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より高い忠誠

勤続20年、満50歳の退職年金を満額で受け取れるそのわずか25時間前の3月16日午後11時に懲戒免職するというのは、一体どういう懲罰なんでしょう。アンドルー・マッケイブFBI副長官へのトランプ大統領の仕打ちがそれでした。
 
目の敵である「ヒラリー・クリントン」絡みの偏向だと色々と理由を並び立てていますが、いずれも訴追に足る証拠があるわけでもなく、そもそもがトランプがあのコミー長官を「FBIを統率できていなかった」としてクビにした時にマッケイブが「いや、コミー長官は全職員から信頼されていた」と真っ向から議会で反論したのがきっかけなのです。

トランプに反論した輩はみんなクビ。北朝鮮への軍事攻撃の選択肢はないと言ったバノンやティラーソンもクビ、ロシアの選挙介入はあったと言ったマクマスター補佐官のクビも危ういのです。

一方で安倍政権も大変です。こちらも森友問題で佐川前理財局長官が「文書はない」と答弁しながら、その「文書」が「ない」ように削除・改竄された形で出てきて、首相や首相夫人をめぐる官僚の「忖度」と「共謀」の関係が問われています。

そもそも森友学園に対する国有地売却価格がなぜ9割にも相当する8億円も引き下げられたのか。その理由を記したはずの記録を佐川さんは破棄したと国会で答えたのですが、実はそれは破棄されていずに出て来た。価格などを含め森友側と事前に一切交渉してはいない、とも証言したのに、それも価格を含めて学園側と交渉していた録音データが残っていた。なんなんでしょう、この文書記録の扱われ方、事実を捻じ曲げよう、あるいはなかったものにしようとする改竄・修正主義は?

その点、アメリカはフェイク・ニュースだ、ポスト・トゥルースだとかまびすしいですが、まだ記録だけは記録として手を触れてはならないという"原則"が(相対的に)生きているような気がします(わからんですけどね、権力内部でどんな作為が働くのかは)。文書・記録を扱う官僚たち、その現状は、アメリカではトランプというとんでもない大統領に対峙する官僚という構図なのに対して、日本では安倍というとんでもない政権に寄り添う官僚という、まるで正反対の構図です。そもそも官僚たちの人事権を内閣が一手に掌握して、一元的に官僚システムを管理しようという安倍政権下での内閣人事局の創設は、2000〜3000という上級官僚の指名を一手に握るアメリカの大統領制度を真似したものなのですが、この違いはどこから生じるものなのでしょう。

佐川さんは恐らく退職金や次の職を得るために、問題が大きくならないうちに自ら辞職した(あるいはその方が世間からの炎上を防げると自身あるいは誰かが判断した)。ところが、麻生財務大臣がここにきて「サガワが、サガワが」と連呼するに至って全ての罪を着せられてしまいそうな哀れさになってしまっている。3月27日の証人喚問ではさて、それでも刑事訴追されないよう(つまりは冒頭のマッケイブのように遡っての懲戒免職とならないよう)ほとんどの質問に回答を拒むのでしょうか?

しかし日米双方とも、どうして"部下"たちがこんなにも政治にいじめられなければならないのでしょうか。突ランプの顔色を窺わない者はティラーソン同様、マクマスターにしろジョン・ケリー首席補佐官にしろ、機を見ていずれはクビです。マッケイブのクビを告げたセッションズ司法長官だって、モラー特別検察官のロシアゲート捜査から自ら身を引いたことでトランプに無用扱いされているわけです。それもトランプがいずれはモラーのクビを狙っているからに他ならない。

ひどい仕打ちはマッケイブに限りません。コミーはカリフォルニア出張の時にTVニュースで自分の解雇を見て最初は冗談だと思った。同じようにティラーソンはトランプのツイッターでそれを知った。

エクソンモービルの会長は日本で言えば経団連会長クラスの重鎮。ポッと出の不動産屋のトランプはそのコンプレックスもあって目の上のタンコブの彼を排除したんでしょうが、こんなにひどい話は聞いたことがない。

トランプはいま、はっきり言ってその精神状態がとんでもない領域に入ってきているように映ります。政権1年を経てまるで図に乗って、国をまるで自分の会社のようにワンマン経営できると妄想している。自分より頭のいいやつ、上から目線で意見するやつ、バカにするやつはすべて排除。これは国家が、それもアメリカというスーパー国家が、愚かでわがままな、けれど一部では熱狂的に歓迎されるソシオパスによってどう変質するのかという壮大で危険な実験を目の当たりにしているような気がするのです。

日本も似ています。ワンマン安倍首相を擁護するあまり、自民党議員の和田政宗が太田理財局長に「あなたは民主党政権時代の野田総理の秘書官。安倍政権を陥れるために変な答弁をしているのではないか?」と質問した。太田さんは「さすがにいくらなんでも、そんなつもりは全くありません。それはいくらなんでも、それはいくらなんでもご容赦ください」ととても苦しそうでした。

そこまで言われて、日本の官僚は怒らないのでしょうか? もっとも、この発言は国会議事録から削除されるそうです。ここでもまた、自民党政権は自党に都合の悪い記録をなかったものにしようとするのです。この国会議事録からの削除というのは、それこそ歴史の改竄であり黒塗りであり検閲であるわけで、歴史修正主義の所業に他ならない。

一方のアメリカでは官僚たちはそこまでの仕打ちをされて、例えばFBIはいまトランプ政権に対して反乱を起こそうとしています。その1つが4月17日に発売予定のコミー前長官の「A Higher Loyalty」という本だろうと思われます。

内容はどこもまだ事前入手していないらしく不明ですが、タイトルの「より高い忠誠」とはまさに、トランプに「私に忠誠を誓うか?」と問われたコミーの経験から取っているのでしょう。そして「より高い Higher」とは、そんな大統領への忠誠以上に、アメリカという国や国民のための忠誠をこそ重んじたという、そういう意図なのではないかと推測するのです。さあ、日本の官僚たちは、さて、何/誰への忠誠をモットーとしているのでしょうか。

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