分裂する共和党をつなぐもの
クリーブランドの共和党大会は波乱の幕開けでした。CBSの人気トークショーホストのコメディアン、スティーブン・コルベアが大会リハーサルの最中に突然、映画「ハンガー・ゲーム」の司会者役の扮装で勝手に壇上に上がり込み、「ハンガーゲームの始まり〜!」と叫んで退場させられるという一幕がありました。もちろんトランプをめぐる一連の共和党内の〝骨肉の殺し合い〟を皮肉ったものです。
波乱は開会後も続きました。反トランプ派の代議員が予備選の結果にとらわれずに投票できるよう規則を変更せよという〝反乱〟を起こそうとして叶わず、一斉に会場を立ち去るという事態が起きたのです。おまけに大統領経験者のブッシュ親子やブッシュ弟ジェブ、元大統領候補のロムニー、マケイン両氏ら重鎮も「アイスクリーム・パーティーがある」(何と重大な用件でしょう!)とか「仕事がある」とかいう理由で大会に姿を見せませんし、予備選を戦った地元のケーシック・オハイオ州知事でさえ目と鼻の先にいながら欠席なのです。
共和党内だけではありません。党大会にスポンサー支援していたコカ・コーラやペプシコ、フェデックス、ビザ、アップル、フォードなど数十の法人や個人が今回はスポンサーを降りました。これで資金不足に陥った大会準備委員会が、600万ドル(6億円)もの援助を共和党支持の大富豪、カジノ・ホテル王のシェルドン・アデルソンに依頼したという手紙も先週暴露されました。それもこれも、女性や移民、障害者などのマイノリティに関するこれまでのトランプの差別コメントが原因です。
そもそも共和党は福音派などのキリスト教右派とか男性主義を貫こうとする銃規制反対派だとか、政府はカネを使うような余計なことはするな(=オレたちから余計な税金は取るな)式の小さな政府主義のリバタリアンとかネオリベの大企業や富裕層とか、あるいは異人種異文化を嫌う白人主義の南部・中西部の労働者層とか、利害も思惑も向いてる方向もまったく違う人々の奇妙な集合体なのですが、その微妙な均衡状態がトランプという稀代のトリックスターの登場で崩れてきているのです。そんな分裂を象徴するかのように、共通する団結の象徴はただ一つ、「Lock Her Up!(あの女を牢屋に入れろ!)」と、メール問題のヒラリー・クリントンへの敵対心を連呼することでした。いわばそれだけがこの共和党全国大会の全員共通のテーマなのです。
最新の世論調査ではトランプvsクリントンという二者択一に、58%もの有権者が不満を持っているという結果が出ました。こうした状況で、いま最も不気味なのがこれまでの大統領選で何度も共和党の黒幕として動いてきた大富豪コーク兄弟の動向です。石油化学産業「コーク・インダストリーズ」のこの経営者兄弟はともにフォーブズの富豪十傑に入る大金持ち。というか会社は上場していないので、全部が親族経営で自分たちのもの。結果、2人合わせると計800億ドル(8兆円)という資産を持っているとされるのです。これは世界一の大富豪ビル・ゲイツの資産750億ドルをも凌駕する額です。
そのコーク兄弟は予備選ではずっと茶会系のテッド・クルーズを応援し、かつ、彼らが支援する共和党政治家を金持ちにシッポを振る「操り人形」とコケにした(もちろん自分はカネがあるからそんな必要はない、と自慢する)トランプを毛嫌いしてきました。
しかしここにきてトランプが副大統領候補として選んだのがインディアナ州のマイク・ペンス知事でした。実はこのペンスがコーク兄弟と昵懇で、本選挙でこれまでのように自費で選挙費用を捻出し続けるのがとうとう困難になってきたトランプにとって(彼の資産は40〜50億ドルほどでしかありません)、コーク兄弟との重要なパイプ役を果たすのではと言われているのです。ひょっとしたらこの「カネ」こそが、共和党の内部分裂を繋ぎ止める、「クリントン」以外のもう一つの共通項かもしれません。「カネ」を仲介させて、トランプはコーク兄弟と、すなわち共和党の中央とがもう一度手を結ぶ。仮面の結託。何せコーク兄弟にとって、毛嫌いの度合いはトランプなんかよりもずっとビル&ヒラリー・クリントンの方が強いのですから。
もっとも、このトランプ=コーク連合は間違いなくクリントンにとっても絶好の攻撃材料になります。それはトランプがこれまで攻撃してきたエスタブリッシュメントとの、トランプ自身の結託だからです──しかしまあ、トランプの支持者層というのはそんな「矛盾」を気にするような繊細な人たちではありませんが。