復興五輪の嘘
前回のエントリーの最後に今の自民党の政治的知性の劣化の例として「新国立競技場」の名前も出しました。当初予算を895億円上回る2520億円の建物です。
印象的だったあの北京五輪の鳥の巣競技場は540億円で建ちました。ロンドン五輪のスタジアムだって840億円、今回の予算上乗せ分だけでも建つ計算です。おまけに新国立は、過小見積りだと批判された50年間の修繕費もやはり「656億円」から「1000億円以上」に修正されました。しかもそれらの数字の全ては、これでもまだ控えめな計算値なのです。
なぜそんな大赤字の建物に待ったがかけられないのでしょうか。第一の元凶は森喜朗元首相のようです。東京五輪大会組織委員会の会長を務める元首相は、1本1千億円といわれるあの2本のキールアーチのデザインに固執しています。あのユニークなデザインが五輪誘致成功の決め手だったから、という、なんともどうでもいいようなことが理由です。建設主体を管轄する下村博文文科相も「国際公約だから」と同様の亡国セリフ。
先日、IMF(国際通貨基金)への支払いを実行できずに「延滞」措置で債務不履行(デフォルト)を先延ばしされたギリシャのその支払額は2000億円です。新国立の2520億円で十分なお釣りがきます。もっともギリシャの国家債務は44兆円にのぼりますので2000億円の後も支払いは続きますが、それを言うなら日本の借金(国際発行額)は1千兆円以上あるのでギリシャどころではありません。そして、ギリシャのこの経済破綻は、アテネ五輪が国家財政を圧迫した04年から始まっているのです。
目の前で展開するそんなギリシャの悲劇は、日本の未来とは無関係と言い切れるのでしょうか?
このバカげた新国立競技場の建設を止められないのは、「新たに設計をやり直すと最短で19カ月かかり、19年9月開幕のラグビーW杯に間に合わない」(文科省)からだそうです。ここでも6月まで日本ラグビー協会会長だった森喜朗の影がちらつきます。そんなもの、主会場を横浜にある72,000人収容の日産スタジアムに移せばいいだけの話なのです。
安倍首相は今度の東京五輪を「復興五輪」にしたいと話していました。かつ一昨年9月の五輪招致演説では、福島第一原発は「私が保証する。状況はアンダーコントロールだ(統御できている)」と言い張りました。「私が首相なんだから私が責任者だ」という例の大言壮語です。そして東日本大震災の後始末は今もまだメドが立っていません。
毎日新聞が書いています。先日、石巻市で震災後初の「復興マラソン」が開かれました。64年の東京五輪の聖火台を借りてきていたそうです。その火をずっと灯し続けようとしたが費用の800万円が調達できなかった。「800万円と895億円──被災地がコツコツと資金を集めている時、新国立の巨額の追加予算が決まった。どう考えても金銭感覚がずれていないか」「市全体では1万人以上が仮設住宅で暮らす」「もし895億円が被災地に回れば、単純計算で住宅3580戸分の財源になる」
「復興五輪」の口だけぶりを見ていると、この政権は歴史だけでなく事実までも「糊塗」しようとしているように思えます。「武器輸出三原則」は「防衛装備移転三原則」と変わり、前線に武器や燃料を補給する「兵站」は「後方支援」と置き換えられ、「戦争」加担法案は「平和安全」法制と名を変えています。そしてその「解釈合憲」の法案は来週にも「強行」ではなく粛々と採決される手はずのようです。