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October 10, 2016

勝負あったか?

前回、トランプに対するジャーナリスムの総攻撃が始まったと書きました。トランプをここまでのさばらせたのもマスメディアです。いざとなったらその落とし前をつけて、アメリカのジャーナリズムは選挙前に事実チェックでトランプ降ろしを始めるだろうと言ってきましたが、まさにそれが今度はワシントン・ポストによって実践されました。しかも今度は「Grab them by the pussy」という発言の録音ビデオです。

この問題はトランプによる一連の女性蔑視発言ではありません。「わいせつ」発言です。

ピューリタンが建国した米国で「卑猥な人格」は致命的でさえあります。たとえ「ロッカールーム・トーク」だと弁明しても、それは血気盛んなプロアスリートでも人気の芸能人でもありません。大統領候補です。

共和党のポール・ライアン下院議長はこれを受けて第2回討論会の席でなんと「投票先未定者」の聴衆席に座り、翌日には「トランプを支持しないし選挙応援もしない」と態度を変えました。彼だけではありません。トランプ支持取りやめは共和党の中でどんどん拡大しています。

背景には大統領選と同時に行われる下院選と上院改選があります。トランプへの嫌悪で、本来の共和党支持者たちが実際の投票所でトランプを支持する共和党の候補者たちの名前を選ぶことを忌避するかもしれない。それを避けるために自ら「そんなトランプは支持しない」と表明しておく必要があるわけです。ライアン下院議長もその辺りを睨んで、「今後は下院での過半数を確保することに集中する」と方針転換したわけです。

第2回討論会は実際、自分のことは棚に上げて全ての質問とその答えを相手への個人攻撃に転じさせたトランプにクリントンも応酬して下世話感甚だしく、メディアのコメンテイターが口々に形容するところによれば「テレビ放送が始まった1960年以降で『最低』『前代未聞』のもの」になりました。

象徴的なシーンはその「わいせつ発言」を責められたトランプが「俺は言葉だけだが、ビル・クリントンは実行したんだからもっとひどい」と言い返したところです。まるで小学生のようなすり替え、責任転嫁。もう1つは自分が大統領になったらEメール問題でヒラリーに特別検察官を立てて再捜査させるとするトランプに彼女が「彼のような感情的な人間がこの国の法の番人でなくてよかった」と言った際、「俺ならお前を牢屋に入れちゃうからな」と横槍を入れたシーンです。

政敵を刑務所に入れるのは民主主義ではない独裁国家の話です。これほど反アメリカ的な(あるいは子どもっぽい敵意剥き出しの)発言は「前代未聞」なのです。

クリントンとトランプの支持率の差は調査によっては11とか15ポイントの差まで広がりました。この時点での2桁の差は、とうとう勝負あったかの感さえあります。

しかしここで考えなければならないのは、トランプ支持層の中核をなすとされる、これまで政治になど関心のなかった学歴のない白人男性労働者層の他に、実はかなり知的な層にも「隠れトランプ支持者」がいるのではないかという説です。

ニューヨークなどの民主党の牙城の大都会で、おおっぴろげにトランプ支持を話せる人は多くはありません。お前はバカかと言われるのがオチです。ところが、"知的"に考えれば考えるほど「人権が第一」「移民も平等に」「差別はいけない」と言った「政治的正しさ(PC)」が行き詰まりを迎えるのは確実だ、と思っている人も相当数いるはずです。また、おそらくは富裕層(あるいは中流層以上)であろうそんな"知的"な人たちが、富裕層への課税を増やすというクリントンに反発し、税制を始めとして富裕層の自分自身が損をしないような政策しか絶対にとらないであろうトランプの方を支持するのはさらに確実だと思われるのです。

つまりは表向き「国のためにはクリントン」のPC顔をしながら、いざ投票となったら「自分のためにトランプ」支持に回ることも大いにあり得る。極端な格差社会とはそういうものです。解消できっこない、ならばこの道の延長戦でも、自分の世界だけはカネの力を使ってでも確保しておきたい、それが「神は自ら助くる者を助く」であると。

