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ブロークバックはアダルト本?(続報追記)

アメリカのアマゾン・コムがなんだかわからない基準を持ち出して、ゲイ&レズビアン文学を「アダルト」分野に分類してセールスランキングから外すという愚挙に出ています。アダルト本、つまりエロ本ですね、そうやってセールスランキングの数字がなくなったのはジェイムズ・ボールドウィンの名作「ジョヴァンニの部屋」、それにアニー・プルーの「ブロークバック・マウンテン」、ええ、そうです、あのブロークバックです。

Giovanni's room.jpg  brokebackmt.jpg

そうやって外されちゃった著者の1人が何なんだ、ってアマゾンに問い合わせたら、次のような答えともならない答えがメールされてきたそう。

"In consideration of our entire customer base, we exclude 'adult' material from appearing in some searches and best seller lists. Since these lists are generated using sales ranks, adult materials must also be excluded from that feature.
われわれの全体の顧客基盤を検討した結果、「アダルト」な物品は一部の検索やベストセラーリストから除外しています。これらのリストはセールスランク(販売数順位)を基に作られているため、アダルトな物品もまたその扱いから外されることになります。

"Hence, if you have further questions, kindly write back to us.
そういうわけで、まだご質問がある場合は恐れ入りますがまたメールをどうぞ。

"Best regards, Ashlyn D Member Services Amazon.com Advantage"
敬具、アマゾン・コム・アドヴァンテージ、メンバーサービス部 アシュリン・D

まあ、理由説明になっちゃいませんね。

というか、除外対象のアダルト分類というのもいい加減で、LAタイムズによれば

アネット・ベニング主演で映画にもなったオーガスティン・バロウズの「ハサミを持って突っ走る(Running with Scissors)」(アルコール中毒の父と夢想家でレズビアンの母が離婚、精神科医の家で暮らすことになった少年オーガスティンの奇妙な日々を描く青春回顧録)
リタ・メイ・ブラウンの現代レズビアン小説の嚆矢「ルビーフルーツ・ジャングル(Rubyfruit Jungle)」
ヴィクトリア朝のレズビアンを描いたラドクリフ・ヒルの古典的名作「孤独の泉(The Well of Loneliness)」
ミシェル・フーコーの「性の歴史、第1巻(The History of Sexuality, Vol. 1)」
E.M.フォスターの「モーリス」(2005 W.W. Norton版)
アナイス・ニンの「小鳥たち」
ジャン・ドミニク・ボービーの「潜水服は蝶の夢を見る(The Diving Bell and the Butterfly)」(1997 Knopf版)
ゲイの自伝として初めて全米図書賞を受賞(1992年)したポール・モネットの「Becoming A Man(男になるということ)」
ホモフォビアの社会的研究書である「The Dictionary of Homophobia: A Global History of Gay & Lesbian Experience(ホモフォビアの辞書;世界のゲイ&レズビアンの体験の歴史)」
等々……

ところが外れてないのは

デビッド・セダリスの「すっぱだか(Naked)」
ヘンリー・ミラーの「北回帰線(Tropic of Cancer)」
ブレット・イーストン・エリスの「アメリカン・サイコ」
ウィリアム・バローズの「裸のランチ(Naked Lunch)」
アナイス・ニンの「愛の日記:近親相姦(Incest: From 'A Journal of Love)」
ミシェル・フーコーの「性の歴史、第2巻〜第3巻」
E.M.フォスターの「モーリス」(2005 Penguin Classics版)
ジャン・ドミニク・ボービーの「潜水服は蝶の夢を見る(The Diving Bell and the Butterfly)」(2007 Vintage International版)
等々……

と、同じ内容で版が異なると扱いが違っていたり、異性愛ものはオッケーだったり、ミシェル・フーコーをアダルト本とするのもすごいけど、「ビカミング・ア・マン」とか「孤独の泉」なんてセックス描写なんかただのひとつもないのですよ。支離滅裂というか、まあ、ゲイとかレズビアンとか付いたものを片っ端からアダルト分類して、とにかくホモレズ徹底除外っていう姿勢ですかね?

すでにこのランキング外しに抗議する署名運動がフェイスブックで盛り上がっています。
米国メディアも騒ぎ始めました。
まあ、いずれすぐにもアマゾンの意図が(さらにはきっと謝罪撤回が)出てくるでしょう。
なんと言い訳するのかしらね。
アマゾンの内部の一部過激分子が勝手にやったこと、とか言うのかしら?
まさかシステムの不具合とかっていうんじゃないでしょうね。
こんな恣意的な不具合なんてないもんなあ。
ちょっと楽しみ。(←意地悪)


***2009/04/13 続報

アマゾンが次のような正式見解と謝罪を発表しました。
まあ、予想したとおりですね。

"This is an embarrassing and ham-fisted cataloging error for a company that prides itself on offering complete selection. It has been misreported that the issue was limited to Gay & Lesbian themed titles -- in fact, it impacted 57,310 books in a number of broad categories such as Health, Mind & Body, Reproductive & Sexual Medicine, and Erotica. This problem impacted books not just in the United States but globally. It affected not just sales rank but also had the effect of removing the books from Amazon's main product search. Many books have now been fixed and we're in the process of fixing the remainder as quickly as possible, and we intend to implement new measures to make this kind of accident less likely to occur in the future."

完全な商品セレクションを誇りにしている企業としてお恥ずかしいかぎりのみっともないエラー。ただしゲイとレズビアンをテーマにしている本だけがそうだというのは誤報です。じっさい、健康とか精神と肉体、出産や性関連の薬剤、それにエロティカなど幅広い分野の57310冊の本に不具合が生じたのです。それもアメリカに限らず世界中で起きた問題でした。しかも販売ランキングだけでなくアマゾンのメインの商品検索対象からもそれらの本が外れてしまいました。多くの本に関してはすでに直りましたが、残りもできるだけ早く直す作業を進めています。こういう事故が今後起こらないように新しい対策を講じるつもりです。

……ってさ。

ふむ、でもやっぱりみなさんの怒りは収まらないようで、ラリー・クライマーはアマゾンのボイコット運動を提唱するし、クリストファー・ライス(アン・ライスの息子)も怒りのインタビューを発表しています。


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