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April 28, 2014

尖閣安保明言のメカニズム

「尖閣諸島は安保条約の適用対象」という文言が大統領の口から発せられただけで、鬼の首でも獲ったみたいに日本では一斉に一面大見出し、TVニュースでもトップ扱いになりました。でも本当に「満額回答」なんでしょうか? だって、記者会見を聴いていた限り、どうもオバマ大統領のニュアンスは違っていたのです。

もちろんアメリカ大統領が言葉にすればそれだけで強力な抑止力になります。その意味では意味があったのでしょう。しかしこれはオバマも「reiterate」(繰り返して言います)と説明したとおり、すでに過去ヘーゲル国防長官、ケリー国務長官も発言していたこととして「何も新しいことではない」と言っているのです。

Our position is not new. Secretary Hagel, our Defense Secretary, when he visited here, Secretary of State John Kerry when he visited here, both indicated what has been our consistent position throughout.(中略)So this is not a new position, this is a consistent one.

ね、2度も言ってるでしょ、not a new position ってこと。これは首尾一貫してること(a consistent one)だって。

それがニュースでしょうか? それにそもそも安保条約が適用されると言ってもシリアでもクリミアでも軍を出さなかったオバマさんが「ロック(岩)」と揶揄される無人島をめぐる諍いで軍を動かすものでしょうか? だいたい、上のコメントだって実は中国をいたずらに刺激してはいけないと「前からおんなじスタンスだよ、心配しないでね」という中国に対する暗黙の合図なのです。

それよりむしろオバマさんが自分で安倍首相に強調した( I emphasized with Prime Minister Abe)と言っていたことは「(中国との)問題を平和裏に解決する重要さ(the importance of resolving this issue peacefully)」であり「事態をエスカレートさせず(not escalating the situation)、表現を穏やかに保ち(keeping the rhetoric low)、挑発的な行動を止めること(not taking provocative actions)」だったのです。まるで中学生を諭す先生のような言葉遣いです。付け加えて「日中間のこの問題で事態がエスカレートするのを看過し続けることは深刻な誤り(a profound mistake)であると首相に直接話した(I’ve said directly to the Prime Minister )」とも。

さらにオバマさんは「米国は中国と強力な関係にあり、彼らは地域だけでなく世界にとって重大な国だ(We have strong relations with China. They are a critical country not just to the region, but to the world)」とも言葉にしているのですね。これはそうとう気を遣っています。

注目したいのは「中国が尖閣に何らかの軍事行動をとったときにはその防衛のために米軍が動くか」と訊いたCNNのジム・アコスタ記者への回答でした。オバマさんは「国際法を破る(those laws, those rules, those norms are violated)国家、子供に毒ガスを使ったり、他国の領土を侵略した場合には(when you gas children, or when you invade the territory of another country)必ず米国は戦争に動くべき(the United States should go to war)、あるいは軍事的関与の準備をすべき(or stand prepared to engage militarily)。だが、そうじゃない場合はそう深刻には考えない(we’re not serious about those norms)。ま、その場合はそういうケースじゃない(Well, that’s not the case.)」と答えているのです。

どういうことか?

実は尖閣諸島に関しては、オバマさんは「日本の施政下にある(they have been administered by Japan)」という言い方をしました。これはもちろん日米安保条約の適用対象です。第5条には次のように書いてある;

ARTICLE NO.5
Each Party recognizes that an armed attack against either Party in the territories under the administration of Japan would be dangerous to its own peace and security and declares that it would act to meet the common danger in accordance with its constitutional provisions and processes.
第5条
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危機に対処するように行動することを宣言する。

でもその舌の根も乾かぬうちにオバマさんは一方でこの尖閣諸島の主権国については「We don’t take a position on final sovereignty determinations with respect to Senkakus」とも言っているのですね。つまりこの諸島の最終的な主権の決定(日中のどちらの領土に属するかということ)には私たちはポジションをとらない、つまり関与しない、判断しない、ということなのです。つまり明らかに、尖閣諸島は歴史的に現在も日本が施政下に置いている(administrated by Japan)領域だけれども、そしてそれは同盟関係として首尾一貫して安保条約の適用範囲である(the treaty covers all territories administered by Japan)けれど、主権の及ぶ領土かどうかということに関しては米国は留保する、と、なんだかよくわからない説明になっちゃっているわけです。わかります?

