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ビッグブラザー

国家安全保障局(NSA)の国民監視システムの存在を暴露したエドワード・スノーデン(29)は愛国のヒーローかそれとも国家版逆の犯罪者か──オバマ自身が08年の大統領選挙のときに政府の腐敗を正す内部告発を「勇気と愛国心の行動」と話してもいて、あなたはどう思います?

ちょっと複雑な違いもあります。内部告発者とは「不正・不法を告発する人」です。ところがスノーデンの告発したことが政府の不正・不法なのかは微妙です。ベトナム戦争のときにダニエル・エルズバーグが漏洩した有名な「ペンタゴンペーパー」というのがあります。あのときは政府が議会や国民に嘘をついて戦争を準備した。その不正の経緯を証明する文書は立派に公開の根拠があった。でも今回の監視活動にはいちおう秘密裁判所の許可が出ていました。

オバマは電話の盗聴などしていないとも弁明しています。「封筒の外側を見ているだけ」と例える政府高官もいます。ところがスーザン・ランドーというサイバーセキュリティの専門家は、通話の内容そのものよりもそうしたメタデータ(具体的なデータではなくそれらを統括する、1つ次元が上のデータ)の方がはるかに多くの事実を明らかにできると言います。

彼女の説明はこうです。「例えばあなたが乳がんの検査でマンモグラムを受ける。数日後に医者が電話をかけてくる。あなたも医者に電話をかけ、その診察室に行ってそこから家族に電話をかける。何を話しているかその内容を知らなくとも、それは悪い知らせだとわかる」

別の例えもあります。サンマイクロシステムズがオラクルに買収されたときの話です。買収の前の週末、サンのCEOがオラクルのCEOと電話で話す。それで双方がともに顧問に電話をする。さらに担当者に電話をする。短い間にそれが何度も行われる。さて何が起きているか。月曜の朝の正式発表の前に、それが買収話だろうとわかってしまうのです。

今は携帯電話、携帯端末の時代。あなたのいる場所がGPS機能付きのそんな端末で4カ所判明すれば、95%の確率であなたが誰か、どういう人なのかもわかるそうです。盗聴禁止法というのはありますが、それは通話内容の盗聴を禁止するのであって、どこで何時に誰とつながったかという情報を収集することは禁じていないのです。

人間がスパイとしてそういう情報を収集するのをヒューミント(Human Intelligence)といいます。対して、コンピュータネットワークでこういうメタ情報を収集分析するのをシギント(Signal Intelligence)と言います。いまや007の時代じゃない。なにせ人間はカネがかかるし人数も必要だ。でもシギントの方法だとコストは何十分の1で済むのです。

09年に新型インフルエンザが流行した際、グーグルはそれに関連する言葉がどこでどれだけ検索されたかを調べて拡散地域を正確に割り出しました。疾病管理センターが同じ結論を導き出したのはその2週間後でした。昨年の米大統領選挙もNYタイムズの統計分析家ネイト・シルバーが100%の確率で州ごとの勝者を適中させました。これもメタデータ分析でした。もっと身近な例は、アマゾンで買い物したら次には必要なものがお勧め商品としてピックアップされている。これもシギントの一種です。

いまのこのシステムがあったら「9.11も防げたかもしれない」とFBI長官が言っています。それを言われると辛いニューヨーカーの私たち。そんなビッグブラザーの監視社会に私たちはすでに住んでいるのです。

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