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October 10, 2014

「イスラム国」とは何か?

9.11の後で私たちはこれからの戦争が国家vs国家ではなく、国家vsテロ集団だということを知らされました。領土も持たず絶えず移動する相手にどういう戦争が可能なのか、それを考えている最中に今度は「イスラム国」が出てきました。
オバマ大統領も今年初め彼らをNBAになぞらえて「一軍に上がれない連中」「大した脅威ではない」と見ていました。ところがあれよあれよと勢力を拡大しシリアからイラクに侵攻し、この6月に指導者のアブバクル・バグダディが自らを「カリフ(ムハンマドの後継者=最高権威者)」と名乗って「イスラム国」の建国を宣言したころにはすでに国際的に無視できない存在になっていたのです。

アルカイダもタリバンも「国」を模索しませんでした。ところがこの「イスラム国」は「国」です。ただしこの「国」は私たちの言う「国」とは違うのです。

現在の世界は「それぞれが主権を有する国家」同士の共存体制を執っています。日本も米国も英国もぜんぶそんな「主権国家」です。この考え方は17世紀のウエストファリア条約で確立しました。この「主権国家」は帝国主義や植民地主義や第一次、第二次世界大戦を経て統合したり分裂したり独立したりして現在に至ります。ただし「主権国家の共存体制」といっても国境線がまっすぐだったりするアフリカや中東では無理矢理この「国家」像を押し付けられた感も残ります。

それに対して「イスラム国」の「国」は違います。これは国境や領土や国民といった世俗的な国ではなく「神の国」という意味です。イスラム教を真に信じる人がいれば国境も領土も関係なくそこが「イスラム国」だという意味なのです。

これはつまり、世俗的な「国家」を単位として構成されている現在の世界に対する、根本的な対峙なのです。そんな堕落した世俗の「国」ではなく、神の「国」なのだ、ということです。

そこに世界数十カ国から10000人以上の若者が戦闘員として集まっている。欧米からも3000人がシリアに入っていると言われます。彼らはイスラム原理主義への共鳴者だけではなく、金権主義で堕落した西欧社会に愛想を尽かした層、西欧で高まるネオナチなどによる移民排斥運動あるいは9.11以降の米国でのイスラム教嫌悪で真っ向から差別を受けた中東などからの移民2世3世です。さらには「自分探し」「英雄志向」「変身願望」の者たちも少なくありません。なにせイスラム教とは本来、困っている者たちを無償で支え合う理想の相互扶助、平等の宗教だからです。イスラム教においては利子を取ることさえ禁止されています。

ところが「イスラム国」はそこから徹底して異教徒を排斥する。異教徒なら奴隷にしても斬首してもかまわないと公言する。支持者たちはそれを「度を超した過激」とは見ずに「純粋」なイスラム主義と受け取る。

この「排斥主義」は元を正せば欧米のイスラム教徒排斥の裏返しです。国家であれば「自衛のための攻撃」と呼ばれ、国家でなければ「テロ」と呼び捨てるのはアルカイダやタリバンを相手にしたときだけではなく、イスラエルとパレスチナの関係でもそうでした。

そうした卑劣な「近代国家」像に「神の国家」の力を対峙させる──それは斬首された米国人ジャーナリストたちがその公開動画でオレンジ色の服を着せられていたことでも明らかです。あれは米国の、アブグレイブ刑務所の囚人服の再現なのです。私たちは私たちの拠って立つ世界の基盤への本質的な問いかけに直面しているのです。

October 06, 2014

脅迫者の手口

NHKの新しい朝ドラ「マッサン」で、主人公のマッサンこと亀山政春がスコットランド人女性エリーと結婚して帰国しました。でもマッサンの母親役の泉ピン子は外国人との結婚など認めず、エリーに「政春のことを思うなら、あの子の将来を考えるならどうぞ国へ帰ってつかぁさい」と迫った。ああそう来たか、と思いました。古今東西の脅迫者は直接の相手ではなくその恋人や家族が危ういぞと脅すのが常だからです。

そうなると問題は当事者の手を離れ、被害の可能性を無限に広げます。脅された相手はもう自分の覚悟や判断だけではどうにもなりません。泉ピン子のその台詞を聞きながら私が思っていたのは、大阪の帝塚山学院大に、従軍慰安婦問題に関するいわゆる「吉田証言」の記事を執筆した元朝日新聞記者の教授を辞めさせなければ大学を爆破するという内容の脅迫状が届いた事件です。

周知のとおり「吉田証言」とは故・吉田清治氏が戦時中に軍令に従って済州島などで「若い朝鮮人女性を拉致・強制連行して慰安婦とした」と証言したものです。そして今年8月5日、朝日新聞はこの吉田証言を虚偽として関係する過去の記事を取り消しました。朝日はこれで多くの批判を浴びており、安倍首相までが「日本のイメージは大きく傷ついた。『日本が国ぐるみで性奴隷にした』とのいわれなき中傷が世界で誤報によって作り出された」と、記事取り消しに乗じてまるで慰安婦問題そのもの(つまりは河野談話も)がなかったかのような物言いをしています。

帝塚山学院大は、この爆弾テロ予告を受けて自主退職を選んだ朝日OB教授の辞表をそのまま受理しました。いわばテロに屈して学問と言論の拠って立つ矜持を放棄したわけです。「大学のことを思うなら、辞めてつかぁさい」ということでしょう。

一方、同じような脅迫が北海道の北星学園大にも届きました。ここにも吉田証言に関わった朝日OB記者が非常勤講師を務めているのです。しかし北星学園は「本学が主体的に判断する」と、脅しに屈しない毅然たる態度を表明しています。

とはいえこの朝日OB記者の高校生の長女はネットで氏名、写真をさらされ「自殺に追い込む」と脅され、長男の高校の同級生は同姓のために間違われてネット上でやはり名指し写真付きで「売国奴のガキ」と書かれた。まさに家族を脅す悪者の典型パターンです。

こうしたネット上での安易な右翼的振る舞いの有象無象を「ネトウヨ」と称しますが、その増殖は安部政権自体の振る舞いに鼓舞されてか最近目に余るものがあります。政権自体が彼らをまともに批判しないばかりか、ときにはかばう仕草すら見せるのですから。そこに「売らんかな」の週刊誌がここぞとばかりに嫌韓・嫌中で販促を行う。

ネトウヨたちはものごとを「愛国」と「反日」で分け、日本批判をすべて「反日」認定してネット上で「炎上」を仕掛けます。なんとも寒々しい光景です。「反日」はかつての「非国民」の怒声と同じなのですが、彼らはなぜか「非国民」という言葉は使いません。いっそのこと使えば正体がはっきりするのに、さすがにそれはまずいと知っているのでしょう。

いまの日本を席巻しようとする「愛国勢力」たちが、自分たちの振りまく罵倒と憎悪と怨嗟の言葉が古今東西の脅迫者たちの手口と似通っていることに気づくことはあるのでしょうか。作家の高橋源一郎さんは言っています。「自称『愛国者』たちは『愛国』がわかっていないのではない。『愛』が何なのかわかっていないのだ」