LGBT票が決めたオバマ再選
オバマ再選はすっかり昔のニュースになってしまいましたが、2012年の総括として、LGBT票が彼の再選に果たした役割についてはここに記しておいたほうがよいでしょう。
アメリカでは今回の選挙では、出口調査によれば全投票者中ほぼ5%が自らをLGBTと公言しました。今回は1億2千万人ほどが投票しましたから、5%というのは600万票に相当します。これが激戦州で実に雄弁にモノを言ったのです。
オバマは選挙人数では332人vs206人とロムニーに大勝しましたが、実際の得票数では6171万票vs5850万票と、わずか321万票差でした。つまり2.675%ポイント差という辛勝だったのです。
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)法科大学院ウィリアムズ研究所のゲーリー・ゲイツ博士とギャロップの共同調査によると、オバマとロムニーはストレートの投票者数ではほぼ拮抗していました。しかも、選挙を決めた最重要州のオハイオとフロリダの両州では、実はロムニーの方がストレート票では勝っていたのです。
ちょっと数字が並んで面倒くさいけれど、最後まで読んでください。オバマに勝利をもたらしたのがLGBTの票だったということがわかりますから。
もともと民主党(オバマの党)はゲイ票やアフリカ系、ラテン系、アジア系米国人の票、さらにユダヤ系の票にも強い党です。それぞれはそう大きくはないグループですが、これらマイノリティ層を全部合わせると全有権者の3分の1を占めます。対して共和党は残り3分の2の層で優位に立たねば選挙に勝てません。ここで支持者層の核を形成するのはキリスト教福音派と呼ばれる白人の宗教保守派層です。この人たちは全有権者数の4分の1を占めます。
ラテン系、アジア系の人口比率はここ最近拡大しています。これは移民の増加によるものです。同時に、ゲイだと公言する有権者も増えています。ギャロップの出口調査によると、65歳以上ではLGBTを公言する投票者は1.9%に過ぎませんでしたが、30歳から49歳の層ではこれが3.2%に上昇し、18歳から29歳層ではなんと6.4%に倍増します。もちろん年齢によって性的指向に偏りがあるはずもありませんから、これはもっぱらカムアウトの比率の違いなのでしょう。そしてそのLGBT層がニューヨークやロサンゼルスといった大都市部を越えて、いま激戦州と呼ばれるオハイオやフロリダなど複数の州でも拡大しているというのです。
共和党はヒスパニックやアジア系の票を掘り起こそうとしていますが、さて、ゲイ票はどうだったのか?
出口調査ではゲイと公言する有権者の76%がオバマに投票していたことがわかりました。対してロムニーに投じた人は22%でした(投票先を答えなかった人もいます)。ストレート票はオバマvsロムニーでともに約49%とほぼ同率だったのに、です。つまり、オバマに投票したLGBTの有権者は600万票のうちの76%=474万人、対してロムニーには22%=120万人。その差は354万票になります。
思い出してください。これは、全得票数差の321万票を上回る差です。つまり、ストレート票だけではオバマは負けていたのに、このLGBT354万票の差で逆転した、という理屈になるのです。
じつは共和党の内部にも「ログキャビン・リパブリカンズ」というゲイのグループがあります。ゲイの人権問題以上に、共和党のアジェンダである「小さな政府」主義に賛同して共和党支持に回っている人がほとんどなのですが、その事務局長を務めるR・クラーク・クーパーは「反LGBT、反移民、反女性権といった社会問題に関する不協和音の大きさに共和党はいま多くの票を失っている」と分析しています。
実際、同性婚に関してはすでに全米規模で賛成・支持が過半数を超えて多数派になりました。共和党支持者ではまだ同性婚反対に回る人が多いですが、それでも今年5月のオバマによる同性婚支持発言に対して、共和党の指導的な政治家たちはそろって静かでした。以前ならば声高に非難していたところなのに、有権者の支持を得られないとわかってその問題に反対するよりもその話題を避けるようにしたのです。とてもわかりやすい時代の変化でした。クーパー事務局長も「それが時代の進むべき方向なのだと(共和党の)議員たちもわかってきている」と話しています。「もっとも、それを公式に表明することはしないだろうが」
翻って日本の総選挙です。同性婚どころかLGBTの人権問題の基本事項すら国政の表舞台ではなかなか登場してきません。得票数では前回の民主党の政権交代が実現した選挙よりも減らしているくせに議席獲得数では大勝した今回の自民党は、ある選挙前アンケート調査ではLGBTの人権問題に関しては「考えなくともよい」「反対」とこたえたそうですね。
LGBT票は日本でも世界の他の国と等しい割合で存在しています。つまりそれが政治の行方を変える力は、いまこの時点でも日本に潜在しているということなのです。それがいつ顕在化するのか、そしてどういうふうな政党に何を託す形で姿を現すのか、長い目で見なくてはならないかもしれませんが、私はそれが少し楽しみでもあります。