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December 25, 2006

Upstairs

12/23/2006
☆☆☆

和食というものは私たち日本人にとっては食べにいく前からある程度は予想のつくものです。だいたい味付けだってだしと醤油と味醂と酒。それに砂糖と塩と味噌とせいぜい酢が加わっての組み合わせ。食材だってほとんどは知っています。ですので、フレンチとか中華とかイタリアンとかスパニッシュとか並みいる世界◎大料理とかに比べると私たち日本人にとっては一般的にそうそう驚くようなバラエティがあるわけじゃない。いまでこそ懐石だなんだと威張っていますが、日本食ってそうおいしいもんではないのかもしれない。ペリーだかだれだかが日本に訪れて、文化的にはこれほど豊穣・芳醇な日本なのに、食べ物はどうしてこうも貧相でまずいのかって嘆いたという文献も残っている。まあ、その彼がどれほどの食通だったかは別として。

ところが、アップステアーズの三上さんの料理を食べるたびに思うのは、「ある程度予想」をしながらも、その予想よりも必ず1つあるいは2つ上の味を経験させてくれるということです。あるいはときに「上」ではなく、1つ、2つ、右とか左とか斜めあっちとかそっちとかの味。でもそのたびに次の機会に臨んだときの私の予想も広がっているわけですから、こりゃ続けるのは大変です。しかしそれがプロというものなのでしょう。で、いつも、ああ、食べにきてよかったあと思うのです。

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本日の突き出しは片口鰯の稚魚、白子(しらす)ですね。上に梅肉とトリュフのピュレが載っています。このトリュフが、海苔の香りを出します。しかし海苔ではこんなにも海苔の香りが出ないというパラドクスがあります。酢に出会うとより海苔の味が出てくるような気がします。

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穴子の昆布巻きです。きっと出し昆布を捨てるのがもったいないので巻いたんでしょうね(笑)。逆にその薄味が穴子の風味と釣り合っています。

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鮟鱇の煮こごり。いうことありません。ゼリーが口の中で融けるのと同時に味もしずかに消えていきます。なので次をまた口に運びたくなる。上質の旨味はあとを残さない。ふっと消えるのですね。で、記憶だけが残る。いうまでもないけど、化学調味料との違いはそこです。

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この鴨はいったん焼きます。それから蒸します。そして醤油と酒と味醂のつけ汁につけ込むらしい。そんなに熱を入れるのに肉はピンク色をしています。なによりもやわらかい。これを薄切りにして、この日は社長(デイヴィッド・ブーレイ)の持ち込んできたフォワグラのアルマニャック漬けの瓶詰めがあったのでそれを塗って?巻き込み、スチームオヴンで温めてなじませ、マイクログリーンを載っけて鴨の漬け醤油を垂らして供されました。フォワグラが思いのほかアルマニャックの香味が強く、鴨の味をかなり覆ってしまっていました。フォワグラを山葵とか柚子胡椒を塗る程度の量で(つまりは薬味として用いる感じで)やるとすごくおいしくなると思いました。フォワグラと鴨ですもの、とも和えですもんね、合わないわけがない。

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これは絶品です。鯛の上を覆っているのは蕪と長芋の摺りおろしです。とても控えめな銀餡がかかっています。で、ふつうは蕪は卵の白身と混ぜて蒸して固めるのですが、これは長芋と合わせてスチームすることで固まりました。で、芋のせいでほわほわです。そしてほんわりと甘い。これは口の中にその軽くて実体のないような清潔な甘さが広がります。くー、幸せものです。

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熨斗蚫と牛蒡のアイナメ巻き。間にあるのは金柑酒を仕込んだ金柑を煮たものであると。ほほ、梅酒で煮たみたいな味もする。おいしい。アイナメは軽くスモークしてありますが、このスモークは要らないんじゃないかしら? アイナメはそんなに強い味を持たないので、スモークで本来の味が隠れちゃうかも。牛蒡自体が土の香りがするので、その味で食するくらいがいいと思う。とはいえ、アメリカ人にはそれではわかりづらいかもしれませんね。じゃ、あるいは逆に牛蒡をスモークするか?

