« December 2006 | Main | February 2007 »

January 24, 2007

いちむら Ichimura

2007-01-22

いちむら Ichimura

1026 2nd Ave.(Bet 54th & 55th)
New York, NY.
212-355-3557

とてもたたずまいの正しい店です。お鮨屋さんはオープンキッチンですので、しかもここは例の鮨の冷蔵ケースが目線を遮っていないのでまな板がカウンターと同じ高さで見えています。店主の市村さんの一挙手一投足(脚先までは見えないが)が丸見え。市村さんの動きは優雅です。まな板に置く包丁の位置がきれいです。それだけでちゃんとしたところに来たね、とわかります。

聞くとご出身は茨城県下妻市。80年に拉致されてNYに来た、ととても冗談を言うとは思われない穏やかな口調でおっしゃいます。れいの有名店「竹寿司」で働いてきたそう。ここは「ニューヨーク竹寿司物語」という本になっている店です。NYで最初の鮨屋さん。いろいろな苦労とお鮨大好きなアメリカ人の反応が記されています。

さてその市村さんがここに店を出したのが2003年。前は「瀧乃」という天ぷら屋さんがあったところ。
店はカウンター、テーブル席とも15席ずつほどのこぢんまりした構えです。

つまみは頼まず、即、鮨を握ってもらうことに。お任せでいただきました。
ヒラメ、金目鯛、真鯛、甘エビ、コハダ、〆鯖、中トロの漬け、炙りトロ、イクラ醤油漬けと雲丹の軍艦、ネギトロ巻き、かんぴょう巻き、穴子白焼き、煮蛤、卵、鯵、さっきより深い中トロの漬け、真鯛の昆布〆

あら、思い出すまま書き出してみると、けっこう食ったなあ。書き忘れもあるかも。ははは。

金目が甘くておいしかったです。
コハダの塩加減がよかった。
で、鯖の〆方が最高。

〆鯖は、いつごろからでしょうか生っぽく浅く〆るのが流行ってきて、それはそれでよいのですが、この「いちむら」の鯖はきちんとしっとりと〆てあって、やわらかくて口の中でとろけます。やっぱり〆鯖ってこういうもんだよなあ、って思い出しました。薄めの二枚が酢飯を包むように握られています。その薄目の二枚というのもこのしっとり感のカギなんでしょう。美味いです。

あとはイクラの醤油漬けの軍艦のその海苔がおいしかった。雲丹と海苔は互いの甘みが入り込んじゃってよくわからないんだけど、醤油漬けのイクラって、海苔と合うんだよね。その海苔がこうも香り高かったら何をかいはんや。

かんぴょう巻きのかんぴょうもしっかりとキャラメル色で、山葵はNYの鮨屋のあの青々した山葵だけど、その山葵の味と絡まって美味しかったわ。

酢飯の酢の具合がちょっとゆるめです。でもそれは好みだからなあ。私はもうちょっと酢が感じられるのが好き。ネタにも拠るけど。でもご飯の炊き具合が硬くなくやわらか過ぎもせずちょうどいい。これも好み。

いっしょに行ったコータさんがワインがいいと言うのでシャブリ(45ドル)を飲みました。このシャブリも悪くなかったです。鮨とも合わなくもないワインがあることはある。まあ、「合う!」ってほどではないんだけどね。NYじゃやっぱ、ワインのほうが安いし。

というわけで、最後に「金目鯛や鯖がおいしかった」と口にしたら、市村さん、「あ、今日の味は今日で忘れてください。今度いらしたときにまたおいしいと思えるものをお出ししますから」と。なるほどね、一期一会ですか。とてもいい気持ちで店をあとにしました。

お勘定は2人で税金やチップを入れて計320ドルでした。じつに納得できる値付けです。ごっそさんでした。

WD~50

2007-01-21
ニューアメリカン
WD~50
料理 ☆
デザート ☆☆☆
50 Clinton St.
New York, New York
212-477-2900

いまやニューヨークで最もヒップなレストラン街となっているクリントン・ストリートにこのレストランはあります。ロウワーイーストサイド、ハウストンの東端に近い位置から南に伸びる一角です。この一角の再開発のきっかけは1999年の71 Clinton Fresh Food というレストランでした。そこを父親とともに開いたのが今回、wd~50でシェフを務めるWylie Dufresne(ワイリー・デュフレスヌ)です。wd~50はもちろんそのシェフの頭文字と住所ナンバーから来ています。2003年4月の開店だそう。デュフレスヌはいま36歳、ジャン・ジョルジュでスーシェフを務めていたといいます。うーん、わたし、ジャン・ジョルジュ、あまり(というか、正直言うとまったく)感心したことがないの。

