ハフィントンポストにアダム・ハントという活動家の以下のようなポストがなされました。
The LGB/T Divide From a Cisgender, White Gay Male of Privilege
アメリカのLGBTコミュニティ内にあるレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル(LGB)とトランスジェンダー(T)との間の亀裂についての彼の思いを綴ったものです。
性的少数者はさまざまなカテゴリーに別れますが、「LGBT」と一括りにまとめたりされるコミュニティの中でも、じつはその間には「シスジェンダー」と「トランスジェンダー」という重大な差異があります。「シスジェンダー」と言うのは、自分の肉体的性別(セックス)と、精神的性別(ジェンダー)とが一致している(シス)ことです。
たとえばゲイ男性(G)は、自分が肉体的に男であり、精神的にも男であることで、そこに不一致はありません(シス)。それはヘテロセクシュアルの男性たちと同じです。つまり「シスジェンダー」なのです。そうして性と愛の対象がヘテロセクシュアルとは逆転している。つまり向かう先が同種(ホモ)の性(セックス)の男であるという人たちです。レズビアン(L)も同じく自分が心身共に女性ということで「シスジェンダー」であり、性愛対象がヘテロ女性とは逆転する同種の性の女性ということです。これはつまりゲイ男性と鏡の位置にある存在です。バイセクシュアル(B)も心身の性は一致していて(シスジェンダー)、性愛の対象だけが単一の性ではなく両方(バイ)の性にまたがるという人たちです。
対して、「T」で表される「トランスジェンダー」は、後段の「性愛の対象」が問題なのではありません。心身の性が転換(トランス)していること、つまり前段2つのありようがまずはLGBシスの三者とは違うのです。つまり肉体が男性で心が女性、あるいはその逆、これをトランスジェンダーと言います。それが自分の中で「障害」と感じられるほどに異和感があってどうにかその齟齬を解消したいと思うときに、それを医学的臨床的に「性同一性障害(GID)」と呼びます。日本では「障害」と名付けないと性再判定手術(いわゆる性転換手術とかつて呼ばれたもの)が受けられないのでその呼び名が法律で定義され、かつ社会的に一般に流通しました。もちろんジェンダーとセックスの不一致があってもそれを「障害」と考えていない人たちもいます。
なので、カテゴリー的には(簡略化して言うと)、自分の肉体、自分の精神、相手の肉体の3つが問題となります。
仮に「男」をM、「女」をF、で表すと、
異性愛の男性は(肉体)M(精神)M(相手)Fです。
同性愛の男性は(肉体)M(精神)M(相手)Mです。
異性愛女性は同じ順番だとFFMです。
同性愛女性はこれがFFFになります。
両性(mfと併記しましょう)愛男性は同じくMMmf。
両性愛女性はFFfm。
何れにしても最初の2つの記号は同じMMやFFで不一致はない。これが「シスジェンダー」です。
対してトランスジェンダーは、最初の2つの記号、肉体と精神の性が転換(トランス)しているのでMFもしくはFMになります。
その上で;
MFF(肉体的に男性M、精神的に女性F、性愛対象が女性F)ならば、後者2つが同じ(ホモ)なので同性愛者で、つまり肉体は男性だけれど精神は女性で、性愛の対象が女性だから、表向きには「男性」が「女性」を愛しているようには見えるけれど、その実はトランスジェンダーの「ホモセクシュアル(女性同性愛者=レズビアン)」である、ということになります。
さらにMFMならば、肉体はM、精神はF、性愛対象はM、なので、表向きは男性Mが男性Mを愛しているように見えますが心が女性なのでこれはトランスジェンダーの「ヘテロセクシュアル(異性愛者)」です。
同様に、FMMも、FMFも、さらにはトランスジェンダーでバイセクシュアルのMFfmもFMmfも存在します。
(実際はもっと複雑ですが)
そこで、一概にLGBTでは括れないさまざまな問題の差異が生まれてきます。かつてはすべて「ゲイ」と大雑把にまとめられてきたのですが(それ以前は全員「ヘンタイqueer, faggot...etc.」で十把一絡げでした)、それぞれが主体となって声を挙げ始めて問題の差異が浮き彫りになってきたのです。
それをふまえた上で、冒頭に紹介したLGBTの間の亀裂に関するブログをここで紹介しておきます。
ここではトランスジェンダーへの英語の揶揄語・侮蔑語である「トラニー tranny」という言葉の問題を第一に置いています。しかし問題はそこから派生して実際には物凄く多岐にわたります。LGという「同性愛」コミュニティの中では、トランスジェンダーの人たちの中にいる「異性愛」(つまり女性に見えてもじつは男性で、そしてしかもその男性異性愛者の心で女性を愛している)という部分が「理解できない」という人もいます。もしくはそこらへんをさっぱり勉強していないしするつもりもない、という人も。つまり、トランスジェンダーの人たちはLGBTコミュニティと一括りにされる性的少数者の中でも、一層の少数者になっているわけです。そうして、そんな性的少数者のコミュニティ(というものが確立しているのだとすればその)内部でのヒエラルキーや、それに基づく無視や軽視や偏見や差別も当然存在するわけです。それがトランスジェンダーの人々にとっては何とも面白くないし不満だし苛立つし腹立たしい。差別の酷さがわかっているはずのLGBが、さらにTを無視している、という状況です。
このアダム・ハントのブログはそのとっかかりをなぞっただけにすぎない印象ですが、しかしまずはそうした状況を理解する第一歩として掲出・訳出しておきます。
*****
The LGB/T Divide From a Cisgender, White Gay Male of Privilege
