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October 31, 2017

アジア歴訪前に窮地のトランプ、次の一手は?

11月8日は「トランプ当選」が決まったあの選挙からちょうど1年。政権は相変わらずツイッターでトランプ節炸裂の大統領と、その後始末に相努める実務派幹部たちとの奇妙かつ絶妙なバランスの上で"安定"した低支持率を保っています。

「安定」と書きましたが皮肉ではありません。傍から見るとデタラメに聞こえるトランプ節ですが、これが支持の中核層に絶え間なくエネルギーを注入している。これが続く限り支持率は決定的に下がることはない、というか最初から低い値だったのですが、意外と3割からは下がらないので今を迎えているのです。

10月末のNBC/WSJの最新共同調査が出ました。トランプ大統領への支持は38%、不支持は58%と不動の不人気なのですが、これまでも他の調査では32%という数字が出たこともあります。38%はこの調査では過去最低ですが、まだまだ底値までは余裕があります。しかし問題はむしろ、この調査で現れた民主党支持層では10人中9人までが不支持(支持7%、不支持89%)で、共和党支持層では10人に8人までが支持(支持81%、不支持17%)という大分断の方です。この合わせ鏡のような対称性がどんどん鮮烈になっています。方やトランプがやることなすこと全部ダメ、方や全部オッケーという真っ二つなのです。

これまでの政権の実績を見てみると、オバマ政権のすべてをひっくり返すような意欲満々のツイートとは裏腹に、オバマケアは今も潰されずに機能していますし、メキシコの壁もサンプルは出来たが予算から言っても建ち並ぶ未来の景色は見えてきません。現在は法人税と個人所得税などの大幅減税公約が焦点になっているのですが、トランプ政権の示すような減税を実行したら財政破綻すると、共和党内部からも異論が続出。おまけに財源確保策として出ているのは地方税額を連邦税の控除対象にしないとか確定拠出型年金の非課税枠を小さくするとか、どうしたって「普通の人たち」の生活を直撃するような内容。いわばそんなヤバい内情を見せないがために、ツイートでさんざん景気の良い話や自慢話を続けているようなものなのです。そうして共和党の本流からは公然とトランプ批判、というかほとんどサイコパス、ソシオパス呼ばわりみたいな非難までもが聞こえ始め、対するトランプも「類い稀な見事なカウンター・ファイター」(最近のスティーヴ・バノンのトランプ評)ぶりを見せて悪口の限りを叫びあげ、それで支持者たちが拍手喝采するというパタンが繰り返されているのです。

しかしなぜそんなことがうまく行っているのか? それはひとえに株価がずっと上昇しているからです。文字通りの景気の良さ(というか好調な株価)を背景に、この政権への全面的な不信にはまだ至っていない。前述の調査でも、トランプの対応に対して支持するという人が不支持より多かったのは、「テキサスやフロリダでのハリケーン被害対応」(48%対27%)と「経済」(42%対37%)の2項目だけだったのです。

つまり逆を言えば、この株価、経済が崩れたら、トランプ政権はあっという間に見限られるということです。

だとすると、北朝鮮問題はどうなるのか? 株価維持のためには軍事的暴発は絶対に回避しなくてはなりません。一方で軍事行動は支持率回復の魔法の杖。まるでその布石のように米国ではまた対話派のティラーソン国務長官の解任説が燻り続けています。5日の日本から始まるアジア歴訪で、トランプ大統領は北朝鮮への予防的先制攻撃を根回しするのでしょうか?

そんな中、とうとうモラー特別検察官によるロシア疑惑の強制捜査が動き出しました。昨年8月までトランプ陣営の選挙本部長だったポール・マナフォートとその友人のリック・ゲイツが昨日30日、正式起訴されました。罪状は、2006年から2015年にかけてウクライナの親ロシア派政治家ビクトル・ヤヌコビッチ前大統領とその政党の「未登録代理人」として活動していたことを背景に、オフショア口座を使った巨額の資金洗浄を共謀して私腹を肥やした罪や、外国組織の代理人として未登録のまま活動したなどというものです。

そしてそこに、トランプ陣営とロシアとをつないだ若いエネルギー・外交顧問ジョージ・パパドポウロスもFBIに対する偽証罪による起訴として連なっていることがわかった。その彼の情報が今回の捜査の端緒として重要な役目を果たしているとみられているのです。

彼はすでに7月に逮捕され、10月5日には罪を認めて司法取引をした。偽証罪というのは色々罪を免れるために事情聴取に対して嘘の弁明をしたということで、けれど最終的に彼はそれを認め、今度は一転、自分の罪を軽くするために当局に彼の知る本物の情報を渡すことになった、ということです。捜査の突破口として、彼の証言から捜査はまだまだ拡大・進展するでしょう。何せパパドポウロスは、選挙期間中に接触したロシア政府関係者の通称「教授」や自称プーチンの親戚の「ロシア人女性」との密会を、逐一トランプ選対本部の「スーパーバイザー(管理者)」に報告しているのですから。

さてこうなると、冒頭に触れたトランプ大統領の支持率の底値30%が揺るぎ始める事態が早晩訪れることになります——支持率回復のために、この大統領は次にいったい何を考えるのでしょうか? 日本の安倍首相は、そんなトランプ大統領へのどんな力添えの言葉を準備しているのでしょうか?