つまり明らかに合衆国大統領は尖閣をめぐる武力衝突に関しての米軍の関与に関して、言葉を濁しているんですね。しかももう1つ、安保条約第5条の最後に「自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危機に対処するように行動する」とあって、この「手続き」って、アメリカはアメリカで議会の承認を経なきゃならないってことでもありますよね。米国連邦議会が「岩」を守るために軍を出すことを、さて、承認するかしら? ねえ。

この共同会見を記事にするとき、私なら「尖閣は安保条約の適用対象」という有名無実っぽいリップサービスで喜ぶのではなく、むしろ逆に「米軍は動かず」という“見通し”と「だから日中の平和裏の解決を念押し」という“クギ刺し”をこそ説明しますが、間違っているでしょうか? だってリップサービスだってことは事実でしょう? 米軍が守るというのはあくまで日本政府による「期待」であって、政治学者100人に訊いたら90人くらいは「でも動きませんよ」と言いますよ。

ところがどうも日本の記者たちはこれらの大統領の発言を自分で解読するのではなく、外務省の解釈通り、ブリーフィング通りに理解したようです。最初に書いたようにこれは「大統領が口にした」というその言葉の抑止力でしかありません。そりゃ外務省や日本政府は対中強硬姿勢の安倍さんの意向を慮って「尖閣」明言を「大成功」「満額回答」と吹聴したいでしょう。でもそれは“大本営発表”です。「大本営発表」は「大本営発表」だということをちゃんと付記せねば、それは国民をだますことになるのです。

私がこれではダメだと思っているのは、何故かと言うと、この「尖閣」リップサービスで恩を売ったと笠に着て、米国が明らかにもう1つの焦点であったTPPで日本に大幅譲歩を強いているからです。ここに「国賓招聘」や「すきやばし次郎」や「宮中晩餐会」などの首相サイドの姑息な接待戦略は通用しませんでした。アメリカ側はこういうことで恐縮することをしない。ビジネスはビジネスなのです。

思えばオバマ来日の前週に安倍さんが「TPPは数字を越えた高い観点から妥結を目指す」と話したのもおかしなことでした。「高い観点」とはこんな空っぽな安保証文のことだったのでしょうか? 取り引きの材料になった日本の農家の将来を、いま私は深く憂いています。

April 26, 2014

勘違いの集団自衛権

みんな誤解してるようだけど、日本が戦争をしかけられるときには集団的自衛権は関係ないんだよ。つまり尖閣での中国との衝突なんて事態のときは、集団的自衛権は関係ないの。どうもその辺、混同してるんだな。集団的自衛権が関係するのは、日本の同盟国である米国が攻撃されたとき。それを米国と「集団」になって一緒に防衛するってこと。つまり米国が攻撃されたらそこに日本が出て行くってこと。米国と同盟国だから。さてそこでそれを「限定的に使うことを容認したい」って言い始めてるのが安倍政権。どこまでが「限定的」なのかは、そんなの、難しくて言えない、ってさ。個別に判断するようです。でも「地球の裏側にまで出かけることはない」とも言ってるけど、「じゃあどこなら行くの?」には答えられていない。

一方、尖閣でなにかあったときに米国が日本を助けてくれるのは、これは米国側からの集団自衛権、それと、それをもっと明確にしての日米安保条約。だから、尖閣の有事の時のために集団自衛権が必要だ、と思い込んでる人は間違いなの。で、今回の日米共同声明では、尖閣も含んだ日本の施政下の場所は、それは「安保条約第5条の適用下にある」ってこと。

いわば、米国から守ってもらいたいがために、日本も米国を一緒になって守りますよ、っていう約束がこんかいの「集団的自衛権の行使」容認に向けた動きなのです。つまり、なんかあったら日本もやりますから、という証文。先物取り引きみたいなもの。約束。だから、日本になんかあったらよろしくね、というお願いとのバーター取引なのね。

でも、じつはこれ、バーターにしなくてももう昔からそう決まっていたの。だって、安保条約、前からあるでしょ? 集団的自衛権行使します、なんて決めなくても、もうそれは約束だったんだから。