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ところで今日飲んだのはアルザスのピノグリです。かなり上級です。甘みがありますが、和食の甘みと呼応して邪魔になりませんでした。さいきん、和食に合うワインがたくさんあります。てか、まあ、おいしいワインはおいしいんだよね。もっとも日本酒の方がよいに決まっていますが、NYでは同じレヴェルの上級の日本酒は倍の値段がするのでワインでやる方がコストパフォーマンスがいいのですわ。

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これはハワイから直送の生のパルミット(Heart of Palm)、つまりナントカ椰子の若芽の芯です。それを出汁で煮て含める。すると食感はほとんど筍です。ふつうはわからんでしょう。だいたい、和食でパルミットがこういうふうに出てくるなんて予想しないもんね。それを鰹節にまぶして、はいどーぞ。

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私はこのそば団子のもちもちした食感が好きで、なんだかおいしい生麩のお団子を食べてるような感じもします。本日は中味は鴨? 鶏? ちょっと生姜を利かした醤油風味の粗い肉そぼろが入っていて、味の強弱が心地よい小鉢です。うまい。向うには自家製からすみ大根。今日のこのからすみ、熟成が進んでて美味かったああ。

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いやいや、これは南瓜としめじと蕪と蛸の吸盤の炊き合わせ。青いのは花韮ですか? きれいだわなあ。しかもこのお汁の美味いのなんのって。ずずーっと啜って、おお、幸せ。

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蚫の肝の醤油漬け。北海道生まれの私にはたまらんです。ご飯が欲しくなって、一口残してのちほど鮨に握ってもらいました。

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こっから鮨に。でも、カメラの電池が足りなくなって、4種類しか撮りませんでした。これは赤身の漬け。好物であります。

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本物の神戸牛。米国産のコービビーフではなくて、日本の神戸牛。牛脂はふつう融点が40度くらいで口の中では融けないのですが、これは融けました。大したもんです。上には擂りおろした生のニンニク。でもこれ、味が口に残る。そんで次の鮨までニンニクの味がしちゃう。私はニンニク要らないかな。あればカリカリに焼いたガーリックチップとか、山葵あるいはホースラディッシュ、または黒胡椒がいいと思います。

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これです、蚫の漬け肝を酢飯と和えて成形して蚫をぶつ切りにして小鉢に入れてスチームかけたのかな? まずいわけがないよね。最高。しかし、いったい何品食べたんだ? 満腹ひー。

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これがアップステアーズの和食カウンター。こんなちっちゃなところでやってるんですぞ。信じられんでしょ。

ということで、クリスマス・イヴイヴの夜を堪能させていただきました。
まっこと、ごちそうさまでした。

December 12, 2006

日本食レストラン認証制度という愚

 日本の農水省が海外で2万店を超える日本レストランの認証制度を来年度から導入するとかで、その準備の有識者会議を開いているそうです。

 ちらと農水省のサイトを覗いてみると「海外の日本食レストランの現状について」なんていう資料があって、アメリカでは「日本食と称するレストランは約9千店」で「10年間で2・5倍に増加」「うち日系人がオーナーとなる店舗は10%以下」で「経営者の多くは中国・韓国・ベトナムなどのアジア系の移民が主流」などということが書いてあります。で、結語は「そこで提供される日本食の多くは米国人の嗜好に合わせて変化したいわゆる『フュージョン型』」。なのでそういう日本文化の乱れた伝わり方を危惧して伝統的な本物を外国人にも知らしめたい、というわけですな。

 この報道発表を受けて日本では「ステーキみたいな厚切りしゃぶしゃぶ」「出汁のないお湯割り味噌の味噌スープ」「ぶつ切り白身魚にシラントロの載った刺身」だのと、海外で出会った妙竹林な“日本食”を例示して、鬼の首でも取ったかようなにわか海外日本食批評がテレビや夕刊紙を賑わせているようです。

 なるほど変なニホン料理は確かにあります。わたしも素うどんの上に茹でブロッコリーなんかが載って来たものに遭ったことはあります。フィラデルフィアで入った糞まずいアジアン・フュージョン店もありました。メニューがぜんぶ記憶から吹っ飛んでますけど。

