カンテサンス
07-02-26
フレンチ(キュイジーヌ・コンテンポレーヌというらしい)
Quintessence
☆
東京都港区白金台5-4-7
03-5791-3715
Danchu の小山薫堂さんというひとや日本のいあゆるグルメライターたちが絶賛しているので、そういうひとたちの「!」という表記がどういうものなのかを知りたくてお料理上手な鉄人主婦のみっちゃんとデートを兼ねて伺ってきました。白金台のプラチナ通りからちょっと斜めに入ったビルの1階にあります。スタッフは笑顔でとても感じがよく、店もゆったりと35席ほどしかないんでしょうか、ずいぶんと贅沢な気分にさせてくれます。
さて料理はお任せで15750円のコース(といってもメニューは白紙で、何が出てくるのかわからないという演出を施されています)。ワインペアリングで12000円。サービス料やコーヒー、水代を入れて2人で63000円もかかってしまいました。で、結論を先に言うと、33歳の岸田周三シェフは才気にあふれていて、さまざまな素材をさまざまに工夫して出してくれます。ただし、それらはどうもまだ「料理」になっていない。一皿一皿が「料理」のコンポーネント、エレメント、要素、部品、という感じで供されて、一皿としての全体像というか統合感とかいうところにまで行っていないのですね。
うーん、難しいな。どういえばわかってもらえるか。例えば、これはわたしも美味しいなあと思った「山羊のミルクのババロワに削ったアーモンドと百合根を載せ、フルール・ド・セルをぱらぱらして、そこにものすごくグリーニーなEVOOを垂らす」、という一品があって、これはまあそのオリーブオイルを味合わせるには最高なんだろうけど、でも料理かというとなんか違うような気がする。これはお料理の途中で「ほら、これ!」といわれてひょいとスプーンで味見をする、そんな途中経過みたいな、楽屋話みたいな、そんな感じが否めないのです。
いつもブーレイとの比較で申し訳ないけど、この山羊ミルクのババロワは、ブーレイではきっとアミューズのグラスになんかいろいろ組み合わせたもののうえにほわっと載っているもの、でしかない。そこから始まってスプーンで下に行くとまた別の何かが控えている、そういう料理になるんだ。
つまり、一皿に8手も9手もかかっていてそれの全体が統合された宇宙を提示する。複雑でいて、かつ素材のシンプルネスがバッティングすることなく共存している。したがって、客である私は食べ終わるまでその全体像を把握できない。
でも、ここカンテサンスではこれは3手で終わりなんです。わかっちゃうんだ。で、コストパフォーマンスとして、この日はデザート4皿を含めて13皿が出たんですけど、なんだか実際にはあれとこれを一つに盛り合わせれば料理3皿とデザート1皿、って感じなんですね。印象として。いや、量が少ないとかという話じゃないんです。なんちゅうか、皿の上に宇宙がない。皿の上に物語がない。皿の上に、ただ若くて痩せたメッッセージだけが載っている。
それが、素材をシンプルに、という哲学ならば、それはその好き嫌いの話になります。
では一品一品を取り上げましょうか。
最初のアミューズとして茸のビスケットなるものが出てきます。薄切りした椎茸でしょうか、それをフリーズドドライめいた食感に乾燥させ、ポルチーニパウダーでまぶしてあるのかな。下にはほかの茸をクリーム状にしてビスキュイと挟んでいる。指でつまんで口に入れるとポルチーニの香りが広がって、アミューズとしてなかなかよい出だしです。もっとも、どうして2月後半に茸なのか、という疑問は残りますけどね。
次は人参の冷たいスープです
これも人参の風味がとてもよく、さわやかです。この倍の分量があってもうれしいな、といううまさです。
ここで山羊乳のババロワが出てきます。すばらしいEVOOです。訊けば岸田さんが修業していたパリの「アストランス」で使っていたオイルだそうです。これをいかに味わわせるか、その結論がババロワだったんでしょうね。わたしも自宅では、リコッタチーズに美味しいオリーブオイルをぶっかけてフルール・ド・セルとクラックした黒胡椒を散らして夜食にしたりしている。ま、同じ発想です。日本じゃリコッタが高いから、カッテージチーズに上等なオリーブオイルをかけても同じ感じになります。ただ、これはEVOOを味わうためのものだけど、じつは上に載っていた百合根がうまかった!(これは「!」が付きます) 百合根って、そうね、卵とかにも合うんだから、クリームにも合うはずだわ。
次はフォワグラと赤ビーツのミルフィーユ?