アップステアーズの真ちゃんと2人で行ってきました。NYは寒い日が続いています。6時半の予約。店構えはなんとなくちゃち。大学祭の模擬店みたいな感じは店に入ってすぐの白木のバーやクロークがベニヤみたいに見えるからでしょうね。でもメニューはずいぶんと強気です。アペタイザーが15ドル平均、メインは30ドル。ちょっとしたグランメゾンみたい。で、やっぱりここでも105ドルのテイスティングメニューを頼みました。それに65ドルのワイン・ペアリングです。

で、結果は、というか経過は、料理はほとんどディフォーメイション(変形)とディコンストラクション(脱構築)の「エル・ブリ」スタイルです。やっぱりフェランの革命は大きいんでしょう。でも、こういうスタイルを一度知ってしまった人たちに、果たして最初の「ええ? 何、これ? どうしてこうなるの? うわぁ、すごい、面白い!」っていう感動は、どうなんでしょう、再現されるのでしょうか。どっちかっていうと、ああ、頑張ってるなあ、ってなってしまうんですよね、私の場合。で、最終的には、それで美味いのかどうか、ということなんですよね、やっぱり。それに、たとえフェランがやっていないこと、やったことないこと、知りもしないことでも、こういうのって、あ、エル・ブリだなあって思われちゃうでしょ。それ、かわいそうですよね。たとえば英国バークシャーにあるヘストン・ブルメンタールの「ファット・ダック」。ゴーミヨーで19点、ミシュランで3☆というすごいレストランだけど、フェランがいなかったら、もっとすごいと思われてたろうなあと。

ま、御託を並べてないでとっとと食い始めましょうか。まあ、すごいってほどじゃないけど、まあまあ美味いですよ。まずくはない。でもね、あとで書きますが、ここはデザート。ペイストリー・シェフのアレックス・スッテューパック(Alex Stupak)ってのが、これは私、参りました。素晴らしい。26歳です。うーむ。

ということで、最初はどかんと「フラットブレッド」が配置されます。これ、どっちかというとインドのぱりぱりパンに似てるものすごく薄いクラッカーですね。
100_0585.JPG

で、ファーストコースは烏賊ヌードルですって。その上の褐色のヌードルはオリーブのジュースを固めた麺ですね。そこにパラパラとオレンジ・ソイル(乾燥オレンジの粉末です)がかかっていて、向こう側の緑のはアルグラ(ルッコラ)のペーストと呼んでます。烏賊はスクイッド、ちっちゃなヤリイカですね、それを湯がいて千切りにした。うーん、ヌードルには日本人は驚かないなあ。これではアルグラのペーストの味が際立って緑っぽくておいしかった。アルグラとオレンジって合いますからね。でもそれだけかなあ。

100_0587.JPG

2品目は、これ、目玉焼き(サニーサイド・アップ)。

100_0590.JPG

笑っちゃうけど、おいしいです。何かというと黄身は人参ジュースになんかの凝固剤を入れて丸く凍らせる。で、室温に戻すと表面だけが固まっていて形をホールドする。下の白身はココナッツジュース。それに上手い具合に寒天みたいなのを混ぜて、これ、ほんと白身の食感にそっくり。上にはカルダモン塩とオリーブオイルが掛かっています。人参ジュースがおいしいの。でココナッツの味と合わさって、いいコンビネーションです。これは買いですね。

3品目は、これ、わからんでしょ?

100_0592.JPG

料理名は「フォワグラ・イン・ザ・ラウンド」、つまり球形のフォワグラ。この薄い肌色の球体がフォワグラのペーストをメソセルロースで固めたやつね。黒っぽいボールはちっちゃな麦チョコ。緑はクレソンのピュレ。オレンジ色のちっちゃな粒は、あられです。食感および塩味の加味用ですかね。で、底にはバルサミコをフリーズドライして粉にして丸くしたのがちょっと入ってる。つまりフォワグラのチョコ風味バルサミック和え、って感じね。でも、よくわからん。フォワグラの味も薄くて、最初にちょっと感じるだけで、よくわからん。なんだか、何を言いたいんだか、わからん。まずくはないが、うまくもない。ふうん、って感じ。

