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October 23, 2012

「みんな」か「個人」か

ちょいとブログの更新を怠っているうちに大統領選挙まであと2週間。第2回、そして昨日の第3回討論会でオバマが初回の失地をかなり回復したかに見えますが、それでもロムニーの巻き返し気運も衰えていません。世論調査によってオバマとロムニーの優位が入れ替わったりしていて、何が何だかわからない様相です。

最後の討論会は外交問題がテーマでしたが、しかし米国の有権者たちの関心は国内情勢、雇用や景気問題に集中しているようです。先日のWSJ紙とNBCの共同調査でオバマの経済運営に対して不支持(52%)が支持(46%)を上回り、外交に関しては支持(49%)が不支持(46%)を上回って、2人の支持率は47%で並びました。さあこれはいったいどういう選挙になるのでしょう? 

先日来、いろんな知人と話していて、結局この選挙はアメリカが欧州型の「みんなで稼いだおカネをみんなで分けてゆったり暮らそう」という社会を目指すのか、それとも米国式の高度資本主義の「稼いだ人が稼いだカネを個人の責任でもって社会に還元する」社会を目指すのか、という選択なのではないか、という結論になりました。

でも現在、前者の分が悪い。なぜなら欧州はいま財政破綻の債務危機に直面しているからです。ギリシャは公務員に偏った経済構造の歪みと賄賂経済が原因ですし、イタリアは南北格差と脱税の横行が原因。スペインはアメリカのサブプライムと同じ住宅バブルの崩壊で急失速しました。それぞれに原因が違うようにも見えますが、その一方でいずれでも高度の社会保障というバラマキ政策が背景にあります。

オバマはこの欧州型を標榜しているように見えるのです。「オバマケアだって」と19歳の大学生に言われました。「税金を使うだけでうまく行くはずがない。日本の国民健康保険だって実際は大赤字で破綻してるんじゃないですか?」

オバマへの逆風はそういう不安をロムニー陣営にあぶり出されたということかもしれません。しかしだからといってロムニーの描く政策でうまく行くという保証はどこにもないのです。

社会が、お金持ちたちの善意や責任感による「トリクル・ダウン(おこぼれ)」だけで成立するはずもなく、たとえば米国のお金持ち上位400人の資産を合わせると、それだけで1兆7千万ドルにもなって米国内総生産(GDP)の1割以上を占めます。その400人の平均資産は42億ドル(3300億円)。億万長者のロムニー本人もその所得の大半は投資利益で、所得税は15%しか払っていません(私を含め、普通の人たちの所得税はだいたい税率が30%です。これはけっこうきつい)。また米国ではいま地方だけでなく大都市部でさえも医師が不足していて、全米では医師がさらに1万3千人以上必要だというニュースも報じられています。こういう格差や偏差の現状を知ると、神の見えざる手だけではなく、政府による是正機能、調整機能が大いに必要なのではないかという気にもなってきます。実際にオバマの金融や自動車産業救済策は「政府の見える手」でした。

ロムニーは右派のライアンを副大統領候補に据えましたが、当選したら実際にどういう政府になるのか、中道なのか右派なのかじつは選挙用のスピーチが多すぎて正体不明なのです。ただそこは攻める側の強み、「4年間で失業率を4%台に戻す」としたオバマの公約の遅れを衝くことで、4年前の「チェンジ!」の掛け声をオバマ自身に突きつけている。

1カ月前には想像もできなかった激戦です。これもオバマの第1回討論会の生気のなさに起因しているのですから、スキを見せるのがいかに危険なことか、私も忘れられない勉強になりました。