じゃあ、なんでいままたそんなことを言いだしたの? というのでいろいろ憶測があって、それは、1つは靖国参拝、1つは従軍慰安婦河野発言見直し、つまりは「戦後レジームからの脱却」「一丁前の国=美しい国」──そういうアメリカが嫌がることをやらなきゃオトコじゃねえ!と思い込んでるアベが、嫌がることの代償にアメリカが有り難がってくれることをやってやればあまり強いこと言わんだろう、ま、だいじょうぶじゃね?という思惑で(というか、もちろんそれはちゃんと武力行使もできるような「一丁前のオトコらしい国家」であることの条件でもあるんでそこはうまく合致するんだけど)、それで前のめりになっているわけ。だってほら、昨年12月26日の靖国参拝で「disappointed」なんて言われちゃったから、なおさら機嫌直さないといけないでしょ。

アメリカだって、助けてくれると言うのをイヤだなんて言いません。そりゃありがとうです。でも、要は、そんなこんなでアメリカが日本の戦争に巻き込まれるような事態はいちばん避けたいわけです。でも日本が集団自衛権行使容認に前のめりになればなるほど、中国や北朝鮮を刺激してそういう事態が訪れる危険度が高まるというパラドクスがあるわけ。だから、アメリカもアメリカに対して集団自衛権を行使してくれるのはありがたいけど、まあちょっとありがた迷惑な感じが付き纏う。

だから、こんかいの共同声明では、集団自衛権の「行使容認に向けての動き」を歓迎・支持する、ではなくて、集団的自衛権の行使に関する事項について「検討を行っていること」なわけよ、歓迎・支持の対象は。

でね、オバマが強調したのは「尖閣も守られるよ」ってことじゃないの。オバマが強調したのは「対話を通した日中の平和的解決」であり、オバマは「尖閣諸島がどちらに属しているかに関してはアメリカは立場を明確にしない」と繰り返したんです。さらに「米国は軍事的関与を期待されるべきではない」とも話した。

そりゃね、大統領が明言し共同声明にも「尖閣諸島を含む日本の施政下の土地」は安保条約第5条の対象だと明示したことは、それだけで他国からの侵略へのけっこうな抑止力になります。これまでに繰り返された国務長官、国防長官レベルの談話よりは抑止力になる。その意味ではよかった。でもそれだけです。

だいたい日米安保条約第5条にはこう書いてある。

「各締結国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するよう行動する」

つまりは、まずは尖閣をめぐって攻撃されても、まずは「自国の憲法上の規定及び手続きに従って行動する」わけ。武力行使なんて、ここには明記されていない。

でもってこれ、「施政下」というのがじつはキモでね、「日本の領土」じゃないのよ。オバマは「尖閣諸島がどちらに属しているかに関してはアメリカは立場を明確にしない」と言って、「尖閣」とともに中国名の「釣魚島」の名前も言ってるのね。で、尖閣はいまは日本の実効支配下にあるけど、いったん中国が奪い取ったらこれは中国の施政下に入って、安保5条の適用される日本の施政下の領域じゃなくなるわけよ。ね? つまり、その時点で安保によって守られることから除外されるわけ。スゴい論理だよね。

そもそもあそこは無人島なんですよ。英語では「rock」と呼ばれるくらいに単なる岩なわけです(ほんとは海洋資源の権利とかあってそうじゃないんですけどね)。シリアやクリミアで軍事介入しなかったアメリカが、無人島奪還のために軍事介入しないでしょう。大義名分、ないでしょう。アメリカ議会、承認しないでしょう。するわけないもん。

だからここまで考えると、日本のメディアが今回の日米首脳会談、TPPはダメだったけど安全保障の上では尖閣の名前を出してもらって「満額回答だ!」「日米同盟の強固さに関して力強いメッセージをアピールできた!」なんて自画自賛してる政府や外務省の思惑どおりの報道をしてるけど、それ、自画自賛じゃなくて我田引水だから。実質的には何の意味もないってこと、わかるでしょ?

だから「尖閣、危ないじゃん、だから集団自衛権、必要なんじゃね?」と思ってるそこのキミ、それ、違うからね。

集団自衛権ってのは、日本が攻撃されていないのに、同盟国が攻撃されたときにそこに(友だちがやられてるのに助けないのはオトコじゃねえ!って言って)自衛隊派遣して、そんでお国のため、というよりも別の国のために、誰かが死ぬかもしれないってことだから。ま、その覚悟があるんならいいけど、そんで、誰か自衛隊員が不幸なことに殺されたら、それはもうそっからとつぜん日本の国の戦争ってことになって、そんで戦争になっちゃうってことだから。で、日本国が攻撃されるかもしれないってことだから、その覚悟、できてる? ていうか、それって、憲法、解釈変更だけでできちゃうの? ウソでしょうよ、ねえ。