次。

100_0595.JPG

向こう側は冷たいカニ肉のサラダロール、それにミントの千切りが載ってる。手前はあれよ、寿司屋のガリを天ぷらにしたやつ、下に刷毛で塗ってるのは発酵ブラックビーンのペーストね。豆鼓かね。もちょっとまろやかな味をしてたからブラジルの黒豆かしら。で、どんな味かって、想像するとおりの味ですよ。黒豆ペースト、ちょっと醤油っぽくていい感じ。でもそれだけ。

あ、真ちゃんはカニとエビ類がだめなんで、なんだっけ、スモークした鰻にブラッドオレンジのゼストが載って白い千切りは黒蕪(皮だけ黒いので切ったら白、何の意味があるのか?)。で、おかしいのが黄土色のゴミみたいなの、これ、鶏皮のペーストなんだってさ。味、けっこう強くてしょっぱかったです。

100_0598.JPG

次は5品目で、これ、ちゃんとした一品料理のたたずまいでした。
100_0599.JPG

スモークタンみたいな、ピクルドタンと言ってますがね、タンのハムみたいな感じのスライス。やわらかくて優しい味です。で、キューブはマヨネーズを揚げたんだって。これも凍らせて成形してパン粉つけて揚げたんだろうね。黒っぽい刷毛目はトマトのピュレにモラーシス(糖蜜)を混ぜたもん。モラーシスの味強すぎ。これはチョコレートとメキシコの乾燥ポブラノの「アンチョ」チリなんかを混ぜたほうが合うような気がしますね。左の端にはね、手前がロメインレタスの細かい賽の目切り。向うがレッドオニオンの乾燥粉末ね。

次はミソスープ、セサミヌードル、って言ってますが、味噌ではなくてお澄ましの濃いのですね。
100_0605.JPG

ジャパニーズスープをみんなミソスープと呼んでしまっているという、初歩的な誤解です。かわいいもんですが。で、胡麻ヌードルってのはこれ、プラスチック容器に入っていて、ちゅーっと押すとにゅるにゅると出てきて、スープの高温で固まるという仕組み。スープ、コンソメみたいに濃厚で悪くなかったです。だ〜か〜ら〜、ヌードルにはわれわれ、驚かないんだってば。

100_0606.JPG

次のはラングスティーン、つまり手長エビね。隠れてて分らんだろうけど、このエビ、おそらく50度くらいで加熱処理してて食感が生っぽくて甘くて透き通ってて、おいしい。べつに真っ赤なハイビスカスペーパーなるものは甘酸っぱくアクセントをつけるもんだろうけど、なんかもっと違うもののほうがいいなあ。エンダイブも三角に切って湯通しして冷やしてエビの色と食感に合わせてます。でね、下に敷いてあるソースみたいなのはソースじゃなくて、ポップコーンのピュレ。よくまあ考えるわね。ホント、ポップコーンの味がする。

真ちゃんはエビがだめだから、タルボットです。量がほんのちょっぴり。焼いてあって三角に切って、写真では右奥に重ねてあるのがそう。
100_0609.JPG

真ん中のオレンジはコーヒーとサフランのドレッシング、緑のはネギ風味のブルグァ(Bulger=小麦を半ゆでにし砕いて乾燥させたもの)。白い棒状のはサルシフィ(西洋牛蒡ですね)。ここね、さっきから言ってますが、野菜の料理の仕方が上手い。ちゃんと野菜の味がするのさ。それは買い。

100_0613.JPG

で、料理の最後はスクワブ(雛鳩)の胸肉のビーツまぶしロースト=右端。白いのはココナッツ・ペブル(小石)と。それに混じってる赤い塊はカタバミだっていってた。うーん、微妙な味でした。

というわけで、面白いっちゃ面白い。がんばってるっちゃがんばってる。だから☆あげるのにやぶさかではない。でも、ここはテイスティングより、アラカルトでちゃんと食べた方がいいのかもなあ、って思いました。でもふとこのロケーションに思い及ぶと、ここクリントン・ストリートは圧倒的に若者たち(20〜30歳代?)が多いんだ。するってえと、やっぱりこういうの、そういう人たちにはすごく面白いし刺激的なんだろうなあと思うのでもあります。店もそういう作りだしね。

とはいえ、しかし!
しかし!

