。そうして国民の信頼を堅固にしてから大統領選挙に臨む。それしかありません。
ただ、布石というか伏線は張れました。まずはヒラリーがNY州の上院選で67%もの圧倒的な得票率で勝ったということです。同時に知事も同性婚賛成を公言している前州検察長官のスピッツァーが、その後任の検察長官にはリベラルで知られるマリオ・クオモ元州知事の息子であるアンドリュー・クオモが、そうして州会計監査官にも民主党のハヴェシ(彼はいろいろ私的流用などのスキャンダルがあったのに謝罪して当選)がそろって当選し、民主党の牙城である(あったはずの)ニューヨークの面目躍如といったところです(市長と知事が共和党だったのを、少なくとも知事だけは奪還したということで)。
このため、私としてはNY州が、同性婚に関する次の主戦場になるものだと思っています。
ところが、それもヒラリーが大統領になってからかもしれません。ヒラリー・ロダム・クリントンには昔からあまりに急進的だという批判がついて回っています。人気も高いが、毛嫌いする勢力も多い。しかも当選すればなにせ史上初の女性大統領ですからね、その抵抗勢力は筆舌に尽くし難いものになるに違いない。そこでより穏健なバラク・オバマの出馬が取りざたされてもいるわけです。もっとも、彼としても史上初のアフリカ系(父はケニア出身のイスラム教徒、毋はカンザス出身の白人、本人はプロテスタント)の大統領となるわけですが。
さてその同性婚問題は、今回の中間選挙で8州で「結婚は男女間に限る」という州憲法の新規定(修正)を作ろうとした住民投票が行われ、7州(アイダホ、サウスカロライナ、テネシー、ヴァージニア、ウィスコンシン、コロラド、サウスダコタ)で賛成多数だったものの、この種の住民投票としては初めて、アリゾナ州でこの提案が否決されたのです。
これは画期的なことです。なにしろ前回04年の選挙の時の住民投票では11戦11敗。しかも、そんな差別的な憲法修正に対する反対票が40%に届いたのがわずか2州だったのに、今回の7州のうちでこの提案の反対者が40%を超えたのは5州もあった。これは、確実に同性婚への理解がじわじわと広がっていることを指し示す証左でしょう。ニュースの見出としては「今回も7州で同性婚禁止の憲法修正案に賛成票」となるんでしょうがね、ほんとうは「アリゾナ州で同性婚禁止提案に史上初のノー」ってことのほうがニュースとしての読みは面白いでしょう。
ハガードのときも書きましたが、これってやはり同性婚は「どうでもよい問題」「そんなに目くじらを立てなくてもいいんじゃないの、ってな問題」に徐々になってきたことなのではないかと思うのです。わたしは、それは健全な推移だと思います。「同性婚は認めなくちゃ」という力の入った訴えの時期から、大衆レヴェルでは「まあ、そういう感じかな」というふうに変わってゆく。そうして、そういうふうにしてしか歴史ってのは変わらないんじゃないかと思うのですね。
また、Gay & Lesbian Victory Fund という、選挙に際してLGBTコミュニティとしてオープンリーゲイの候補への推薦を行う団体があるのですが、今回はそこが推薦した候補の67人もが当選したようです(中間選挙より前に行われた一部の選挙も含む)。ほとんどが州議会議員や市、郡レヴェルでの当選ですが、88人の立候補のうち67人が当選、しかもその37人が新人議員でした。州議会に初めてLGBT議員が登場したのがアラバマ州、アーカンソー州、オクラホマ州の3州で、公選のどのレヴェルでも歴史上、州内にオープンリーLGTBの公僕が誕生したことがないのはこれでアラスカなどの7州に減りました。さらに州議会議員でオープンリーLGBTがいたためしのない州もフロリダやハワイ、ペンシルバニアなど13州になりました。まあ、つまり計20州ではだれもオープンに選挙で公職に就いたことがないんですね。たしかトランスジェンダーの議員というのも、米国選挙史上では1人もまだ存在しません。イタリアのルクスリアさんや日本の上川さん、それにドイツのどこかではたしか首長さんがいましたよね、そういう意味では画期的なんです。
ただ、アメリカってのはいったん姿を現すと速い。トランスジェンダーの問題はいまから10年前まではゲイコミュニティの中でも議論にすらなっていなかったんですよ。ほんと、この7、8年なんです。それがいまや、そうそう、昨日のニュースでしたが、ニューヨーク市はいまトランスジェンダーの人たちの性別表記を早急に変えられるように法整備を進めているというのです。これまでは性別適合手術をしていないとジェンダー表記を変えられなかったのですが、これからはいわゆる性同一性障害という治療の過程にあれば、例えばホルモン治療を行っているとか心理療法に通っているとか、そういう医者の証明があれば、公文書でも性別を自分の心理上のジェンダーに合わせて変えてよいことになる。(続報=これ、市議会で否決されました。残念。時期尚早ということ。しかし推進派はこれからも強力にアクションを起こしてゆくとのことです)
これは9/11後のセキュリティチェックの厳格化で、そうしたトランスジェンダーの人たちがIDを見せる際にとても大変な目に遭っていることをどうにかしなければ、という動きなのですね。従来あった就職の際の履歴書の記載とかも重要ですが、とにかくいまはニューヨーク市内でちょっとしたオフィスビルに入るのにもIDを見せてチェックを受ける。空港でも史跡でも公的な施設はみんなそう。近くのデリでビールを買うときにだって21歳以上である証明としてIDの提示を求められるんだけど、その都度、トランスジェンダーの人たちはひどく嫌な思いをするわけですよ。それはちょっと想像力を働かせればすぐにわかることだ。
いまのニューヨークでは1971年から施行の法律で性別適合(性転換)手術を受けたひとにだけ出生証明の性別欄の書き換えが認められているんですが、テネシー、オハイオ、アイダホ州では書き換えは一切不可なんです。でも、こうしたこともかくじつに変わっていく方向にあるのです。アメリカって、そういうのがほんと目に見えるんです。これは住んでいてストレスのたまらないところですね。他にはたくさんストレスがあるようですが。
そうそう、もう1つ。
共和党上院のNO.3だったペンシルバニア選出のリック・サントラム=写真下=、このブルシット(http://www.bureau415.com/kitamaru/archives/000010.html)でもあの最高裁が同性間性行為の違法性(ソドミー法)を覆した際に「合意があれば家庭内でどんな性行為も許されると最高裁が認めたら、重婚や一夫多妻や近親相姦や不倫の権利も認めることになりなにをしてもよいことになってしまう」ってなブルシットを吐いたおバカなキリスト教原理主義(カトリックのオプス・デイ=ダ・ヴィンチ・コードにも出てきたセクトですわ)のホモフォビック議員ですが、落ちました。はは。
ところで今日のラリー・キング・ライヴに、わたしがいつも注目しているコメディアンのビル・マーが出ていて今回の民主党の大勝利について(っていうか共和党の凋落について)話してたんですが、その中で彼、共和党全国委員会(RNC)の議長であるケン・マールマン=写真下=がゲイであるとアウティングしていました。かねてから噂のある人物だったんですが。
しっかし、どうしてこうも保守派層や宗教人や共和党のエラいやつらがそろって隠れゲイで、しかもそろってアンチゲイな、というよりももっと明確にゲイバッシングな言動を繰り返すのでしょう。
それに関してはまた日をあらためてじっくり考察したいと思います。