添えはフェンネルの薄切りです。長ひょろいのはリンゴ。まだ冷たい前菜です。これはそんなにうまくなかった。フォワグラのパテがちょっと生臭い。もっとビーツを増やすかフェンネルを柑橘系で酸っぱくして添えたほうがよいでしょう。
温かい皿の1つ目がホタテと蕎麦の実の料理。
これね、もっとうまくなるはずです。左のがホタテの貝柱に砕いた蕎麦の実をくっつけて焼いたもの。そばがカリカリに香ばしく、ホタテは限りなく甘い。でも、その甘さをカットするものがないから、一口目で食い飽きる。だらっとした甘さだけが残る料理になってしまう。酸味、あるいは辛味、なにか、もう1次元ほしい。甘さには普通は酸味ですけどね。
となりのは蕎麦の実のリゾットなんだけど、これもだらっとしている。ごっそり黒こしょうを入れてカルボナーラ風にするとか、青ネギを刻んで混ぜ込むとかしないと、うまさが立ち上がりません。
次はアンディーブのグリエかブレゼか、それに唐墨を削ったんですね。
うーむ、これ、付け合わせでしかないような気がします。唐墨の意味が判りません。アンディーブの苦さに、唐墨のほのかな苦さを重ねてみたのかなあ? これをするなら、アンディーブじゃなくて大根にしたらどうだろう。唐墨大根ってのが日本にあるんだから、その生の大根を焼いてみる、とか。
次は的鯛(マトウダイ)。
向こう側は法蓮草のピュレ。
手前はインゲン(フレンチビーンズ)の上に春菊の泡のソース。
世のグルメ評論家はここの魚の焼き方を「断面に目が釘づけになりました! なんと! 虹色に光輝いているのです! 火を入れていると、ほんの一瞬だけ虹色に光を放つ瞬間があるらしいのですが、それを当たり前の如くやってのけるシェフの腕には感心させられますね。」と書いてるひともいます。でも、どうなんでしょう。もっと低温で柔らかく焼けるはずです。日本では刺身を食べるくせに、焼き魚はかなり火を通してしまう傾向があります。もっとも、これはソースではなく塩(フルール・ド・セル)で食べさせるので、どうしても日本の焼き魚に近くなってしまうのかもしれない。惜しいです。
次は鴨。
一羽丸まんまをローストして切り分けていて、中まで均一にきちんと焼けています、とメートルディが説明してくれました。向こう側はポロネギ。ソースは赤ワインとチョコレート。うーん、ゴードン・ラムジーのチョコレートソースが秀逸だっただけに、なんだか中途半端なソースでした。一般的に、ソース、弱いかもなあ、ここ。
で、料理の最後はデザートへのつなぎとしてモレーユ・マッシュルームのソテーにヴァン・ジョーヌ(黄色いワインという意味の強精ワイン)風味のチーズのコンテ。写真撮るの忘れて食べた途中のものです。ま、ふつうですね、これ。
デザートはマールのソルベにイチゴのタルトのデコンストラクシオン、そしてキャラメルのマシュマロでした。イチゴのタルトの茶色いのが、生地部分を液体状にしたもの。青い葉っぱはマージョラムでした。キャラメルのマシュマロにはバラの花びらの味のシロップが添えてあった。
で、最後に出てきたのがメレンゲのソルベです。これ、うまかったなあ。メレンゲを作ってそれを砕いてソルベにした。ピンクのはルバーブです。アメリカではよくパイにする酸っぱい茎野菜。
というわけで、☆は一つです。
今後は、ここから物語を組み立てていくことを期待します。
ウェイティングはにこやかで好感でした。客リストをつくっていて、同じ客に同じものを出さないようにしているそうです。