NYタイムズの記事をご紹介
ずっと昔、10年以上前かな、ホモフォビアの強い学生たちとゲイでも全然だいじょうぶって言う学生たちの2つのストレート男子グループを集めておチンチンに計測器を装着し、ゲイのポルノを見させて反応を測るって実験があったことを紹介したことがあります。どこの大学の実験だったか、でもいずれにしてもすごい実験でしょ。そのときに、やはり、ホモフォビアの強い学生たちの方がおチンチンが大きくなって勃起したっていう結果が出たのです。じゃあ、ゲイたちによる反ゲイ主義者たちへの反撃は、所詮ホモ同士の諍いに過ぎなくなるのかっていう立論までして、いやそうじゃないんだ、ってことを書いた記憶があるのですが、その文章、どこに収録したか、ちょっとすぐには見つかりませんでした。この私のウェブサイトのどっかにあるはずなんですが……。
ま、それは置いといて、このニューヨークタイムズの投稿記事も、上記のが肉体的実証(とはいえやはり神経作用と結びつく脳や意識の問題なのですが)とすれば、今回のこれはより心理学的な実証でもあるようです。
興味深い話なので、ちょっと時間のあった土曜日の昼下がり、日本語に訳してみました。
どうぞお読みください。
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Homophobic? Maybe You’re Gay
同性愛が大嫌い? きっとそれはゲイだから
By RICHARD M. RYAN and WILLIAM S. RYAN
Published: April 27, 2012
WHY are political and religious figures who campaign against gay rights so often implicated in sexual encounters with same-sex partners?
ゲイの人権問題に反対の論陣を張る政界や宗教界の人たちがなぜこんなにもしばしば同性相手の性的経験に関係してしまうのか?
In recent years, Ted Haggard, an evangelical leader who preached that homosexuality was a sin, resigned after a scandal involving a former male prostitute; Larry Craig, a United States senator who opposed including sexual orientation in hate-crime legislation, was arrested on suspicion of lewd conduct in a men’s bathroom; and Glenn Murphy Jr., a leader of the Young Republican National Convention and an opponent of same-sex marriage, pleaded guilty to a lesser charge after being accused of sexually assaulting another man.
ここ数年だけで、同性愛は罪だと説教してきた福音派の指導者テッド・ハガードが元売春夫に関係するスキャンダルの後に辞職し、憎悪犯罪の法制化に際して性的指向をその対象に含めることに反対してきた米上院議員ラリー・クレイグは男性トイレでの猥褻行為の疑いで逮捕され、青年共和党全国大会の代表で同性婚への反対者であるグレン・マーフィー・ジュニアは男性に対する性的暴行の罪で司法取引に応じて、より微罪での自身の有罪を認めた。
One theory is that homosexual urges, when repressed out of shame or fear, can be expressed as homophobia. Freud famously called this process a “reaction formation” — the angry battle against the outward symbol of feelings that are inwardly being stifled. Even Mr. Haggard seemed to endorse this idea when, apologizing after his scandal for his anti-gay rhetoric, he said, “I think I was partially so vehement because of my own war.”
1つの説として、ホモセクシュアルな衝動は、恥や恐怖の思いで抑圧されてホモフォビア(同性愛嫌悪症)として発現し得るというものがある。フロイトの言った有名な「反動形成」の現れ方だ──心の中で窒息している感情が外に出るのを押しとどめようとする怒りに満ちた戦い。ハガード氏でさえこの考え方に賛同しているようだ。自身のスキャンダルの後でこれまでの反ゲイ・レトリックを謝罪したとき、彼はこう言っている。「私が公平さを欠いてああも(反ゲイで)激しかったのは、それは私自身の(内なる)戦争のせいだった」
It’s a compelling theory — and now there is scientific reason to believe it. In this month’s issue of the Journal of Personality and Social Psychology, we and our fellow researchers provide empirical evidence that homophobia can result, at least in part, from the suppression of same-sex desire.
これは説得力のある考え方だ──そしていまそれは信じるに足る科学的な根拠を得ている。今月号のJournal of Personality and Social Psychology(『人格と社会心理学ジャーナル』)で、私と同僚の研究者たちは、ホモフォビアが、少なくともある程度以上に、同性への欲望の抑圧の結果であるという検証結果を提示している。
Our paper describes six studies conducted in the United States and Germany involving 784 university students. Participants rated their sexual orientation on a 10-point scale, ranging from gay to straight. Then they took a computer-administered test designed to measure their implicit sexual orientation. In the test, the participants were shown images and words indicative of hetero- and homosexuality (pictures of same-sex and straight couples, words like “homosexual” and “gay”) and were asked to sort them into the appropriate category, gay or straight, as quickly as possible. The computer measured their reaction times.
我々の論文では784人の大学生の参加を得て米独両国で行われた6つの研究をまとめてある。実験参加者はまず自分の性的指向をゲイからストレートまでの10段階に分けて位置づける。それから今度は、明らかには現れていない潜在的な性的指向を計測するよう設計されたコンピュータ処理によるテストを受ける。同テストでは、参加者は異性愛もしくは同性愛のどちらかを表象するような画像や言葉(たとえば同性同士や異性カップルの写真、「ホモセクシュアル」や「ゲイ」といった言葉など)を見せられ、できるだけ素早く、それがゲイとストレートのどちらなのか分類するように指示される。コンピュータは彼らのその反応時間を計測するのである。
The twist was that before each word and image appeared, the word “me” or “other” was flashed on the screen for 35 milliseconds — long enough for participants to subliminally process the word but short enough that they could not consciously see it. The theory here, known as semantic association, is that when “me” precedes words or images that reflect your sexual orientation (for example, heterosexual images for a straight person), you will sort these images into the correct category faster than when “me” precedes words or images that are incongruent with your sexual orientation (for example, homosexual images for a straight person). This technique, adapted from similar tests used to assess attitudes like subconscious racial bias, reliably distinguishes between self-identified straight individuals and those who self-identify as lesbian, gay or bisexual.