次に出てきたデザートで私はぶっ飛びました。
100_0621.JPG

これ、真ん中の棒状のは柚子のカード(チーズみたいに牛乳を凝固させたもの)で、緑色の粉末やクリームはピスタチオなんだけど、驚いたのはこの白い泡です。何の味がしたと思います?
口に含んだとたん、え、これ、あれだよ、あれ、クリスマスのときのクリスマスツリーの匂いだよ。あの、樹脂の匂い。そんなの、食べるの? 聞いたら、spruce(トウヒ)風味のヨーグルトだって。ひー。
いや、驚いたのは「そんなもの」という意味だけではなく、柚子のカードとピスタチオと、そうしてそこにやや苦みのある木の香りを混ぜ込んで、出来上がった全体の味の、なんともいえぬほど刺激的かつ控えめな雄弁さ。これはすごい。甘さも絶妙。揮発性の樹脂のもたらす効果の、いやはや、参りましたね。寡聞にして、私は木を使った食べ物をこれまで知りませんでした。あ、シナモンは木といや木だけど……。あと、木の実もそうか。でも、いわんとすること、わかるでしょ?

続くコーヒーケーキ、リコッタの泡、マラスキーノチェリーのピュレ、チコリのアイスクリームの盛り合わせも、あーた、いいじゃありませんか。
100_0623.JPG

最後は生チョコの捻れたのにアヴォカドのピュレ、ライムのソルベ、そこにすっと一直線でリコリスのシロップが流れています。
100_0625.JPG

組み合わせの妙。おいしい。素晴らしい!
このアレックス・ステューパック、メニューを見たら他に「松の木」や「サッサフラス(米国のクスノキ)」のエキスを使ったり、梅干しも使ってるなあ。で、デザートの3コースメニューが25ドル、5コースが35ドルって! それだけを食いにここに来る価値あり。私はそのアレックスのデザートのために再訪いたします!(あらら、ウェブサイトの写真見たらかわいいじゃないすか。この日は日曜でいなかったのだ)。こいつは天才です。
headshot_alex.jpg

あ、ワインを書くの忘れた。ペアリング、あまり合ってないのもありましたが、おいしかったのはホワイトバーガンディーです。Pouilly-Fuisse のVV "La Croix" Robert-Denogent 2004。キャラメル、バター、スモークの風味が程よかった。あと、スクワブと一緒に出されたオーストリアのZweigelt Heinrich 2003もよかったです。私ら結構飲んだんで、65ドルの元は充分取りましたね。はは。

January 17, 2007

Gordon Ramsey at the London

2007-01-16
フレンチ
ゴードン・ラムゼイ(ザ・ロンドン・ホテルNY)
☆☆☆
151 W. 54th St. (btwn/5th & 6th Ave.)
Manhattan, New York
TEL ; 212-468-8888

ロンドンの三ツ星レストランが昨年11月にその名も「ザ・ロンドン」というニューヨークのホテルにやってきました。ここは以前、リーガ・ロイヤルというホテルだったのを改装改名したものです。ホテルを入ると右側にバーがあって、そこからさらに左奥にダイニングルームが扉を隔てて設けられています。ダイニングスペース自体はかなりこじんまりとしています。40席ちょっとでしょうか。四角く窓もなく、でもテーブルもゆったりと置いてあるし天井も高いのでなんとなくコージーな感じで悪くありません。壁の仕掛けもちょっと面白いです。パネルがね、羽根板のようにくるっと回転して、昼と夜とで雰囲気をがらっと変えられるんですって。有名なデザイナー、David Collins のデザインですって。

ひょんなことから友達のダニエルちゃんの予約に充当される形で2人でお食事です。この日はマンハッタン、この冬初めて零下で、ちゃんと冬でした。

それはさておき、席に着いて最初に「カナッペ」と称してトーストしたフレンチブレッドにクリームチーズに黒トリュフのピュレを混ぜたムース、それとおなじく手前のがなんか緑色してるけど何のムースだったっけ、これはたいして印象に残りませんでした。クリームチーズにトリュフはうちのパーティーでも今度作ろうっと。
100_0526.JPG

メニューは「プレステージ」という7皿のコース料理の他は、ヴェジタリアン用の「プレステージ」、そしてあとはアラカルトしかありません。プレステージは110ドルです。アラカルトも前菜とメインが1ページずつです。そんなに品数は多くありません。どうしようか迷って、でも最初だからふたりともコース料理にしました。

