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次に辞めるのは誰か?

すこし遡ってコミーFBI長官解任の伏線を見てみましょう。

前回で触れたようにホワイトハウス内部は4月に入ってマクマスター安保担当補佐官の台頭と、さらにはその後のバノン一派の巻き返しで大変な権力闘争が吹き荒れていました。その4月末の就任100日のロイター・インタビューでトランプは大統領職を「もっと簡単だと思っていた」とボヤいています。

4月30日に取りまとめられた予算案では国境の壁、環境問題、オバマケア撤廃などの強気公約がほとんど盛り込まれず終いでした。5月1日のラジオ・インタビューでは南北戦争について第7代大統領のアンドリュー・ジャクソンが「こんな戦いをする理由はないと本当に怒っていた」と話し、一般常識も知らないと呆れられました(ジャクソンは南北戦争の16年前の1845年に死んでいます。おまけに黒人奴隷農場主で、たとえ生き続けていたとしても南北戦争に怒るなら逆の理由でしょう)。

積もり積もったストレスが噴き出します。その日のツイートで彼は「ジャクソン大統領は16年前に死んでいても南北戦争が起こると分かっていて怒っていたんだ」と意味不明の言い返しをしました。

そして翌2日、突然脈絡もなくヒラリーとコミーを攻撃したのです。

ツイートはこうです。「ヒラリーにとってコミーは最高の贈り物だった。どんな悪いことでもできるというフリーパスを彼女に与えたんだから」「トランプ/ロシアのウソ話は、選挙に負けた民主党の言い訳だ。まさにトランプの選挙戦が偉大だったってことじゃないか」

ここでは明確にヒラリー=コミー=ロシア疑惑の3つが繋がっています。公約したトランプ主義そのものの政策が思うように進まず、しかもロシアの影だけは延々と付きまとっている。それはさらに続きます。

3日、コミーが上院公聴会で、昨年10月28日のクリントンのメール問題再捜査発表に関し「選挙に影響したかもと思うといささか吐き気(nauseous)がする」と証言。さらにロシア政府の米政治への介入はあるかとの問いに「イエス」と答えました。トランプ当選はその結果だと言わんばかりに。(トランプはこの「吐き気」を、重大な影響を与えたかもしれないその関与の責任に対するコミー自身の恐れの表れではなく、自分が大統領になったことへの、自分へ向けられた嫌悪感だと受け取ったというアホな話もあります)

4日、あのオバマケアの再度の改廃法案が僅差でやっと下院を通過しましたが、「オバマケアは死んだ」と宣言したトランプの思惑とは裏腹に「上院通過は難しい」という論調が支配しました。

そんな時に当のコミーがローゼンスティン司法副長官にロシア疑惑捜査のためのFBI予算の増額と人員増強を依頼してきます。

8日、ロシアゲートで2月に辞任した安保担当補佐官マイケル・フリンに関して、オバマ前大統領も、昨年11月の当選直後のトランプに補佐官起用は危ないと進言していたこと、イエーツ前司法長官代理も1月の政権発足6日後という早さで「フリンはロシアから脅迫を受ける恐れがある」とトランプ側に伝えていた事実が上院公聴会で明らかになります。にもかかわらず、トランプはフリンを重用していたわけです。それに関してもトランプは「そもそもフリンを登用したのはオバマだ」という、責任転嫁にもならない話を持ち出して言い訳しました。この辺あたりから精神状態も良くなかった。

まだあります。追い打ちをかけるようにさらにはもうすぐ上院情報委員会が召喚状を出し、フリン並びにトランプ選挙対策本部長を務めたポール・マナフォート、選挙コンサルタントを務めたロジャー・ストーン、選挙の外交政策顧問を務めたカーター・ペイジに文書の提出を求めて、選挙へのロシア干渉の有無を調べるという情報が入りました。11日にはコミーの再度の情報委員会証言も予定されていました。

トランプの精神状態がまたも不安定だというのはホワイトハウス詰めの記者たちの話題になっています。人に会いたくないようだ、表舞台に出たくなさそうだ、ストレスの極みにある……云々。

そして迎えた9日夕、コミーの電撃解任が発表されたのです。

背景にロシアゲートとそのストレスがあることは明らかでしょう。トランプは、捜査が佳境に入りつつあるこの時期に捜査主体の中心人物を解任するという実に愚かな発作的行動に出たわけです。しかも報道官や副大統領までが、司法長官セッションズや司法副長官ローゼンスティンからの進言書簡(クリントンEメール問題の捜査終了を立件判断機関である司法省の職権を冒しまでして7月5日に独断で発表した失態と職権逸脱。10月28日の再捜査着手を通常の非公開捜査でよかったはずなのに「発表するか隠蔽するか」という二者択一であるかのように公表して発表を選んだとした失態)を受け取った大統領が、解任という苦渋の決断をしたのだという筋書きを用意して説明していたのに、「コミー解任は以前から自分で決めていた」と解任翌日のNBCとのインタビューでいけしゃあしゃあと披瀝した。次いでコミーに対し、「私たちの会話の録音テープがないことを祈ったほうがいい」と、訳のわからない脅迫ツイートまでしたのです。

この解任経緯説明の公の矛盾は有権者・納税者・国民への説明責任の不正です(しかも10月28日の件はまるでヒラリー陣営への同情ででもあるかのような、つまりは民主党も賛成するだろうね、と阿るような、取って付けたような解任理由です)。

同じNBCとのインタビューでは、解任を通告する自身のコミー宛て書簡にわざわざ関係もないのに「3回にわたり私が捜査対象でないと知らせてくれたことに本当に感謝している」と記した件に関して、当のコミーに自分が捜査対象か否か夕食の席と電話での2回の計3回も聞いていたという、日本でいえば「指揮権発動」のような捜査圧力をかけた事実を自分で明かしていました。おまけにあろうことか、コミーに自分への忠誠を要求していたことまで明らかになったのです。

頭おかしいんじゃないか? と誰でも思います。だって、これだけでトランプを2度弾劾できるほどのネタなのです。こんな司法妨害はありません。しかもそれを自分では司法妨害だとすら気づいていないでテレビカメラの前で滔々と雄弁に語る。この人は一体、何を考えているのでしょう?

気分次第でブチ切れ、気分次第で自慢にも転じるこの大統領に、ホワイトハウス内は戦々恐々です。それもこれも自分以外が悪いのだと、トランプは次に、報道陣へのウケが悪くて衝突ばかりしているスパイサー報道官を切る心算だとか、いやいや、共和党を全くまとめてくれないプリーバス首席補佐官を切る準備をしているとか、憶測が広がっています。これでは仕事など出来るものではありません。

トランプはコミーのことを「He's a showboat, he's a grand-stander, the FBI has been in turmoil. You know that, I know that. Everybody knows that.」と呼びましたが、「FBI」の部分を「White House」に変えれば「He」とはまるでトランプその人のことです。ホワイトハウスは空中分解寸前なのです。

予言しましょう。

この政権はやがて、弾劾より先に、この大統領自身を辞めさせることになります。

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