October 12, 2017

The Storm (2017 BET Hip-Hop Awards Cypher Verse)

今年のBET(Black Entertainment Television)のヒップホップ・アワードでエメネムが登場してドナルド・トランプを激しくdisりまくるフリースタイルのラップを披露しました。

何て言ってるか、ざっと訳してみました。もちろんラップなんでちょっとわかりづらいところがあって、誤訳してるかもしれないけど、まあ、こんな感じだと思ってください。ちなみに訳してるのは意味であって、「韻」は踏んでません。あしからず。

これ、どうやったら動画をここに縁ベッドできるんだっけ?
思い出したらトライしてみますが、とりあえず今は文字だけで。


***
[Intro]
It's the calm before the storm right here
嵐の前の静けさってこのことだな

Wait, how was I gonna start this off?
あれ、どう始めるんだっけ?

I forgot… oh yeah
忘れた、ああ、そっか

[Verse]
That's an awfully hot coffee pot
ひどく熱いコーヒーポットがあって

Should I drop it on Donald Trump? Probably not
ドナルド・トランプにぶっかけるべきか? いや違うな

But that's all I got 'til I come up with a solid plot
いや、それしか思い浮かばない、マジにやること決めるまで

Got a plan and now I gotta hatch it
やることはある、いまはそれを考えてるとこ

Like a damn Apache with a tomahawk
トマホーク持った凶悪アパッチみたいに

I'ma walk inside a mosque on Ramadan
ラマダンのモスクに歩いて入るんだ

And say a prayer that every time Melania talks
そんでメラニアがなんか言うたびに俺は祈りを口にする

She gets her mou— ahh, I'ma stop
彼女はフェラ──いや、そりゃ言わねえ

But we better give Obama props
それより俺らはオバマを褒めるべき

'Cause what we got in office now's a kamikaze
だっていまホワイトハウスにいるのはカミカゼだぜ

That'll probably cause a nuclear holocaust
多分そいつが原爆ホロコーストをおっ始める

And while the drama pops
ヤバいことが持ち上がれば

And he waits for shit to quiet down he'll just gas his plane up
そのクソみたいなことが静まるまでの間、あいつは自分の飛行機満タンにして

And fly around 'til the bombing stops
空爆が終わるまで空の上でぐるぐる待ってるわけだ

Intensities heightened, tensions are rising'
激しさは増し、緊張が高まる

Trump, when it comes to givin' a shit, you're stingy as I am
トランプ、肝心な時にテメエは俺みたいにケチくさい

Except when it comes to havin' the balls to go against me, you hide 'em
俺に喧嘩売るキンタマが必要な時以外、テメエはそれを見せもしねえ

'Cause you don't got the fuckin' nuts like an empty asylum
なぜならテメエにゃもともと糞タマタマがねえからだ、もともと空っぽの避難所よ

Racism's the only thing he's fantastic for
奴の得意はレイシズムだけ

'Cause that's how he gets his fuckin' rocks off and he's orange
そうやって差別こいてセンズリこいて絶頂こいて、オレンジ色の

Yeah, sick tan
ああ、薄気味悪い日焼けクリームの赤ら顔

That's why he wants us to disband
奴にとっちゃ俺らが繋がってちゃまずいわけ

'Cause he can not withstand
だって奴がいちばん嫌いなのは

The fact we're not afraid of Trump
俺らはトランプなんか怖くないって事実

Fuck walkin' on egg shells, I came to stomp
綺麗事なんか言うか、俺は蹴り倒しに来たんだ

That's why he keeps screamin', "Drain the swamp!"
だから奴は悲鳴を上げ続ける、「沼から水を抜け!」【訳注:「ワシントン政界を浄化しろ」との選挙スローガン】

'Cause he's in quicksand
なぜなら自分が泥沼にはまってるから

It's like we take a step forwards, then backwards
まるで俺たち一歩進んで、一歩戻っての繰り返し

But this is his form of distraction
だがこれが奴流の話題そらし

Plus, he gets an enormous reaction
おまけに大受けするから調子に乗るし

When he attacks the NFL, so we focus on that, in—
NFLを攻撃したのも、俺らがそっちに目をやって

—stead of talkin' Puerto Rico or gun reform for Nevada
プエルトリコのハリケーンだとかネヴァダの銃規制だとかから目をそらさせるため