アミューズは「BLT」ですって置かれたのが、トマトウォーターのジェリーの上にレタスのフォームを載せ、その上にベーコンチップやキャラメライズド・オニオンを載っけたものです。いわゆるデコンストラクシオン(脱構築)ですね。

100_0527.JPG

まあ、こんなものかなと思ったのですが、次に出てきたもので、あ、おいしいな、って思い始めました。
それがこれです。

100_0529.JPG

フォワグラと鴨肉のテリーヌです。周りの野菜がピクルしてあります。これが野菜の味がしっかりとしてておいしいの。もちろんフォワグラもそれを固めているジェリーがいい感じなのです。野菜は人参でしょ、フレンチストリングビーンでしょ、カリフラワー、そしてオニオンクリーム。そこに茶色いのはポルトのソース。このピクルドの野菜はパリのル・サンクで食べたのに似ています。しっかりしてて、でも野菜、って感じ。それがフォワグラと鴨肉の重さに果敢に切り込んで(とはいっても量がちょっとだからそんな大げさなもんじゃなくて、舌の上での小さな戦い、って感じで微笑ましい)いくのですね。それに、この盛りつけ、かわいくない?

次はね、ロブスター・ラヴィオリにセロリルートのクリーム、貝のヴィネグレットソース、それで下にはサヴォイかしら、緑色のキャベツが敷いてありました。
100_0531.JPG

これもこのキャベツがしっかりキャベツの味がしておいしいの。で、ラヴィオリはロブスターだけじゃなくて、聞いたらサーモンと手長エビも入ってると。そしてこれをイタリアンでも中華でもないものにしてるのが、ハーブとしてチャービルを入れてるところでした。なるほどね、いいね、この「はは〜あ」感。

100_0533.JPG

次はブラックシーバスだから黒鱸?。んで、写真はソースのアーティチョークのヴルーテをかけてるところですね。緑色はジュリエンヌしたバジルです。写真ではアーティチョークのダイスも見えますね。赤いのはローストしたレッドベルペッパーだと思う。そんで、ここにもベーコンのビッツがちょっと混じってて、いい感じのコクを与えています。で、うまいの。ほんと。味も、濃いというのとはちょっと違って、なんていうのかなあ、アグレッシブなんだけど、オフェンシブではない? 積極的だけど攻撃してくるようではない。なんか不思議です。これがきっとゴードン・ラムゼイの特徴なんじゃないでしょうか? イギリス人ですよ、フランス人ではないイギリス人としてのフランス料理。なんか、きっと葛藤の末に見つけた道、みたいな感じがします。

ここで肉料理に移ります。ダニエルちゃんはヴェニスン(鹿肉)を頼み、わたしはでは、ということで残ったチョイスのラムを頼みました。

100_0537.JPG

ダニエルの鹿肉は、これは定番でもありますがチョコレートのソースでした。味見させてもらいました。あ、これ、ブーレイでも昔々、食べたことがあるって感じた。すっごく似ている。でもチョコレートの味がこっちの方が濃くて、こっちのほうがひょっとしたらおいしいかも。で、お肉の下にはビーツとセップ茸(ポルチーニ)が敷いてあった。このビーツもおいしい。ソースをかけたら周りのポテトピュレかな、花びらみたいできれいです。

わたしのラムローストは、これがマージョラム風味のジュ(肉汁ソース)でした。

100_0536.JPG

いや、うまいんだ、これが。
ラムって、ふつうはミントとかローズマリーとかあとは中東って感じのクミンとかがお決まりのハーブ及びスパイスですが、マージョラムです。マージョラムって、オレガノの親戚だけど、ドイツのソーセージとかに入れるハーブね。ミント系の香草だけどオレガノよりもなんか、もっと抹香臭いっていうか、もうちょっとお線香みたいな(あまり食欲をそそらないけど)、そういう珍しい味がしました、このソース。で、まさにさっきも触れた、果敢に迫ってくるけど攻撃的ではない、という感じの肉料理なのです。下にはタマネギのピュレだな。真ん中はロマーノレタスみたいなパクチョイみたいな。左の赤いのはトマトコンフィ、その下にはラムのコンフィ。向う側はクミン風味のなすび。

わたし、ふつう、肉料理にはそんなに感心したことがないのですが、ここは肉もとてもうまいというか、感心させてくれます。また来たいなあ、ほんと。でも、メニューが少ないから、来週また、ってなったら同じコースを食べることになるんだろうか? その日その日のシェフズメニューもないし。

