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July 21, 2015

「理解」が足りない?

どうにも引っかかるのが、安保法案の審議に関して「国民の理解が進んでいない」と繰り返す安倍首相以下、政権の言葉です。「反対しているのは理解していないからだ。理解さえ進めば賛成するはずだ」とはつまり、この法案に異例の抗議署名を連ねた日本の1万人の学者・研究者を筆頭に、反対者はみな理解力に欠けるという認定なのでしょうか。

「理解が進んでいないから反対している」のではなく、「この法案は憲法違反であり、安倍首相のこの性急な強行姿勢はどこかおかしい」と「理解」しているからこそ反対している──じつは政府はそれを恐れているのです。16日の衆院強行採決は、これ以上「理解が進む」と反対がさらに増えるので「支持率の高い今のうちに強行採決した方がよい」という判断が働いていたのですから。

はたして安保法案強行可決で安倍内閣の支持率は30%台にまで急落し、不支持は50%前後に増えました。これを受けて安倍首相はおそらくは人気浮揚の秘策と用意していたのでしょう、それまでは論外としてきた大不評の新国立競技場の突然の建設計画白紙撤回を発表しました。しかも実は「1カ月前から検討していた」という打ち明け話まで付けて、あたかもこれが首相自らの英断であるとの印象操作までしながら。そうであるとすればなぜ、撤回20日前の6月29日にそもそも総工費2520億円(+加算忘れの周辺整備費72億円)の政府案を決定したのか、という矛盾はスルーしたまま。

だいたい、3000億円もの馬鹿げた建設案を認めたのは政府であり、それを政府自らが撤回したからといって、それが支持率回復につながるという都合のよい発想はどこから来るのでしょう。思いっきり落書きをしてしまった小学生が自分でそれを消したからといって、そこで言うべきことは「ボクってエラいでしょ」ではなくて「ごめんなさい」なのです。

安保法案の「理解を進める」ために首相は20日、かねてより懇意である日枝会長のフジTVの番組に90分も出演して、「支持率を上げるために政治をしているのではない」とうそぶきました。ひとさまの年金をジャブジャブつぎ込み株価を上げ、円安を仕組んで海外への日本売りを進めてはアベノミクスの功績だと吹聴して支持率を維持してきた、それがすべての強権の前提であると骨の髄まで知っているはずの御仁の言うこととはとても思えません。

そして集団的自衛権の「わかりやすい説明」として持ち出したのがまた三軒の家が燃える「たとえ話」です。首相は「日本の消防士たちが、日本に延焼する恐れがあるのでアメリカの離れの家の火事を一緒に協力して消すというのが集団的自衛権だ」と話し、それが国際的に正しい行動規範だと強調したのですが、このたとえ話は軍事の常識に無知なのか、知ってて国民をだましにかかってるのかどちらかです。

だって、「火事」には「敵」はいません。火を消すときに襲撃される心配はないし、消火活動に協力することで憎まれることもありません。

首相は他にもこれを「町内みんなで戸締まりをしっかりやろうという法案、特定の泥棒をやっつけようという法案ではない」と説明したことがあります。これもおかしな「たとえ話」です。なぜならそれは集団安全保障の話であって、敵を想定する集団的自衛権の話ではないからです。

「理解」を進めると言いながらその実「理解」を妨げる政府のこの不誠実を、「理解」しているからこその反対であるということを、今後の参院審議を通して安倍政権はしみじみ理解すべきなのです。

July 06, 2015

復興五輪の嘘

前回のエントリーの最後に今の自民党の政治的知性の劣化の例として「新国立競技場」の名前も出しました。当初予算を895億円上回る2520億円の建物です。

印象的だったあの北京五輪の鳥の巣競技場は540億円で建ちました。ロンドン五輪のスタジアムだって840億円、今回の予算上乗せ分だけでも建つ計算です。おまけに新国立は、過小見積りだと批判された50年間の修繕費もやはり「656億円」から「1000億円以上」に修正されました。しかもそれらの数字の全ては、これでもまだ控えめな計算値なのです。

なぜそんな大赤字の建物に待ったがかけられないのでしょうか。第一の元凶は森喜朗元首相のようです。東京五輪大会組織委員会の会長を務める元首相は、1本1千億円といわれるあの2本のキールアーチのデザインに固執しています。あのユニークなデザインが五輪誘致成功の決め手だったから、という、なんともどうでもいいようなことが理由です。建設主体を管轄する下村博文文科相も「国際公約だから」と同様の亡国セリフ。

先日、IMF(国際通貨基金)への支払いを実行できずに「延滞」措置で債務不履行(デフォルト)を先延ばしされたギリシャのその支払額は2000億円です。新国立の2520億円で十分なお釣りがきます。もっともギリシャの国家債務は44兆円にのぼりますので2000億円の後も支払いは続きますが、それを言うなら日本の借金(国際発行額)は1千兆円以上あるのでギリシャどころではありません。そして、ギリシャのこの経済破綻は、アテネ五輪が国家財政を圧迫した04年から始まっているのです。

目の前で展開するそんなギリシャの悲劇は、日本の未来とは無関係と言い切れるのでしょうか?

このバカげた新国立競技場の建設を止められないのは、「新たに設計をやり直すと最短で19カ月かかり、19年9月開幕のラグビーW杯に間に合わない」(文科省)からだそうです。ここでも6月まで日本ラグビー協会会長だった森喜朗の影がちらつきます。そんなもの、主会場を横浜にある72,000人収容の日産スタジアムに移せばいいだけの話なのです。

安倍首相は今度の東京五輪を「復興五輪」にしたいと話していました。かつ一昨年9月の五輪招致演説では、福島第一原発は「私が保証する。状況はアンダーコントロールだ(統御できている)」と言い張りました。「私が首相なんだから私が責任者だ」という例の大言壮語です。そして東日本大震災の後始末は今もまだメドが立っていません。

毎日新聞が書いています。先日、石巻市で震災後初の「復興マラソン」が開かれました。64年の東京五輪の聖火台を借りてきていたそうです。その火をずっと灯し続けようとしたが費用の800万円が調達できなかった。「800万円と895億円──被災地がコツコツと資金を集めている時、新国立の巨額の追加予算が決まった。どう考えても金銭感覚がずれていないか」「市全体では1万人以上が仮設住宅で暮らす」「もし895億円が被災地に回れば、単純計算で住宅3580戸分の財源になる」

「復興五輪」の口だけぶりを見ていると、この政権は歴史だけでなく事実までも「糊塗」しようとしているように思えます。「武器輸出三原則」は「防衛装備移転三原則」と変わり、前線に武器や燃料を補給する「兵站」は「後方支援」と置き換えられ、「戦争」加担法案は「平和安全」法制と名を変えています。そしてその「解釈合憲」の法案は来週にも「強行」ではなく粛々と採決される手はずのようです。