そゆこと。

もいっかい言うよ、集団自衛権と尖閣は関係ない。なんか、オバマ訪日の安倍政権の物言いではまるでそうみたいだったけど、尖閣と関係するのは安保条約。集団自衛権は、その見返りとして日本が別の戦争に加わること。

でさ、その「別の戦争」だけど、友だちを助けないのはオトコじゃねえ、と反射的に思う前に、その喧嘩の仲裁に入るのがオトコでしょう、って思ってよ。そっちのほうが百倍難しい。それをやるのがオトコでしょうが。

というわけで、今回、アメリカの妥協を引き出せなかったTPPのほうが具体的な現実世界ではずっと大事なんです。私昔からTPP反対ですけど。

April 20, 2014

LGBTコミュニティ内の、LGBとTとの亀裂

ハフィントンポストにアダム・ハントという活動家の以下のようなポストがなされました。
The LGB/T Divide From a Cisgender, White Gay Male of Privilege
アメリカのLGBTコミュニティ内にあるレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル(LGB)とトランスジェンダー(T)との間の亀裂についての彼の思いを綴ったものです。

性的少数者はさまざまなカテゴリーに別れますが、「LGBT」と一括りにまとめたりされるコミュニティの中でも、じつはその間には「シスジェンダー」と「トランスジェンダー」という重大な差異があります。「シスジェンダー」と言うのは、自分の肉体的性別(セックス)と、精神的性別(ジェンダー)とが一致している(シス)ことです。

たとえばゲイ男性(G)は、自分が肉体的に男であり、精神的にも男であることで、そこに不一致はありません(シス)。それはヘテロセクシュアルの男性たちと同じです。つまり「シスジェンダー」なのです。そうして性と愛の対象がヘテロセクシュアルとは逆転している。つまり向かう先が同種(ホモ)の性(セックス)の男であるという人たちです。レズビアン(L)も同じく自分が心身共に女性ということで「シスジェンダー」であり、性愛対象がヘテロ女性とは逆転する同種の性の女性ということです。これはつまりゲイ男性と鏡の位置にある存在です。バイセクシュアル(B)も心身の性は一致していて(シスジェンダー)、性愛の対象だけが単一の性ではなく両方(バイ)の性にまたがるという人たちです。

対して、「T」で表される「トランスジェンダー」は、後段の「性愛の対象」が問題なのではありません。心身の性が転換(トランス)していること、つまり前段2つのありようがまずはLGBシスの三者とは違うのです。つまり肉体が男性で心が女性、あるいはその逆、これをトランスジェンダーと言います。それが自分の中で「障害」と感じられるほどに異和感があってどうにかその齟齬を解消したいと思うときに、それを医学的臨床的に「性同一性障害(GID)」と呼びます。日本では「障害」と名付けないと性再判定手術(いわゆる性転換手術とかつて呼ばれたもの)が受けられないのでその呼び名が法律で定義され、かつ社会的に一般に流通しました。もちろんジェンダーとセックスの不一致があってもそれを「障害」と考えていない人たちもいます。

なので、カテゴリー的には(簡略化して言うと)、自分の肉体、自分の精神、相手の肉体の3つが問題となります。

仮に「男」をM、「女」をF、で表すと、
異性愛の男性は(肉体)M(精神)M(相手)Fです。
同性愛の男性は(肉体)M(精神)M(相手)Mです。
異性愛女性は同じ順番だとFFMです。
同性愛女性はこれがFFFになります。
両性(mfと併記しましょう)愛男性は同じくMMmf。
両性愛女性はFFfm。

何れにしても最初の2つの記号は同じMMやFFで不一致はない。これが「シスジェンダー」です。

対してトランスジェンダーは、最初の2つの記号、肉体と精神の性が転換(トランス)しているのでMFもしくはFMになります。
その上で;
MFF(肉体的に男性M、精神的に女性F、性愛対象が女性F)ならば、後者2つが同じ(ホモ)なので同性愛者で、つまり肉体は男性だけれど精神は女性で、性愛の対象が女性だから、表向きには「男性」が「女性」を愛しているようには見えるけれど、その実はトランスジェンダーの「ホモセクシュアル(女性同性愛者=レズビアン)」である、ということになります。
さらにMFMならば、肉体はM、精神はF、性愛対象はM、なので、表向きは男性Mが男性Mを愛しているように見えますが心が女性なのでこれはトランスジェンダーの「ヘテロセクシュアル(異性愛者)」です。
同様に、FMMも、FMFも、さらにはトランスジェンダーでバイセクシュアルのMFfmもFMmfも存在します。
(実際はもっと複雑ですが)