きっと、まだ2カ月ほどのこのレストラン、シェフ・ラムゼイの準備したレシピどおりにやっているんだと思います。ちなみにここのエグゼキュテヴ・シェフはニール・ファーガソンという、30くらいかなあ、若いシェフです。(食事終わってから厨房に通してくれました)。東京のウェブサイトを覗いてみたらおなじようなメニューもあったんで、やはりレシピどおりでやってるんだろうね。
100_0548.JPG
100_0552.JPG

で、食後はチーズと口直しデザートのチョイスがあります。
これは見ても分るとおり、チーズのほうがずっとお得(笑)。ともするとおまけして大盛りにしてくれたのかもしれないけど。
100_0538.JPG
100_0540.JPG

口直しはローストしたパイナップルに砂糖コートしたシラントロ(香菜)。これはよくある組み合わせです。

で、本番デザートはアプリコットのスフレ。アマレットアイスクリーム添え。アイスだけじゃなくスフレのほうもアマレットというかアーモンドエクストラクトの香りにあふれておりました。

この日はそんなに込んでいなかったせいかウェイティングスタッフもとてもフレンドリーで、じつに満足できた夜でした。
ゴードン・ラムゼイ(ニューヨークではゴーゾン・ラムズィーと発音するけど)、わたしにイギリス人の料理を見直させました。また来たいです。そのときにニール・ファーガソンがどれだけレパートリーの中で遊んでくれるか。そしてそれがいかほどのものか(シェフとスーシェフって、じつは雲泥の差があるんですよね)。

メニューがもっと充実したら、ここはトップレストランの1つになるでしょう。
こりゃ、ロンドンに行ってみないとだめかしら。

ワインはニュージーランドのソーヴィニヨン・ブラン(50ドル)と、スペインのリョハでプロピエダード・レモンド2003年(75ドル)。この赤が美味かった。
100_0541.JPG

税金とチップを含めて、1人210ドルくらいでした。大満足。

January 03, 2007

Danube

2006-12-27
フレンチ-オーストリア料理
ダヌーブ
☆☆
30 Hudson St. (TriBeCa)
Manhattan, NY.
TEL ; 212-791-3771

「ダヌーブ」もしくは「ダニューブ」と発音します。オーストラリアを流れるドナウ川の英語読みです。1999年、デイヴィッド・ブーレイがオーストリア料理の潜在的な可能性(というか、まあ、NYに新しいものを紹介したいという彼の志向の一環でしょうが)を引き出そうと、当時弱冠26歳だったマリオ・ロニンガーというなかなかのシェフを連れてきて出した店です。開店当時はこのマリオの才気がブーレイを彩ってとてもおいしかった。ところがこのマリオが2003年に辞めてオーストリアに帰ってしまう。それからダヌーブはシェフがいないという困ったことになりました。裏話をすると、厨房ではマリオとブーレイがその前年に出版した"East of Paris"という料理本を参考書にしてその日その日の料理をつくっていたわけです。

で、このときにダヌーブの味はどんどん落ちていきました。味は濃くなるし、バリエーションはなくなる。何年かぶりに訪れても同じものしか出していない。しかし2005年のミシュランNYはそんなダヌーブに2つ星を与えるのです。ミシュランは、どちらかというと味よりも格式みたいなものを重んじる傾向があるんじゃないかと思います。その点では、ダヌーブはサービスはフレンドリーながら内装もオーストリアの画家クリムトをテーマに黄金色を多用した立派なものですし、建物もしっかりしている。きっとそういうことで2つ星だったのでしょう。

ところで、そのときの暫定シェフが昨年春にとつぜん辞めました。で、次のシェフに抜擢されたのがクリス・ラモンというNY出身の20代の若者でした。そのクリスが、ぜひきちんと食べにきてくれと言うので、この日の夜に行ってみたのが今回の食事でした。

もちろん、これはダヌーブでいつも出される料理とは少し違うでしょう。私たちが4人で食べたこの日の皿はなによりオーストリアの感じがあまりしません。しかもシェフが頑張って作った特別料理です。ですのでふつうにここに食べにいくのにあまり参考にならないかもしれません。しかし、いえることは、料理の基調音というのでしょうか、いちばん基本として流れている土台みたいなものの和音が、とてもおいしくやさしい、ということです。もっと簡単にいうと、まあ、塩味なんですけどね、これがとてもいいので料理が、どんなアクセントをつけようと、あるいは肉料理の強いソースでも、そんなに押し付けがましくならないのです。

