現職閣僚の自殺が示すもの
先週末から仕事で訪れた日本は、5千万件の公的年金記録消失という愕然たる不祥事に揺れ、今度は松岡農水相の自殺でとんでもないことになっています。
緑資源機構の官製談合事件で関連法人から政治献金を受けていたり、地元熊本で暴力団との関連を取りざたされたりといろいろある人なので自殺の背景はまだ不明のところも多いんですが、ひとつ、あのナントカ還元水問題の「法に従って適正に報告している」一点張りの答弁はどうも政権や自民党国対からの“強要”だったらしいことはわかってきました。
たしかにね、あれだけ追及されてなに1つ答えないあれだけの厚顔は自分1人の判断では続けられるものではないでしょう。「答えるな、これで行く」という党中枢からの指示があって初めて持ち堪えられる(ってか、まあ、結果的には持ち堪えられなかったわけですが……)。
それにしても松岡ってこんなに弱いタマだったっけ? というのが第一報での感想でした。直接の関連ではねいですけど、この弱さと対照的に、安倍内閣の「強気」に関して朝日新聞が29日朝刊1面で「年金問題では当初、野党側の追及に『与党は3分の2の議席があるから押し切れる』(首相周辺)との見方も根強かった(略)」と書いています。この強気がいろんなところの金属疲労のようなものを逆に表面化させているんでしょう。
そもそも安倍政権を支える「3分の2の議席」とは、じつは安倍政権の存在とはまったく関係なく、前の小泉首相が郵政選挙で国民の信を問うとして獲得した数字です。これは安倍への信任の数でもなんでもない。
ところがその圧倒的多数という他人のふんどしを使って、安倍は郵政民営化反対議員の復党を断行し、「女性は子供を産む機械」の柳沢厚労相をかばい、持論の憲法改変を目指して国民投票法を可決させ、教育3法、年金法の採決を強行した。
で、とにかく謝らない。靖国問題でも答えない。国会で野党に攻められると顔を真っ赤にして気色ばむ。あれよあれよという間の、じつに強気の国会運営なわけです。しかしナントカ還元水を含む事務所光熱費問題や献金不記載問題などで同じく「説明しない」作戦を決められた松岡にとって、緑資源問題はロバの背を折る最後の藁だったのでしょうかねえ。
安倍は「任命権者として責任を感じる」とコメントしていますが、むしろ政権の弱体化を避けるために松岡を辞めるに辞められず、かつなにも答えられないという「生殺し」状態に置いたことにこそ責任がありわけです。日本の各紙は安倍が松岡を「かばい続けた」という表現で報じていますが、かばったのではなく私にはむしろさらし者にしたような印象です。強権というのは、ときにここまでむごい。
そうこう書いているうちに今度は緑資源の前身公団の元理事が飛び降り自殺というニュースまで入ってきました。立花隆氏の「メディア・ソシオポリティクス」によれば、「実は10日ほど前に、松岡農水相の地元(熊本)関係者の有力者(地元秘書ともいわれ、選挙違反・買収容疑で逮捕されたこともある)が、謎の自殺をとげている。死んだ理由はよくわからないが、もともと黒いウワサが山のようにあった松岡農水相のカゲの部分を最もよく知る男といわれた男である。その男については、「あの男の周辺を洗ってみろ。松岡農水相のボロが次々に出てくるはず」というタレ込みがマスコミなどにも流れてきていた。」とも書かれていて、これはほんと、なんかあるのかもしれませんね。
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070528_yami/index.html
こうして何人もが死んでも守らねばならなかったその「真実」とは何なのか? 松岡の遺書の1つには「内情は家内が知っている。どこに何があるかは探さないでほしい。そっとしておいてください」とあったそうです。
死者にムチ打つ気はないけどさ、もしそれが公的なものでも暴かないでくれという願いであるなら、こんな身勝手な大臣を作った安倍首相の任命責任も確かに存在するでしょう。いや、安倍を直撃する疑惑自体が存在するのかもしれませんわね。