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逆張りの泥団子

昨年の夏に、来月7日から始まるロシアのソチ五輪ボイコットを呼びかけるハーヴィー・ファイアスティン氏の寄稿がNYタイムズに掲載されたことを紹介しました。プーチン政権による同性愛者弾圧を見過ごして五輪に参加するのは、ユダヤ人弾圧に抗議もせずドイツ五輪に参加した1936年の国際社会と同じ愚行だ、という意見でした。当時、私は、ロシア産品の不買運動もすでに始まっており、五輪を巡るこの攻防は国際的にはさらに大きな動きになるはずだと書きました。

果たして予想は当たり、国際社会はその後、米英仏独や欧州連合(EU)などの首脳が相次いで開会式への欠席を表明して、ソチ五輪は国際的にはロシアの人権弾圧に抗議を示す異例の事態下での開会となります。

そんなときに日本の安倍首相が、「北方領土の日」に重なるとして一旦は「欠席」だった開会式に一転、出席する意向を示しました。日本はいちおう西側社会の一員ですが、欧米と逆を行くこの対応は何なのでしょう。

「日ロ関係全体を底上げし、北方領土問題の議論に前向きな結果をもたらすことを期待」と外相が代わって意味づけをしましたが、プーチンさんとの首脳会談も日程的に難しいそうです。それでも開会式に出席すれば北方領土問題でロシアに貸しを作れると思っているなら、それはナイーブに過ぎます。それより何よりロシアの例の同性愛者迫害の一件はどうスルーするのでしょうか?

日本社会では性的少数者の人権保障はいまだ大きな政治課題に育っていないのは確かです。しかし性的少数者の人権保障はいまや先進民主主義国の重要な政治傾向。それを無視して、あるいは知らない振りをしてシレッと開会式に出る。こういうのを何と言うのでしたっけ? 「逆張り」?

そこで思い出すのは昨年12月10日のマンデラさんの葬儀です。アパルトヘイトという史上最大級の差別への反省から、自身で作った南アの新たな憲法で世界で初めて同性愛者などの性的少数者への差別をも禁止したこの偉人の弔問外交の場には、世界の首脳140人が一堂に会しました。それにも安倍首相は欠席した。その3日後に東京で開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)特別首脳会議のため、というのが公式理由でした。

でもここまで来ると安倍さんは仲間はずれ、つま弾きになりそうなところには行きたくない、歓迎されるところにしか行きたくないのだと疑ってしまいます。いろいろ文句を言ってくる欧米はメンツを潰されるので嫌いなのだと。

私は日本が国際社会で「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている」国家であるという「名誉ある地位を占めたいと思」っています。でもここまで「逆張り」が続くと国際社会の動向の「読み違い」が原因というより読もうという努力をハナからしていない、いやむしろ確信犯的に「逆」を張ってどこまで「持論」を通せるか反応を試しているようにさえ思えます。その持論である「美しい国」には国際社会からの評価は必要ないのでしょうか。

国際社会に媚びろと言うのではありません。積極的平和主義だろうが何だろうが、政治も外交も一にも二にも正確な状況分析がすべての土台だということです。それなのに日本はいま、世界の情報を日本語だけで勝手にこねくり回して勝手に解釈している。伝言ゲームよろしくまったく違った牽強付会の泥団子をめでているのです。その泥団子はまずいどころか本来は食べる物ですらないというのに。

私はオバマさんの4月の来日が不安です。

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