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ハイパー共和党政権

北朝鮮問題の気がかりの一つは、米軍というのはこれまで本格展開した後で何もせずに引き返したことがほとんどないことです。数少ない例外は62年のキューバ危機でしたか。でも、いま対峙しているのはケネディとフルシチョフではなく、先週も書いたとおりトランプと金正恩です。
 
ところが先週から今週にかけ、トランプ政権の雰囲気が何やら明らかに変化してきました。シリア・アサド政権へのトマホーク攻撃、アフガン・イスラム国に対する大規模爆風爆弾(MOAB)の投下といったあからさまな軍事的見せびらかしに、一気に北朝鮮への先制攻撃の可能性が取りざたされましたが、不意に自制的、抑制的な発言が目立つようになった。

何と言ってもマクマスター補佐官(安全保障担当)の16日の発言「平和的解決のために、軍事オプションに至らぬ(short of a military option)すべてのアクションを取る」です。17日にはスパイサー報道官が「トランプ政権は北朝鮮にはレッドラインを設けない」とまで言っていました。

イケイケどんどん破茶滅茶煽動パタンからのこの変化は何なのでしょう? 私はこれは、トランプ政権が看板こそトランプという破天荒なトリックスターの姿を維持しながらも(それが彼が当選できた理由でしたから)、その内実は密かに従来型の共和党政権に戻そうとしている、そんな兆候の最初の表れではないかと勘ぐっています。

人事を見ればわかります。大衆への煽りとフェイクニュースでトランプ政権の「性格」そのものだった"影の副大統領"スティーブ・バノン首席戦略官が国家安全保障会議(NSC)から外れたのは、習近平との米中首脳会談(6〜7日)が行われる直前でした。バノンが主導してきた入国禁止令やメキシコの壁、オバマケア撤廃などのブチ上げ型の政策はいずれもうまく行っていません。おまけにロシアゲートの影がつきまとうのです。

ロシアとの関係で辞任したマイケル・フリンの後釜となったマクマスターの入閣条件は、NSCの人事を自分に任せてほしいということでした。そこでバノンが外れ、ダンフォード統合参謀本部議長らが常任メンバーに戻った。マクマスターは陸軍中将、ダンフォードは海兵隊大将です。そこに同じく海兵隊大将だったジェイムズ・マティス国防長官がいて、トランプ政権の外交政策の主要な一端を担うことになったのです。

もう一端は石油メジャー最大手エクソンモービル会長だったティラーソン国務長官、そして「倒産王」と呼ばれた銀行家・投資家のウィルバー・ロス商務長官です。ロスはトランプを例のタージマハルホテルの借金地獄から救った男です。この産業界のやり手たちが文民・経済外交の担い手です。そしてそこには財務長官のスティーブン・ムニューチン、国家経済会議(NEC)議長のゲーリー・コーンといったゴールドマン・サックス(GS)出身の金融界が控えている。

結果、今どういうことが起きているかというと、中国との貿易戦争は起きておらず、選挙公約だった為替操作国指定も北朝鮮交渉の労に免じてペンディングされています。オバマ政権の遺産であるとして破棄すると言っていたイランと核合意は破棄に動いていず、在イスラエル米国大使館のエルサレム移転も聞こえてこない。つまりアメリカ政府の外交は、なんだか少し落ち着きを取り戻しているのです。

それもこれもバノンが外れ、代わりにイヴァンカとクシュナーの娘夫婦が台頭し、そこに従来の軍産共同体に金融も加わった軍産金共同体の思惑が結集し、より強大なハイパー共和党型の政策が実行されようとしているからではないのか? それが発足100日を経てやっとまとまりつつある、まさに旧態依然のエスタブリッシュメントとしてのトランプ政権の正体ではないのか?──それが今現在のトランプ政権に対する私の印象です。

でもそれは、エスタブリッシュメントでがんじがらめになった閉塞状況の中で、そこを打ち壊してもらいたいと願って彼を支持した白人労働者達には、いったいどう映るのでしょうね。

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Comments

 トランプが勝った時、「又裂き」にならないためには共和党エスタブリッシュメントか、票をくれた人たちのどっちかに軸足を移すことになる、それも前者の可能性が高いと思ってたんですが、その兆候が見えてきた、ってことでしょうね。本人は途中で嫌気がさして政策は人任せにしちゃうような気もします。
 そうだとするとトランプ支持者の「裏切られ感」は半端じゃないと思うんだけど、「壁」と「保険」と「Made in USA」のおためごかしで、所得の再分配なしに4年間保たせられるのか、っていうのが焦点になる。願わくば早いうちに失望感が広がって中間選挙で民主党の圧勝、っていうシナリオになってほしいです。

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