鳩山政権を倒したもの
前回のエントリーと重複しますが、鳩山辞意表明を受けてNYの日本語新聞に依頼されて以下の文章を取りまとめました。ご参考まで。
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原稿も見ずに正直な思いを語って、鳩山さんの辞意表明演説は皮肉なことにこれまででいちばん心に響くものでした。これをナマで視聴していたかどうかで今回の政局の印象はかなり変わると思います。この演説の本質は、これまでのマイナス面のすべてを逆転させて起死回生を図ったということでしょう。
そもそも辺野古問題の5月末決着宣言が自縄自縛の根因なのですが、社民党の連立離脱と総理辞任の「一石二鳥」のその石となった日米共同声明を外務省のサイトで読んでみると、実に象徴的なことが見えてきます。
日英両語で掲載されているこの共同声明、見ると日本語には「仮訳」とあるのです。つまり米国との共同声明ってのは英語がベースなんですね。日本語の声明文はそれを翻訳したもの。なるほど沖縄のことなのに日本語じゃないってのは、まあ米側は日本語、わからんからね……などと納得してはいけません。日本と外交交渉をする米側の役人はふつう日本語もペラペラです。しかし交渉では日本語は絶対に話さない。ぜんぶ英語。
そういうところからしてもイニシアチヴは端から米国にあった。日米関係というのはそういうものなのです。NYタイムズは「とどのつまり辺野古移設を謳った06年合意を尊重しろというワシントンの主張が勝利したのだ(won out)」と書きましたが、物事はそうなるように、そうなるようにと出来ていたのです。
そこを転換するに「5月末」は性急に過ぎた。しかも日本のメディアは各番組コメンテイターも含めて「米軍のプレゼンスが日本を守る抑止力である」という大前提の検証をすっ飛ばし、すべてを方法論に矮小化しました。また「米軍のプレゼンス」はいつのまにか「米海兵隊のプレゼンス」にすり替わり、まるで海兵隊が日本を守ってくれるという幻想を植え付けて、県外・国外移設を頭から幼稚なものと決めつけたのでした。
海兵隊はいまや第一波攻撃隊ではなく、戦闘初期では自国民=アメリカ人の救出隊なのです。それは抑止力ではない。第一波攻撃は圧倒的な空爆およびドローン無人攻撃機のより精緻な掃討だというのは湾岸戦争からアフガン、イラクへの侵攻を見ていれば明らかです。ではいったい、抑止力とは何なのでしょう? 海兵隊が沖縄に残らねばならぬ理由は何だったのでしょう?
社民党の辻元清美前国交副大臣によれば、あの首相の「腹案」というのはグアム移設案だったそうです。ですが今回も、外務省、防衛省の官僚たちが米国の意向を口実にしてつぶした。自民党時代も、米側はグアム全面移転を進めようとしたがそれに待ったを掛けたのはじつは日本側だと言われています。なぜか?
それは論理的に日本の「自主防衛」につながるからです。それは日米関係の構造の大転換につながります。そしてその場合、沖縄の「核」の抑止力も消えることになるからです。それが幻想であるか否に関係なく。
こうした変化を望まない勢力というのが日米双方に存在します。そうして図ってか図らないでか、自覚してか無自覚なのか、日本の新聞・テレビがそれを側面支援した。検察という“正義の味方”までがそこに巧妙に混じり込んでいたことにも無頓着に。
事業仕分けもそうでしたが、鳩山短期政権の功績は様々な問題を私たちの目の前にさらけ出してくれたことです。困ったことはそれらのすべてが予想を超える難題で、次の内閣でも別の政党でも、にわかには解決できないことがわかってしまったことなのです。参院選とか政局とか、事はそんなちっちゃな問題ではないようです。