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勘違いの集団自衛権

みんな誤解してるようだけど、日本が戦争をしかけられるときには集団的自衛権は関係ないんだよ。つまり尖閣での中国との衝突なんて事態のときは、集団的自衛権は関係ないの。どうもその辺、混同してるんだな。集団的自衛権が関係するのは、日本の同盟国である米国が攻撃されたとき。それを米国と「集団」になって一緒に防衛するってこと。つまり米国が攻撃されたらそこに日本が出て行くってこと。米国と同盟国だから。さてそこでそれを「限定的に使うことを容認したい」って言い始めてるのが安倍政権。どこまでが「限定的」なのかは、そんなの、難しくて言えない、ってさ。個別に判断するようです。でも「地球の裏側にまで出かけることはない」とも言ってるけど、「じゃあどこなら行くの?」には答えられていない。

一方、尖閣でなにかあったときに米国が日本を助けてくれるのは、これは米国側からの集団自衛権、それと、それをもっと明確にしての日米安保条約。だから、尖閣の有事の時のために集団自衛権が必要だ、と思い込んでる人は間違いなの。で、今回の日米共同声明では、尖閣も含んだ日本の施政下の場所は、それは「安保条約第5条の適用下にある」ってこと。

いわば、米国から守ってもらいたいがために、日本も米国を一緒になって守りますよ、っていう約束がこんかいの「集団的自衛権の行使」容認に向けた動きなのです。つまり、なんかあったら日本もやりますから、という証文。先物取り引きみたいなもの。約束。だから、日本になんかあったらよろしくね、というお願いとのバーター取引なのね。

でも、じつはこれ、バーターにしなくてももう昔からそう決まっていたの。だって、安保条約、前からあるでしょ? 集団的自衛権行使します、なんて決めなくても、もうそれは約束だったんだから。

じゃあ、なんでいままたそんなことを言いだしたの? というのでいろいろ憶測があって、それは、1つは靖国参拝、1つは従軍慰安婦河野発言見直し、つまりは「戦後レジームからの脱却」「一丁前の国=美しい国」──そういうアメリカが嫌がることをやらなきゃオトコじゃねえ!と思い込んでるアベが、嫌がることの代償にアメリカが有り難がってくれることをやってやればあまり強いこと言わんだろう、ま、だいじょうぶじゃね?という思惑で(というか、もちろんそれはちゃんと武力行使もできるような「一丁前のオトコらしい国家」であることの条件でもあるんでそこはうまく合致するんだけど)、それで前のめりになっているわけ。だってほら、昨年12月26日の靖国参拝で「disappointed」なんて言われちゃったから、なおさら機嫌直さないといけないでしょ。

アメリカだって、助けてくれると言うのをイヤだなんて言いません。そりゃありがとうです。でも、要は、そんなこんなでアメリカが日本の戦争に巻き込まれるような事態はいちばん避けたいわけです。でも日本が集団自衛権行使容認に前のめりになればなるほど、中国や北朝鮮を刺激してそういう事態が訪れる危険度が高まるというパラドクスがあるわけ。だから、アメリカもアメリカに対して集団自衛権を行使してくれるのはありがたいけど、まあちょっとありがた迷惑な感じが付き纏う。

だから、こんかいの共同声明では、集団自衛権の「行使容認に向けての動き」を歓迎・支持する、ではなくて、集団的自衛権の行使に関する事項について「検討を行っていること」なわけよ、歓迎・支持の対象は。

でね、オバマが強調したのは「尖閣も守られるよ」ってことじゃないの。オバマが強調したのは「対話を通した日中の平和的解決」であり、オバマは「尖閣諸島がどちらに属しているかに関してはアメリカは立場を明確にしない」と繰り返したんです。さらに「米国は軍事的関与を期待されるべきではない」とも話した。

そりゃね、大統領が明言し共同声明にも「尖閣諸島を含む日本の施政下の土地」は安保条約第5条の対象だと明示したことは、それだけで他国からの侵略へのけっこうな抑止力になります。これまでに繰り返された国務長官、国防長官レベルの談話よりは抑止力になる。その意味ではよかった。でもそれだけです。

だいたい日米安保条約第5条にはこう書いてある。

「各締結国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するよう行動する」

つまりは、まずは尖閣をめぐって攻撃されても、まずは「自国の憲法上の規定及び手続きに従って行動する」わけ。武力行使なんて、ここには明記されていない。

でもってこれ、「施政下」というのがじつはキモでね、「日本の領土」じゃないのよ。オバマは「尖閣諸島がどちらに属しているかに関してはアメリカは立場を明確にしない」と言って、「尖閣」とともに中国名の「釣魚島」の名前も言ってるのね。で、尖閣はいまは日本の実効支配下にあるけど、いったん中国が奪い取ったらこれは中国の施政下に入って、安保5条の適用される日本の施政下の領域じゃなくなるわけよ。ね? つまり、その時点で安保によって守られることから除外されるわけ。スゴい論理だよね。

そもそもあそこは無人島なんですよ。英語では「rock」と呼ばれるくらいに単なる岩なわけです(ほんとは海洋資源の権利とかあってそうじゃないんですけどね)。シリアやクリミアで軍事介入しなかったアメリカが、無人島奪還のために軍事介入しないでしょう。大義名分、ないでしょう。アメリカ議会、承認しないでしょう。するわけないもん。

だからここまで考えると、日本のメディアが今回の日米首脳会談、TPPはダメだったけど安全保障の上では尖閣の名前を出してもらって「満額回答だ!」「日米同盟の強固さに関して力強いメッセージをアピールできた!」なんて自画自賛してる政府や外務省の思惑どおりの報道をしてるけど、それ、自画自賛じゃなくて我田引水だから。実質的には何の意味もないってこと、わかるでしょ?

だから「尖閣、危ないじゃん、だから集団自衛権、必要なんじゃね?」と思ってるそこのキミ、それ、違うからね。

集団自衛権ってのは、日本が攻撃されていないのに、同盟国が攻撃されたときにそこに(友だちがやられてるのに助けないのはオトコじゃねえ!って言って)自衛隊派遣して、そんでお国のため、というよりも別の国のために、誰かが死ぬかもしれないってことだから。ま、その覚悟があるんならいいけど、そんで、誰か自衛隊員が不幸なことに殺されたら、それはもうそっからとつぜん日本の国の戦争ってことになって、そんで戦争になっちゃうってことだから。で、日本国が攻撃されるかもしれないってことだから、その覚悟、できてる? ていうか、それって、憲法、解釈変更だけでできちゃうの? ウソでしょうよ、ねえ。

そゆこと。

もいっかい言うよ、集団自衛権と尖閣は関係ない。なんか、オバマ訪日の安倍政権の物言いではまるでそうみたいだったけど、尖閣と関係するのは安保条約。集団自衛権は、その見返りとして日本が別の戦争に加わること。

でさ、その「別の戦争」だけど、友だちを助けないのはオトコじゃねえ、と反射的に思う前に、その喧嘩の仲裁に入るのがオトコでしょう、って思ってよ。そっちのほうが百倍難しい。それをやるのがオトコでしょうが。

というわけで、今回、アメリカの妥協を引き出せなかったTPPのほうが具体的な現実世界ではずっと大事なんです。私昔からTPP反対ですけど。

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