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September 24, 2008

宿命としてのバブル

リーマン・ブラザーズの破綻から始まった先週から、いろいろとコメントを求められて大変でした。

世界的な金融・証券の統合・再編が始まったと見るべきでしょうね、なんてことを話してきましたが、おおむねその通りに進んでいるようです。ちょうど10年前にソロモン・バーニーがシティバンクと合併したんですが、これはまさに独立系の証券会社の存在価値が問われる事態になった先駆けだった。

いま現在、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーだけ独立系の証券会社なのですが、サブプライムでキャッシュフローの問題が出てきて、それで証券と金融が結びついてきているわけです。どうなるかと思ってたらこの1週間でもうほかの金融・銀行とくっつく、あるいは銀行になっちゃう、という動きが出ています。

と、エラそうなことを書いてるんですが、じつはわたし、経済のことがホントのところ、よくわからんのです。

どうしてモノを作ったり採ったりするという最も根幹で人間の命を支えている人たちが低収入にあえぎ、マケイン陣営に参加したヒューレット・パッカード(HP)の前CEOが4500万ドル(50億円弱)もの退職金をもらえるのかがよくわからん。

ちなみに、マケインはリーマン破綻に関するニュース番組出演で、ウォールストリートのこの苦難の原因の一端はCEOたちの強欲さだって非難したのに、このカーリー・フィオーナの4500万ドルに関しては「詳しくは知らないが」と前置きしつつ、「フィオーナはそれを受け取るのにふさわしい。なぜなら、彼女はよいCEOだから」って答えています。うーむ、このひと、だいじょうぶかいな? HPは2万人もレイオフしてるんだよ。そんでどうして4500万ドル払えるの? わからん。

50億円って、21歳から働いたとして70歳まで毎年1億円稼ぎつづけたっていう金額です。
まずもってそんなこと、人間に可能なんでしょうか?
あるいはそれを受け取るにふさわしい人間の価値って、どんな価値なんでしょう?

バブルって言いますが、価値のある株券が一夜にしてどうして紙切れ同然になってしまうのかもよくわかりません。いや、もともとは一枚の紙切れでしかなかったものが、どうして見る見るうちに巨額にふくれあがる価値を持つようになるのか、それがわからないと言ったほうが適当かもしれません。

リーマン・ブラザーズが破綻してどこがどう影響を受けるのか。これも複雑に絡み合って今ひとつイメージできない。つまりこれって風が吹けば桶屋が儲かる式の(この場合は桶屋がつぶれるってな式の)話とどう違うのかもよくわからない。AIGが救済され、リーマンが救済されなかったのもきっと風が吹いてつぶれる桶屋の数が違っていたからだったんでしょう。しかしリーマンは救済しなかったのに7月のベアスターンズはなぜ救済支援したのか、今度はそれがわからない。これは「場当たり」っていうのとどう違うのかわからない。わかるひと、います?

AIGっていうのは保険会社だけあって、じつはこの10年ほど世界中の企業間の投資のリスクを保証する“保険”ビジネスを続けていました。世界がつながっているのは、インターネット以上にこうした損の回避のもたれ合いだったのです。

で、保険が利いていると思って世界中の企業はどんどんカネを出し合ってきた。そうこうしているうちにそのカネの出し合いを「損しないように」保険していたAIGがつぶれそうになる。となると、こけるのはもう親ガメ子ガメ程度では済まなくなる、ってのはわかる。

だからブッシュ政権はAIGを救済したのだ、といわれます。しかし7千億ドル(75兆円)という米政府の不良債権買い取り計画がどうして可能なのか、それがよくわからない。

75兆円というのは日本の国家予算にも迫る金額。アメリカの納税者1人当たり40万円も金を出すってことです。その中には当然わたしも入っています(ってか、これ以上払わないようにいますぐ帰国して逃げちゃえばいいんだけどね)。ブッシュ、どうせ任期が12月までってことでやけくそになってこれだけの勇気を奮えたわけじゃないんでしょうね。ちゃんと根拠と責任をもっての決断だとよいのですが、なんかドタバタした緊急出動めいてみえるんですわ。あのポールソン財務長官ってのも、話してるの聞いてるとなんだか軽いんだよねえ、ノリが。