そこで、一概にLGBTでは括れないさまざまな問題の差異が生まれてきます。かつてはすべて「ゲイ」と大雑把にまとめられてきたのですが(それ以前は全員「ヘンタイqueer, faggot...etc.」で十把一絡げでした)、それぞれが主体となって声を挙げ始めて問題の差異が浮き彫りになってきたのです。

それをふまえた上で、冒頭に紹介したLGBTの間の亀裂に関するブログをここで紹介しておきます。

ここではトランスジェンダーへの英語の揶揄語・侮蔑語である「トラニー tranny」という言葉の問題を第一に置いています。しかし問題はそこから派生して実際には物凄く多岐にわたります。LGという「同性愛」コミュニティの中では、トランスジェンダーの人たちの中にいる「異性愛」(つまり女性に見えてもじつは男性で、そしてしかもその男性異性愛者の心で女性を愛している)という部分が「理解できない」という人もいます。もしくはそこらへんをさっぱり勉強していないしするつもりもない、という人も。つまり、トランスジェンダーの人たちはLGBTコミュニティと一括りにされる性的少数者の中でも、一層の少数者になっているわけです。そうして、そんな性的少数者のコミュニティ(というものが確立しているのだとすればその)内部でのヒエラルキーや、それに基づく無視や軽視や偏見や差別も当然存在するわけです。それがトランスジェンダーの人々にとっては何とも面白くないし不満だし苛立つし腹立たしい。差別の酷さがわかっているはずのLGBが、さらにTを無視している、という状況です。

このアダム・ハントのブログはそのとっかかりをなぞっただけにすぎない印象ですが、しかしまずはそうした状況を理解する第一歩として掲出・訳出しておきます。

*****

The LGB/T Divide From a Cisgender, White Gay Male of Privilege
特権階級であるシスジェンダーの白人ゲイ男性から見たLGBとTとの分裂

Adam Hunt
Nonprofit and corporate special event planner; activist for social justice and equality
アダム・ハント
非営利・法人特別イベントプランナー:社会正義と平等を目指す活動家


Posted: 04/18/2014 5:13 pm EDT Updated: 04/18/2014 9:59 pm EDT


Disclaimer: I usually avoid using slurs of any kind, but for the sake of getting this point across, I'm abandoning that for this blog post. Please do not take offense.

先に免責願い:普段は誹謗中傷の言葉はいかなるものも使わないようにしているが、論点を理解してもらうためにこのブログの投稿に限ってその禁を解くことにする。ご寛恕のほど。

There's a conversation happening right now that's long overdue. With growing tensions between the LGB and T components of our community, we are doing little to bridge the gap -- quite the opposite in fact. Instead of binding together to respect one another's viewpoints and have a meaningful discussion about language in our culture, we're jumping on the defense every chance we get -- further hurting the historic bond we have. It has to stop.

もっと早くに取り上げるべきだったけれどいまやっと話が始まろうとしている。私たちLGBTのコミュニティの構成員であるLGBとTとの間にぴりぴりした空気が広がっているのだが、その亀裂を埋めるためのことを私たちはほとんどやっていない──というか、真逆のことが行われているのだ。一緒になって互いに違う互いのものの見方に敬意を払い、自分たちの文化の言葉遣いについて意義ある議論を持つ代わりに、ことあるごとに私たちは自分の身を守ることだけに躍起だ──いや、そうやって私たちが有している歴史的な絆を傷つけてもいる。こんなことは終わりにしなければならない。


Gay men: Telling trans people to stop being so touchy and sensitive over language is wrong. For too long they've stood in the dark supporting you for your fight for marriage equality and protections under the law, while you make little attempt to understand their struggles. Why are you jumping to assume this is a new sensitivity or cry for attention? Why aren't you attempting to understand that MAYBE the trans community finally feels like it has enough clout in our society to speak up for themselves? Why are we trying to stifle that and treat them as if their opinions and feelings don't matter? Was there ever a time you walked by a group of straight dudes in high school, calling one another faggots and a little piece of you died inside? It doesn't matter to you that those guys take pleasure in using the word because to you -- it sucks. THAT's what it feels like to trans men and women when you throw around "tranny," like Rhianna's new single. You may use it as a term of endearment, but to others it hurts. And rather than get defensive over using it, maybe we should start exhibiting some compassion and understand how others are affected. Maybe you weren't negatively affected by the word "faggot." I'm happy for you, but there are people who have, so maybe take a moment to understand someone else's experience.