All these horrible tragedies and he's bored and would rather
こんなひどい悲劇が続いても奴は退屈でそれより

Cause a Twitter storm with the Packers
パッカーズの悪口ツイートの嵐の連投

Then says he wants to lower our taxes
で俺らの税金を下げるっていうんだが

Then who's gonna pay for his extravagant trips
じゃあ奴の贅沢三昧の旅費は誰が払うんだ

Back and forth with his fam to his golf resorts and his mansions?
家族ぐるみで自分のゴルフ場や豪邸に行ったり来たりの

Same shit that he tormented Hillary for and he slandered
さんざんヒラリーをどついたくせに同じネタを自分でやって

Then does it more
それからもっとひでえこと

From his endorsement of Bannon
バノンにお墨付き与えたり

Support for the Klansmen
KKKの奴らを支持したり

Tiki torches in hand for the soldier that's black
火をつけた人形を手に、イラクから祖国に

And comes home from Iraq
帰った黒人兵に見せつける

And is still told to go back to Africa
彼は今も言われてるわけだ、アフリカに帰れ、と

Fork and a dagger in this racist 94-year-old grandpa
この94歳のレイシストのジジイ【訳注:トランプのこと】の中には熊手と短刀

Who keeps ignorin' our past historical, deplorable factors
奴はずっと、俺らの過去の歴史、嘆かわしい出来事をなかったことにしたがってる

Now if you're a black athlete, you're a spoiled little brat for
で、もしあんたが黒人アスリートなら甘やかされた糞ガキ野郎ってことになる

Tryna use your platform, or your stature
自分の地位や名声を利用して

To try to give those a voice who don't have one
声なき連中の声を届かせようとしているってことで「糞ガキ」だ

He says, "You're spittin' in the face of vets who fought for us, you bastards!"
奴は言う、「我々のために戦った軍人たちの顔に唾を吐きつけるのか、このロクデナシが!」

Unless you're a POW who's tortured and battered
拷問されギタギタにされた戦争捕虜でもない限りは

'Cause to him you're zeros, 'cause he don't like his war heroes captured
なぜなら奴にとってはあんたはゼロだから 奴にとっての戦争のヒーローは捕まっちゃいけないものだから

That's not disrespectin' the military
あれは軍を馬鹿にしてるってことじゃねえ

Fuck that, this is for Colin, ball up a fist!
何言ってんだ、コリン(キャパニック)のために拳を握れ! 【訳注:黒人虐待に抗議してNFL試合での国歌斉唱で起立せず、契約保留になっているクオーターバック選手】

And keep that shit balled like Donald the bitch!
それを握ったままにしてろ、あばずれドナルドの丸める糞と同じく

"He's gonna get rid of all immigrants!"
「あいつは移民を全部根こそぎにしてくれる!」

"He's gonna build that thing up taller than this!"
「あいつはあの壁を今より高く作ってくれる!」

Well, if he does build it, I hope it's rock solid with bricks
そうかい、ならそれはレンガでガチに固めてほしいな

'Cause like him in politics, I'm usin' all of his tricks
なぜって奴が政治でやるように俺は奴のトリック全部を使って

'Cause I'm throwin' that piece of shit against the wall 'til it sticks
その丸めた糞をビタビタくっつくまでその壁に投げつけてやるから

And any fan of mine who's a supporter of his
だから俺のファンでもし奴が好きだってのがいたら

I'm drawing in the sand a line, you're either for or against
俺は砂の上に線を引く、おまえが賛成反対どっちにつくかってやつだ

And if you can't decide who you like more and you're split
それでもしどっちが好きか決められなくて

On who you should stand beside, I'll do it for you with this:
どっちの味方になるべきか股裂き状態なら、俺が代わってあんたに言ってやる

Fuck you!
死んでろ!

The rest of America, stand up!
そうじゃない方のアメリカ、立ち上がれ!

We love our military, and we love our country
俺らは俺らの軍を愛してる、俺らの国を愛してる

But we fucking hate Trump!
ただトランプはクソ大嫌いだってことよ!

October 09, 2017

ティラーソン解任?