そういうわけだかどうだか、その財政出動を好感してNY市場がどんと戻ったのが先週末でしたが、と思ったらリーマンショック1週間の月曜22日にはまた327.75ドルも値を下げました。こういうのってどういう論理なのか、というかどういう根拠に基づいた動きなのか、その根拠の証明ができないのでなおさらわからないのです。

ただし、今回を含めこれまでの経験からうっすらとわかったこともあります。それは、証券経済はかならずバブルに陥るということ。実体経済から乖離して、どんどんカネがカネを産み記号が自己増殖してゆくのです。そこにモノの裏打ちはない。中身は空洞なのです。あのホリエモンのライブドアが株を小口に分けてどんどん高値にしてったのはまさにこれですもん。

いかにサブプライム問題がこうして大きな傷跡を刻んだとしても、けれどこの証券経済っていう流れはぜったいに元に戻ったりはしません。ならばそのとき、政府はそうした経済になんらかの規制を持ち出すのかどうか。

こうしてこの件はいま、共和党vs民主党、つまり小さな政府vs大きな政府という、今回のマケインvsオバマの大統領選挙の最大のテーマになったのです。

ってかね、オバマもマケインも、そう経済に強くはないでしょ。
さっきの元HPのフィオーナさん、マケインもペイリンも主要企業の経営者としては採用されないだろうってなコメントをして最近、表に出てこなくなったんですよ。ま、付け加えてオバマもバイデンもダメだって言ってはいるんですが。

今日のワシントン・ポスト紙によると、毎週記者会見をすると約束していたマケインは現在、40日にわたってその記者会見を回避しつづけているらしい。ボロを出さないようにしてるとしか思えませんな。登場の遅かったサラ・ペイリンにしても25日間、記者会見してないんだそうです。

まずいよなあ、それって。

September 22, 2008

アルター・ボーイズの公演ですよ

今年2サイクル目のヘドウィグに続いて、来年2月にまたわたしの翻訳したオフブロードウェイのミュージカル『アルター・ボーイズ』公演が東京で行われます。

http://www.altarboyz.jp/

アルターボーイズ(altar boys)というのは、キリスト教会の礼拝儀式で司祭を助ける侍者の少年たちのことです。で、ミュージカルの中の物語は、このクリスチャンのアルターボーイたちが5人組ボーイバンド Altar Boyz を結成して、世界巡業で歌と踊りの公演布教活動をしているという設定。その旅公演の先々で、神の教えを説きながら聴衆の魂を救うというわけさ。まあ、だいたい全編ボーイバンドのコンサート仕立てですね。これがロックありポップありバラードありヒップホップありラテンありで楽しい楽しい。

で、これがオフブロードウェイ版のCM。

アメリカではボーイズバンドいまちょっと下火だけど、まあその辺も教会ってことでややズレ気味の流行っていう設定か。でも、韓国ではこの韓国版公演がかなりヒットしてたらしいです。あそこもいまボーイバンド全盛だしね。アメリカでもシカゴやLAなどでツアー大盛況、ヨーロッパにも飛び火して、なんとハンガリーとかでもやってるんだわね。その世界サークルの中にこんどは日本も加わる、というわけです。

さてそして、今度こそ、今回こそ、歌はぜんぶ日本語です(笑)。
私がニューヨークの深夜にひとり、毎夜このiMacのキーボードの前でオルターボーイズのオリジナルCDを聞きながら、メロディーとリズムに合わせて日本語の音韻を1つ1つ振り分け、しかもCDといっしょに自分で日本語で歌ってみもしながら、書いては直し歌っては直しして日本語に当てはめた歌詞です。大労作! はあ〜、疲れた。

いやしかし歌詞は難しいわ。英語と日本語では一音節の情報量がぜんぜん違うんだもん。でもそこはあーた、言語フェチのわたし。ほとんど情報をそっくり入れ込んで、なおかつ日本語にして無理のない歌詞に仕上げた。そのへん、適当なところで諦めて原語の意味をばっさり削ぎ落として“意訳+超訳+捏造”してしまうそこらの輩とはわけが違います。えへん。

で、出演者はこの5人。

やたらと脱いでしなってのはレスリー・キーがまたこの宣伝用の写真を撮ってくれたからです。レスリーはとてもいい。
でもおぢさん、正直いうと田中ロウマくんしか知りません……とほほ。
なんせ、NYに住んでるんで日本の芸能界知らないの。
しかしプロデューサーたちに聞いたところによれば、あまりテレビの露出はないけどステージで活躍してるダイヤモンドドッグスというグループのメインの子だとかもいて、なかなか伸び盛りの面白い才能たちらしい。もうすぐわたしも実際に彼らに会ってみます。若い才能が、またこのミュージカルをきっかけに新しく伸びていってほしいです。

