海味(うみ)
2006-01-18
海味(うみ)
☆
東京都港区南青山3-2-8
TEL 03-3401-3368
05年5月に改装して、というか、それ以前からモナミのとーちんがぼくを連れてきたいっていっしょけんめい予約を取ろうとして取れなかった店に、本日やっと行って参りました。評判に違わず、とても気持ちの良い店でした。最初に気づいたのが、カズミさんという女性フロアスタッフ(寿司屋ではなんと呼ぶのが正しいのだろう)? まあ、カウンターが10席、ボックスが4人掛け2つというこぢんまりした(大将が難なく目を届かせるできる範囲の)店で客をあしらう女性の方が肌身離さず抱えている、あれは朱塗りの漆の盆なんでしょうか、まあ、プラスチックのお盆であってもいっこうにかまわないのですが、それがね、朱がこすれて削れて中の黒地が出て、しかも縁が欠けてすらいるそのお盆がね、まるでアフリカはヌーバの歴戦の勇者の盾のように見えたことです。
訊けば大将は13年、ここで働いているとか。最初の7年はまえの女将さんの店だったとかで、それ以前を含めればこの「海味」、けっこうな歴史を持っているんでしょうね、きっとあの御盆は、そういう時を経ていまここにあるものなのだと推測できます。いいねえ。お守りのようだ。
大将、その脇とも、いまの東京のトレンドなんでしょう、坊主頭。
そうして最初に先付けとも前菜とも当てともつかずに差し出されたのが、本日は出汁で煮た牛蒡に白胡麻を擂ったのをまぶしたのと、虎杖浜のたらこ。このたらこ、腹身のままぽとんと出汁に落とすんだって。それですぐ火を止めて、なんちゅうの? 表面の2mmだけうすっらと白くなる。で、結果、口に含むとさ、カラスミみたいな濃厚な風味がふと舌先をかすめるのよ。でもたらこ。しょっぱさの微塵もないたらこ。いいんでないかい?
次はタコですね。これを柔らかく煮て、エゴマと塩で食べさせる。さて、このエゴマ、そう効果的かというとそうでもない。食感だけで風味がそんなにタコと重ならないんだ。タコってね、塩と黒胡椒が合うんだけど、でもそれって和食じゃないか。
さて、「本日、食べていただきたい魚がたくさんございます」という、おそらくは大将長野充靖さんの決め文句なんだろう、そこからお任せが始まります。
お寿司屋さんて、2系統あると思うんですよね。
1つはね、北海道です。じつは今回も札幌の知り合いの(NYの寿司田で働いていた2人の職人さんが出した店)「すし空海」という店に行ってしこたま食ってきました。ここはね、とにかく素材なんです。北海道って、素材がいいから、そのまま出してそのままを食わせてそのままをうまいと思わせる。空海もそういう店でした.いやいや、空海のタチ(タラの白子)のうまさと言ったらあなた、ふぐの白子はわたしゃこれから一生必要ありません。
もう1つはね、江戸前です。素材が悪いから(って昔の話ですけどね、江戸時代とか)火を通す酢に漬ける醤油に浸すツメを垂らす、そういうふうにして加工食品ですわ、もう。その加工を「腕」と言った。
でね、わたし、生まれも育ちも北海道なもんですから、前者に関しては、よほどのことでもない限りは非日常的な感動というものは難しいんです。だって、けっこう食ってきてるからねー、それもいろんな感動のシチュエーションを伴いながらさー。
でね、後者のね、感動は、じつはわたし、あの神宮前の「おけいすし」が好きなんです。
おやじさんは一回、えっと、その二番手のなんたっけ、あの人、名前? あの人が3回かな。そんで、昨年初めに、その下の新しい人で、ユウマくんっていったかなあ、けっこう若者系イケメン(またその話だ)。いつもおけいすしには唸らされる。値段も結構リーズナブルだしさ。
で、さて、こんかいの「海味」、長野さん、苫小牧なんだって。出身。で、いま40歳くらいかなあ、ノリノリの仕事人ですわ。そんで、ここは北海道型の寿司のトップクラスだって感じました。いや素材はあちこちから手にしているんですが、その素材をね、ネタだ、それをほんのちょっと後押しするだけの、とても謙譲の寿司なんです。一言で言うと、軽くて素敵。コハダとサバなんか、あーた、いまが冬ってこともあるけど、もうほとんど〆てないようなもん。で、ほわっと軽くて甘いの。コハダなんか二重になってるんだよ、すし飯の上で。でも大丈夫なの。
それはバラ筋子にもいえた。ほとんど味がついていない。生筋子(つまりイクラね)本来の味を教えようという試みなんだろうね。小鯛もそう。〆てるはずなのにすっと舌の奥を通り過ぎる。煮蛤も、ツメが澄んでいて昔風の甘さが広がる仕組み。
でね、いいんだ、おいしいの。でも、最後にさ、食べ終わって、タクシーに乗って、ふと思うんだ。えっとー、何が一番印象に残ったかなあって。
綺麗、丁寧、正直、気っ風。いずれも満点のこの店。
惜しむべくは、いや、そうじゃないな、私にとっての好みってことだね、それで言えば、もっと塩を、醤油を、酢を、ぐいっとねじ込むところがあってもいいんじゃないかってことなんだ。メリハリっていうか、ポイントというか、がつんと1つ、どーっすか、という手入れしたのを出してほしいっていうかね。そんなに優しくなくてもいいんだよ、って感じ。
印象に残ったもの。
唐津のウニ、赤穂の牡蠣。
この2つも、たしかにほとんど手が入っていない。素材のうまさだったような気がします。ほら、北海道なんだ、これって(産地は違えど)。
で、それは、なんか、おれ、知ってるの。
でも、本日の収穫かつお勉強。
ここの押し寿司は、それでした。がっちり手が入ってます。
押し寿司の押し寿司たる所以を教えられました。ぐっちゃぐっちゃと酢飯を団子に固め、さらにそれを型に入れてベッチリと押しつぶす。そうね、これが第3の寿司の系統(の派生の果て)なんかもしんないって思ったです。米は原形をとどめず、これでもかとネタと合体する。これはこれでわたしは面白いと思いました。頼むべし。モナミとーちんは「これ、あんまり、嫌い〜」って言ってたけど(笑)。
もいっこ、ここ、みそ汁椀がなかなかのすごいもんです。みそ汁椀とは言えど、ふつうの味噌汁とはコンセプトが違います。これは一品料理です。お頼みあれかし。
2人で飲んで食って、どうとでも出して、という感じで、本日は計44000円でした。
ちとお高いかしらん。