最後の3回目の討論会は19日のラスベガスですが、残念なことにそこでの焦点は経済ではなく外交問題です。彼らにトランプへの投票を確実にさせるような話題ではありませんが、しかしトランプ支持層というのは"知的"であろうがなかろうが、討論会はどうでもいい層なのかもしれません。だいたい彼は政策のことなどはなから全く話してなんかいないのですから。

October 03, 2016

ジャーナリズムの総攻撃が始まった

大統領選挙があと一月で決着します。ここにきて大手メディアが相次いで「トランプ大統領阻止」の論陣を張り、総攻撃を行っている感もあります。

驚いたのはUSAトゥデイです。ご存じのようにこの新聞は全米50州すべてで発行されていてどのホテルに泊まってもだいたい置いてあります。創刊34年というまだ新しい新聞ですが発行部数は190万部。政治的中立を謳ってこれまでの大統領選挙でどんな候補への支持も表明してきませんでした。曰く「私たちはその方針を変える必要性を感じてきませんでした。今の今までは(...Until Now.)」と。そして新聞社論説委員室の全員一致の総意として「トランプ候補は大統領として不適格」と結論付けています。しかもその理由の列挙で、「気まぐれで発言する」「偏見を振りまく」と続いた後で最後に「シリアル・ライアーである」と、まるで「シリアル・キラー(連続殺人犯)」みたいな「嘘つき魔」認定。結果、「彼には投票すべきではない」と明言しているのです。

激戦州かつ重要州のオハイオ州でも、これまで1世紀近く共和党候補しか支持してこなかった大手紙「シンシナティ・エンクワイアラー」がヒラリー支持に回りました。カリフォルニア州で148年間も共和党候補を支持し続けてきた「サンディエゴ・ユニオン・トリビューン」もヒラリー支持。アリゾナ州最大手の「アリゾナ・リパブリック」紙も創刊126年の歴史で初めて、さらに「共和党(リパブリカン)」というその新聞名の由来にも反して、トランプを「能力も品位もない」と断じました。ブッシュ元大統領の出身地であり最大の保守州であるテキサス州でさえ、主要紙「ダラス・モーニング・ニュース」が「トランプ氏の欠点は次元が違う」としてヒラリー支持という「苦渋の選択」をしました。大手メディアで正式にトランプを推したものは10月3日時点ではまだ存在しません(ヒラリーは30紙以上)。共和党予備選の時点ではマードック率いるニューズコーポレーションの「NYポスト」やゴシップと宇宙人ネタで売る「ナショナル・エンクワイアラー」など4紙が彼を支持していたのですが。

そんな中でトランプの連邦所得税の納税回避の可能性がNYタイムズによってスクープされました。発端は9月23日に同紙ローカルニュース担当記者に届いたマニラ封筒です。封筒はトランプの会社のもので、差出人の住所もマンハッタンの「トランプタワー」。中にあったのは、これまでトランプ陣営が公表を拒否してきた1995年の納税申告書のコピー3ページ分。そこにあった申告所得額は「9億1600万ドル(916億円)の赤字」でした。

当時の税制度では不動産会社がこうした巨額損失を計上した場合、その赤字を翌年以降に繰り越して、1年に5000万ドル(50億円)を上限としてその年の利益と相殺することが出来ます。つまり毎年の利益がその範囲内なら18年以上に渡って税金を納めなくてもよい計算になるわけです(ちなみにそれ自体は法律違反ではありません)。

