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米朝の詰め将棋

早朝6時前に発射されて北海道"上空"を超えて2700km飛んだという北朝鮮のミサイルのことで、28日の日本は朝から大騒ぎでした。TVでは「そうじゃない」と沈静化を図る専門家もいたですが、司会者が妙に気色ばんで番組を進行させるので、急ごしらえの台本がやはり危機を煽る安易な方向付けだったのでしょう。まあ、それ以外にどう番組を作れというんだ、という話でもありますが。なにせ首相声明だって「我が国に北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、我が国の上空を通過した模様」ですから。

北朝鮮は「我が国」に向けて発射したんじゃありません。それに550kmの「上空」ってのはすでに宇宙であって、スペースシャトルの浮かんでいる400kmよりもはるか上です。万が一間違って何かの部品が落ちてきたって真っ赤に燃え尽きます。しかも日本をまたいで北のミサイルが飛んだのは98年にもあって新たな脅威ですらない。政府はなぜ慌てたフリをするのでしょう。「全国瞬時」という緊急警報「Jアラート」を鳴らしても具体的には「頑丈な建物に逃げて頭抱えてかがみなさい」ですから、まるで大戦末期の竹ヤリ訓練みたいな話です。

ともあれ、今回のミサイルからは、実は脅威というよりも次のような興味深い事実をこそ読み取るべきなのです。
すなわち;

(1)北の相手はこれからもこれまでも常に第一義的にはあくまでも「アメリカ」であって韓国や日本ではない

(2)にもかかわらず今回のミサイルは攻撃すると脅していた「グアム」ではなくアサッテの方角の北海道の南部通過の方向に飛んだ

(3)飛距離の2700kmというのもグアムまでの3300kmより微妙に短い

──つまりこれらは、アメリカを脅そうにも脅しきれない金正恩の心理を表しているのです。

金正恩はいま、混乱を極めるトランプ政権のその混乱をこそ実は恐れているのだと思います。それは格好良く言えばトランプの「予測不能性」の賜物なのですが、ロシアゲートで追い詰められ支持率最低でどん詰まりの彼に起死回生の一手があるとすればそれは北への軍事行動です。さらに、おおっぴらな戦争とともに「斬首作戦」までが吹聴されている。それは恐い。
 
金正恩はそれを回避させるためにのみミサイルと核の開発に邁進してきました。ところがそれが父・金正日の時代にはなかった反応を誘引してしまった。こちらが強く出れば向こうは退く、という期待は誤りです。強い作用は強い反作用を生む。これは物理の法則です。金正恩は強い兵器を所有して、それに見合う強い反発を受けてしまったのです。そんな自明にいまさらたじろいだところで遅いのですが。

そこに先日の国連の新たな制裁決議が追い打ちをかけました。中国やロシアも反対しなかったことで、さらには中国が、北による対米先制攻撃で米国の反撃を受けた場合には中朝同盟の義務を行使(すなわち加勢)しないとも示唆したことで、北は確実に追い詰められました。そんな時に自分から実際に攻撃することは蛮勇以外の何物でもありません。

ではどうなるのか? だからと言って北は核を手放すことは絶対にしません。そして米中も、北の核保有を認めることはメンツの点からいっても地政学的にいっても絶対にない。

ではどうするか? このチキンレースをあくまで論理の上で、詰め将棋のように推し進めることです。米韓はミサイル防衛網をより進化させ、北のミサイルの脅威を限定的なものに封じ込めます。すると米韓の反撃がより現実味を帯びることになる。もとより北朝鮮には第二段攻撃の能力などないのですから、北の戦略はそこで出口を失う自殺行為になります。

要は金正恩に、彼自身が生き延びる道はこのチキンレースを止めること以外にないといかに折伏するかなのです。さもなくば米中暗黙の合意の上での「斬首作戦」の道を探るしかなくなる──もちろんそれはすでに、並行して秘密裏に進んでいるのでしょうが。

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