ところで、「神の教えを説きながら聴衆の魂を救う」って紹介しましたが、わたしはこの「神」ってのがダメなのですね。まあ、赦してやってるけど。

そのわたしがなぜにこのような物語を翻訳したか、というと、まあ、これ、表向きはキリスト教を題材にしてるけど、随所にいろいろひねりがあって、わかるでしょ、ちょっと違うのです。不信心者の多いニューヨークでヒットしてるってのも、その証左ではありましょう。たとえば、この5人組の中にユダヤ人が1人いるんだよね。ユダヤ人ってのはキリスト教ではなくてユダヤ教なのだ、本来は。その彼が、歌詞を作る才能を買われてこのバンドにリクルートされてる。それからもう1つ、キリスト教といっても、アメリカはプロテスタントが多いんだが、この5人は少数派であるカトリックのボーイ・バンド。ね、ちゃんとマイノリティ問題が入ってるでしょ? そして、そうなれば言わずもがなですが、もちろん、ゲイのテーストも。すべてのマイノリティ問題がこれにかぶさって表現されるわけ。うふふ。キリスト教にはゲイってのはタブーなんだけど、いまどきのショーはTVも演劇も映画もミュージカルも、すべてこのゲイな感じが入らなければ成立しないのかもしれませんね。

いやしかしこれはキリスト教をおちょくったりしてるわけじゃありません。まじめに取り扱っています。でも、それをちゃんとショーにしてる。現代のエンターテインメントとして取り上げているわけで、やはり裏方はかなり知的なんだろうなって思います。まあ、日本ではその辺の宗教的背景も共有されていないから受け取り方もやや違うだろうけど、そのあたりはわたしの翻訳台本でまたちゃんとわかるようになっていますことよ。

まあ、ご覧あれかし。
公演間近になったらリマインダーとしてまた告知します。

September 15, 2008

再び9.11です。

前回のブログで紹介した9.11の再現リポートですが、ほかの原稿も取りまとめて「Still Wanna Say?」のページで載録しました。

ここをクリック

あの事件から1年後にあちこちを取材して再現したものです。
証言集、被害データ、コラムなどもいっしょにしてあります。
写真もあるのですが、サイズの変更など面倒くさいので、それはいずれぼちぼちと。でも、まあ、あまり期待しないで待っててください。

September 12, 2008

9.11ーリプレイ

あの日は朝の7時近くまで仕事をしていて、それからベッドに入ってちょうどいい感じで寝ているところに東京からの電話が入って叩き起こされたのでした。それは新聞記者の後輩で、また与太話でもしようと電話をかけてきてるんだと思って「いま寝たばっかりなんだよ〜」と愚痴ったものです。そうしたら「起きてテレビをつけてみてくださいよ」と言います。「なんで?」「とにかく、テレビをつけて。大変なことになってるんですよ」。
そこでベッドからはい出してテレビをつけると、WTCが映っています。煙が出ている。見ると側面に斜め一文字に穴があいている。

ことがそれほど大事だと思わなかったのは、CNNのアナウンサーも、どの局のアナウンサーも、(こちらのアナウンサー、リポーターはみなそうなのですが)ぜんぜん興奮したそぶりを見せないで淡々とリポートしていたからです。そのうちになんか別の黒いものが画面に現れ、それが背後からもう一棟にぶつかった。

テレビは小さく「あ」とでも言ったのだったろうか。
寝ぼけているわたしには何が起きているのか即座には理解できませんでした。それが生放送であることもじつはよくわかってなかったのかもしれません。

以下が、翌年までに私が取材し、まとめた、あの日に起こったことです。

***

◆09/11 08:46am 
●ブルックリンの緊急通信センター 通信専門員ジャネット・ハーモン

 いつもと同じくよく晴れたきれいな朝だった。ニューヨ−ク市マンハッタン区の東対岸、ブルックリン区にある緊急通報センターで、通報受信オペレーターを15年間務めてきたベテラン通信員ジャネット・ハーモン(53)はいつもの朝のシフトで受信モニターに向かっていた。