先週、ティラーソン国務長官に関するニュースがいくつもメディアに登場しました。7月に囁かれたティラーソン辞任説に関してNBCが再調査し、彼がトランプを「モロン(低脳)」と呼んだと報じたのが端緒でした。7月のボーイスカウトの全国大会のスピーチでトランプが場違いにも「フェイク・メディア」やオバマケアをこきおろしたりワシントンの政界を「汚水場」呼ばわりしたりする政治発言を続けたので、ボーイスカウトの全米総長でもあったティラーソンが激怒して「モロン」発言につながったというわけです。ティラーソンって人は少年時代からボーイスカウトに参加してイーグルスカウトにもなったことを誇りに思っている人です。そんな場に政治を持ち込むこと、しかも自分の自慢ばかりするような政治演説をしたことが赦せなかったのでしょう。

息子の結婚式でテキサスに行っていたティラーソンはもうワシントンに戻らないと伝えます。この時はマティス国防長官や現首席補佐官のジョン・ケリーが「ここであなたが辞任するような政権混乱はどうしたってまずい」と慰留に成功しはしたのですが、さて今になってまたティラーソンが辞めるのでは、あるいは解任されるのではという観測が持ち上がっているのです。

特に4日、乱射事件のラスベガスに訪問してワシントンに戻ったトランプが自分のニュースを期待してテレビを見たら、そこではティラーソンの「モロン」発言で持ちきり。トランプは激怒し、それをなだめるためにケリーは予定の出張をキャンセルして対処したとか。しかしティラーソンはその後の"釈明"の記者会見でも大統領を「スマートな(頭の良い)人」と言っただけで「モロン発言」自体は否定はしませんでした。ホワイトハウス内の情報源によれば、2人の間はもう修復不可能だというのです。

報道はそれにとどまりません。ニューヨーカー誌はティラーソンの長文の人物伝を掲載。これまでの輝かしい経歴からすれば彼が「今やキレる寸前」でもおかしくないと思わせる感じの評伝でした。さらにはティラーソンとマティス、そして財務長官のムニュチンが3人で「suicide pact(スーサイド・パクト)」を結んでいるという報道もありました。3人の中で誰か1人でも解任されたらみんな揃って辞任するという「心中の約束」のことです。6日にはAXIOSというニュース・サイトで、トランプがティラーソンの後任に福音派の共和党右派政治家であるポンペオCIA長官を当てようとしているという報道がありました。

ちなみにポンペオは全米ライフル協会の終身(生涯)会員で銃規制に反対、オバマ・ケアにも強く反対ですし、オバマ政権がCIAの”水責め”などの拷問(強化尋問)を禁止したことに対しても、拷問をおこなったのは「拷問者ではなく、愛国者だ」と発言するほどの反イスラムの「トランプ的」人物です。

こんなにまとまってティラーソン国務長官のことがいろんな角度で報じられるというのは、メディアがいま彼の辞任・解任に備えて伏線作り、アリバイ作りをしているという兆候にも見えます。

そうなると問題の1つは北朝鮮です。表向き「核を放棄しない限り対話はない」と強硬姿勢一枚岩だったトランプ政権ですが、その実、ティラーソンの国務省が北朝鮮側と様々なチャンネルで対話の機会を探っていることが最近明らかになっていました。それに対してトランプが7日、「25年間の対話や取引は無に帰した。アメリカの交渉は馬鹿にされている」「残念だが、これをどうにかする道は1つしかない」とツイート。軍事行動を暗示して「今は嵐の前の静けさ」とも言ったのです。

私はこれまで、トランプ政権が「グッド・コップ、バッド・コップ(仏の刑事、鬼の刑事)」を演じ分けて北朝鮮をどうにか交渉の席につかせようとしているのではないかと、希望的に願ってきました。けれどこうしてティラーソンとトランプの不仲が表面化してみると、本当にカッカして北を潰そうと言うトランプを国務長官、国防長官、首席補佐官がマジになだめ抑えている、という構図が本当だったかもしれないと思い始めています。上院外交委員長でもある共和党コーカー議員がトランプを激しく批判しているのも、そんなティラーソンの国務省の姿勢と符合しています。

彼はNYタイムズの電話インタビューに「ホワイトハウスが今毎日毎日トランプを抑え込むのに苦労していることを知っている」などと語ったのですが、そもそも攻撃したのはトランプの方が先でした。コーカーはティラーソンに関して「国務長官はとてつもなく腹立たしい立場に立たされている」「国務長官は得るべき支援を得られていない」と擁護したのです。上院外交委員長として国務長官(外務大臣)を思いやるのは当然の話ですが、例によってトランプはコーカーへのツイート攻撃を開始したのです。まるで坊主憎けりゃ袈裟まで、みたいな攻撃性です。

ティラーソンが解任されたら北への軍事攻撃の恐れが一気に現実味を帯びます。北は自滅につながる先制攻撃を絶対に仕掛けません。けれどトランプは単に自分のやり方じゃないといって予防的な先制攻撃を仕掛けるかもしれない。そのとき日本はどうするのか? いや、その前に日本は何もしないのか?

22日の総選挙はそんな「兆し」だけでも大きく安倍自民党に有利に動くかもしれません。まさかそれを見越して安倍は「対話は何も役に立たない」とトランプをけしかけていたわけじゃないでしょうが。