【ゲイ男性たちへ】トランスの人たちに、そんなのは言葉の問題だからそう過敏になるなとか考え過ぎだというのは間違いだ。じつに長すぎるほどにわたり、彼ら/彼女らは同性婚や法の下での保護の問題でも君と君たちの戦いとを陰から支えてきた。にもかかわらず君らは彼ら/彼女らの苦闘をほとんど理解しようとしてこなかった。どうしてこのことを、急に過敏に反応しだしただとか、注目を浴びたくて大声を出しているだけだとかと簡単に決めつけるのか? これが、ひょっとして彼ら/彼女らトランスジェンダーのコミュニティが、私たちの社会でやっと十分なだけの力を持ち始めてついに自分たちのためにも声を挙げようとしているのかもしれない、とは考えようとしないのか? なぜその声を抑え込み、まるでそんな意見や感情などどうでもいいといわんばかりに彼ら/彼女らを軽んじるのか? 高校時代、君は、学校でストレートの男たちのグループの横を通ったとき、彼らが互いに「オカマ野郎 Faggots!」とかと言い合っているのを聞いて、自分の中の小さななにかが死んだような気になったことがあるだろう? そういう連中は、わざと君に聞こえるように、君の嫌な言葉を口に出して喜んでいる。リアーナの新しいシングル曲みたいに。だとしても君は気にしないんだね。でもそれがトランスの彼ら/彼女らが、君が「トラニー tranny」という言葉を言いふらすときに感じることだ。君はそれを親愛の言葉として使っているのかもしれない。でもそれは聞くものにとっては傷つく。だからそれを使うことの言い訳をするより、きっとなんらかの思いやりを示したり、それを聞いてどう感じるかを理解した方がいいんだと思う。ひょっとしたら君は「オカマ faggot」という言葉を聞いても傷つかなかった人なのかもしれない。それはいいことだと思う。でもそうじゃない人もいる。だからちょっと時間を割いて、自分とは違う人間の気持ちを理解してほしいのだ。


Non-trans drag queens: You are not trans. You don't get to throw around hateful terms, either, even if you feel you're reclaiming the word. It's not yours to reclaim. There are women who get beaten by their boyfriends or random strangers, left for dead, where tranny is the last word they hear. It's not a word that represents frivolity and flamboyance or whatever you want it to mean. It's not a joke, and trans people aren't a spectacle. When someone tells you they're offended by your language, instead of jumping to defend your free speech, take a moment to educate yourself on why it means so much to this person that you change your behavior. It's time we start considering each other's stories before assuming our own experiences trump those of others. RuPaul is a poor representative of this ideal. It's one thing to take pride in a term that may hurt other people, but it's another to blatantly fight the understanding of and compassion for those who are negatively affected by it.

【トランスではないドラァグ・クイーンたちへ】君はトランスジェンダーじゃない。でも不快な言葉をまき散らす必要もない。たとえその言葉を違った意味で使っていようとも。問題は君の意図ではない。自分のボーイフレンドに、あるいは見知らぬ他人たちに、殴られ、放置されて死ぬ間際に、最後に聞く言葉が「トラニー tranny」という言葉である女性たちがいるのだ。それはちょっとした軽口のつもりの、わざと浮かれた調子の、なんでもいい、君が意図するところの、そういう言葉ではない。それはジョークではないしトランスの人たちは見せ物でもない。だから誰かが君の言葉遣いに傷ついたと言ったら、自分の表現の自由を守ろうと躍起になるのではなく、どうしてそれがこの人にとってそんなに大ごとなのかを思いやって、自分の行いを改めるようにしてほしい。自分の経験してきたことが他の人間のそれより勝ると思い込む前に、そろそろお互いの物語を忖度し合うときなのだ。ルポールがこの理想を体現しきれているとは思わない。ほかの人々を傷つけるかもしれない言葉を敢えて誇りを持って使うことはある。けれどそのことと、その言葉で傷つく人々への理解や思いやりをこれ見よがしに拒むこととは別のことなのだ。