さて、どこの誰が何のためにこんなコピーをタレ込んだのでしょう? トランプ陣営及び企業の内部の人間であることは間違いないでしょう。投票間際でも支持者離れを加速させるような暴言を繰り返すトランプのことです、これまでの選挙戦で十分パブリシティ効果も得られたことだし、今後のビジネスもそれで安泰。ひょっとしたら本当は面倒臭い大統領になんかはこれっぽっちもなりたくなんかなくて、「妻のメラニアに出させたんじゃないの?」という陰口まで聞こえています。いやはや。

ジャーナリズムの総攻撃が始まった

大統領選挙があと一月で決着します。ここにきて大手メディアが相次いで「トランプ大統領阻止」の論陣を張り、総攻撃を行っている感もあります。

驚いたのはUSAトゥデイです。ご存じのようにこの新聞は全米50州すべてで発行されていてどのホテルに泊まってもだいたい置いてあります。創刊34年というまだ新しい新聞ですが発行部数は190万部。政治的中立を謳ってこれまでの大統領選挙でどんな候補への支持も表明してきませんでした。曰く「私たちはその方針を変える必要性を感じてきませんでした。今の今までは(...Until Now.)」と。そして新聞社論説委員室の全員一致の総意として「トランプ候補は大統領として不適格」と結論付けています。しかもその理由の列挙で、「気まぐれで発言する」「偏見を振りまく」と続いた後で最後に「シリアル・ライアーである」と、まるで「シリアル・キラー(連続殺人犯)」みたいな「嘘つき魔」認定。結果、「彼には投票すべきではない」と明言しているのです。

激戦州かつ重要州のオハイオ州でも、これまで1世紀近く共和党候補しか支持してこなかった大手紙「シンシナティ・エンクワイアラー」がヒラリー支持に回りました。カリフォルニア州で148年間も共和党候補を支持し続けてきた「サンディエゴ・ユニオン・トリビューン」もヒラリー支持。アリゾナ州最大手の「アリゾナ・リパブリック」紙も創刊126年の歴史で初めて、さらに「共和党(リパブリカン)」というその新聞名の由来にも反して、トランプを「能力も品位もない」と断じました。ブッシュ元大統領の出身地であり最大の保守州であるテキサス州でさえ、主要紙「ダラス・モーニング・ニュース」が「トランプ氏の欠点は次元が違う」としてヒラリー支持という「苦渋の選択」をしました。大手メディアで正式にトランプを推したものは10月3日時点ではまだ存在しません(ヒラリーは30紙以上)。共和党予備選の時点ではマードック率いるニューズコーポレーションの「NYポスト」やゴシップと宇宙人ネタで売る「ナショナル・エンクワイアラー」など4紙が彼を支持していたのですが。

そんな中でトランプの連邦所得税の納税回避の可能性がNYタイムズによってスクープされました。発端は9月23日に同紙ローカルニュース担当記者に届いたマニラ封筒です。封筒はトランプの会社のもので、差出人の住所もマンハッタンの「トランプタワー」。中にあったのは、これまでトランプ陣営が公表を拒否してきた1995年の納税申告書のコピー3ページ分。そこにあった申告所得額は「9億1600万ドル(916億円)の赤字」でした。

当時の税制度では不動産会社がこうした巨額損失を計上した場合、その赤字を翌年以降に繰り越して、1年に5000万ドル(50億円)を上限としてその年の利益と相殺することが出来ます。つまり毎年の利益がその範囲内なら18年以上に渡って税金を納めなくてもよい計算になるわけです(ちなみにそれ自体は法律違反ではありません)。

さて、どこの誰が何のためにこんなコピーをタレ込んだのでしょう? トランプ陣営及び企業の内部の人間であることは間違いないでしょう。投票間際でも支持者離れを加速させるような暴言を繰り返すトランプのことです、これまでの選挙戦で十分パブリシティ効果も得られたことだし、今後のビジネスもそれで安泰。ひょっとしたら本当は面倒臭い大統領になんかはこれっぽっちもなりたくなんかなくて、「妻のメラニアに出させたんじゃないの?」という陰口まで聞こえています。いやはや。