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国おこし、都市おこし、個人おこし

40日間も日本に行っていました。日本にいると、日本語に守られてるせいでしょうね、国際的な時事ニュースをぜんぜん自分に引き付けて考えられなくなります。なんかまったりしてみ〜んな他人事っぽくなる。で、ここにもなにも書かない、という結果に。てか、たんにだらんとしてただけなんでしょうけどね。

さてさて、帰ってきたとたんサンフランシスコでの聖火の混乱です。中国当局もよく続けるなあと思うのですが、開会式のボイコット気運も高まる中、この問題はどう考えればよいのでしょう。スポーツと政治、五輪と政治の問題ですわ。

私も若かったころは「スポーツと政治は別だ」などと憤慨していましたが、でもずっと以前から五輪と政治はじつは同じものだったんですよね。というか、五輪はその国際的な注目度から、世界に向けて政治的メッセージを送る絶好の檜舞台でありつづけているのです。

ベルリン大会は国威発揚というナチスの政治的思惑の場だったですし、メキシコでは黒人差別に抗議する米国選手2人が表彰台で黒手袋の拳を突き上げました。続くミュンヘンではパレスチナゲリラのイスラエル選手襲撃が行われ、76年のモントリオールでは南アフリカの人種差別問題でアフリカ諸国の大量ボイコットが起こった。80年のモスクワではソ連のアフガニスタン侵攻に抗議する西側のボイコット、続くロサンゼルスはその報復的な東側の逆ボイコットと、五輪はまさに常に政治とともにありました。

だいたい中国自体も五輪と政治を結びつけて国際社会にいろいろとメッセージを発してきたんですよ。56年のメルボルンから、ローマ、東京、メキシコ、ミュンヘン、モントリオール、モスクワと、なんと7大会連続で五輪ボイコットです。モスクワ大会を除いて6回はぜんぶ台湾の国際認知問題が背景でした。

そもそもどうして五輪を招致するのか? それは五輪という由緒ある国際大会を主催することで国際社会の責任の一端を担う、一丁前の国家として認められたいという思いが基になっています。同時に、関連施設の建設によって国内の景気浮揚を図りたいというハコモノ行政的な意図もあります。つまり五輪は村おこしならぬ「国おこし」のネタだったのですわね。つまり。ズバリ政治そのもののイベントなわけで。

これは64年の東京五輪もそうでした。あのとき東京は高度成長のまっただ中で、日本は戦後復興の総仕上げをして国際社会への復帰を果たそうと五輪を招致したのです。そこではスポーツはたんなるダシでした。もちろん、日本の復権はスポーツ選手個人の頑張りに投影されてじつに感動的だったのですが、ほんとうの主眼はスポーツ選手個人の威信ではなく、国家としての威信にあったのです。それはまさに政治的思惑でした。

すでに五輪が2周目以降に入っている先進国では、長野やアトランタがそうだったように五輪は国おこしを経ていまはホントに開催都市の村おこしイベントです。一方、周回遅れの中国にとっては(今後のアフリカ、中東諸国なども含め)五輪は遅れてきた第二次「国おこし」運動の原動力なのです。今回の北京五輪も、中国政府のそんな思惑と欧米諸国の、五輪開催を機に中国の人権・民主化改善を促そうという思惑が合致して決まったものですからね。

そんな政治の舞台なのですからチベットが登場してもだれも文句なんか言えない。中国が「スポーツと政治は別だ」だなんて、どの口で言えるのか、です。

そう、「スポーツの祭典だから政治はタブーだ」と言うからややこしくなるのです。どうせならもうこれは政治だと開き直って五輪を機にどんどん主張をぶつけ合えばいいんですわ。それで大会がつぶれるようならつぶれちゃえ。そうなったらでも中国だって面目丸つぶれ、欧米だって思惑外れ、チベットは墓穴を掘る。そういうところにしか反作用としての収拾努力のベクトルは生まれないんじゃないの? じっさいの政治としてはいささかドラスティックにすぎるけどね、ま、思考実験としてはだからこそいまと違った落としどころが見つかるかもしれない。まあ難しいでしょうけどねえ(他人事っぽいなあ)。

ところで再びの東京五輪招致が進んでいます。これはすでに国おこしでもなく都市おこしとしても新味に乏しいやね。何のためにやるんでしょう。私には、自己顕示欲が脂汗になってるあの都知事の「自分おこし」のために見えるんですわ。彼個人の人生最後のステージにとっては格好の大イベントですもん。しっかし、そんな個人行事に付き合うのはまっぴら。

だいたい、新銀行東京にしても、解決にはもう何年もかかるけど、やつの物理的寿命はその前に終わるでしょう。未来のないやつ、つまりあの都知事に、「責任を取る」という考え自体が通用しないんです。死を前にしたら、無敵だなあ。だから政治家は若くなきゃダメなの。あと30年生きてると思ったら、ヘタなことできないもんねえ。

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