Degustation
2006-10-09
タパス(スペインの小皿料理)
Degustation(デギュスタシオン)
☆☆
239 E. 5th St. (bet. 2nd & 3rd Aves.)
NY., NY., 10003
TEL 212-979-1012
ひさしぶりにニューヨークでまた来ようと思うレストランに巡り会いました。
この日はブーレイのテストキッチンに用事があって出かけたのですが、そこでまずはフェラン・アドリアご一行さんと再会してなんだらかんだらとわけのわからんスペイン語で「NYで行くべき日本料理もしくはアジア料理の店」なんかを訊かれて答えに窮していたのですが、ほんと、ないんですよね、Upstairs 以外に薦められるところって。
ま、それはいいや。で、フェランたちが帰ってデイヴィッドとトーマスとぼくとで打ち合わせを始めたところに、こんどは京都「菊乃井」三代目ご主人の村田吉弘総料理長がいらして、なんと3時から6時半までみっちりとデイヴィッドと料理談義。それの通訳を務めるはめになってしまって、まあ、村田さんが講談社インターナショナルからちょうど英語版の「KAISEKI」という本を出したということもあって、それを見ながらなんだかんだの花が咲いたわけで。中でも興味深かったのは、いま日本料理の科学的な研究を行っていて、たとえば昆布のだしはいままでは冷水で一晩置いたものがおいしいとされていたんだけれど、どこぞやの大学との共同研究で、「60度で1時間」がもっともグルタミン酸が多く抽出される目安だとわかったんですって。なんか、30%も多いらしいですよ、みなさん。
で、そうした話も終わって、村田さんと講談社の内山さんがお帰りになるところで村田さんから「ちょっとやりませんか?」といわれてほいほいと付いていったのです。で、4日からNY入りしていてもうフレンチも鮨も飽きたという村田さんらが行ったのがこの店だったというわけ。(ずいぶん前口上が長かった)
ここはあのジュエルバコのジャックとラムのグレイス夫妻がそのジュエルバコの隣にオープンした姉妹店、というか、店そのものも中でつながってまして、デギュスタシオンがカウンター席16席だけだったので座れず、ジュエルバコのボックス席に陣取って(こっちのほうが結果的に楽ちんでした)、デギュスタシオンからタパスを8種類くらいかなあ、で、最後に巻物を4種類ほどジュエルバコから、というふうに、けっこうふんだんにお任せでいただきました。
このタパスがあなた、なかなかいいのはどうしてかというと、塩加減がいいんですね。NYのアメリカ人用の店にありがちなくどさ、濃さがなくて、ちゃんと繊細。訊けばシェフはスペイン生まれで15歳のときからアメリカで住んでいるというウェスリーくん(27)。若くて、最後に村田さんがあいさつに行ったら、いやいや、ちゃんとカウンターから出てきて、まあ、途中で店のひとも御大が京都の老舗料亭のビッグショットだって知ったんでしょうね、きちんと礼を尽くしてあいさつしていました。アメリカといえど、こういう世界は上下関係ってのが、っていうか、敬意の表し方というのは同じです。
さてその料理ですが、いずれも一口料理もしくはそれに類した小皿料理で、中でも感心したのはスウィートブレッド(子牛の胸腺=リードヴォー)を唐揚げみたいにしてそれをキュウリのヨーグルトソースとキュウリの千切り、香草で食わせるというもの。食感よろし、キュウリの清涼感がよろし。いやいや、べつに特に奇を衒ったものはないんですが、1つ1つが丁寧かつなんとなく工夫が施してあって、「感動」というんじゃないけど、そうですね、「感心」するんです。得心する、なるほどと思う、いちいちうなづいてしまう、そういう料理。小さなコロッケには控えめなアリオリのソース、ホタテのグリルにはピンク・グレープフルーツのきれいなソース、フォワグラのソテーもザクロのジュースをあしらったり、結果として出てくるものの味のバランスがとてもよい。村田さんとふたりで「なかなかですね」と顔を見合わせておりました。20代半ばで出てこない料理人はダメなんだってね、やっぱり。
で、その村田さんの若いころのとても興味深い話や料理界の人間像のことなども聞きました。が、まあ、それはプライヴェートなことなのでここに出すには許可がいるでしょう。ただ、料理を作っていていつも考えることは「ミッション」ってことだっておっしゃっていましたね。「メシ屋ですからね、それを通じていかにひとを幸せにするか、うれしくさせるか、それがミッションなんですよ。そのために仕事してるんです」って。
いずれにしても、ここには近々再訪して、写真を掲載しましょう。きれいなのです、料理が。
この日は、最終的に4人になって、料理は285ドル、ワインはスペインの微発泡の白が50ドルでなかなかのものが飲めました。