「圧勝」の正体
「自公圧勝」と一面に大見出しが踊ったのは読売と産経でした。しかしその割に各局の開票速報テレビ特番に顔を出した安倍総理はあまり笑顔が持続しませんでした。というかはっきり言って時にとても苛立っていた。
中でもひどかったのは読売系であるはずの日本テレビ「NEWS ZERO」での村尾信尚キャスターへの受け答え。アベノミクスで賃金は来年も上がると強調する安倍首相に対し「中小企業に賃上げ余力はあるのか」と問われると、安倍さんはスタジオからの音声イヤフォンを外して「村尾さんみたいに批判しているだけでは何も変わらない」と一方的にまくし立てる始末。言いたいことしか言わない例の「強弁で糊塗」癖と「言い返し」癖がまたぞろ出てきて、とても「圧勝」の将の弁とは思えません。
もう1つはテレビ東京「池上彰の総選挙ライブ」。「集団的自衛権について選挙戦であまり触れていなかった」と指摘されて安倍さん、「そんなことありませんよ。今までもテレビの討論会で何度も議論したじゃないですか!」「(自民党が)勝ったから(集団的自衛権について)訴えていなかったというのはおかしいと思いますよ」と語気を強めました。
つまり今回の選挙結果は「集団的自衛権容認も支持を得られたと受け止める」ということです。うーむ、そう言いたいのは山々でしょうが、自民党が選挙前、国民の意見がかなり分かれる問題から懸命に話題をそらそうとしていたのも事実。菅官房長官は選挙が決まった先月19日の記者会見で集団的自衛権に関しては「既に憲法改正を国政選挙の公約にしており(信を問う)必要はない」と明言していて、秘密保護法についても「いちいち信を問うべきではない」と争点化を避けていたのです。そして「信を問うのはアベノミクス」と言い切っていた。
自公合わせて議席占有3分の2以上は選挙前と変わりません。つまり「圧勝」ながらも「現状維持」なのです。しかも自民党は議席を3つ(追加公認で最終的に2つ)減らしている。
では何のための選挙だったのか? 野党の体たらくのうちにあわよくば自民だけで3分の2の議席を、とでも皮算用していたのか? 実際、産経新聞などはそう予想していました。安倍さんのあの日の苛立ちはそこら辺が原因かもしれません。
一方で憲法9条改変に反対の党は150から174議席に、原発再稼働慎重派の党は119から139議席へと増えました。そもそも自民のストッパーを自称する公明党が議席を増やしての前議席数越え。そして反自民鮮明な共産が大幅増。自民より右翼と言われる次世代の党が壊滅状態。安倍政権へのこのメッセージは予想以上に明らかではないかと思われます。
前回衆院選も似たようなものでしたが、比例区で自民党に投票した人は今回も全有権者の17%に過ぎません。3分の2という「圧勝」はあくまで小選挙区制というプリズムを通しての数字です。得票率を全国完全比例代表制で議席に分配したら与党勢力は自民158、公明65、次世代12で計235議席で全475議席の過半数に至らず。対して野党勢力は民主87、維新75、共産54、社民12、生活9、幸福2云々となるそうです。
まあいずれにしても14年前の森喜朗政権以降、小泉フィーバーの時の3回を除けば自民党の比例区絶対得票率は16〜18%どまりです。国民有権者の6人に1人くらいしか自民党に積極的に投票していないとすれば、これは「圧勝」という見かけよりも「支持横ばい」が実態です。しかしそれでも安倍政権は「圧勝」で動いていくのでしょう。そして私たちはそれを見越しての対応を考えなければならないのでしょう。