「平成の開国」の正体
オバマさんの一般教書演説が行われました。日本でいえば年頭の施政方針演説に相当するもんですが、日本と同じくねじれ議会を抱える大統領は緊縮財政や法人税減税、自由貿易協定締結など、共和党寄りの中道路線を示して市場の好感を誘ったようです。来年に再選を狙う身としては「米国をビジネスに最適の場とする」ことで「win the future=未来を勝ち取る」姿勢を見せなければならなかったのでしょう。
オバマさんはかっこいいし演説の言葉もいちいち心にしみるし、日本のメディアもなんだか憧れの政治家みたいに扱っています。そのオバマさんが唱える米国の経済回復は、しかし何を「足場」にするのでしょうか?
それは米国の内需が何によって刺激されるかを考えればわかります。簡単に言うとそれは輸出です。どこに?
そこで登場するのがいま話題の「TPP=環太平洋パートナーシップ協定」です。最初はシンガポール、チリ、ブルネイなど小国4国が集まって経済協力しようという話だったのが、昨年10月、急に米国が参加すると言い出してあれよあれよという間に日本やオーストラリアも加わる計10カ国でやっていこうということになっています。菅政権はこれを「平成の開国」と呼んで、乗り遅れたら取り返しのつかないことになると宣伝しているのですが、これ、よく見てみると米国の米国による米国のための内需拡大の戦略的協定でしかないのです。米国に限りませんが、国家というものは外交においてはもっぱら国益のために手段を選ばずに突き進みます。極論を言えばオバマさんもアメリカのことしか考えていないのです。だってアメリカの大統領なんですから。
TPPで日本の輸出が伸びる? そんなことはありません。日本の製造業が輸出で拡大することはない。なぜならTPP参加10カ国内のGDP比は米国が67%、日本が24%、豪州が5%で残る7カ国は合わせて4%しかありません。内需の規模を比べるとその差はさらに広がって米日豪を除く7カ国は合計で0・1%なのです。そんな国々を相手にしても商売なんか増えません。環太平洋で肝心の中国も韓国もいない貿易協定内で、日本製品の輸出先は米国しかない。逆に言えば、米国の輸出先もまた日本だということです。
つまりTPPは実質的に日米貿易なのです。でも日本は対米輸出を伸ばせない。なぜなら円高ドル安で儲からないからです。TPPによって米国は関税を撤廃すると言っていますが、そんな恩恵はドル安による為替損でたちどころに消えてしまう。米国はTPPで輸出を4年で2倍に拡大すると言っているのです。雇用は日本ではなく米国内で生まれるのです。
一方でドル安の米国の農産品が日本に押し寄せます。牛丼はもっと安くなります。野菜もそうです。菅政権はデフレ脱却で雇用の創出を目指しているはずなのに、これではデフレが輸入される。デフレが続けばお米だって耐えきれません。日本の農業は壊れます。
まさに日本をカモにしようというこんなわかりやすいワナに、いくら親米と言えどもさすがに難色を示すだろうと思ったら何を勘違いしたか菅政権はこれを当然のものとして推進しようとしています。いったい何を考えているのでしょう?
最近の菅民主党は政権交代前の民主党とは別物です。若く真面目で意欲に溢れた伴侶が結婚してみたら大ウソつきのロクデナシだった、みたいな。この思いは次の選挙でどこに向かうのでしょうか? また政界再編というのも信じられないし面倒臭いですしねえ。
そんな折、スタンダード&プアーズが日本国債を格下げしました。これはまさに“有言逆行”のいまの政治のせいです。