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揺さぶりと鬩ぎ合いの果てにあるもの

エルサレムへの大使館移転やらイランとの核合意の反故やら、ここにきてトランプ政権はやりたい放題です。イスラエル軍の発砲で抗議のパレスチナ人側に百人を超え何とする死者が出ています。今年初めまでこのトランプの手綱を握っていた軍人トリオと実業家の2人までがポンペオ(国務長官)とボルトン(安保担当補佐官)に置き換わり、首席補佐官のジョン・ケリーもすっかり骨抜きにされて最近はすっかり埒外に置かれて、この政権はとうとうスーパーネオコン政権に変身しました。「アメリカ・ファースト」からさらに進んで、「世界はアメリカ=トランプのためにある」という政権です。ノーベル賞の掛け声もあって浮かれているトランプの虚言は今、発足当時の1日平均4.9回からほぼ2倍の9回にまで上昇したとか。

イランにも北朝鮮にも非核化を徹底させると言いますが(そしてそのためのイラン合意離脱と米朝首脳会談ですが)、イランと北朝鮮では地政学的条件が全く違う。そこで同じことはできません。だから妥協に妥協を重ねてやっとあの「イラン合意」にたどり着かせたのです。オバマのやったことは全てひっくり返すというトランプの執念だけが暴走しています。彼の政治は、彼を支持する30数%の米国民だけのための政治です。

米朝首脳会談のシンガポールというのはアメリカが望んだことです。韓国の文在寅が提案した「板門店」も、トランプにはテレビ的に劇的で演出もしやすく魅力的だったのですが、板門店は二番煎じであり韓国がまたホスト役として注目され、さらに南北和平・朝鮮戦争終結の気運と期待に押されてトランプの手柄であり狙いである「非核化」が霞む、という懸念が示されました。

板門店だと朝鮮戦争のもう一方の当事者である中国の不在が問題にもなります。そこで当初の予定どおり、米韓・中朝のいずれからも中立であるシンガポール案が通ったようです。

いずれにしても最初は5月下旬とされていたのが6月中旬の12日にずれ込んだのには、かなりのすったもんだがあったからです。とにかく何が何でも「ディールは大成功」と発表すべく金正恩からの会談申し入れに乗っては見たものの、その後3月を通して米メディアが「核放棄の査察検証に時間がかかる」「結局は過去の枠組み合意や6者協議と同じでまた北朝鮮に核放棄の約束を反故にされる」と批判を続けました。「アメリカの大統領が金正恩と会うということは、何の保証もなく北朝鮮を国家として承認してしまうこと。北の思うツボだ」というわけです。

それを方向転換すべく強硬派のポンペオ、ボルトンが登場します。北朝鮮にギリギリとリビア方式の核放棄を迫るのです。それは敗戦国でもないのに「武装解除」とさえ呼べるほどの無理難題です。それを飲ませるには時間がかかる。米朝会談の日程はそこから水面下で目まぐるしく動きます。

こうして4月初めから唐突にトランプは開催時期を「6月初旬」と言い始めた。そのうちに4月27日の南北首脳会談で和平ムードが高まりました。そこで強気に出た北朝鮮はまず制裁一本の日本の態度を「平和の流れを感知できていない」と非難。5月6日には米国の制裁、軍事的威嚇の継続は「問題解決に役立たず」との異例の警告を行いました。米朝の駆け引きはピークに達します。会談は不調に終わるかも、あるいは中止になる恐れも、との観測も出たほどです。

そこからが急でした。金正恩は5月7〜8日に大連に飛んで習近平と再会談。もちろん翌9日に再訪朝するポンペオとの首脳会談準備交渉に、中国の後ろ盾を頼んだわけです。そしれ習近平はトランプに電話をする。そこで何かの妥協があり、金正恩は拘束中の米国人3人をポンペオに引き渡すという、重要なカードを手放したのでしょう。

この3人のカードは、別に米朝首脳会談の直前でも同時でも直後でもよかったはずです。なのにこの時点で渡した。階段盛り上げムードを高めると言っても、まだ一ヶ月以上も先の話をいま盛り上げても、という感じがします。そこには何かがあったはずです。

この一連の流れの読みにそう間違いはないと思います。ポンペオ・金正恩会談での「妥協」が何だったのか、それはトランプ・金正恩会談を見なければわかりません。いずれにしてもシンガポールには習近平も姿を現すらしい。

金正恩は果たしてゴルバチョフになろうとしているのか、それともその先のプーチンを狙っているのか、それもいずれ明らかになります。

歴史的な米朝首脳会談まで4週間を切っています。アメリカはイスラエルやイランの混乱で中東に力を注がねばならなくなります。そこを見据えて北朝鮮はまだ直前まで揺さぶりを掛けてくるでしょう。米中朝韓の役者が揃って、さてどんな世紀のドラマが、あるいは茶番が用意されるのでしょうか。

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