Trans people: Please understand that there are cisgender gay men who are on your side, and please continue to have this dialogue. I understand you're frustrated, hurt, annoyed, angry, etc. on how you've been treated, and for me to ask patience of you is probably insensitive, but I do ask that you help us be better allies by calmly and eloquently continuing to call us out. Continue to let us know when our words, behaviors and micro-aggressions get to you, but please forgive those of us who make mistakes unknowingly as we work to change our language and understandings to reflect yours. Please don't assume all gay men are ignorant fools, and please -- no more rebuttals beginning with: "Easy for you, cisgender white men of privilege to say..." it doesn't promote healthy discussions either. Being an ally is a constant process of empathy and understanding, and trust me, we will make mistakes -- but it doesn't make us bad people.

【トランスの人々へ】憶えておいてほしいのは、君たちの側に立つシスジェンダーのゲイ男性たちもまたいるということだ。だからこうした対話を持ち続けてほしいと思う。自分たちがどう扱われているか、そのことで君たちが不満に思っているのはわかっている。傷つき、苛立ち、怒っていることも。だから私が君たちに我慢してほしいと頼むのはきっと無神経なことだ。しかしお願いだ。私たちがより良きアライ(同盟者)になれるよう、落ち着いてかつ雄弁に私たちに挑み続けてほしい。私たちの言葉が、行いが、些細でもそのトゲが気に障ったときにはそれを知らせ続けてほしい。しかし君たちのことを表現するために言葉遣いや考え方を変えようと努力しているときに、それでも私たちの中に知らず知らず間違いを犯してしまう連中がいたら赦してほしい。どうかゲイの男たちはみんなバカで無知だと決めつけないでほしい。そしてもう1つ──「あなたたち、シスジェンダーの白人男という特権階級には簡単に言えるでしょうけれど……」で始まる反駁は止めにしてほしいのだ。それは健全な議論には進まない。アライであるということは共感と理解の不断のプロセスのことだ。そして、絶対に、私たちはこれからも間違える──でもそれは私たちが悪人だということじゃない。


We have made tremendous strides as a community together. We often think of the Stonewall riots as a momentous time in gay activism, and in many ways it was, but we can't forget that it was a collaborative effort led by LGBT people across the board. People like Sylvia Rivera -- a trans bisexual woman, helped make this happen. In our alienation of our taboo lifestyles, we bound together and created a movement. What happened? At what point did we stop considering the contributions and experiences of others outside of our own? When did arrogance and defensiveness take over our inclination for empathy?

1つのコミュニティとして私たちはともに途轍もない歩みをなしてきた。ストーンウォールの暴動はゲイの行動主義における重大な転機だったとしばしば考えられているが、そして多くの意味で確かにそうだったのだが、私たちが忘れてならないのは、あれがLGBTのすべての構成員によって導かれた共同作業だったということだ。トランスジェンダーのバイセクシュアル女性シルヴィア・リヴェラ Sylvia Rivera のような人たちがいて初めてストーンウォールは起きた。タブーだった私たちのライフスタイルの疎外の中で、私たちはともにつながり、運動を創った。そして何が起きたのか? いったいどの時点で、私たちは自分たち以外の人々の貢献と経験とに思いを馳せることを止めてしまったのか? 傲慢と自己弁護とがいつ共感への意欲に取って替わったのか?


Finding middle ground in a community as diverse, artistic, and expressionistic as ours is tough. BUT what we CAN do is respect one another and educate ourselves on how words affect us. It's high time compassion and authenticity and an attempt to understand one another be our goals in this fight for equality. Who knows? Maybe it could be the beginnings of a real revolution.

私たちのような多様で人工的でだれでも何かを言いたげなコミュニティの中で、中立的な妥協点を見つけることは難しい。けれど私たちは、互いを尊敬し合うこと、言葉がいかに重大であるかを学ぶことはできる。共感と誠意、そして互いに理解し合おうと努めること、平等を求めるこの戦いの中でそれらが私たちのゴールであるべき時なのだ。ひょっとしたら、それがきっと本当の革命の始まりになるかもしれない。

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April 17, 2014

オバマ訪日に漕ぎ着けたものの

昨年のハドソン研究所での安倍さんの「軍国主義者と呼びたきゃ呼んで」発言から靖国参拝、さらにはNHK籾井会長や経営委員の百田・長谷川発言まで、あれほど敏感に反応してうるさかった欧米メディアの日本監視・警戒網が、この2〜3カ月ぱったりと静かなことに気づいていますか?