 緊急通報センターは日本の110番と119番を統合したすべての種類の緊急電話を受け取る。米国の緊急電話番号は911番。1日平均3万2000件、年間では1200万件近い電話がかかってくる。受信装置はコンピュータと直結した105台。そこに常時最低でも60人が待機している。その背後には多民族都市ニューヨークならではの140カ国語に対応する通訳も控えている。

 そのとき、一本の電話が鳴る。70人ほどがシフトに入っていただろうか、たまたまハーモンがその電話を受けた。そのとたん、「オペレーター、オペレーター!」と緊迫した女性の声がヘッドフォンから飛び込んできた。「お願いだから、どんなことがあってもこの電話を切らないで!」。事件事故の通報を受ける場合、最も肝心なのは相手を落ち着かせることだとハーモンは知っている。「マダム」とあえて低い声でハーモンは応対する。「落ち着いて。どこからかけているの?」。女性が答える。「いまブロードウェイを車で下っているところ。いま、目の前で、世界貿易センターのタワービルに747(実際はボーイング767型機)がぶつかったの! ビルが火の玉なの! わざとぶつかったように見える!」。予断を挟まないこと、聞いたことそのままをコンピュータに打ち込んで、主観を交えないこと。車内での携帯電話なのだろうその女性の声の向こうから、同乗しているらしい男性の声が叫んでいるのが届いた。「全員をよこせと言うんだ! とにかく、警察も消防も全員を出動させてくれと言うんだ!」。

 ジャンボ機がぶつかった? 確認する自分の声がうわずっているのが自分でもわかった。そのとき、周りの受信モニターが連鎖反応のようにいっせいに鳴り出した。当の貿易センターの高層階から「閉じ込められた」と助けを求める電話もあった。応答する70人のオペレーターの声が受信センターのフロアで低く強く渦を巻きはじめた。

◆09/11 08:55am
●ブルックリン橋 NY消防長官トーマス・ヴォン・エッセン

 前夜やや夜更かしをしたせいもあってトーマス・ヴォン・エッセン消防長官はその日の朝のピックアップを8時半でいいと運転手に告げていた。自宅から消防本部のあるブルックリンには、マンハッタン島の東岸を南北に走る高速道FDRドライブを通ってブルックリン橋を渡る必要がある。

 夜更かしをしたのは31年前、初めて消防士になったときに赴任したサウス・ブロンクス区の第42はしご車隊で懇親会が催されたからだ。かつての同僚や師と仰いだ先輩たちと旧交を温めた翌朝の空は、やっとやや秋めいてきたようで爽快だった。そうしてブルックリン橋にさしかかろうとしたとき、何気なく見上げた窓の外に、何かが見えた。

 「あれは、雲かな?」とエッセンは運転手のジョン・マクラフリンに声をかける。ちらと視線を上げたマクラフリンはハンドルを握ったまま「いや、仕事のようですな」と答えた。だが、そのときはまだマンハッタン・ダウンタウンのビル群が視界を遮り、その黒い雲の立ちのぼる場所がどこなのか、見当はつかなかった。

 いったいどこなんだ、と見つめる西の空がビル群の間から覗いた。目を疑った。世界貿易センターの北タワーにぐっさりと穴が開き、そこから炎と黒煙が立ちのぼっていた。

 「なんてこった! 貿易センターに飛行機がぶつかったみたいだ!」とエッセンは叫んでいた。

 そのころすでに、ブルックリンの緊急通報センターのジャネット・ハーモンの打ち込んだコンピュータ情報は出動センターのモニターに流れ、消防本部の指令系統から第2次出動命令が発信された。それは十数秒後には第3次、第4次出動に、そしてたちどころに最大動員の第5次出動に変わった。

 マクラフリンは長官専用車の消防無線のスイッチを入れた。「ワールドトレードセンター、北タワーで爆発」。交信が錯綜する。第5次出動。エッセンは寒気を覚えた。黒く不吉な煙の噴出を見つめながら、「1000人単位の犠牲者……」とつぶやいたことを彼は憶えている。

◆09/11 08:58am
●FDNY ニューヨ−ク市内に位置する212消防署

 NY消防本部は全部で消防車隊が203隊、はしご車隊が143隊、ほかにも泡消火部隊の10隊などで構成され、人員は計1万1500人。その朝の勤務者はおよそその半数だった。夜勤と朝番との交替シフトは朝の9時。だがその日、朝のシフト交替はついに終わらないままだった。