きっとこれは彼の作るどの料理でも同じように流れているハーモニーだと思います。ですので、ここはお薦めです。ダイニングスペースはそんなに大きくないしゆったりとしたテーブルは位置ですので、クリスが差配するのに無理は生じないはずです。わたしはここで☆2つとしましたが、これはあくまで控えめな評価です。鮨屋と同じでなじみになれば出てくるものは違う。これは本来は料理店としてはいけないのでしょうが、近所の小料理屋だと思えば赦せるし、その方がうれしい。つまり身内評価と思われるかもしれない☆☆☆をぐっと我慢して、敢えての☆☆。これならだれが行っても文句はいわないだろうとの読みです。

最初のアミューズとして出てきたのは、ちょっと聞きそびれたのですが、砂肝みたいなエスカルゴみたいなそんな食感の何かの上にウニのソースが載っていたもの。下にはオランデーズみたいな柔らかなソースが敷いてありました。とてもやさしい幕開けです。

これはほんのちょっぴりですが、ローステッドダックのスープ。5種類の冬のスパイス入り、だそう。泡のスープで、真ん中にそのローストした鴨のレアな肉がひとすじ置いてあります。スパイスは種子系です。スターアニスとかクローブとかコリアンダーとかでしょう。でもぜんぜん重くならないの。おいしいです。うれしくなります。

これはスズキの、きっとポーチでしょうか。ほわほわです。下に、セロリルーツのピュレとソテーしたリーク(ポロ葱)が敷いてあって、ソースはいまの季節に出回っているタンジェリン(みかんですね)。この絶妙な酸味と甘味がクリームのようにとろとろに調和しています。どこがオーストリアなのでしょう、という突っ込みはナシです。うまいんだから。

ロブスターにはリンゴの角切りを合わせてきました。ロブスター・ビスクのソースです。下のピュレは何のピュレだったかなあ。これもフルーツの酸味で重くない。この辺はブーレイの影響でしょう。爪を立てたプレゼンテーションも考えてますわな。(写真撮ってるって聞いたからと、あとで言ってきました)


肉料理に行く前に赤ビーツのラビオリです。中にはカボチャとオーストリアの濃厚なチーズが入っていました。赤キャベツのソースだとか言っていたかなあ。真ん中の緑は何だったっけ? おいしくて忘れた。ほんと、見た目のどぎつさとは裏腹に、すごくよくまとまっている完成品の印象があります。これはきっとダヌーブのこの冬の定番料理だと思います。こういうラビオリを前にも食べたことがありますから。そのときは香ばしいカボチャのタネのオイルのソースでした。それもおいしかったです。

肉の一品目はコロラド産のラムでした。白と黒の胡麻をまぶしてソテーおよびロースト、それで切り分けた。この胡麻の香ばしいこと。それがラムの香味として合うんだなあ。こんなバランスの取り方があるとは知りませんでした。下には茸のソテーが敷いてあります。

で、お次はワイルドグース。野生の雁です。ジビエです。これをスロークックした。で、ブラックカラントみたいなベリーのコンディメントと肉のソースで食わせる。定番ですが、そこに緑の枝豆の煮たのを添えて、シェフは日本人の私たちに表敬をしたわけだと受け取りました。うれしいねえ。しかもこの枝豆が肉の重さのバッファとなって、いわゆる箸休めね、そういう役目を果たしてくれて、単なる飾りではないところがいい。

ほんとは上記の野生の雁で終わりだったそうなんですが、どうせならこれも食ってよと出してきたのが鹿肉とフォワグラです。しかもけっこう量があるの。しかもパスタ添え。何のヌードルだったか……いや参りました。まずいはずがないが、これで腹はち切れそう。ひー。

お口直しのオレンジとヨーグルトのソルベ。ベリーのソース。


デザートの最初はバニラのアイスクリームにメレンゲのなんか。忘れた。
しかも、写真撮るの忘れたけど、このあとに焼き菓子であるチョコレートのケーキとかスフレも出たわけで。

はい、大変満足致しました。
ワインも、しこたま飲みました。
驚くくらいおいしかったのは
カリフォルニアのサンタ・ルチアのピノノワール。
ワイナリーとヴィンテージ、忘れてます。
後ほど確認の上。