 でも、そういうのにいちいち目くじら立てるのはなんだか違うような気がするのです。だって、ハムとタマネギとピーマンとスパゲティをケチャップで炒めるナポリタンなんてイタリア人が見たら目を剥くでしょうし、日本のカレーライスなんて本家とは似て非なるもの。それでも美味けりゃいいんだと自分のことなら言うくせに、外国人が日本のことで間違うと「どれどれ教えてやろう」としゃしゃり出てくるそのおこがましさがどうにも下品だ。日本食なんていまでこそ「洗練の極み、わからないやつは下司」みたいに喧伝されてもてはやされていますけど、世界三大料理には入っていないし、だいたい日本でだってとんでもない料理が出てくるんですよ。どのツラ下げて海外のなんちゃってジャパニーズを笑えましょう。

 でもね、まあ、口を出したい、その気持ちはわかります。でもだいたい文化のことでおカミが口を出してうまくいったためしなどないのだわ。変なものは放っておいても淘汰されます。まずいものは、日本人であろうがだれであろうがまずいの。そういう店は黙っていても潰れるんです。いいじゃないの、それで。

 なのに時代錯誤の勲章みたいな認証制度だなんて、それって、財政大赤字の中で税金を使うべきそんな重要なことなのですか。おまけに農水省のサイトには「我が国の食の変遷」だの「料理の起源」だの「主要国の食生活・消費水準」だの「ミシュラン・ゴーミヨ・ザガット比較」だのと、もっともらしいがまったく余計なリサーチが列記してあって、いやいや、ほんと、ヒマなのかバカなのか。有識者会議とかだってどっかの食品企業の社長だとか外食産業の社長だとか大層なメンツを揃えていて、タダで開けているわけではないだろうに、ねえ。これって潮流の「小さな政府」にも逆行した大愚行そのものでしょう。

 産經新聞12/8日付で、長戸雅子NY支局長はミッドタウンの小さな和食店に話を聞き、「日本政府の好みに味をあわせても意味はない。レストランは地元産業。地元の人が好む味に合わせ、創作するのは当然」というコメントとともに認証制度に疑義を挟む記事を書きました。

 いつもここで書いている「ブーレイ・アップステアーズ」の三上忠男シェフは発想は理解できるとした上で「でもどんな店がそんなものをもらいたがるんでしょう? どんな客がそんなもの見て店に入るんですかね?」と根本的な部分に疑問を呈します。

 たしかにそうです。その認証章、イタリアとかタイも同じようにお墨付きを出しているそうですが(でも、政府じゃなくて外郭団体ですよ)、わたしら、そんなもの、気にしたことありません。気にするのはそこに住んでいる人たちの評判であり、店の面構えであり、その種の情報ならいまはどんなことをしたって手に入ります。どこかすごい外国で飛び込みで入ってラーメンに天ぷらが載っていようと、そんなの自業自得、日本政府のお好きな言葉で言えば「自己責任」でしょうよ。だいたいそんなところでジャパレスに入るほうがどうにかしてるんだ。それとも日本政府はそういう「食の難民」のようなかわいい日本人観光客なら、「自己責任」のロジックには目をつぶってやって、そうそう、「邦人保護」の大義名分で救ってやらねばならないのでしょうか? バカいっちゃいけない。

 そんなことしてる金があるなら、無料で日本料理講習会を月一とかで現地で開いて、なんちゃってジャパニーズのクックたちをただで懇切丁寧に、人種卑下なんかもせずに誠意を尽くして教育してあげればいいだけの話です。有識者会議のお歴々に出席費だか交通費だかを払うより(おそらく1回で数十万円にはなるでしょう)、そっちのほうがどんなに効果的か。違いますか?

 認証制度、ワッペン配り、これは絶対に無用の長物です。何の役にも立ちません。役人のアリバイ仕事だ。
 農水省サイトはで以下のリンク先で一般の意見も求めているようです。ぜひ、税金の無駄遣いはやめろと書き込んでやってください。

農林水産省 海外日本食レストラン認証への意見募集