特権階級であるシスジェンダーの白人ゲイ男性から見たLGBとTとの分裂
Adam Hunt
Nonprofit and corporate special event planner; activist for social justice and equality
アダム・ハント
非営利・法人特別イベントプランナー:社会正義と平等を目指す活動家
Posted: 04/18/2014 5:13 pm EDT Updated: 04/18/2014 9:59 pm EDT
Disclaimer: I usually avoid using slurs of any kind, but for the sake of getting this point across, I'm abandoning that for this blog post. Please do not take offense.
先に免責願い:普段は誹謗中傷の言葉はいかなるものも使わないようにしているが、論点を理解してもらうためにこのブログの投稿に限ってその禁を解くことにする。ご寛恕のほど。
There's a conversation happening right now that's long overdue. With growing tensions between the LGB and T components of our community, we are doing little to bridge the gap -- quite the opposite in fact. Instead of binding together to respect one another's viewpoints and have a meaningful discussion about language in our culture, we're jumping on the defense every chance we get -- further hurting the historic bond we have. It has to stop.
もっと早くに取り上げるべきだったけれどいまやっと話が始まろうとしている。私たちLGBTのコミュニティの構成員であるLGBとTとの間にぴりぴりした空気が広がっているのだが、その亀裂を埋めるためのことを私たちはほとんどやっていない──というか、真逆のことが行われているのだ。一緒になって互いに違う互いのものの見方に敬意を払い、自分たちの文化の言葉遣いについて意義ある議論を持つ代わりに、ことあるごとに私たちは自分の身を守ることだけに躍起だ──いや、そうやって私たちが有している歴史的な絆を傷つけてもいる。こんなことは終わりにしなければならない。
Gay men: Telling trans people to stop being so touchy and sensitive over language is wrong. For too long they've stood in the dark supporting you for your fight for marriage equality and protections under the law, while you make little attempt to understand their struggles. Why are you jumping to assume this is a new sensitivity or cry for attention? Why aren't you attempting to understand that MAYBE the trans community finally feels like it has enough clout in our society to speak up for themselves? Why are we trying to stifle that and treat them as if their opinions and feelings don't matter? Was there ever a time you walked by a group of straight dudes in high school, calling one another faggots and a little piece of you died inside? It doesn't matter to you that those guys take pleasure in using the word because to you -- it sucks. THAT's what it feels like to trans men and women when you throw around "tranny," like Rhianna's new single. You may use it as a term of endearment, but to others it hurts. And rather than get defensive over using it, maybe we should start exhibiting some compassion and understand how others are affected. Maybe you weren't negatively affected by the word "faggot." I'm happy for you, but there are people who have, so maybe take a moment to understand someone else's experience.
