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アジア歴訪前に窮地のトランプ、次の一手は?

11月8日は「トランプ当選」が決まったあの選挙からちょうど1年。政権は相変わらずツイッターでトランプ節炸裂の大統領と、その後始末に相努める実務派幹部たちとの奇妙かつ絶妙なバランスの上で"安定"した低支持率を保っています。

「安定」と書きましたが皮肉ではありません。傍から見るとデタラメに聞こえるトランプ節ですが、これが支持の中核層に絶え間なくエネルギーを注入している。これが続く限り支持率は決定的に下がることはない、というか最初から低い値だったのですが、意外と3割からは下がらないので今を迎えているのです。

10月末のNBC/WSJの最新共同調査が出ました。トランプ大統領への支持は38%、不支持は58%と不動の不人気なのですが、これまでも他の調査では32%という数字が出たこともあります。38%はこの調査では過去最低ですが、まだまだ底値までは余裕があります。しかし問題はむしろ、この調査で現れた民主党支持層では10人中9人までが不支持(支持7%、不支持89%)で、共和党支持層では10人に8人までが支持(支持81%、不支持17%)という大分断の方です。この合わせ鏡のような対称性がどんどん鮮烈になっています。方やトランプがやることなすこと全部ダメ、方や全部オッケーという真っ二つなのです。

これまでの政権の実績を見てみると、オバマ政権のすべてをひっくり返すような意欲満々のツイートとは裏腹に、オバマケアは今も潰されずに機能していますし、メキシコの壁もサンプルは出来たが予算から言っても建ち並ぶ未来の景色は見えてきません。現在は法人税と個人所得税などの大幅減税公約が焦点になっているのですが、トランプ政権の示すような減税を実行したら財政破綻すると、共和党内部からも異論が続出。おまけに財源確保策として出ているのは地方税額を連邦税の控除対象にしないとか確定拠出型年金の非課税枠を小さくするとか、どうしたって「普通の人たち」の生活を直撃するような内容。いわばそんなヤバい内情を見せないがために、ツイートでさんざん景気の良い話や自慢話を続けているようなものなのです。そうして共和党の本流からは公然とトランプ批判、というかほとんどサイコパス、ソシオパス呼ばわりみたいな非難までもが聞こえ始め、対するトランプも「類い稀な見事なカウンター・ファイター」(最近のスティーヴ・バノンのトランプ評)ぶりを見せて悪口の限りを叫びあげ、それで支持者たちが拍手喝采するというパタンが繰り返されているのです。

しかしなぜそんなことがうまく行っているのか? それはひとえに株価がずっと上昇しているからです。文字通りの景気の良さ(というか好調な株価)を背景に、この政権への全面的な不信にはまだ至っていない。前述の調査でも、トランプの対応に対して支持するという人が不支持より多かったのは、「テキサスやフロリダでのハリケーン被害対応」(48%対27%)と「経済」(42%対37%)の2項目だけだったのです。

つまり逆を言えば、この株価、経済が崩れたら、トランプ政権はあっという間に見限られるということです。

だとすると、北朝鮮問題はどうなるのか? 株価維持のためには軍事的暴発は絶対に回避しなくてはなりません。一方で軍事行動は支持率回復の魔法の杖。まるでその布石のように米国ではまた対話派のティラーソン国務長官の解任説が燻り続けています。5日の日本から始まるアジア歴訪で、トランプ大統領は北朝鮮への予防的先制攻撃を根回しするのでしょうか?

そんな中、とうとうモラー特別検察官によるロシア疑惑の強制捜査が動き出しました。昨年8月までトランプ陣営の選挙本部長だったポール・マナフォートとその友人のリック・ゲイツが昨日30日、正式起訴されました。罪状は、2006年から2015年にかけてウクライナの親ロシア派政治家ビクトル・ヤヌコビッチ前大統領とその政党の「未登録代理人」として活動していたことを背景に、オフショア口座を使った巨額の資金洗浄を共謀して私腹を肥やした罪や、外国組織の代理人として未登録のまま活動したなどというものです。

そしてそこに、トランプ陣営とロシアとをつないだ若いエネルギー・外交顧問ジョージ・パパドポウロスもFBIに対する偽証罪による起訴として連なっていることがわかった。その彼の情報が今回の捜査の端緒として重要な役目を果たしているとみられているのです。

彼はすでに7月に逮捕され、10月5日には罪を認めて司法取引をした。偽証罪というのは色々罪を免れるために事情聴取に対して嘘の弁明をしたということで、けれど最終的に彼はそれを認め、今度は一転、自分の罪を軽くするために当局に彼の知る本物の情報を渡すことになった、ということです。捜査の突破口として、彼の証言から捜査はまだまだ拡大・進展するでしょう。何せパパドポウロスは、選挙期間中に接触したロシア政府関係者の通称「教授」や自称プーチンの親戚の「ロシア人女性」との密会を、逐一トランプ選対本部の「スーパーバイザー(管理者)」に報告しているのですから。

さてこうなると、冒頭に触れたトランプ大統領の支持率の底値30%が揺るぎ始める事態が早晩訪れることになります——支持率回復のために、この大統領は次にいったい何を考えるのでしょうか? 日本の安倍首相は、そんなトランプ大統領へのどんな力添えの言葉を準備しているのでしょうか?

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