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中古(ちゅうぶる)の大切さ

CNNとニューズウィーク・ジャパンがそろって先日、建て替えられる東京のホテル・オークラ本館を惜しむ記事を掲載しました。老朽化が進み,20年の東京五輪を前に建て替えてしまえというものですが、CNNは「時代の中に取り残されたような趣きが魅力だったタイムカプセル的ホテル」と重要性を強調し、ホテルの保全運動を支持しています。

こういうのを読むにつけ、私たちはどうしていつも外国人の指摘で日本のよいものに気づくのだろうと思います。

思えば世界無形文化遺産に登録された和食だって、私が日本を離れた20年前にはだれも騒いでいませんでした。だいたい懐石・会席料理だって料亭になんか一般人が入ることはまずなかった。政治家とか経済界の重鎮たちが行く密室料理のことだったのです。

それが急にロビュションやらデュカスやらが日本料理に注目しだして、そこに菊乃井の村田さん辺りが和食の普及に奮闘し、世界ばかりか日本国内に向けても同時売り出しをしたわけです。それまでは、日本では何かの折りの豪勢な食事と言えば中華やフレンチだったのですから。

遡れば桂離宮だって昭和8年に来日したブルーノ・タウトが「これは凄い」って言ったというので日本人も「ああ、そうなのか」と気づいた。京都そのものだってかつては単なる修学旅行の場所でした。それが世界中から観光客が溢れもてはやしてやっとふつうの日本人も広く「そうだ、京都に行こう」となった。

ニューズウィークにオークラを惜しむエッセイを書いたのはレジス・アルノーさんというフランス人なんですが、この人、六本木ヒルズや計画される新国立競技場も大嫌い。スカイツリーは東京の衰退の象徴とバッサリ。東京駅と東京ステーションホテルも「改装前の面影はほとんどなく、東京ディズニーランド駅だ」と情け容赦ない。

対してオークラは「最先端のホテルではない。『古風』と言ってもいい。だが、ホテルオークラのロビーは戦後の日本の卓越した力強さを見事に映し出している」とべた惚れ。CNNも「セイコーの時計が入った世界地図には今でもレニングラード(現サンクトペテルブルク)の時刻が表示される。バー『ハイランダー』では世界各地でとうに姿を消したカクテルが注文できる」「何でも取り壊して大きく作り直すのが主流のアジアにあって、ホテルオークラはかつて素晴らしかったものへの敬意を思い起こさせる存在だった」

世界にはものすごく古いものと、ものすごく新しいものが混在しています。その中間にオークラのようなものが存在している。この、中くらいに古いものがどうして大切かというと、これ、生きている人間たちの記憶だからです。生きてきた時代の記憶なのです。つまりノスタルジアの源だということです。

でもこの「中くらいに古いもの」、言葉を換えれば「中古」「中ブル」です。その重要性を敢えて意識していなければすぐに「建て替え」「買い替え」の対象です。

いま生きている日本人の大多数にとってはそれは「昭和」のことなんでしょう。オークラも前回の東京五輪前の昭和37年に開業しました。そうした昭和の記憶とノスタルジアとが、とても古いものととても新しいものとの橋渡し役を担っているのですが、私たちはついそのことを忘れがち。じつはこの中くらいに古いものが庶民の文化のカギを握っているのです。それがなければ歴史は脈絡を失ってバラバラにほどけてしまうのですから。それを、外国人に指摘されないまでも意識していたいと思うのですが。

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