【ゲイ男性たちへ】トランスの人たちに、そんなのは言葉の問題だからそう過敏になるなとか考え過ぎだというのは間違いだ。じつに長すぎるほどにわたり、彼ら/彼女らは同性婚や法の下での保護の問題でも君と君たちの戦いとを陰から支えてきた。にもかかわらず君らは彼ら/彼女らの苦闘をほとんど理解しようとしてこなかった。どうしてこのことを、急に過敏に反応しだしただとか、注目を浴びたくて大声を出しているだけだとかと簡単に決めつけるのか? これが、ひょっとして彼ら/彼女らトランスジェンダーのコミュニティが、私たちの社会でやっと十分なだけの力を持ち始めてついに自分たちのためにも声を挙げようとしているのかもしれない、とは考えようとしないのか? なぜその声を抑え込み、まるでそんな意見や感情などどうでもいいといわんばかりに彼ら/彼女らを軽んじるのか? 高校時代、君は、学校でストレートの男たちのグループの横を通ったとき、彼らが互いに「オカマ野郎 Faggots!」とかと言い合っているのを聞いて、自分の中の小さななにかが死んだような気になったことがあるだろう? そういう連中は、わざと君に聞こえるように、君の嫌な言葉を口に出して喜んでいる。リアーナの新しいシングル曲みたいに。だとしても君は気にしないんだね。でもそれがトランスの彼ら/彼女らが、君が「トラニー tranny」という言葉を言いふらすときに感じることだ。君はそれを親愛の言葉として使っているのかもしれない。でもそれは聞くものにとっては傷つく。だからそれを使うことの言い訳をするより、きっとなんらかの思いやりを示したり、それを聞いてどう感じるかを理解した方がいいんだと思う。ひょっとしたら君は「オカマ faggot」という言葉を聞いても傷つかなかった人なのかもしれない。それはいいことだと思う。でもそうじゃない人もいる。だからちょっと時間を割いて、自分とは違う人間の気持ちを理解してほしいのだ。
Non-trans drag queens: You are not trans. You don't get to throw around hateful terms, either, even if you feel you're reclaiming the word. It's not yours to reclaim. There are women who get beaten by their boyfriends or random strangers, left for dead, where tranny is the last word they hear. It's not a word that represents frivolity and flamboyance or whatever you want it to mean. It's not a joke, and trans people aren't a spectacle. When someone tells you they're offended by your language, instead of jumping to defend your free speech, take a moment to educate yourself on why it means so much to this person that you change your behavior. It's time we start considering each other's stories before assuming our own experiences trump those of others. RuPaul is a poor representative of this ideal. It's one thing to take pride in a term that may hurt other people, but it's another to blatantly fight the understanding of and compassion for those who are negatively affected by it.
【トランスではないドラァグ・クイーンたちへ】君はトランスジェンダーじゃない。でも不快な言葉をまき散らす必要もない。たとえその言葉を違った意味で使っていようとも。問題は君の意図ではない。自分のボーイフレンドに、あるいは見知らぬ他人たちに、殴られ、放置されて死ぬ間際に、最後に聞く言葉が「トラニー tranny」という言葉である女性たちがいるのだ。それはちょっとした軽口のつもりの、わざと浮かれた調子の、なんでもいい、君が意図するところの、そういう言葉ではない。それはジョークではないしトランスの人たちは見せ物でもない。だから誰かが君の言葉遣いに傷ついたと言ったら、自分の表現の自由を守ろうと躍起になるのではなく、どうしてそれがこの人にとってそんなに大ごとなのかを思いやって、自分の行いを改めるようにしてほしい。自分の経験してきたことが他の人間のそれより勝ると思い込む前に、そろそろお互いの物語を忖度し合うときなのだ。ルポールがこの理想を体現しきれているとは思わない。ほかの人々を傷つけるかもしれない言葉を敢えて誇りを持って使うことはある。けれどそのことと、その言葉で傷つく人々への理解や思いやりをこれ見よがしに拒むこととは別のことなのだ。
Trans people: Please understand that there are cisgender gay men who are on your side, and please continue to have this dialogue. I understand you're frustrated, hurt, annoyed, angry, etc. on how you've been treated, and for me to ask patience of you is probably insensitive, but I do ask that you help us be better allies by calmly and eloquently continuing to call us out. Continue to let us know when our words, behaviors and micro-aggressions get to you, but please forgive those of us who make mistakes unknowingly as we work to change our language and understandings to reflect yours. Please don't assume all gay men are ignorant fools, and please -- no more rebuttals beginning with: "Easy for you, cisgender white men of privilege to say..." it doesn't promote healthy discussions either. Being an ally is a constant process of empathy and understanding, and trust me, we will make mistakes -- but it doesn't make us bad people.
