文章教室
毎日新聞神奈川版のコラムにこんなのが載った。まあ、書き方からいってまだ一年生とか二年生記者だろうから経験も浅いのだろうが、こういう現場の話も聞かないで単なる思いつきだけで書くテキストの結論が、恣意によってどうとでもなることを例示したいと思う。支局記者は、まず現場、とにかく現場、そこを虚心に歩き回り疲れるほど話をし話を聞き、そしてその中でどういう自分を書いてゆくのか、時間をかけて深く考えていってほしい。
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記者のきもち:ノーパサラン /神奈川
毎日新聞 2015年10月01日 地方版
「ノーパサラン」という言葉をご存じだろうか。安全保障関連法案を審議する参議院特別委員会が16日に横浜市で開いた地方公聴会の会場の周辺で、法案に反対するデモの参加者の一部が国会議員の車両を取り囲んで何度も叫んでいた。
「憲法9条を守れ」とのボードを掲げた初老の男性が、困惑の表情を浮かべていた。「何という意味ですか」。尋ねられた私も分からない。インターネットで検索し、「やつらを通すな」という意味のスペイン語らしいと知った。
デモを否定するつもりはないが、意味が通じる仲間による仲間に向けた大合唱に、近寄りがたさを感じた。「法案反対」に共感するデモの参加者にさえ理解できない言葉が、遠巻きに眺める人々の心に届くのかと疑問を抱いた。
2時間後。異様な熱気は消え、数人がビラを配るだけになった。受け取る人はわずかだったが、法案に反対する理由がしっかりと書かれていた。「ノーパサラン」の連呼が、法案について考えてみようとする人の機会を奪う「通せんぼ」にならなかったか。地道な活動を続ける人たちを前に思った。【水戸健一】
***私的改訂版
記者のきもち:ノーパサラン
「ノーパサラン」という言葉をご存じだろうか。安全保障関連法案を審議する参議院特別委員会が16日に横浜市で開いた地方公聴会の会場の周辺で、法案に反対するデモの参加者の一部が国会議員の車両を取り囲んで何度も叫んでいた。
「憲法9条を守れ」とのボードを掲げた初老の男性に聞かれた、「何という意味ですか」。ネットで検索してみた。スペイン内戦の際の合言葉だった。「やつらを通すな」。フランス語にも英語にも存在する、自らの立場を死守しようという国際的な合言葉。
なるほどこのデモは、意味が通じ合う仲間うちだけの集まりではないのだと感じた。世界中の歴史的な民主勢力の思いが、実は今この日本の横浜に集まる人々にも通じている。そんなことを教えてくれる大合唱。「法案反対」デモの参加者は、実は知らないところで世界ともつながっている。それはやがて遠巻きに眺める人々の心にも届くかもしれない。
2時間後。異様なほどの熱気は消え、数人がビラを配るだけになった。受け取る人はわずかだったが、法案に反対する理由がしっかりと書かれていた。「ノーパサラン」という不思議な言葉の連呼が、法案について考えてみようとする人の好奇心を少しでも刺激してくれるかもしれない。後片付けのゴミ拾いをする人たちを前にそう思った。【現場で取材してもいないのに取材したみたいに作文する北丸雄二】