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December 04, 2005

エピセ(epicer)

2005-12-03
四川料理をワインと合わせて
エピセ
☆☆☆
東京都港区西麻布4-10-7
西麻布410ビル1F
03-5468-3996

前菜4点盛り
 金華豚の焼豚
 ピータンの焼きシシトウ添え 香辣醤(しゃんらーじゃん=熟成豆板醤)和え
 生ホタテの泡辣醤(ぽーらーじゃん=塩発酵の唐辛子)和え エシャロットなどの香り付け
 生クラゲに腐乳とホーツァイ(四川の漬け物)を刻んでタルタル状にした合えもの
大正えびと上海蟹のカニ肉とカニ味噌のチリソース
生ガキをさっと炙って3種のソースで
 キノコのソテーとオイスターソース(コーヒーの味もした)
 大根おろしと泡辣醤
 ネギと香菜のたたきにピーナッツオイル
鴨と下仁田ネギとナスの香辣醤炒め
西姫鶏(しーひーちー)とスッポンの中国醤油煮(干し椎茸、タケノコ、サヤエンドウ)
アンコウと里芋の四川甘酢辛子(朝天辣椒)炒め
湯葉の酸辣湯麺

Oregon Chardonnay Eyrie Vineyards
Chateau Montus Cuvee Prestige 1997 (Tonnat) Glass
Coppola Diamond Pinot Noir 2003 Glass

3つ星以上は何回か行ってこれは確かだと思ってから付けようと思っていますが、ここはそんな店です。ただうまいだけでなく、とにかく、うなる。五感の隅々まで沁みわたる旨味。後藤力也さんという、見た目は優しげなへなちょこ風の料理人が、こんなにもエッジーで大胆で考え抜かれた料理を出すんですわ。たまげるね。

ただね、中国料理ってずるいと思うんだよね。もう何千という既成の調味料が料理人の味方についているわけで、いわば、彼の後ろに何百という別の調理人が控えていると同じことなんです。それもほとんどが発酵調味料でしょう、発酵調味料にかなうもんなんかないわけですよ、ふつう。だって、発酵調味料って時間そのものだから。数だけではなく、発酵・熟成させるその長い年月という時間まで、さじ加減1つで味方に出来ちゃうわけですから。歴史ってこわいね。

中国料理、だからどー転んだってまずいわけない、と、思っちゃうんだけど、だけど、そんな何千もの調味料、指揮官、司令官としての,つまりはオルガナイザーとしての力量がないとただただ混乱するだけではあるんだろうね。その辺なのかなあ、中国料理の料理人の味の違いは。

このところ東京に帰るたびに訪れているこの「エピセ」、今回は前回(8月)よりもやや平坦だった前菜からのスタートで、おまけにやや塩っぱいのもあって、はて、ま、どうなるかと思いましたが、西姫鶏とスッポンの中国醤油煮込みでぶっ飛びました。訊けば醤油煮というのは北京料理、スッポンというのは上海だそうですが、いつもは四川の辛くて尖ってしかも深〜い料理で攻めてくる後藤さんが、こんなにもぽってりと温かく柔らかくふくよかな料理を出してきて、わたしゃ言葉を失うほど料理に集中してしまいました。うまいなあ、これは。幸せだなあ。まだ味を思い出しては唾が出てきます。

次のアンコウと里芋も一転、力技で、しかし、里芋がきちんと箸休めになっていて、ついつい腹一杯なのにまだ喰ってみたいなあ、喰い続けていたいなあ、と思わせ、最後に麺を頼んでしまいました。

これがまたあーた、酸辣湯なんだけどね、ちがうんだ。
何が違うって、ふつうあのどろっと片栗粉でとろみをつけて麺に絡めるでしょ、それが違うんです。まずはちゃんと麺とスープを作って、その上に酸辣のとろみを掛けるという、2重のテクスチャーになっているの。しかも、です、しかも、その酸辣のとろみがね、これがわざとドロッという部分とサラッという部分とを分けているのよ、つまり、つくるときに片栗を入れてからそんなに混ぜ合わせないで、そのままさっと掻き回して、そんなドロッの濃淡をわざと生じさせるわけ。
さらにさらに、酸辣湯の辣の辛みなんだが、これ、ショウガの辛みですよね、後藤さん。それと酸のほうだけど、これも酢というよりも古漬けの酸っぱさのような味がした。このふたつが相まって、じつにすっきりした、さわやかで軽い湯麺になっていたわけで。こうして、たんなる酸辣湯が、3重にも4重にも仕掛けを感じさせてくれて、うーむ、うなったねえ。
そのうなりに加え、腹が張り裂けそうだったうなりもあって。ヒー、苦しい。

ワインは食べ過ぎて白1本、プラス赤がグラスが2杯。
シャトー・モンテュのキュヴェは、実に力強くわたしは好きだったが、同伴のとんとんが首を傾げるものだから違うものを2杯目に。まあたしかに牛舎に敷いた小便まじりの藁のにおいがしたけれど、味は深くて強くて、また飲みたいよ。
2杯目のコッポラのピノノワールは、ブルーベリー・ヨーグルトの味でした。

食事は各1万円、最初のビールとワインも含めて計42500円。
まあ高いが、価値はありまするぞ。ワイン1本で済ませれば2人で3万円だけどね。
あー、書いてたらまた飲みたくなってきた。