【トランスの人々へ】憶えておいてほしいのは、君たちの側に立つシスジェンダーのゲイ男性たちもまたいるということだ。だからこうした対話を持ち続けてほしいと思う。自分たちがどう扱われているか、そのことで君たちが不満に思っているのはわかっている。傷つき、苛立ち、怒っていることも。だから私が君たちに我慢してほしいと頼むのはきっと無神経なことだ。しかしお願いだ。私たちがより良きアライ(同盟者)になれるよう、落ち着いてかつ雄弁に私たちに挑み続けてほしい。私たちの言葉が、行いが、些細でもそのトゲが気に障ったときにはそれを知らせ続けてほしい。しかし君たちのことを表現するために言葉遣いや考え方を変えようと努力しているときに、それでも私たちの中に知らず知らず間違いを犯してしまう連中がいたら赦してほしい。どうかゲイの男たちはみんなバカで無知だと決めつけないでほしい。そしてもう1つ──「あなたたち、シスジェンダーの白人男という特権階級には簡単に言えるでしょうけれど……」で始まる反駁は止めにしてほしいのだ。それは健全な議論には進まない。アライであるということは共感と理解の不断のプロセスのことだ。そして、絶対に、私たちはこれからも間違える──でもそれは私たちが悪人だということじゃない。
We have made tremendous strides as a community together. We often think of the Stonewall riots as a momentous time in gay activism, and in many ways it was, but we can't forget that it was a collaborative effort led by LGBT people across the board. People like Sylvia Rivera -- a trans bisexual woman, helped make this happen. In our alienation of our taboo lifestyles, we bound together and created a movement. What happened? At what point did we stop considering the contributions and experiences of others outside of our own? When did arrogance and defensiveness take over our inclination for empathy?
1つのコミュニティとして私たちはともに途轍もない歩みをなしてきた。ストーンウォールの暴動はゲイの行動主義における重大な転機だったとしばしば考えられているが、そして多くの意味で確かにそうだったのだが、私たちが忘れてならないのは、あれがLGBTのすべての構成員によって導かれた共同作業だったということだ。トランスジェンダーのバイセクシュアル女性シルヴィア・リヴェラ Sylvia Rivera のような人たちがいて初めてストーンウォールは起きた。タブーだった私たちのライフスタイルの疎外の中で、私たちはともにつながり、運動を創った。そして何が起きたのか? いったいどの時点で、私たちは自分たち以外の人々の貢献と経験とに思いを馳せることを止めてしまったのか? 傲慢と自己弁護とがいつ共感への意欲に取って替わったのか?
Finding middle ground in a community as diverse, artistic, and expressionistic as ours is tough. BUT what we CAN do is respect one another and educate ourselves on how words affect us. It's high time compassion and authenticity and an attempt to understand one another be our goals in this fight for equality. Who knows? Maybe it could be the beginnings of a real revolution.
私たちのような多様で人工的でだれでも何かを言いたげなコミュニティの中で、中立的な妥協点を見つけることは難しい。けれど私たちは、互いを尊敬し合うこと、言葉がいかに重大であるかを学ぶことはできる。共感と誠意、そして互いに理解し合おうと努めること、平等を求めるこの戦いの中でそれらが私たちのゴールであるべき時なのだ。ひょっとしたら、それがきっと本当の革命の始まりになるかもしれない。
Follow Adam Hunt on Twitter: www.twitter.com/AdamTopherHunt
ツイッターでアダム・ハントをフォローしよう: www.twitter.com/AdamTopherHunt/