元NBAスターのカムアウト
日本・札幌に帰っております。ところがインフルエンザと(急な雪かきによる)ぎっくり腰でこの1週間、ほとんどなにもやる気なしで過ごしてしまいました。その間、いろいろなことが起きたようです。
まず大きなニュースだったのは7日水曜日のジョン・アミーチ(36)のカムアウトでした。これはESPNというアメリカのスポーツ専門チャンネルで「Outside of the Lines」というタイトルを付けて特別枠で放送されました。
http://sports.espn.go.com/nba/news/story?id=2757105
(冒頭のYouTubeが削除されても上記のESPNサイトで動画が見られるかもしれません)
もっとも、このカムアウトは近々出版される彼の自伝「Man in the Middle」(ESPN Books)の中でなされているのですが、その前触れという形ですね。
彼のカムアウトの何がニュースかというと、米国4大プロスポーツの1つ、全米バスケット協会(NBA)ではこれが初めてのカミングアウトだということなのです。4大スポーツ(NBA, MLB, NFL, NHL)では6人目のゲイ男性、ということ。で、APなどが一斉にこれを報じることにもなっています。ここでも紹介したことのあるゲイ人権団体「ヒューマンライツ・キャンペーン(HRC)」は、例の「カミングアウト・プロジェクト」(カムアウトを呼びかける活動)でアミーチにスポークスパーソンになってくれるようお願いしているそうです。
アミーチはペン州立大学からオーランドー、ユタ、クリーブランドという名門チームでプレーして3年前に引退、現在はロンドンで暮らしています。さて、カムアウトのいきさつはまあ、だいたい同じです。現役時代には考えられなかったということ。しかしユタ・ジャズ時代からすこしずつゲイとしての生き方を受け入れてきたこと。2人のチームメートが、おそらく最初から彼がゲイであることをわかっていただろうということ。
その1人がグレグ・オスタータグ。彼だけがアミーチにゲイかと訊いてきたといいます。その彼に、アミーチは「You have nothing to worry about, Greg」と答えた。「そのことで、心配することはないもないよ、グレグ」。
もう1人は彼が「マリンカ」と呼ぶチームメートでした。これはロシア語で「おちびちゃん」という意味だそう。ロシア出身のアンドレイ・キリレンコという選手のことでした。質問されたわけではないが、おそらく彼もアミーチのセクシュアリティを知っていた。ユタ・ジャズでの最後のシーズン、クリスマスが終ったあるときのことだそうです。「マリンカがインスタントメッセージでぼくを大晦日のパーティーに招待してくれたんだ。自分は気に入った友達しか招待しない、と断りながらね。で、次のメッセージを読んだとき、ぼくは涙が出てきた。『ぜひ来てくれ、ジョン。もしいるなら、もちろんきみのパートナーも大歓迎だ、きみにとって大切なひとのことだ。連れてこいよ。それがだれであっても、ぼくはかまわない』」
その日は自分でパーティーを開くことになっていたので招待は断わらざるを得なかったそうですが、アミーチは代わりに500ドルもするジャン・ポール・ゴルティエのボトルのシャンパンをキリレンコに届けました。いい話だね。
さて、かつてのチームメートやコーチなどから、彼のカミングアウトへの反応が表に出てきています。
いろいろあって面白いです。
ダラス・マーヴェリックスのオーナー、マーク・キューバン「マーケティングの見地から言うと、たまたまゲイだった選手は、とんでもなく金持ちになりたいんならそりゃカムアウトすべきだな。マーケティング(商売)とエンドースメント(スポンサーの獲得などの社会的認知のこと)の話で言えばこんなに最高のことはない。単にスポーツ選手だっただけでは得られないくらい、多くのアメリカ人にとっての最高のヒーローになれる。で、金がポケットに入ってくるってわけだ。逆に言えば、だれかがゲイだからっていってそれで非難するようなことをしたら、そりゃつまはじきだ。抗議のデモはされるしいま持っているスポンサーまで失うことになる。なんでもいま世界中が、そりゃ難しいことだ、困難なことだって思うようなことをそれこそ自分が自分であるために困難をものともせずに立ち上がって克服しようとしたら、それがなんであろうとそれはもうアメリカン・ヒーローなんだ。それがアメリカの精神ってなもんだ。逆境に立ち向かい、自分が何者かであるために闘う、それがたとえ多くのひとには分かってもらえないようなもんでもだ、それは強い意志を持ってなくちゃできないってもんだ。苦しいことにも耐えてな。まあ、そうはいっても彼(アミーチ)をジャッキー・ロビンソン(黒人で最初の大リーガー)に喩えるつもりはないけど、しかしいろんな点で似たような部分もある。やつはロールモデルになるよ」
