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電撃訪朝を狙うトランプ?

「北朝鮮危機」は平昌パラリンピックも終わってしまう3月末から4月だとずっと言ってきました。トランプ政権はそれに向けて主体的にも、かつ状況的にも、かつ必然的なようにも動いていました。

まず、対話路線=外交を司る国務省が北朝鮮対応を進めるどころかどんどんと主役の座から離れていっていました。空席のままの駐韓大使に検討され、韓国政府からアグレマン(同意)まで得ていたジョージタウン大学教授のビクター・チャは対北軍事攻撃に抑制的である発言を続けてトランプの不興を買い、1月末の時点で大使候補から外されました。G.W.ブッシュ政権下で北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議次席代表を務めた人物で、本来は対北強硬策を唱えていた人物です。その人までがトランプ政権のイケイケ路線には異議を唱えた。そこでチャに代わって名前が挙がっている人物の1人は、2010年の対北軍事作戦計画「5029」の策定に関わった元在韓米軍司令官のウォルター・シャープです。

国務省本庁でも北朝鮮を含む東アジア・太平洋問題で実務を担当する次官補がまだずうっと決まっていません。次官補代行のスーザン・ソーントンという中国の専門家が昨年12月19日に代行から正式に次官補へと指名されたのですが、議会承認がまだなのです。

そんな時に3月2日付で、北朝鮮担当特別代表だったジョセフ・ユンが「個人的な決断」で退任してしまいました。韓国生まれのユンはオバマ政権で北朝鮮担当特別代表に就任し、国連駐在の北朝鮮代表部次席大使パク・ソンイルを介しての、所謂「ニューヨーク・チャンネル」を稼動して米朝間の直接対話を模索してきました。北朝鮮に拘束されて意識不明に陥ったアメリカの大学生オットー・ワームビアさん(帰米後に死亡)を解放するためにも活躍しました。

対北対話路線勢力はトランプ政権内で圧倒的に力を失っていたのです。そして平昌が終わり、モラー特別検察官のロシア疑惑捜査がじわじわと迫る中、全てをちゃぶ台返ししてしまうような対北軍事行動が懸念されていたわけです。

実はそれもトランプにとって、日米韓というか全世界にとっても、後は野となれ山となれ式のひどい結末しか見えないトンデモ選択なのは明らかでした。なのにトランプはやるかもしれなかった。

そんな時に平昌五輪の余勢を駆って今回の南北会談での「非核化言及」と「南北首脳会談開催合意」です。もちろん在韓米軍撤退だとか時間稼ぎの恐れとか、色々と面倒くさい話がついていますが、そんなことより何より、これで3月末から4月にかけての「北朝鮮危機」はとにかく完全に吹っ飛んだと考えてよいということなのです。

さてそれで、いま誰が一番喜んでいるのかというと、それはもちろんトランプです。金正恩もとりあえずは米軍による攻撃が回避されることで一安心ですが、経済制裁はまだ続きますから「喜んでいる」というわけではありますまい。対してトランプはアルミと鉄鋼の高関税措置で経済担当トップのゲリー・コーン経済評議会議長は辞めるは、国家安全保障担当のマクマスター補佐官の不仲辞任説は止まないは、ジョン・ケリー首席補佐官による娘と婿のイヴァンカ&ジャレッド・クシュナー排除の動きは急だは、不倫疑惑で13万ドル(1380万円)も払って口止めしたつもりのポルノ女優が、いや、性的関係はあったと顔出し発言して口止め契約無効の訴訟は起こすは、ケリーアン・コンウェイ上級顧問が去年12月のアラバマ上院議員補欠選挙で自分の公職の地位を利用してテレビで散々共和党のあのセクハラ候補ロイ・ムーアを公然と推したのはハッチ法違反だと特殊検察官局(OSC: 倫理違反を監視する政府機関)に指摘されるは、北朝鮮をどうこうするような余裕もないくらいに政権が混乱しているのです。

そんな時に北朝鮮があたかも軟化したかのような対応を見せた。なんとラッキーなのでしょう。

これに喰らいつかない手はありません。トランプは6日のスウェーデン首相との共同記者会見の最中、朝鮮半島の緊張緩和の理由を問われ「Me(自分のおかげ)」と冗談めかして答えていました。もっともすぐさま「いや、誰にもわからない」と"修正"していましたが。