ちょっと普通と違うのは、そうした言葉や画像が表示される前に、「自分(me)」「他人(other)」という単語が画面上に35ミリ秒(千分の35秒)だけフラッシュのように現れるということ──参加者にとってサブリミナル(意識下)ではその単語を処理できるが、意識上では見たとは感じられない長さだ。これは「意味的連想」として知られるもので、自分の性的指向を反映する言葉や画像(たとえば異性愛者の人にとっては異性愛を表象する言葉や画像)の前に「自分」という単語が現れたときには、そうしたものを、自分の性的指向と合致しない言葉や画像(たとえば異性愛者の人にとっては同性愛を表象する言葉や画像)の前に「自分」という単語が現れたときよりも、速い反応速度で正しいカテゴリーに分類できるという考え方に基づく。このテクニックは潜在意識における人種偏見の有無などを調べる同様のテストから応用したもので、ストレート(異性愛者)だと自認している人たちとレズビアンやゲイ、バイセクシュアルとして自認している人たちとをきちんと識別できるとされる。
Using this methodology we identified a subgroup of participants who, despite self-identifying as highly straight, indicated some level of same-sex attraction (that is, they associated “me” with gay-related words and pictures faster than they associated “me” with straight-related words and pictures). Over 20 percent of self-described highly straight individuals showed this discrepancy.
このやり方を使って私たちは参加者をもう1つ下位のグループに分類した。つまり自分ではとてもストレートだと自認しているにも関わらずなんらかの度合いで同性に惹かれる感情を示した集団だ。(つまり、「自分」という表示の後のゲイ関連の言葉や画像に、ストレート関連の言葉や画像に対してよりも、より速く正しい反応を示した人たち)。高度にストレートだと自認している人たちの20%以上に、この矛盾が見られたのである。
Notably, these “discrepant” individuals were also significantly more likely than other participants to favor anti-gay policies; to be willing to assign significantly harsher punishments to perpetrators of petty crimes if they were presumed to be homosexual; and to express greater implicit hostility toward gay subjects (also measured with the help of subliminal priming). Thus our research suggests that some who oppose homosexuality do tacitly harbor same-sex attraction.
ここで見落とせないのは、こうした「矛盾した」人たちは同時に、他の参加者たちよりもっと顕著に反ゲイの行動様式に賛同する傾向があるということだ;たとえば軽犯罪であってもその人が同性愛者だと推認されたらより著しく厳しい刑罰を与えようとしたり、またはゲイ的なものに対してより激しい隠然たる敵意を示したりする(これも潜在意識を刺激して反応を測る閾下プライミング法 subliminal priming を使って計測した)。結果、私たちの調査は、ホモセクシュアリティに反感を抱くある人々はひそかに同性に惹かれる心を宿していることを示したのである。
What leads to this repression? We found that participants who reported having supportive and accepting parents were more in touch with their implicit sexual orientation and less susceptible to homophobia. Individuals whose sexual identity was at odds with their implicit sexual attraction were much more frequently raised by parents perceived to be controlling, less accepting and more prejudiced against homosexuals.
何がこの抑圧へとつながるのだろうか? 私たちにわかったことは、いろいろと自分を励ましたり受け入れたりしてくれる親たちを持っていると言う参加者たちは、自分の潜在的な性的指向ともより折り合いがよく、ホモフォビアに染まることもより少なかったということだ。一方で、自認している自分の性的なあり方が潜在的に性的魅力を感じる対象と一致しない参加者は、ずいぶんと大きな確率で、支配的であまり言うこともすることも認めてくれない、そしてホモセクシュアルの人々により偏見を持つと認められる親たちによって育てられている傾向があった。
It’s important to stress the obvious: Not all those who campaign against gay men and lesbians secretly feel same-sex attractions. But at least some who oppose homosexuality are likely to be individuals struggling against parts of themselves, having themselves been victims of oppression and lack of acceptance. The costs are great, not only for the targets of anti-gay efforts but also often for the perpetrators. We would do well to remember that all involved deserve our compassion.
自明のことだが強調しておくことが重要だ;ゲイ男性やレズビアンに対して反対の論陣を張るすべての人々が秘密裏に同性に魅力を感じているわけではない。しかし少なくとも同性愛に反対する人々の何人かは、自分の中のある部分と苦闘している人、自分で重圧と受容の欠如の被害者になってきた人であることが多い。代償は甚だしいものだ。たんに反ゲイ行動の標的になる犠牲者たちにとってだけでなく、反ゲイ行動を行う加害者たちにとってもしばしば。憶えておいた方がいいのは、私たちはこの件に関するどちらもすべてに思いやりを持たねばならないということだ。
Richard M. Ryan is a professor of psychology, psychiatry and education at the University of Rochester. William S. Ryan is a doctoral student in psychology at the University of California, Santa Barbara.
リチャード・M・ライアンはロチェスター大学の心理学、精神医学、教育学教授。ウィリアム・S・ライアンはカリフォルニア大学サンタバーバラ校の心理学博士課程の学生。