スーパーチューズデー直前予想
2月4日付け 「東京新聞」夕刊文化面に掲載された原稿です。
*ゲラ刷りですので掲載記事はじゃっかんの修正があります(汗;)
◎攻めるオバマ、守るヒラリー
◎入り組む対立構図
5日のスーパーチューズデーを前にマンハッタンのレストランでひとしきり選挙談義になりました。経営コンサルタントの友人が「この国で黒人と女性とどちらが先に選挙権を得たか? その歴史に照らせばどちらが先に大統領になるかわかるさ」とうそぶきます。けれどこれはずるい謎かけなのです。
憲法上、米国の黒人層に参政権が与えられたのは1870年。しかし実際には関連法の追加追加で形骸化され、本当の選挙権はキング牧師が自由の行進で勝ち取った1965年まで待たねばなりませんでした。その間、女性は1920年の修正憲法で選挙権を得ました。では女性が先かというと、女性解放運動が実を結ぶのは60年代の黒人解放の後、70年代に入ってから。冒頭の「歴史に照らしてわかる答え」とはつまり「どちらも大変、紆余曲折」。
民主党の指名を争うオバマ、クリントン両候補が「これは人種選挙でもジェンダー選挙でもない」と言えば言うほど、この西部劇の国に残る根強い人種と性への偏見が透けます。黒人と女性の間隙を縫って、白人男性がまたまた大統領になる可能性も十分ですし。
その白人男性間で戦う一方の共和党もジュリアーニ撤退で構図がしぼれてきました。前2回の選挙でブッシュを当選させた宗教右派が今回のロムニー、ハッカビーをどう動かすかも気になりますが、マケインがこのまま連勝してやがてジュリアーニを副大統領候補に指名とでもなれば穏健中道派の大結集、これは強そうだ。先進的すぎるとオバマやクリントンを敬遠する層を一気に共和党に取り込むウルトラCです。ただしそれはまだ見えていない「おとぎ話」。スーパーチューズデー直前に分析するのは性急すぎる。
民主党に話を戻しましょう。なにより先週、ケネディ家の枢要メンバーがオバマ支持を表明したのにはだれもが驚きました。圧巻だったのはオバマ集会の壇上でエドワード、キャロラインらがそろい踏みしたテレビ映像です。
クリントンはファーストレディ時代からの盟友たるケネディ上院議員は当然自分を支持するものと思っていました。スーパーチューズデーの投票では2000人ほどの代議員を振り分けるのですが、カリフォルニアが441人、ニューヨークが280人、ニュージャージーが127人、ケネディ家の地元マサチューセッツが121人と、この4州だけで半数近い代議員を占めます。それらの州に特に影響力を持つケネディ家の思わぬ“造反”は彼女には大打撃です。
女性と黒人という要素の他に、民主2陣営にはベビーブーマーズ対ミレニアルズという対立構図も見えています。ブーマーズというのは日本でいう団塊の世代ですが、ミレニアルズというのは新千年紀世代、つまり西暦2000年以降に有権者資格の18歳になった若者世代の呼び名です。投票数こそそう多くありませんが、戸別訪問などでとにかくよく動く。大学生を中心に、そういう率先行動の若い運動員がオバマ陣営に目立ちます。彼らの純真で熱意ある説得が有権者の共感を呼んでいるのです。
対してクリントンはサウスカロライナで唯一勝利した年齢層が65歳以上の高齢者層でした。「ガラスの天井」という女性の昇進差別の時代を身に染みて知っているブーマーズ以上の世代が、「強すぎる」「男勝り」と嫌われる彼女をかばうように票を投じている。圧勝といわれていた数カ月前には予想もできなかった構図です。
夫のビル・クリントン元大統領の露出も増えていますが、なんだかずいぶん老け込んで演説の声にも力がなく、オバマ批判の言葉だけがとがって聞こえます。これも一般には先祖返りめいた印象をもたらしています。オバマも「未来vs過去」という新しい対立項を持ち出して、そんなクリントン陣営を真っ向から皮肉り始めました。
直前の雰囲気ではまたオバマに流れが傾きつつありますが、黒人票がオバマならラテン系の票がクリントンに流れることも。この激流の中で彼女がどれだけ既得陣地を守りしのげるか。民主党の指名勝負はマクロな州ごとではなく、代議員数のもっとミクロな足し算になるかもしれません。
(了)