確かに制裁は効いているようです。ところがここでにわかに現実味を帯びているのが、アメリカも北朝鮮も、この両国は現在、全てがトップ2人の気ままな決断でどうにでもなっているということがより如実になって、ひょっとしたら1972年のニクソンの電撃訪中みたいなことがまた起きるかもしれない、いやむしろトランプは対北軍事行動とは真逆の電撃訪朝によって、モラー特別検察官チームによるロシア疑惑捜査からの目逸らしという、ちゃぶ台返しと同じ効果を狙ってくるに違いない、ということです。

これはかなりあり得ると思います。実はアメリカ大統領の直接訪問による、北朝鮮の核問題解決を狙った米朝首脳会談というのは、かつてビル・クリントン政権の任期最後の2000年に検討されたことがありました。クリントン政権は1993年の発足後すぐに北朝鮮の核開発とミサイル、テロ支援の問題に直面しました。大統領最後の仕事として、彼はまずニクソン訪中の時のキッシンジャーよろしく2000年10月にマデリン・オルブライト国務長官を電撃訪朝させ、大統領親書を渡してクリントン訪朝の根回しをしたのです。もしこれが実現すれば、北朝鮮は金正日の画期的な決断で当時まだ持っていなかった核兵器や長距離ミサイルの開発放棄の道を進んでいたかもしれません。

ところがその訪朝は突然中止されます。クリントン民主党政権の後継のはずだった副大統領のアル・ゴアが、11月6日の大統領選挙で共和党のジョージ・W・ブッシュに逆転負けを喫したのです。クリントンが訪朝してもその後が続かない。金正日との首脳会談の意味がなくなったのです。

いつも言っていますが、その後のブッシュ政権(2001〜2008年)は、9.11後の中東対応とチェイニー、ラムズフェルドのネオコン強行路線で北朝鮮との対話をすっかりやめてしまいました。すなわち、北の現在の核兵器と大陸間弾道弾の開発は、「対話路線」の失敗ではなく、「対話路線の中断」による失敗だったのです。

さてトランプです。「ディール」の"天才"と自負する彼は、とにかく自分が直接出て行って直談判すれば誰でもみんな折れてくると思っています。北朝鮮の若造を相手に、それは赤子の手をひねるようなものだと思っているはずです。これは全く私の推測ですが、ホワイトハウスは彼の号令の下、すでに北朝鮮への電撃訪問と具体的な「ディール」内容の提示を検討していると思います。それで成功すれば(というか成功を確信して)「ほらオレは安定したディールの天才だ」とまた自慢できると思っているのですから。

そこで日本です。安倍政権はどうするつもりでしょう?

韓国嫌いでウジウジとアメリカの「100%」のお追従をするばかりだった日本は、韓国は自由陣営だからこちらの仲間だという前提を根拠もなく拠り所にしていたのですが、蓋が開いてみると北朝鮮と韓国は本来は同じ民族、いわば縒りを戻そうとする夫婦みたいなものです。日本などお構いなしでどんどんと接近してしまう。「それは罠だ、これまでと同じく時間稼ぎだ」と”警告”しても、「他人のお前が余計なお世話だ」と聞いてもらえません。そうやって事態は蚊帳の外でどんどん進みます。そのうちにニクソン=毛沢東の時のように頭越しにトランプ=金正恩会談が実現するかもしれない。これまで「強硬策」一本でおだてられて木にも上がったのに、急に梯子を外されてしまうかっこ悪さに繋がるかもしれません。

そういうかっこ悪さを避けるためにも、そしてどうにか拉致された人たちを日本に戻すためにも、この南北急接近にもかっこよく対応できる外交的立ち位置のオプションを用意しなくてはなりません。それは何か? それはこの問題で、自分は韓国、アメリカ、中国に次ぐ4番目の国に過ぎないということを自覚して、外交の主問題ではあくまでも補佐役、橋渡し薬、まとめ役に徹することなのです。余計な口出しではなく、とにかく拉致問題に限っては堂々たる当事者だという振る舞いに徹することなのです。もうすでに最初のボタンから勘違いしているから、そういう対応にはやや遅すぎるかもしれませんが、拉致被害者のことを考えれば、かっっこ悪いところからでも始めなければならないはずです。それだけが残された、選択し得るかっこよさなのだと思います。

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