 NY市警の警察官らは「ニューヨークの最たる精鋭たち(Finests)」と呼ばれる。対してNY消防本部(FDNY)の消防士たちには「ニューヨークで最たる勇者たち(Bravests)」という尊称が付いている。あまたの大火災にも恐れることなく立ち向かい、幾多の犠牲者を出してもつねに生活者の味方でありつづける消防士たち。1966年にはマンハッタン・ダウンタウンの「23丁目大火」で一度に消防署長2人を含む12人の消防士が殉職したこともあった。それが過去最悪の出来事だった。

 最初の出動命令は世界貿易センター(WTC)にほど近いグリニッチ・ストリートにある第10消防車隊に出された。「WTCで爆発」との報。その出動命令はすぐさま市内全域に拡大した。ニューヨーク中にけたたましいサイレンとクラクションの音が鳴り響いた。

 通常の火災はまず担当地区の消防車隊が対応し、そこにはしご車隊などが増員される。それで対応できないときはその地区全体の消防隊が「大隊(バタリオン)」として派遣される。それでもだめならより大きく地域(ディビジョン)全体の消防署の出動となる。そしてそれでも困難なら、市内全域の消防士が現場に急行する。しかしそんなことはかつてなかった。

 第一陣の現場到着隊は第10消防車隊を含みいずれもWTCに隣接する地区の消防署だった。夜勤を終えて交替して帰宅するはずだった60人の消防士たちもその中に加わっていた。現場に急行する消防車には通常の2倍の消防士たちが乗っていた。もっとも、午前9時29分には非番を含め市内の全消防士に出動および待機命令がかかったから、すでに非番もなにもあったものではなかった。現場ではだれが出てだれが出ていないかを点呼するゆとりもなかった。無線機も持たずに急行する者も多かった。周辺ビルまでもが炎上しはじめていた。どこから手を付ければいいのか、この道数十年のベテランたちでさえもたじろいでいた。現場は混乱を極めた。だが、混乱を見せてはいけなかった。逡巡を振り切るように、勇者たちは各自行動を起こしたのだ。ある者たちは自分の経験だけを頼りに果敢にタワービル上層階へと階段を駆け上っていった。数千人が避難を待っているのだ。

 まさか、この世界最強のビルがすぐにも崩壊しようとは、その時点ではだれも考えていなかった。

◆09/11 09:03am
●2機目が南タワーに突入

 消防、警察、救急隊の全体が事態の重大さに対応しはじめたとき第2弾が待ち受けていた。マンハッタンの南側から轟音とともに超低空飛行してきた航空機が、今度は無傷だった南タワーに激突したのだ。こちらの衝撃は北タワーよりも甚大だった。飛行機の速度は1機目よりも160キロ速い時速800キロ。総重量160トンのボーイング767は南タワーの78〜84階部分の南東のコーナーを切り裂くようにぶち抜いた。3万6000リットルものジェット燃料がビル内部に注ぎ込まれた。3分の1が衝突時に一瞬のうちに引火し大爆発を起こし、残り3分の2がビル内部で気化して充満するか火とともに伝い落ちていった。おそらく、そのとき何十人という人間たちが熱と圧力で蒸発した。

 南タワーにも即座に第5次出動命令が発動された。北タワーに展開していた消防士たちがここにも駆け込んでいった。数千段もの階段を駆け上がり、内部の数千人を安全に避難誘導するために。

 だが、その時点で両タワービルの火災温度は1100度にも達していた。フロアを支える鋼鉄のトラス群が熱にやられて溶けはじめていた。

 熱と煙に耐えきれず、高さ300メートル以上の上層階から自ら飛び降りる人も続出した。消防士にもすでに負傷者が出ていた。なにより、トラック大の瓦礫が断続的に地上に降り注ぎ、後続隊は燃えさかるタワーに近づくことも難しくなっていった。

◆09/11 09:59am
●南タワー、「もっと部隊をよこせ!」

 2機目でこれはテロだと断じられた。北タワーに1機目が突入した際、南タワーではこちらは被害がないから各自自分のデスクに戻るようにと館内アナウンスが行われていた。だから南タワー上層階で相当数の人々が閉じ込められてしまったのだ。

