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「トランプ大統領」の可能性

週をまたいでの共和、民主両党の全国大会が終わって、トランプ、クリントン両候補の正式な指名が決まりました。計8日間、演説だけでそれぞれが4日間ぶっ通しの大会を開けるという(しかもそのすべてをテレビがニュース中継するという)のは、アメリカという国の政治の言葉の強さを改めて思い知らされた感じです。

しかし「言葉が強い」というのは対立をもまた鮮やかに浮かび上がらせるもので、日本的な「まあまあ」も「なあなあ」も通用しない各4日間でした。トランプの共和党大会では歴代大統領やその候補たち主流派の重鎮の多くが欠席し、アイオワやコロラドなどの代議員たちも抗議の退場。クリントンの民主党でもサンダーズ派によるブーイングや退場騒ぎもありました。

さて、あと100日ほどで行われる11月の選挙の行方はどうなるのでしょう。最新の世論調査では支持率では再びクリントンがリードし、70%の確率でクリントンが大統領になるとの予想もあります。

しかしあえて気になる数字を挙げれば、実は大統領選挙というのはだいたい50%〜55%の投票率で推移しているということです。つまり総投票数は1億人から1億3千万人ほどで、民主、共和両党候補の得票数の差は、2000年のブッシュ対ゴアでは55万票という小差(しかも得票数ではゴアが勝っていました)、04年のブッシュ対ケリーでは300万票差、08年のオバマ対マケインでこそ1千万票という久々の大差でしたが、前回の12年オバマ対ロムニーではまた300万票差に戻りました。つまりいずれもかなりの僅差なのです。

両党で色濃い分裂と混乱で、実は58%もの有権者がトランプ・クリントンの2候補による選挙に不満を持っているという数字があります。すると今回の投票率は50%かそれ以下になる可能性もあります。つまり、それだけ少ない得票で大統領への道が開ける。つまりわずか数百万票の新たな掘り起こしで大統領の椅子はぐっと近づく。本当は州ごとの細かい分析が必要なんですがね。

ただし、それを起こしたのが2000年のブッシュ陣営でした。当時の敏腕選挙参謀カール・ローブは、それまで選挙になど行ったことのないキリスト教福音派の400万票を掘り起こしたと言われています。それが激戦州の要所要所で利いた。

それと同じ現象がトランプの予備選で起きました。予備選でのトランプの獲得票数は総投票数ざっと3000万票中の1400万票でした。この3000万票というのは共和党の予備選挙ではかつてない多さで、この増えた数百万票分はほとんどがトランプ票だったのです。

トランプ支持層の核は教育水準の低い白人労働者層とされます。この人たちは日頃から生活に不満を持ちながらもそれを政治に結びつける術を知らなかった人たちです。エリートが立候補する選挙にも「どうせ自分たちは関係ない」と無関心だった人たち。

それが今回は俄然、自分たちと同じような言葉でしゃべるテレビで知る顔が立候補して、エラそうな「政治的正しさ」連中をさんざんこき下ろしてくれている。

「そうじゃなくても黒人が大統領だなんて気に食わなかった。それが今度はオンナが大統領になるだなんてどういうことだ? アメリカの主人公は白人の男たちだったはずだ。それがいつの間にか隅っこに追いやられて、ああ、腹が立つ。俺たちのアメリカを取り戻そう!」なのです。

その人たちが数百万人分、そっくりトランプ票に上乗せされるとしたら? しかもこれまでより低い投票率の中で? それがこのままトランプ現象が続いた場合の私の”懸念”です。

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