なにより安倍さん自身が河野談話の見直しはないと国会で明言してみせたりと、これまでの右翼発言を封印した。とにかくこれらはすべて来週のオバマ来日がキャンセルになったら一大事だからなんですね。

これにはずいぶんと外務省が頑張ったようです。岸田外相以下幹部が何度もオバマ政権に接触し、米国の顔を潰すようなことはもうしないと説明した。この間の板挟み状態の取り繕いは涙ものの苦労だったようです。そういえば岸田さんは最近では自民党でさっぱり影の薄いハト派、宏池会ですからね。そこには使命感に近いものもあったのではないでしょうか。

そうして一日滞在だったのが一泊になり、次に二泊になって宮中晩餐会へのご出席を願う国賓扱いにまで漕ぎ着けた。ふつうは向こうが国賓にしてほしいと願うものなのに、今度は日本政府からオバマさんにお願いしたのです。もっともそれでもミッシェル夫人は同伴させませんが。

そこで現在の注目点はいったい23日の何時に日本に到着するのかということです。夕方なら翌日の首脳会談の前に安倍さんがぜひ夕食会に招きたい。ところがオバマさんはいまのところ安倍さんと仲の好いところを見せてもあまり国益がなさそうです。なにせTPPの交渉がどうまとまるのか(17日になった現在もまだ)わからない。ウクライナ情勢が緊迫していてそこで安倍さんと食事しているのも得策ではない。なので直前までワシントンで仕事をして日本入りは23日深夜かもしれない。そうすると日本訪問は実質的に最初の計画どおり24日の一日だけという感じ。二泊するから日本のメンツは立て、実質一日だから米議会にも申し訳が立つ。

そこで安倍さん、今年に入って米国のご機嫌伺いに集団自衛権にやけに前のめりですし、先日はリニア新幹線の技術を無償で米国に提供するとまで約束する構えになりました。ものすごいお土産外交です。

ところが米国にとっても都合の良い集団自衛権はすでに織り込み済みで新味がない。極論を言えば、そういう事態にならないようにすることこそが重要なわけで、集団自衛権を使うような有事になったらそっちのほうが米国にとってはやばい。しかも集団自衛権が日本国内で盛り上がることでむしろ集団自衛権を発動しなければならないような状況を刺激するかもしれない。つまりは自国の戦争には協力させたいが日本が起こす紛争に巻き込まれるのはまったくもって困る、というわけなのです。それは米国の国益には反するのです。だから集団自衛権なんてものは、喫緊の議題としてはオバマさんにはむしろ、どっちでもいい、くらいなところに置いておいた方が得なわけです。

で、ならばとばかりにリニア新幹線です。普通は、大もとの技術は特許関連もあるので日本が押さえる、でもインフラや部品は無償で供与する、というのが筋です。しかしそれが逆。じっさい、無償で技術提供を行って引き換えに車両やシステムをたくさん買ってもらった方が得ということもあるでしょう。

でも、ご存じのようにアメリカは鉄道の国というよりは自動車やコミューター飛行機の国です。全米鉄道網というような大規模なものならともかく、いまのところリニアは可能性としてもワシントンDC、ニューヨーク、ボストンといった東部地域のみの感じで、そこら辺は厳密に損得勘定を計算してのもの、というより、大雑把にまあここで恩を売っとけば見返りもあるんじゃないかなあ、というような感じの判断だったなんじゃないでしょうか。しかもワシントンーボルティモア間の総工費の半額の5千億円ほどを国際協力銀行を通じて融資するという大盤振る舞いなんですよ。軸足はやはり「お土産」に置いていると言ってよい。

いかに靖国で損ねたご機嫌を取り繕いたいと言っても、これって安倍さんの大嫌いな屈辱外交、土下座外交、自虐ナントカではないですか?

というわけでオバマさんの訪日、どこが注目点かというと、23日の何時に到着するかということと、翌24日の共同声明でオバマさんが安倍さんの横でどんな表情を見せるか、ということです。満面の笑みか、控えめな笑顔か。宮中晩餐会は平和主義者の天皇のお招きですから満面の笑顔でしょうが、さて、安倍さんとはどういう顔を見せるのでしょうね。