 そこに真っ先に飛び込んでいったオリオ・パーマー大隊長とロナルド・ブッカ消防隊長が、40分をかけていまやっと78階まで徒歩でたどり着いていたのだった。これまで消防士がたどり着いたのはおそらくせいぜい50階までだったろうと思われていた。だが、翌2002年8月に見つかった無線交信のテープに、激突部分であるまさにその78階で、多数のけが人の救出にあたる彼らの声が分析されたのだ。

 午前9時45分ごろの録音。パーマー大隊長が78階にいたけが人数人を含む10人のグループを41階のエレベータまで向かわせたと連絡している。そのエレベーターが、最後まで動いていたただ一基のものだった。

 南タワーを担当したドナルド・バーンズ指揮官の声も残っていた。「もっと部隊をよこしてくれ!」と何度も繰り返し叫んでいた。しかし、救助に向かった消防士たちは階段を降りてくる避難者たちに行く手を阻まれ、さらにいったいどちらのタワーのどこに行けばよいのかも混乱したままだった。

 14分後、午前9時59分、南タワーが内部へ向けて沈み込んでいった。崩壊速度は時速320キロ。ビル全体が崩落するのに10秒しかかからなかった。パーマー大隊長らの交信はそこで途絶える。41階に向かっていたはずの被救助者たちにとっても、14分という時間は外に出るにはあまりにも短すぎた。

 その直前、ワシントンDC郊外では国防総省にボーイング757が突入していた。さらに午前10時10分、ピッツバーグ郊外では別のハイジャック機が、明らかに乗客の抵抗に遭って突入目標に達することなく墜落した。

◆09/11 10:28am
●北タワーも……2万5000人を退避させて

 午前10時28分、そして北タワーもついに崩落した。立ちのぼる粉塵と炎の下でなおも消防士間の無線交信は雑音混じりで続けられていたが、それらもいっせいに静まりかえった。動けなくなった携帯者の位置を知らせるPASS(個人警報安全システム)モニターの音だけが瓦礫の下から聞こえていた。だが、崩壊とともにそれらは消防士たちの手から放れていた。音の聞こえるところに消防士はいなかった。

 消火用水を供給する水道本管ももう破断されて機能していなかった。近接のハドソン川から消防船が水を供給していたが、それではもちろん十分ではなかった。WTCの計6棟が崩落または炎上していた。約2万坪が燃え上がっていたのだ。

 ピート・ガンチ消防本部長、ウィリアム・フィーハン消防第一副長官、レイモンド・ダウニー救助(レスキュー)本隊長が殉職した。大隊長の18人、消防副隊長の77人も殉職した。第1レスキュー隊は消防士11人を一度に失った。第20はしご車隊は7人、第22消防車隊は4人を失った。消防全体では343人が亡くなった。消防車など装備の損壊損失は4800万ドル(当時レートで5700億円)に及ぶ。しかし、彼らの犠牲によって世界貿易センターの2塔からは計2万5000人が脱出できたのだ。

 火は以後、崩壊した地下で4カ月間にわたって燃え、くすぶりつづけることになる。

September 01, 2008

福田ってやつは

けっきょく、とどのつまり自民党には現在、政権担当能力がないということなんでしょう。政権投げ出しが2回続くと、信頼は地に堕ちる。

福田の個人的な性格ってのもあるでしょうが。やる気がない、というか、やりたくないんだわね。初めからそうだった。というか、今から思えば、福田は森にそそのかされた小沢・民主との大連立のみにかけて政権を担ったのかもしれないですわね。それが失敗した段階で福田政権の存在理由はなくなったのです。洞爺湖サミットまでのただの時間つぶしだったわけだ。

記者会見最後の質問「総理の対応は国民からみんな他人事のようだと言われているが」に対して、「あなたは他人事のようだと言うけれどもね、私は自分を客観的に見ることができるんです! あなたとは違うんです!」って気色ばんだのはとても子供っぽくて聞いてられなかったですね。官房長官時代からそういう言動はまま窺えてたんですが。

さて自民党だって麻生か百合子かって選択でしょう。この選択はないわなあ。福田退陣というより、自民党自体が自ら退陣するような雰囲気になっていくでしょう。

総選挙の流れは加速するはずです。
次期政権もつなぎでしかなくなります。
そのつなぎを、お調子者の麻生は受けるしかない。
小池百合子ねえ、どうなんでしょう。
わたしにはわかりませんわ(他人事……)。