ウニタの遠藤さん、死去
ウニタ書舗の元店主遠藤忠夫さんの訃報があった。
エリカっていう神田の薄暗い喫茶店で、よく話を聞いたなあ。
あの店、まだあるのかしら。
20年前の当時のぼくは警視庁の公安担当で、遠藤さんには取材で会う必要があったのだけれど、この歴戦の目撃者は妙にひょうひょうとしていてタバコなんぞをくゆらしながら新左翼の連中を温かく批判していた。当時は彼がゆいいつ重信房子なんかの日本赤軍とのパイプ役で、「こないだ重信に会いに行ってきたんだけど」と彼の語るベカー高原だとかゴラン高原だとかは、いまよりもはるかに少ない情報の中で妄想に近い地形となってぼくの頭の中で黄土色の風を吹かせていた。
そういえば彼は北朝鮮の赤軍の連中ともパイプを持っていた。あの大韓航空機爆破事件の蜂谷真由美こと金賢姫の一件でもずいぶんと裏の話を聞いた。あのころの公安は丸岡の逮捕とか泉水の逮捕とか、中核の圧力釜爆弾とか革労協のロケット弾とかスパイ事件もあって、なんでとつぜん思い出したように忙しかったんだろう。 そういえばあれが昭和の終わりだったんだ。
新聞記者のいいところは、新聞記者であるってことだけで業務と関係なくともいろんな人の話を聞けたことだった。記事にならない百万のエピソード。むしろそのほうが大切だったような気がする。
そういう意味では会社勤めのジャーナリストというのはかなり恵まれている。書かないときでも給料をもらえるんだから。わたしもその恩恵をずいぶんと受けてきた。いまでもそれが貯金だし。減らないし。ただ、アップデートは難しいかな。
遠藤さん、享年83歳。
そうか、あのころ遠藤さん、62、3だったんだ。
合掌。