キューバンの上記のコメントはthe Fort Warth Star Telegramという新聞に載っていたものですけど、ま、そのまま受け取るにはちょっと理想的すぎますけどね。でもしかし、おそらく彼はそう言わねばならない、そう言うことでそういう理想に近づくべきだ、という思惑をしっかり意識して発言しているのだと思います。まあ、エール半分だな。いいやつだ。
ではほんとうのところは、ってんで次のコメントを。
ユタ・ジャズのコーチ、ジェリー・スローン(反ゲイの侮蔑語でアミーチを呼んだことがある輩らしいです)
「(侮蔑語で呼んだことは)ああ、そりゃきっと問題あったかもな。はっきりとは知らんが、だいたいおれはいつも人の心がわかるんだ、言葉じゃなくて。人間ってのはやりたいことをやるんだ。べつにそれが悪いとは思わんよ」(訳者注;英語でも言ってることがよくわからないのです=Oh yeah, it would have probably mattered. I don't know exactly, but I always have peoples' feelings at heart. People do what they want to do. I don't have a problem with that.)
クリーヴランド・キャヴァリアーズのレヴロン・ジェイムズ(現在の若手NO.1スタープレーヤー)
「チームメートってのは信頼が置けなくちゃダメだ。もしだれかがゲイでそのことを自分で認めてないとしたらそれはそいつが信頼が置けないやつだってことだ。チームメートの条件としてそれが第一のこと。みんな信頼してやってる。部室内、ロッカールーム内の規則てのを知ってると思うけど、ロッカールームで起きたことはそこから出してはいけない。それが信頼ってことだ、マジで。そういう信頼の問題ってすごく大きなもんだ」
(訳者注;これも何が言いたいんだかよくわからんね。カムアウトのパラドクスに関して、もうすこし理解があってもよさそうなもんだけど、高校卒業後すぐにキャヴァリアーズにドラフト1位で入ったもんだからいまもあまり世間のことを知る機会がないんだと思う。「カムアウトのパラドクス」ってのは、カムアウトしなかったら嘘つきになり、カムアウトしてもいままでずっと嘘つきだったということになること、あるいはカムアウトしたら嘘つきよりひどいゲイだということになるということ;したがって、ゲイであることはいずれにしても信頼の置けないやつであるという結論になるわけです)
オーランドー・マジックの選手グラント・ヒル
「ジョンがそうしたことで、きっと現役っでプレーしてる選手でも引退してる選手でも、励まされ自信を得て、これからカムアウトしやすくなるはずだと思う」
NBAのコミッショナー、デイヴィッド・スターン
「わがリーグはじつに多様性に富んでいる。NBAで問題なのはつねに「試合に勝ったか?」ということであり、それだけだ。それ以上の詮索は不要」
フィラデルフィア・シクサーズ、シャヴリック・ランドルフ
「おれにゲイだって寄ってこない限りおれは大丈夫さ。ビジネスの問題である限りいっしょにプレーすることに問題はないよ。まあ、でもロッカールームじゃちょっとぎくしゃくした感じになるだろうけどな」
トロント・ラプターズのコーチ、サム・ミッチェル
「スポーツってものの何たるかを考えると、それにロッカールームってのもあるしね、なかなか難しいものがあるな。タフな問題だよ。まあ、そんなにたくさんだとは思わないが、チームの1人か2人は(いやだってやつが)いるだろうね」
フィラデルフィア76サーズ選手、スティーヴン・ハンター
「マジかよ? やつがゲイだって? いまの時代、ダブル・ライフを送ってるやつっているからなあ。オレ、テレビたくさん見てるからわかるけど、結婚してる男がゲイの連中と遊び回っていろんなバカなこととか気持ち悪いこととかヘンタイなこととかたくさんやってるのを知ってるさ。まあ、オレに言い寄ってこなけりゃオレは関係ないけどね。男らしくバスケットボールをプレーしてちゃんとした人間として振る舞うなら、オレのほうには問題はないけど」
スポーツ界の抱える困難が、これらのコメントに如実に現れているようです。